うその被害届・告訴を出した|虚偽告訴罪の重さ

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

被害届や告訴は、被害に遭った人が捜査機関に事実を伝え、捜査を求めるための正当な手続きです。一方で、事実と異なる内容を申告して人を犯人として届け出た場合には、虚偽告訴罪という別の犯罪が問題になります。感情的なやり取りの延長で届け出てしまった、伝えるうちに話が実際より大きくなってしまった、というご相談も実際にあります。この記事では、虚偽告訴罪がどのような場合に成立し、どの程度の重さの罪とされているのか、そして申告した内容に事実と違う部分があると気づいたときに何ができるのかを、条文と裁判例に沿って整理します。

虚偽告訴罪とはどのような罪か

 虚偽告訴罪は、刑法172条に定められています。条文は「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の拘禁刑に処する」というものです。かつては誣告罪(ぶこくざい)と呼ばれていた罪で、現在の正式な呼び方は虚偽告訴等罪です。

 この罪が守ろうとしているものは二つあると考えられています。一つは、捜査や裁判が誤った方向に進まないようにするという国の側の利益です。もう一つは、身に覚えのない疑いをかけられた人の生活の平穏という個人の側の利益です。二つの利益がともに脅かされる点に、この罪の重さの理由があるとされています。

 うその申告が問題になる場面では、次のような罪が近い位置に並びます。どの条文で扱われるかによって、法定刑も公訴時効の期間も変わります。

罪名問題になる場面法定刑と公訴時効
虚偽告訴罪(刑法172条)実在する他人に刑事処分や懲戒処分を受けさせる目的で、うその申告をした場合3月以上10年以下の拘禁刑/時効7年
軽犯罪法1条16号犯人を名指しせず、事実でない犯罪や災害を公務員に申し出た場合拘留または科料/時効1年
偽計業務妨害罪(刑法233条)うその申告によって捜査機関などの業務を妨げた場合3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金/時効3年
名誉毀損罪(刑法230条)公然と事実を示して人の社会的評価を低下させた場合3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金/時効3年


罰金刑がなく、起訴されれば法廷で審理される

 虚偽告訴罪の法定刑には罰金刑が用意されていません。この点は、実務上の見通しに影響します。罰金刑のある罪であれば、書面のやり取りだけで罰金を納める略式手続で終わることがありますが、虚偽告訴罪ではその選択肢がなく、起訴された場合は公開の法廷で審理を受けることになります。

 もっとも、法定刑の下限は3月であり、刑の全部の執行猶予が付く余地は残されています。また、公訴時効は7年です。被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪ではないため、名指しされた側が処罰を求めていない場合でも、捜査が進むことはあり得ます。

対象になるのは実在する他人を名指しした申告

 虚偽告訴罪でいう「人」は自分以外の他人を指し、実在していることが前提とされています。会社などの法人も対象に含まれます。裏を返すと、次のような申告はこの罪には当たらないと整理されています。

・自分自身が犯人であるとうその申告をした場合
・実在しない人物を犯人として申し出た場合

 これらの場合は、事実でない犯罪を公務員に申し出たものとして、軽犯罪法1条16号の問題として扱われることがあります。また、真犯人の身代わりとして名乗り出た場合には、犯人隠避罪(刑法103条)が別に問題となります。

「虚偽」は客観的な事実に反することを指す

 どのような申告が「虚偽」なのかについて、判例は客観的真実に反することをいうと解しています(最高裁昭和33年7月31日決定)。自分の記憶に反するかどうかではなく、実際にあった事実と食い違っているかどうかで判断される、という考え方です。

 同じ「虚偽」という言葉を使う偽証罪(刑法169条)では、記憶に反する陳述が虚偽とされており、判断の基準が異なります。虚偽告訴罪では、うそのつもりで名指しした相手がたまたま本当の犯人だった場合には、この罪は成立しないことになります。

 もう一つ重要なのは、虚偽告訴罪に過失を処罰する規定がないことです。相手が犯人だと思い込んで届け出たものの、捜査の結果その人が犯人ではなかったという場合、思い込みに落ち度があったとしても、それだけでこの罪に問われるわけではありません。

