執行猶予期間が満了したら資格制限は消えるのか
検察官や弁護人から「即決裁判手続に同意するかどうか」を尋ねられ、その場で返事を求められて戸惑ったというご相談は少なくありません。手続の名前を聞いただけでは、何が早く終わるのか、その代わりに何を手放すことになるのかが見えにくいためです。
即決裁判手続は、争いのない明白で軽微な事件について、簡略な証拠調べを行い、原則としてその日のうちに判決を言い渡す手続です。拘禁刑を言い渡す場合には刑の全部の執行猶予が付けられる一方で、判決で示された事実の誤りを理由とする控訴はできなくなります。速さと引き換えに、争う道を狭める手続だといえます。
この記事では、条文に沿って手続の輪郭を整理したうえで、同意するかどうかを決めるときに確かめておきたい材料を、順を追って説明します。
即決裁判手続とはどのような手続か
即決裁判手続は、平成16年の刑事訴訟法改正で設けられ、平成18年から運用されている制度です。事案が明白で軽微であり、証拠調べが速やかに終わると見込まれる事件について、検察官が起訴と同時に申し立てることで始まります(刑事訴訟法350条の16第1項)。
通常の刑事裁判では、起訴から第1回公判期日まで1か月前後かかることが多いのに対し、この手続では、裁判所はできる限り早い時期に公判期日を定めることとされ(同法350条の21)、刑事訴訟規則では、できる限り起訴された日から14日以内の日を指定するものとされています(同規則222条の18)。そして、判決も、できる限りその日のうちに言い渡されます(同法350条の28)。
なお、この制度の条文は、以前は350条の2以下に置かれていました。平成28年の改正で協議・合意の制度が新設された際に条数が繰り下がり、現在は350条の16以下に置かれています。インターネット上の解説には古い条数のまま書かれているものが残っているため、条文を確認するときは注意が必要です。
対象になる事件とならない事件
申立てができるのは、死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる事件以外の事件です(350条の16第1項ただし書)。強盗や不同意性交等のように法定刑の下限が重い罪は、この時点で対象から外れます。
実際に用いられているのは、薬物の自己使用や所持の初犯、入管法違反、比較的軽微な窃盗といった、事実関係に争いがなく、証拠関係も単純な類型が中心です。全国の刑事裁判の中で占める割合は大きくなく、この手続の話が出ないまま通常の公判で終わる事件のほうが多いという点も、前提として押さえておきたいところです。
同意を求められるのはどの場面か
同意を確認されるのは、起訴される前の被疑者の段階です。検察官は、同意するかどうかの確認を書面で求めなければならず、そのときは、即決裁判手続を理解するために必要な事項を説明したうえで、通常の規定に従って審判を受けることができる旨を告げなければならないとされています(350条の16第2項・第3項)。
つまり、同意を求められているということは、検察官が起訴する方向で事件を見ていることを意味します。逆にいえば、まだ起訴前であり、被害者との示談や被害弁償によって不起訴を目指す余地が残っている段階でもあります。ここは、同意するかどうかを考えるうえで見落とされやすい点です。
弁護人がいる場合には、被疑者本人の同意に加えて、弁護人が同意しているか、少なくとも意見を留保していることが必要です(同条第4項)。これらは書面で明らかにし、申立ての書面に添付されます(同条第5項・第6項)。
弁護人がいなければ進まない手続
弁護人を選任できない事情があるときは、同意するかどうかを明らかにするために、裁判官に弁護人の選任を請求することができます(350条の17)。裁判官が職権で弁護人を付する仕組みも設けられています(350条の18)。
申立てがされた後は、検察官が取調べを請求する予定の証拠が弁護人に開示されます(350条の19)。同意するかどうかを、証拠の中身を見たうえで判断できるようにするための仕組みです。
さらに、即決裁判手続によって審判する旨の決定があった事件では、弁護人がいなければ公判期日を開くことができません(350条の23)。書面だけで完結し、弁護人の関与が前提とされていない略式手続と大きく異なる点です。
起訴から判決までの流れ
| 段階 | そこで行われること |
|---|---|
| 起訴前 | 検察官が手続の内容を説明し、書面で同意を確認する(350条の16第2項・第3項) |
| 起訴 | 公訴の提起と同時に、書面で即決裁判手続の申立てがされる(同条第1項) |
