防犯カメラ・交通系ICの履歴|後日に特定される仕組み
飲食店やクリニック、以前の勤務先などについて書いた口コミが、後日「業務妨害だ」「信用毀損にあたる」と言われることがあります。店舗側の代理人から削除を求める通知が届いたり、契約している通信会社から見慣れない書面が送られてきたりして、初めて事の重さに気づく方も少なくありません。
もっとも、低い評価を書いたことがそのまま犯罪になるわけではありません。刑法233条の信用毀損罪・偽計業務妨害罪は、書かれた内容が虚偽であることを入り口の要件としており、名誉毀損罪とは条文の向きが違います。この記事では、口コミ・レビューの投稿がどのような場面で業務妨害・信用毀損の問題になるのか、投稿した側の立場から整理します。
口コミの内容によって、問題になる枠組みが変わる
店舗側の通知書には「営業妨害」「信用毀損」「名誉毀損」が並べて書かれていることも多く、どれが自分の投稿に当てはまるのか分かりにくくなりがちです。整理の出発点は、書いた内容が感想・評価なのか出来事の記述なのか、そして出来事の記述であればそれが事実に沿っているのか、という二つの軸です。
| 口コミの内容 | 主に問題になりうる枠組み | 判断で見られる点 |
|---|---|---|
| 味や接客の印象など、感想・評価にとどまるもの | 刑事の業務妨害・信用毀損の枠には乗りにくい | 表現が人格そのものへの攻撃に及んでいないか |
| 実際に体験した出来事を書いたもの | 名誉毀損(民事・刑事) | 社会的評価を下げる内容か/公共性・公益目的・真実性が認められるか |
| 体験していない出来事を書いたもの | 信用毀損罪・偽計業務妨害罪 | 内容が客観的に虚偽といえるか/その認識があったか |
| 利用していない店舗への投稿、複数アカウントからの連続投稿 | 偽計業務妨害罪 | 利用者の評価という仕組みを装って利用したといえるか |
刑法233条は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」と定めています。前段が信用毀損罪、後段が偽計業務妨害罪です。
「事実の有無にかかわらず」と「虚偽であること」——条文の向きの違い
口コミの相談で特に混乱が起きやすいのが、名誉毀損罪と信用毀損罪・業務妨害罪の関係です。二つの条文は、真実かどうかの扱いが逆向きになっています。
名誉毀損罪を定める刑法230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず」と規定しています。書いた内容が本当のことであっても、成立自体は妨げられません。真実であることが免責につながるのは、公共の利害に関する事実であること、専ら公益を図る目的であること、真実であることの証明があったことの三つがそろった場合(230条の2)です。
これに対し、信用毀損罪・偽計業務妨害罪は「虚偽の風説」であることが構成要件に含まれています。書いた内容が事実に沿っているのであれば、この条文の入り口には入りません。
見落とされやすいのは、真実かどうかを誰が示すのかという構造の違いです。信用毀損罪・偽計業務妨害罪では虚偽であることが成立要件そのものですから、虚偽であることは検察官の側が立証しなければならない事柄になります。一方、名誉毀損では真実性は免責の要件として位置づけられており、投稿した側が資料を出して示していく場面になります。
つまり「本当にあったことを書いただけです」という説明は、業務妨害・信用毀損の枠では成立を否定する方向の主張として働き、名誉毀損の枠では免責を求める主張として働きます。同じ一言でも、置かれる位置が変わるということです。
感想・評価と、出来事の指摘はどこで分かれるか
「味が好みではなかった」「待ち時間が長く感じた」「対応が丁寧ではないと思った」といった書き方は、体験に対する評価や感想と受け取られやすい表現です。こうした投稿だけで刑事の業務妨害・信用毀損の問題になることは多くありません。
一方、「異物が入っていた」「説明もなく別の処置をされた」「期限の切れた材料を使っている」といった書き方は、出来事や状態を指摘するものとして扱われます。
注意したいのは、文末が感想の形になっていても、前提として具体的な出来事を示していれば、出来事の指摘があったと読まれる場合がある点です。投稿がどう読まれるかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断されます。「〜らしい」といった伝聞の形をとっていても、読んだ人が具体的な内容を受け取れるのであれば同じように扱われることがあります。
体験していない出来事を書いた場合
信用毀損罪・偽計業務妨害罪が正面から問題になるのは、体験していない出来事を体験したかのように書いた場面です。次のような投稿は、内容が事実に反していれば、この条文の検討対象になります。