「間違いかもしれない」という認識でも故意が認められることがある

 もっとも、故意が認められる範囲は、確定的に「うそだと分かっていた」場合に限られません。判例は、虚偽であることを確定的に認識している必要はなく、未必的な認識があれば足りるとしています(最高裁昭和28年1月23日判決)。事実に反するかもしれないと思いながら、それでも構わないという気持ちで申告した場合が含まれるという理解です。

 条文が求める「刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」についても、判例や通説は、相手が処分を受けるかもしれないという認識があれば足りるとしています。相手を刑務所に入れることが主たる狙いでなかったとしても、この点だけを理由に成立が否定される場面は限られます。

 思い込みによる届け出と、あいまいな認識のまま名指しした届け出は、外から見ると似ています。両者を分けるのは、申告の時点で本人がどこまで分かっていたか、そしてそれを裏づける当時のやり取りや記録です。

告訴・告発・被害届・懲戒請求のどれが「申告」にあたるか

 告訴は、犯罪により害を被った人などが捜査機関に犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です(刑事訴訟法230条)。告発は、告訴ができる立場にない第三者が同じことを行うものです(同239条)。いずれも書面でも口頭でも可能とされています(同241条1項)。

 被害届は、被害の事実を届け出る書面で、処罰を求める意思表示を含むとは限らない点で告訴と異なります。ただし、条文が「その他の申告」まで対象に含めているため、事実でない内容の被害届も、この罪の対象になり得ると考えられています。弁護士会に対する懲戒請求や、行政機関に対する申出も「その他の申告」に含まれると整理されています。

 なお、申告は自発的に行われたものであることが必要とされています。すでに取調べを受けている中で質問に答える形でうその供述をしたという場合は、ここでいう申告には当たらないと解されています。もっとも、その供述が別の場面で不利に働くことはあります。

成立する時点は、申告が届いたとき

 虚偽告訴罪は、うその申告が捜査機関や懲戒権を持つ側に到達した時点で成立するとされています。相手が実際に逮捕されたことや、処分が現実に行われたことまでは必要ありません。

 この罪には未遂を処罰する規定がありません。そのため、後から被害届を取り下げたり、告訴を取り消したりしても、いったん成立した犯罪そのものが消えるわけではないという整理になります。取り下げに意味がないという話ではなく、意味が生じる場所が別にある、というのが次の項目です。

自白による刑の減免という規定がある(刑法173条)

 刑法173条は「前条の罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる」と定めています。うその申告をした人が自ら申し出た場合に、刑を軽くし、または科さないことができるという規定です。

 注意したい点が二つあります。一つは、減軽や免除が認められるかどうかは裁判所の判断に委ねられており、自白すれば当然に刑がなくなるという仕組みではないことです。もう一つは、時期の区切りがあることです。名指しした相手の事件について裁判が確定する前、懲戒の場面であれば処分が行われる前、という枠が条文に置かれています。

 この規定は、申告した側にとって、事態が動いてしまった後でも取れる手立てが残されていることを示しています。ただし、自ら申し出ることは、自分に不利な事実を捜査機関に伝えることでもあります。何をどの範囲で伝えるのか、どの窓口に伝えるのかは、弁護士に相談したうえで組み立てることをおすすめします。

件数が少ないと言われる理由と、その限界

 警察庁の犯罪統計では、虚偽告訴の認知件数は年間数十件という規模で推移しており、刑法犯の中では件数の少ない類型です。件数が伸びない理由としては、故意の立証が難しいことがよく挙げられます。申告した内容が結果として事実と違っていたとしても、思い込みだったのか、分かっていて名指ししたのかを外から見分けるのは簡単ではないからです。

 ただし、これは立件されない罪という意味ではありません。実際に、無実の人が重大な犯罪を犯したとする書面を捜査機関に送った事案(千葉地方裁判所平成30年1月30日判決)や、電車内で男性客を痴漢に仕立てて示談金の名目で現金を得ようとした事案(大阪地方裁判所平成20年10月24日判決)で有罪判決が言い渡されています。後者では、被害者役として届け出た人だけでなく、目撃者役として協力した人も罪に問われています。関与した人の申し出をきっかけに事実が明らかになったという経緯も、この事案の特徴です。