| 起訴後 | 検察官が請求する予定の証拠が弁護人に開示される(350条の19) |
| 期日の指定 | できる限り早い時期に公判期日が定められる(350条の21) |
| 第1回公判 | 有罪である旨の陳述を経て、即決裁判手続によって審判する旨の決定がされる(350条の22) |
| 証拠調べ | 裁判所が適当と認める方法で、簡略に行われる(350条の24) |
| 判決 | できる限りその日のうちに言い渡される(350条の28) |
起訴状には、公訴を提起するとともに即決裁判手続の申立てをする旨が記載されます。手元に届いた起訴状の記載を見れば、この手続が申し立てられていることを確認できます。
同意は二つの段階に分かれている
同意という言葉は一つでも、実際には二つの場面があります。一つは起訴前の書面による同意、もう一つは公判廷で起訴状に記載された訴因について有罪である旨を述べることです。
裁判所は、冒頭手続で被告人が有罪である旨の陳述をしたときに、即決裁判手続によって審判する旨の決定をします(350条の22)。ただし、同意が撤回されたとき、事件がこの手続によることができないと認めるとき、この手続によることが相当でないと認めるときは、決定はされません。
書面に署名した時点で後戻りできなくなるわけではなく、法廷で有罪である旨を述べるまでに、もう一度考える機会があるという構造です。
この手続で得られるもの
第一に、結論までの時間が短くなります。起訴からおおむね14日以内に公判期日が入り、その日に判決が言い渡される運用が中心です。身柄拘束が続いている場合、判決で刑の全部の執行猶予が言い渡されれば、その日に身柄の拘束は解かれます。
第二に、拘禁刑を言い渡す場合には、その刑の全部の執行猶予を言い渡さなければならないとされています(350条の29)。この手続による判決で実刑が科されることはありません。
第三に、弁護人がいない状態で審理が進むことがありません。手続の性質上、被告人が単独で法廷に立たされる場面が生じない設計になっています。
なお、実刑になる見込みが乏しい事件でこの手続が選択されているという事情から、保釈や勾留の取消しの請求が通りやすくなる場合もあります。ただし、判断するのは裁判所であり、当然に認められるものではありません。
この手続で手放すもの
中心にあるのは、この手続が有罪であることを前提に組み立てられているという点です。事実関係に納得できない部分がある、身に覚えのない部分が含まれている、という場合には、この手続はなじみません。刑の全部の執行猶予が付いても、有罪判決であることに変わりはなく、前科は残ります。
証拠調べの方法も簡略になります。この手続による事件では、伝聞法則を定めた規定は原則として適用されません(350条の27)。検察官、被告人または弁護人が証拠とすることに異議を述べたものは別ですが、通常の公判で行われる証拠能力の吟味は行われにくくなります。
情状に関する主張や立証も、限られた時間の中で行うことになります。判決までに示談を成立させたい、療養や治療の実績を積み上げてから判決を迎えたいといった事情がある場合には、期日が早く入ることがかえって不利に働くこともあります。
控訴が制限されるのはどこまでか
この手続でされた判決については、判決の言渡しで示された罪となるべき事実について、事実の誤認を理由とする控訴の申立てができません(刑事訴訟法403条の2第1項)。上告についても、事実誤認を理由とする破棄には制限が設けられています(同法413条の2)。
もっとも、制限されているのは事実の誤認を理由とする不服申立てです。法令の適用の誤りや、訴訟手続の法令違反、量刑が不当であることを理由とする控訴まで封じられているわけではありません。ただし、拘禁刑であれば刑の全部の執行猶予が付くという枠がある以上、量刑を争う実益は限られます。
この控訴の制限について、最高裁判所は平成21年7月14日の判決で、被告人が弁護人の助言を得ながら自らの意思で選択できること、判決の言渡しまで撤回できること、実刑を科すことができないという科刑の制限があることなどを挙げ、憲法32条に違反しないと判断しています。制度の設計そのものが、事実を争わないことと引き換えに早期の解決を認めるという交換の上に成り立っていることが分かります。
略式手続との違い
| 項目 | 即決裁判手続 | 略式手続 |
|---|---|---|
| 審理の場 | 公開の法廷で行われ、被告人も出頭する | 書面で審理され、法廷は開かれない |