・利用したことのない店舗について、利用したかのような体裁で不衛生な状態を書き込む
・実際には起きていない異物の混入や体調不良を書き込む
・加工した画像や、別の場所で撮影した画像を添えて投稿する
・経営状態や取引の継続について、根拠のない内容を書き込む
信用毀損罪の「信用」は、支払の意思や能力に対する社会的信頼にとどまらず、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれると解されています(最高裁平成15年3月11日)。飲食物や医療、商品の品質に関する内容が問題になりやすいのはこのためです。
また、業務妨害は、現実に売上が落ちたことまでは必要とされず、妨害されるおそれのある状態が生じたと評価できれば足りると解されています。「実際には客足に影響していない」という説明だけで判断が決まるわけではありません。
複数のアカウントを使い分けて同じ趣旨の投稿を重ねたり、事情を知らない知人に依頼して投稿してもらったりする行為は、多くの利用者による評価であるかのような外形をつくる点で、偽計として評価される方向に働きます。
実際に争われてきた事案の多くは民事である
口コミをめぐって公表されている裁判例は、削除請求と損害賠償請求という民事の手続によるものが中心です。
たとえば大阪地方裁判所は、令和6年5月31日付けで、地図サービス上の口コミについて名誉毀損を認め、投稿者に対して投稿の削除と200万円の賠償を命じたと報じられています。医療機関に関する投稿について、患者の承諾を得ずに医療行為をしたとの印象を閲覧者に与えるものだと判断された事案です。
投稿した側から見れば、店舗側が動いたときに先に届くのは民事の通知であることが多い点は押さえておきたいところです。認められる金額は一律ではなく、投稿の内容や広がり方、事業への影響によって幅があります。
「口コミに書く」と伝えて要求した場合
トラブルの経緯として多いのが、返金や謝罪を求めるやり取りの中で「対応してもらえないなら口コミに書きます」と伝えていたというケースです。
代金の返還や謝罪を求めること自体は、消費者として正当な行為です。問題になるのは、その要求を通す手段として不利益の告知を用いたと評価される場合で、そのときは脅迫罪や強要罪、金銭の交付を求めていれば恐喝罪といった別の条文が検討されます。
分かれ目は、求めている内容が取引上の筋の通ったものか、伝え方が要求を通すための圧力として使われていないかという点にあります。後から経緯を説明できるよう、やり取りの履歴は消さずに保管しておくことをおすすめします。
元従業員が書いた口コミ、同業者が書いた口コミ
勤務先や元の勤務先について転職サイトなどに書いた口コミは、求職者にとっての情報という性質があり、公共の利害に関わる面が認められやすい類型です。もっとも、それは内容が事実に沿っていることが前提です。在職中に知った取引先や顧客の情報を書き込んだ場合には、就業規則上の秘密保持や退職時の誓約書との関係も問題になります。
また、書いた側が競争関係にある事業者である場合には、不正競争防止法2条1項21号が「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」を不正競争行為と定めており、差止めや損害賠償の対象になりえます。同業者に依頼されて投稿した場合も、依頼した側と併せて見られることがあります。
匿名の投稿が投稿者に結び付くまで
口コミサイトの多くは表示名だけで投稿できますが、投稿者にたどり着く手続は制度として整えられています。店舗側はまずサイトの運営者に発信者情報の開示を求め、得られた通信の記録をもとに接続を提供している通信会社にさらに開示を求めます。この手続は2025年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に引き継がれ、裁判所の開示命令という手続も利用できます。通信会社に残るアクセスの記録の保存期間は数か月程度とされており、店舗側は早い段階で動いてくることが多くなっています。
この過程で、投稿した側には通信会社から「発信者情報開示に係る意見照会書」という書面が届きます。開示に同意するかどうかを尋ねる書面で、回答期限が設けられています。同意しないと回答しても、それだけで開示が止まるわけではなく、裁判所が要件を満たすと判断すれば開示されます。一方で、この時点ではまだ相手方に氏名や住所は伝わっていません。どの投稿が問題とされているのかを最初に把握できる機会でもありますので、内容を確認したうえで期限内に対応を決めることが大切です。