虚偽の申告が別の責任につながる場合

 うその申告は、虚偽告訴罪だけで終わらないことがあります。金銭を得る目的で申告した場合には、恐喝罪や詐欺罪が別に問題となります。申告の内容を周囲に広めた場合には名誉毀損罪が、捜査機関の業務を妨げたと評価される場合には偽計業務妨害罪が問題になることもあります。

 民事の責任も生じ得ます。裁判例は、申告や請求が事実上または法律上の根拠を欠いていて、そのことを知りながら、あるいは通常の注意を払えば知り得たのにあえて行った場合に違法と評価するという枠組みを用いています(弁護士に対する懲戒請求について、最高裁平成19年4月24日判決)。名指しされた側が受けた精神的な負担や、対応にかかった費用が、損害賠償の対象として主張されることになります。

申告した内容に事実と違う部分があると気づいたとき

 届け出た後になって、事実と食い違う部分に気づくことがあります。まずは落ち着いて、次の順序で整理してみてください。

・当日の出来事を、時刻の分かる資料(通話履歴、交通系ICの記録、メッセージのやり取りなど)と突き合わせて時系列に並べる
・届け出た内容のうち、事実と違うのはどの部分か、記憶が薄い部分はどこかを分けて書き出す
・その食い違いが、相手の処分に影響する部分なのか、周辺的な部分なのかを区別する
・訂正を申し出る場合の伝え方と時期を、法律の専門家と検討する
・相手方や関係者に直接連絡して口裏を合わせるような対応は取らない

 自分から訂正を申し出ることは、刑法173条との関係でも、処分の見通しとの関係でも意味を持ち得ます。一方で、伝え方を誤ると、意図しない形で事実が固定されることもあります。整理と方針決定を先に済ませてから動くほうが、結果として選択肢を広く保てます。

控えたほうがよい対応

 次のような対応は、状況を難しくすることがあります。

・提出済みの書面や連絡の記録を消したり、端末を初期化したりする
・関係者に連絡し、話を合わせてほしいと依頼する
・名指しした相手に直接会って、取り下げを条件に金銭の話をする
・捜査機関からの連絡を放置したまま時間を過ごす
・事実と違う部分を、さらに別の説明で埋め合わせようとする

よくある質問

 被害届を取り下げれば、罪に問われずに済みますか。
 虚偽告訴罪は申告が届いた時点で成立するとされているため、取り下げによって成立そのものがなくなるわけではありません。ただし、自ら事実を申し出た経緯は、刑法173条の減免や、処分を決める際の判断材料として考慮され得ます。

 事実はあったのですが、大げさに伝えてしまいました。
 誇張の中身によります。相手の処分の成否に影響する部分が事実と違う場合には問題になり得ますが、周辺的な部分の記憶違いであれば、評価は変わってきます。どの部分がどう違うのかを具体的に整理することが出発点になります。

 名指しした相手が、実際に犯人だった場合はどうなりますか。
 判例の考え方では、「虚偽」は客観的な事実に反することを指すため、申告の内容が結果として事実と一致していた場合には、この罪は成立しないと整理されます。

まとめ

・虚偽告訴罪は、人に刑事処分または懲戒処分を受けさせる目的でうその申告をした場合に成立し、法定刑は3月以上10年以下の拘禁刑
・罰金刑がないため、起訴された場合は法廷で審理される。公訴時効は7年で、親告罪ではない
・対象は実在する他人を名指しした申告で、自分自身や架空の人物を犯人とする申告は軽犯罪法などの問題として扱われる
・「虚偽」は客観的な事実に反することを指し、思い込みや記憶違いによる届け出は、それだけで罪に問われるわけではない
・一方で、事実に反するかもしれないという認識のまま名指しした場合には、故意が認められることがある
・被害届や弁護士会への懲戒請求も「その他の申告」に含まれ得る
・成立するのは申告が届いた時点であり、取り下げによって成立自体が消えるわけではない
・刑法173条は、裁判が確定する前などに自白した場合の刑の減軽・免除を定めており、申告した側に残された手立てとなり得る

 うその申告をしてしまったのではないかという不安は、一人で抱えているうちに大きくなりがちです。弁護士法人若井綜合法律事務所では、こうしたご相談を初回無料でお受けしています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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