防犯カメラ・交通系ICの履歴|後日に特定される仕組み
別の事件で逮捕されたのに、取調べで聞かれるのはその事件のことばかりではない。逮捕状に書かれていたのは軽い事件のはずなのに、実際には別の話を長く聞かれている。ご本人やご家族から、そうしたご相談をいただくことがあります。
この記事では、いわゆる「別件逮捕」と呼ばれる状況について、どこが問題とされてきたのか、違法かどうかがどのような枠組みで判断されるのか、そして実際に争える場所がどこにあるのかを整理します。逮捕を避けるための方法や、取調べでの受け答えの具体的な台本は扱いません。
「別件逮捕」は法律に定義のある言葉ではない
一般には、捜査機関が本来立件したいと考えている事件(本件)について逮捕の要件が整わないため、要件の整っている別の軽い事件(別件)で逮捕し、その身柄拘束の期間を本件の取調べに使う捜査手法を指す言葉として使われています。ただし、刑事訴訟法に「別件逮捕」という条文があるわけではありません。
逮捕状が出るために審査される要件は、次の二つです。
| 要件 | 条文 | 審査される内容 |
|---|---|---|
| 逮捕の理由 | 刑事訴訟法199条1項 | 被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること |
| 逮捕の必要性 | 刑事訴訟法199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3 | 年齢や境遇、犯罪の軽重や態様などに照らし、逃亡のおそれと罪証隠滅のおそれがないとはいえないこと |
条文には、「本命の事件が別にある場合は逮捕できない」という要件は書かれていません。捜査機関が内心でどの事件を狙っているかは、令状審査の場に資料として現れにくいという事情もあります。別件逮捕が長く議論されてきたのは、この構造があるためです。
ご本人が「別件逮捕ではないか」と感じる場面
実際のご相談では、次のような形で違和感が語られることが多くあります。
・逮捕状に書かれていた被疑事実と、取調べで聞かれる内容が食い違っている。
・被害者が処罰を求めていないような軽い事件で、あえて逮捕された。
・別件についての質問は早く終わり、その後は別の事件の話が続いている。
・別件で釈放された直後に、別の事件で改めて逮捕された。
もっとも、これらはいずれも、複数の事件を順に捜査していく通常の流れの中でも起こります。違和感があることと、法的に違法と評価されることは、同じではありません。
どこが問題とされてきたのか
指摘されてきた問題点は、大きく二つに整理できます。
令状主義との関係
憲法33条は、逮捕には裁判官の発する令状が必要であると定めています。身柄の拘束は令状が出された事件についてだけ許されるという考え方(事件単位の原則)も、実務の前提とされています。本件について令状が得られない状況で、別件の令状によって本件の捜査を進める形になると、この仕組みが働かなくなるのではないか、という指摘です。
身柄拘束の期間との関係
一つの事件について起訴前に身柄を拘束できる期間には上限があります。逮捕から検察官への送致と勾留請求までが72時間以内、勾留は10日間、延長が認められた場合でもさらに10日間までです。別件と本件が別の事件であれば、この枠は事件ごとに立つことになります。結果として、身柄拘束が長期化することがあります。
この論点は古くから取り上げられており、日本弁護士連合会が1970年の定期総会で決議を出した経緯もあります。
違法かどうかは、どこを見るかで判断が分かれてきた
別件逮捕については、何を基準に適法と違法を分けるかについて複数の考え方があり、一つに定まっているわけではありません。
| 着目する点 | 考え方の概要 | そこで問題になること |
|---|---|---|
| 別件そのもの | 別件について逮捕・勾留の要件が備わっていれば、その身柄拘束は適法とみる | 本件の取調べがどこまで許されるかは、余罪の取調べの限界として別に検討される |
| 捜査機関の狙い | 要件が形式的に備わっていても、実質的に本件のための拘束といえる場合は違法とみる | 内心の狙いは外から見えないため、取調べの実際の状況から推し量ることになる |
| 途中からの変化 | 当初は適法でも、別件のための拘束としての実体を失った時点から違法とみる | どの時点で実体を失ったといえるかが争点になる |
下級審の裁判例の多くは、まず別件について逮捕・勾留の要件が備わっているかを見ているとされます。そのうえで、別件自体について理由と必要性がどの程度あったか、別件と本件の取調べに費やされた時間の比率、二つの事件の関連性の有無と程度、別件の軽重といった事情が、総合的に考慮されることになります。
関連する事件をあわせて取り調べることが直ちに違法になるわけではない