なお、通知を受けて投稿を削除しても、それで責任がなくなるわけではありません。店舗側は通知を出す前に、画面の保存によって投稿の内容を確保していることがほとんどです。もっとも、その後の対応が示談の交渉や処分の判断で考慮されないわけでもありません。アカウントごと消すと自分の投稿履歴を確認できなくなりますので、削除する場合でも投稿内容と日時を控えておくことをおすすめします。
連絡が来たときに整理しておきたいこと
店舗側や代理人から連絡が届いた段階で、次の点を整理しておくと、相談の際の見通しが立てやすくなります。
・問題とされている投稿の日時、投稿先のサイト、書いた内容
・その店舗や会社を実際に利用した記録(決済履歴、予約の記録、診療明細など)
・投稿するに至った経緯と、店舗側とのやり取りの履歴
・同じ店舗について他にも投稿していないか、別のサイトにも書いていないか
・すでに削除した投稿があるか、削除した日時
控えたほうがよい対応
次のような対応は、状況を複雑にする方向に働きやすいものです。
・通知を受けた後に、内容を言い換えて同じ趣旨の投稿を書き直す
・受け取った通知の内容や経緯をSNSに公開する
・店舗や担当者に直接連絡を取り、その場で話をつけようとする
・アカウントを削除して、投稿の記録を自分でも確認できない状態にする
・法的な整理をしないまま「事実だから問題ない」とだけ回答する
示談と処分の関係
名誉毀損罪は親告罪であり、被害を受けた側の告訴がなければ起訴されません。告訴ができる期間は、犯人を知った日から6か月とされています。示談が成立し、告訴をしないという合意ができれば、刑事の手続に進まないまま解決できる場合があります。
一方、信用毀損罪と業務妨害罪は親告罪ではありません。示談が成立していることは処分を決めるうえで有利に考慮される事情ですが、告訴の取下げによって当然に手続が終わるという関係にはならない点は理解しておく必要があります。
また、民事の賠償と刑事の処分は別々に進みます。示談の際には、どちらの問題も含めて解決するという内容を書面に残しておくことが重要です。
よくあるご質問
Q.星1つの評価をつけただけでも問題になりますか。
評価の点数をつける行為そのものは体験に対する評価の表明と受け取られやすく、それだけで業務妨害・信用毀損の枠に乗ることは多くありません。ただし、利用していない店舗に繰り返し低い評価をつけていた場合や、複数のアカウントから同じ店舗に評価をつけていた場合には、投稿の目的や経緯を含めて見られます。
Q.実際にあったことを書いたのに、削除と賠償を求められました。
体験した内容であれば、業務妨害・信用毀損の入り口である「虚偽」には当たりません。もっとも名誉毀損の枠では、公共の利害に関わる内容か、目的が公益にあるかも合わせて判断されます。私的なトラブルの経緯を書いた投稿では、この点でつまずくことがあります。決済履歴や予約の記録など体験を裏づける資料を確保したうえで、どの枠組みで争われているのかを確認することが先決です。
Q.投稿してから何年も経っています。今から問題になりますか。
信用毀損罪・業務妨害罪・名誉毀損罪の公訴時効は、いずれも3年です。名誉毀損罪にはこれに加えて、犯人を知った日から6か月という告訴期間の制限があります。民事の損害賠償請求は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかるのが原則です。ただし、投稿がサイト上に残り続けている場合の起算点の考え方には争いがあり、期間が過ぎているという判断をご自身で行うことはおすすめできません。
まとめ
・信用毀損罪・偽計業務妨害罪は刑法233条に定められ、書いた内容が虚偽であることが入り口の要件になる
・名誉毀損罪は「その事実の有無にかかわらず」成立しうる点で、条文の向きが逆になっている
・虚偽であることは検察官の側が示す事柄であり、真実であることは免責を求める側が示す事柄という違いがある
・感想や評価にとどまる投稿と、出来事を指摘する投稿とでは、検討される枠組みが変わる
・体験していない出来事を書いた場合や、複数のアカウントで投稿を重ねた場合には、偽計として評価される方向に働く
・返金や謝罪を求める手段として「口コミに書く」と伝えていた場合には、脅迫罪や強要罪など別の条文も検討される
・匿名の投稿でも意見照会書が届く段階から手続は進んでおり、投稿の削除だけで責任がなくなるわけではない
口コミをめぐるトラブルは、投稿した本人にとっては日常のやり取りの延長であっても、店舗側には事業への影響として受け止められ、想定より大きな請求に発展することがあります。通知や書面が届いた段階でご相談いただければ、どの枠組みで問題とされているのかを整理したうえで、対応の方針を立てることができます。当事務所では無料相談を受け付けておりますので、お一人で判断される前にお気軽にご相談ください。