| 言い渡される刑 | 拘禁刑や罰金。拘禁刑のときは刑の全部の執行猶予が付く | 100万円以下の罰金または科料 |
| 弁護人 | 弁護人がいなければ公判期日を開けない | 弁護人がいることは前提とされていない |
| 結論までの時間 | 起訴からおおむね14日以内に判決に至る運用が中心 | 請求から書面のやり取りで命令が出される |
| 不服の申立て | 事実の誤認を理由とする控訴はできない | 告知の日から14日以内に正式裁判を請求できる |
どちらも簡易迅速な手続ですが、法廷が開かれるかどうか、科され得る刑の幅、そして後から争えるかどうかという点で性質が異なります。罰金で終わる見込みの事件であれば略式手続が選ばれ、拘禁刑が見込まれる自白事件で即決裁判手続が検討される、という関係になります。
同意しなかった場合はどうなるか
同意しないという選択をしたこと自体が、後の処分で不利益に扱われるわけではありません。検察官は即決裁判手続の申立てをせずに事件を処理することになり、通常の手続に沿って、不起訴、略式命令の請求、公判請求のいずれかが判断されます。
公判請求となった場合、第1回公判期日は起訴からおおむね1か月前後で指定されます。事実に争いのない事件であれば、その期日で証拠調べを終え、二週間ほど後に判決が言い渡される流れが一般的です。判決までの期間は長くなりますが、その間に示談や生活環境の調整を進める時間が生まれるという面もあります。
身柄が拘束されている場合は、起訴後に保釈を請求できます。同意するかどうかは、判決までの日数の長短だけでなく、その期間を何に使えるかという観点からも検討することになります。
途中で気持ちが変わった場合
被疑者・被告人の同意も、弁護人の同意も、公判廷での有罪の陳述も、判決の言渡しがあるまでは撤回することができます(350条の25第1項)。撤回されれば、即決裁判手続によって審判する旨の決定は取り消され、事件は通常の手続に戻って審理されます。
ただし、撤回によって事件そのものがなくなるわけではありません。平成28年の改正では、一定の場合に公訴が取り消された後、改めて起訴することを認める規定が設けられました(350条の26)。撤回した後は、通常の手続の中で証拠調べが行われ、判決までの期間も長くなります。身柄拘束が続いている場合には、その期間も延びることになります。
撤回できるという仕組みは、迷ったまま同意してよいという意味ではなく、同意の前に考える時間を確保しておくほうが負担が小さいということを示しています。
同意する前に確かめておきたいこと
- 起訴状に記載された事実のうち、自分として争いたい点が残っていないか。
- 被害者との示談や被害弁償によって、不起訴を目指す余地がまだ残っていないか。
- 検察官が請求する予定の証拠を弁護人が確認し、内容の説明を受けたか。
- 罰金や不起訴で終わる可能性がある事件ではないか。
- 共犯者がいる事件や余罪がある事件で、後から供述が変わる可能性がないか。
- 判決までに整えておきたい事情(示談、退職や転居、通院など)が間に合うか。
- 公開の法廷で行われる手続であることを踏まえ、日程や出頭の負担を確認したか。
弁護士に確認できること
- 同意を求められている事件が、この手続の対象となる要件を満たしているか。
- 不起訴の可能性がどの程度残っている段階なのか。
- 開示された証拠の内容と、争える点があるかどうかの見立て。
- 同意した場合と同意しなかった場合とで、身柄の拘束期間や判決の時期がどう変わるか。
- 撤回できる期限と、撤回したときに事件がどう進むか。
- 判決の後に残るもの(前科、執行猶予の期間中の注意点、勤務先への影響)。
まとめ
- 即決裁判手続は、明白で軽微な事件について簡略な証拠調べを行い、原則として即日判決を言い渡す手続である(刑事訴訟法350条の16以下)。
- 死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる事件は対象外である。
- 同意は起訴前に書面で確認され、弁護人がいる場合は弁護人の同意または意見の留保も必要となる。
- 拘禁刑を言い渡す場合は刑の全部の執行猶予が付き、弁護人がいなければ公判期日を開くことができない。
- その代わり、判決で示された罪となるべき事実について、事実の誤認を理由とする控訴はできない。
- 同意も有罪の陳述も判決の言渡しまでは撤回できるが、撤回すれば通常の手続に戻り、期間は長くなる。
- 同意を求められている段階は、まだ起訴前であり、不起訴や示談の余地が残っていることもある。判断の前に、証拠と見通しを弁護人と確認しておきたい。