最高裁は昭和52年8月9日の決定で、甲の事実について逮捕・勾留の理由と必要があり、甲と乙が社会的事実として一連の密接な関連がある場合には、甲について取り調べるとともに、これに付随して乙について取り調べても違法とはいえない、という判断を示しています。
たとえば、薬物の所持で逮捕された方に同じ薬物の使用について尋ねる場合や、住居侵入で逮捕された方にその機会の窃盗について尋ねる場合が考えられます。こうした場面では、事件ごとに手続を分けるよりも、まとめて捜査が進んだ方が身柄拘束の期間が短くなることもあります。
他方で、二つの事件にそうした関連がなく、別件についての捜査がほとんど行われていないような場合には、評価が変わり得ます。
「違法」という評価は、どこに効いてくるのか
ここは、ご本人やご家族にとって分かりにくい部分です。違法だという評価は、逮捕そのものを取り消すという形では現れません。
逮捕そのものを争う手続は用意されていない
最高裁は昭和57年8月27日の決定で、逮捕に関する裁判は準抗告(刑事訴訟法429条1項)の対象となる裁判に含まれない、と判断しています。逮捕状が出たこと自体を不服として、その場で裁判所に取消しを求める手続は用意されていません。
勾留の段階から争うことになる
実際に司法判断を求められるのは、勾留の段階からです。勾留決定に対する準抗告、勾留延長に対する準抗告、勾留理由開示の請求、勾留取消しの請求といった手続があります。逮捕の手続に重大な違法があるときは、それに続く勾留への準抗告の中で理由として主張できるとされています。
起訴された後は供述調書の扱いの問題になる
起訴された後は、その拘束期間中に作成された供述調書を証拠として使えるかという形で争点になります。違法な状況の下で得られた供述について、証拠能力を認めなかった裁判例もあります。ただし、そうした評価が得られたとしても、事件そのものがそれで終わるわけではありません。
いま記録に残しておきたいこと
別件逮捕にあたるかどうかの判断は、取調べが実際にどう行われたかをもとに行われます。その状況は、あとから作り直すことができません。次のような点は、その日のうちに整理しておく意味があります。
・逮捕状に記載されていた被疑事実(罪名、日時、場所)。
・その日の取調べで、どの事件について、どのくらいの時間聞かれたか。
・別件について、実況見分や被害者からの事情聴取など、具体的な捜査が行われた形跡があるか。
・弁護人と接見した日付と、そこで伝えた内容。
身柄を拘束されている間、外部との連絡は制限されます。取調べの状況を継続して外に伝えられる場は、原則として弁護人との接見に限られます。
取調べの場での前提
供述するかどうかは、ご本人が決められます。自分の意思に反して供述をする必要がない旨は、取調べに先立って告知することとされています(刑事訴訟法198条2項)。作成された調書は読み聞かせを受けたうえで、内容に違いがあれば増減変更を申し立てることができ、署名押印を求められても応じないという選択もできます(同条4項、5項)。
記憶が曖昧な事柄について断定的な内容が調書に残ると、その後の手続がその記載を前提に進むことがあります。分からないことは分からないまま伝える、という整理が現実的です。
ご家族ができること
ご家族に伝えられるのは、逮捕された事実と罪名程度にとどまることが少なくありません。逮捕状にどのような事実が書かれていたのか、実際に何を聞かれているのかは、接見を通じて確認していくことになります。
弁護人については、当番弁護士の制度、勾留された後の国選弁護人、私選の弁護人という選択肢があります。別件で釈放されたとしても、本件についての手続が続いていることがありますので、釈放の時点で区切りがついたと考えない方がよい場面もあります。
誤解されやすい点
最後に、行き違いの起きやすい点を整理します。
・「別件逮捕」は、法律に定義された手続の類型ではありません。
・本件の話が長かったという一事だけで、違法と決まるわけではありません。
・関連する事件をまとめて取り調べることが、違法と評価されるとは限りません。
・逮捕そのものを取り消す手続はなく、争いは勾留の段階から始まります。
・違法という評価が得られても、事件の処分がそれで終わるわけではありません。
まとめ
本記事の要点は次のとおりです。
・「別件逮捕」に条文上の定義はなく、逮捕状の審査で見られるのは理由と必要性の二つです。
・問題とされてきたのは、令状主義との関係と、身柄拘束の期間が事件ごとに積み重なる点です。
・違法かどうかの判断枠組みは一つに定まっておらず、取調べ時間の比率や事件の関連性などが総合的に考慮されます。
・関連する事件についての取調べは、それ自体で違法とされるわけではありません。
・実際に争えるのは勾留の段階からで、起訴後は供述調書の扱いという形で問題になります。
当事務所では刑事事件のご相談を24時間受け付けており、初回のご相談は無料です。逮捕されたご家族への接見も、状況により即日で対応できる場合があります。


