あとから診断書が出てきた|暴行が傷害に切り替わる場面と対応
インターネットの掲示板やSNSに、その場の勢いで「爆破する」「殺す」といった書き込みをしてしまい、後になって不安になる方がいます。本人としては冗談のつもりでも、その投稿を見た側は、本気かどうかを判断する材料を持っていません。予告を受けた施設や警察は、内容の真偽が分からない段階から対応を始めることになります。
ここでは、犯行予告がどの罪で問われるのか、そして実際には何もしていない「投稿だけ」の段階で、どのような経過をたどって逮捕に至ることがあるのかを整理します。
投稿の後に現実に動き出すもの
警察庁は、インターネット上の犯行予告について、予告された犯行を未然に防ぐため、対象となる施設の警戒、危険物の検索、付近住民の避難、イベントの中止、休校、対象者の身辺警戒といった対応が行われると説明しています。あわせて、犯行予告を発見した人に対しては警察への通報を呼びかけています。
つまり、書き込んだ側が「実行するつもりはなかった」と思っていても、投稿を受け取った側では、人員を割いて確認し、予定を止めるという判断が現実に行われます。刑事責任の検討は、投稿した人の内心からではなく、投稿によって外に生じたこの事態から出発します。ここが、犯行予告が「予告だけ」で事件になる出発点です。
予告の宛先によって問われる条文が変わる
犯行予告というひとつの罪名があるわけではありません。誰に向けた予告なのかによって、問題になる条文が動きます。
| 予告の宛先 | 主に問題となる罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 特定の個人 | 脅迫罪(刑法222条) | 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 |
| 会社・店舗・学校などの事業 | 威力業務妨害罪・偽計業務妨害罪(刑法233条、234条) | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 要求と結び付けた予告 | 強要罪(刑法223条) | 3年以下の拘禁刑 |
| 悪戯の程度にとどまる業務の妨害 | 軽犯罪法1条31号 | 拘留又は科料 |
一つの投稿について、複数の罪が同時に問題になることもあります。特定の人物への加害を書き込んだ結果、その人が関わるイベントが中止になったという場合には、脅迫罪と業務妨害罪の両方が検討されます。
施設あての予告で業務妨害罪が前に出る理由
脅迫罪の対象となる「人」は自然人に限られると解されており、法人そのものに対する脅迫罪は成立しないと判断した裁判例があります(大阪高裁昭和61年12月16日判決)。ただし、法人への加害の告知が、それを現に受け取った代表者や担当者個人への加害の告知にあたると評価できる場合には、その個人に対する脅迫罪が成立する余地があるとされています。
また、宛先を特定しない書き込みは、誰に対する告知なのかが定まりにくく、脅迫罪としては問題になりにくい面があります。もっとも、その投稿を現に見た特定の人が告知を受けたと評価できる場合には、成立する余地は残ります。
こうした事情から、施設や不特定多数に向けた犯行予告は、脅迫罪よりも業務妨害罪の枠組みで扱われることが多くなります。
威力と偽計のどちらで問われるのか
業務妨害罪には、威力を手段とするもの(刑法234条)と、偽計を手段とするもの(刑法233条)があります。予告の内容や相手方の受け止め方によって、どちらで構成するかは分かれます。
もっとも、両者の法定刑は同じであり、どちらで立件されたかによって処分の見通しが大きく変わるわけではありません。相談の場面では、罪名の呼び名よりも、予告によってどの範囲にどれだけの対応が生じたかのほうが、実際の判断材料になります。
実行する意思がなかったことは成否を左右するか
インターネットの掲示板に、ある講座の会場に灯油をまいて火をつける旨を書き込んだ結果、講座が中止され、会場周辺で警備の態勢が強化されたという事案について、脅迫罪と威力業務妨害罪の成立を認めた裁判例があります(東京高裁平成20年5月19日判決)。この裁判例では、威力業務妨害罪の故意について、威力を用いる認識と、その結果として人の業務を妨害するおそれのある状態が生じることの認識があれば足りるとされました。
ここで求められている認識は、「予告した犯行を実行する意思」ではありません。書き込めば相手が対応せざるを得なくなるかもしれない、という程度の認識で足りるという整理です。
脅迫罪についても、告知を受けた人が実際に怖いと感じたかどうかではなく、一般的にみて畏怖させるに足りる内容かどうかで判断されるとされています。さらに、業務妨害については、現実に業務が止まったことまでは必要なく、妨害の結果が生じるおそれのある行為があれば足りるという判例があります(大審院昭和11年5月7日判決)。
「冗談だった」「本気にする人がいるとは思わなかった」という説明は、この枠組みの中では、成立を否定する理由として働きにくいのが実情です。
投稿から逮捕までの経路
投稿しただけの段階で捜査が始まる流れは、おおむね次のように進みます。
・予告が把握される(被害を受けた側の届出、投稿を見た第三者からの通報、警察のサイバーパトロール)
・対象施設や警察が対応し、その内容が記録として残る
・投稿元をたどる捜査が行われる(通信記録の照会、令状に基づく差押えなど)
・容疑が固まった段階で、逮捕状が請求されるかどうかが検討される
注意したいのは、二つ目の段階です。警備にあたった人数、中止した予定、避難させた人の数といった記録は、そのまま「妨害された業務」の中身になります。投稿そのものは短い一行でも、その後に積み上がる記録の量が、事件の重さを決めていきます。
逮捕されるかどうかを分けるもの
逮捕状は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるだけでは発付されません。裁判官は、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは逮捕状の請求を却下しなければならないとされています(刑事訴訟法199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)。ここでいう必要性は、逃亡のおそれと罪証を隠滅するおそれを中心に判断されます。
犯行予告の事案では、次のような事情が、この判断に影響することがあります。
・投稿者の身元が捜査の途中まで判明していないこと
・端末やアカウントという、本人の手元にある証拠が中心になること
・予告が複数回にわたっていたり、複数の相手に向けられていたりすること
・投稿の対象となった施設の対応が広範囲に及んでいること
逆に、身元と生活の基盤がはっきりしていて、証拠がすでに押収されている状況では、在宅のまま捜査が進むこともあります。逮捕されたかどうかは、有罪かどうかの判断ではなく、その時点で身柄を確保する必要があるかどうかの判断だという点は、押さえておいてよいところです。
削除しても投稿がなかったことにはならない
投稿に気づいて慌てて削除する方がいますが、削除で事態が戻るわけではありません。通報の時点で画面が保存されていることが多く、対応にあたった側の記録も残っています。
さらに、削除や端末の初期化は、証拠を処分する行為と受け取られることがあり、前項の罪証隠滅のおそれの判断に影響する場合があります。投稿を消すかどうかを自己判断で急ぐより、現状のまま弁護士に相談し、対応の順序を決めたほうが安全です。
「冗談のつもりだった」という説明が意味を持つ場面
実行する意思がなかったことは、罪の成否を否定する理由としては働きにくい一方で、処分や量刑の判断では考慮される事情になります。捜査や裁判の場面では、次のような点が見られます。
・投稿の内容がどこまで具体的だったか(日時、場所、手段の特定の程度)
・一度だけだったのか、繰り返していたのか
・周囲の反応を見たうえで書き込みを続けていないか
・現実にどの範囲の対応が生じたか
・投稿後に自ら申告したり、被害の回復に動いたりしているか
・賠償や謝罪がどこまで進んでいるか
同じ「冗談のつもり」でも、一度きりの書き込みをすぐに後悔した場合と、反応を見ながら投稿を重ねた場合とでは、評価は別になります。
被害の回復をどう考えるか
犯行予告の事案では、相手方が会社や学校、公的機関であることが多く、面識のない相手であるのが通常です。個人どうしのトラブルと違い、本人が直接連絡を取って話し合うことは現実的ではありません。
賠償の対象として問題になるのは、警備を増やした費用、予定を中止したことによる損失、代替の対応にかかった費用などです。対象が複数に及ぶ場合には、どこから対応するかの順序も検討することになります。
被害者側の窓口が特定できない場合や、話し合いに応じてもらえない場合には、贖罪寄付など別の形で反省を示す方法が検討されることもあります。いずれにしても、加害者側から直接連絡を取ることが相手方の負担を増やしてしまう場面もあるため、窓口の立て方から相談しておくことをおすすめします。
連絡が来る前と、来た後にできること
まだ捜査機関からの連絡がない段階では、自首を検討する余地があります。刑法42条1項は、捜査機関に発覚する前に自首したときは刑を減軽することができると定めています。減軽するかどうかは裁判所の判断にゆだねられていますが、処分の見通しを考えるうえでは意味を持ちます。ただし、すでに投稿元が特定されている場合には自首として扱われないこともあるため、時期の見極めが必要です。
連絡が来た後は、投稿の日時と内容、使用した端末やアカウント、投稿に至った経緯を、記憶が薄れないうちに整理しておくことが役に立ちます。取調べでは、動機や当時の状況について詳しく聞かれることが多いためです。
控えたほうがよい対応
次のような行動は、かえって不利に働くことがあります。
・投稿や端末のデータを自己判断で消す
・アカウントを削除して連絡経路を絶つ
・関係者に口裏合わせを持ちかける
・被害を受けた施設に個人で押しかけて謝罪しようとする
・呼出しに応じないまま連絡を放置する
よくある質問
Q.誰も本気にしていなかった場合はどうなりますか。
A.周囲が本気にしなかったことは、事情として説明する価値があります。ただし、業務妨害罪では妨害のおそれで足りるとされており、脅迫罪でも相手が現実に怖がったかどうかが基準ではないため、それだけで成立が否定されるとは限りません。実際に施設側が対応していれば、その事実が中心的な判断材料になります。
Q.未成年の場合も同じ手続になりますか。
A.20歳未満の場合は、捜査の後に原則として家庭裁判所に送られ、少年審判の枠組みで処分が検討されます。刑事裁判とは進み方が異なりますが、捜査の段階で逮捕や勾留が行われることはあります。学校への連絡や保護者の対応も含めて、早い段階で相談しておくと選択肢が広がります。
Q.罰金で終わることはありますか。
A.投稿が一度きりで、生じた対応の範囲も限られており、被害の回復が進んでいるといった事情がそろえば、不起訴や罰金にとどまる例もあります。一方で、繰り返していた場合や、多数の人が避難するなど影響が広範囲に及んだ場合には、正式な裁判になることも考えられます。事案ごとの差が大きい部分です。
まとめ
・犯行予告という単独の罪名はなく、宛先によって脅迫罪、業務妨害罪、強要罪などが問題になる
・施設や不特定多数に向けた予告は、業務妨害罪の枠組みで扱われることが多い
・予告した犯行を実行する意思がなくても、妨害のおそれが生じることの認識があれば故意は認められるとした裁判例がある
・脅迫罪でも、相手が現実に畏怖したかどうかが基準になるわけではない
・投稿の後に生じた警備や中止などの対応の記録が、事件の重さを形づくる
・逮捕されるかどうかは、逃亡のおそれと罪証を隠滅するおそれを中心に判断される
・削除や初期化は、証拠を処分する行為と受け取られることがある
・「冗談だった」という事情は、成否よりも処分や量刑の場面で意味を持つ
・相手方が法人や公的機関であることが多く、窓口の立て方から検討する必要がある
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