いたずら通報・虚偽の110番|どの罪に問われるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

軽い気持ちでかけた電話、友人と一緒にふざけて押した110番。その場では何事もなく終わったように見えても、後日になって警察から連絡が入ることがあります。

いたずら通報や虚偽の110番・119番は、一つの条文だけで処理されるわけではありません。通報の中身、通報した相手方、回数や態様によって、適用され得る規定が入れ替わります。そして、どの規定で扱われるかによって、法定刑だけでなく、逮捕の可否や時効といった手続の重さまで変わってきます。

ここでは、通報した側の立場から、問題になり得る条文とその分かれ目を整理します。

いたずら通報で問題になる条文は一つではない


まず、どのような規定が候補になるのかを一覧にしておきます。

通報の内容や相手方問題になり得る規定法定刑
存在しない犯罪や災害を公務員に告げた軽犯罪法1条16号(虚構の犯罪・災害の申告)拘留又は科料
悪戯によって他人の業務を妨げた軽犯罪法1条31号拘留又は科料
火災や傷病者について事実と異なる119番通報をした消防法44条20号30万円以下の罰金又は拘留
出動や警戒を余儀なくさせるなどして公的機関の業務を妨げた刑法233条(偽計業務妨害)3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
特定の人に刑事処分を受けさせる目的で虚偽の申告をした刑法172条(虚偽告訴等)3月以上10年以下の拘禁刑


一つの通報がこのうち複数に触れることもあれば、内容によっては軽犯罪法の範囲にとどまることもあります。以下、順に見ていきます。

軽犯罪法1条16号|虚構の犯罪や災害を公務員に申し出た場合


軽犯罪法1条16号は、虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者を、拘留又は科料に処すると定めています。

「虚構」とは、事実として存在しないことをいいます。「あそこで刃物を持った人が暴れている」「隣の建物から火が出ている」といった、実際には起きていない出来事を告げる行為が、この号の想定する場面です。相手は警察官に限られず、消防職員や自治体の職員も「公務員」に含まれます。

拘留は1日以上30日未満、科料は1000円以上1万円未満の刑罰です。刑法の各罪と比べれば軽い部類に入りますが、有罪となれば前科として記録に残る点は変わりません。

なお、後述する虚偽告訴罪と違い、この号は「誰かを犯人に仕立てる目的」までは求めていません。特定の人物を名指ししていない通報でも、内容が虚構であれば問題になり得ます。

119番への虚偽の通報|消防法の罰則


消防法24条1項は、火災を発見した者に対して、遅滞なく消防署などへ通報する義務を課しています。この通報制度を守るための規定として、同法44条20号が、火災の発生に関する虚偽の通報、および傷病者に関する虚偽の通報をした者を、30万円以下の罰金又は拘留に処すると定めています。

火事についての嘘だけでなく、救急要請についての嘘もこの条文の対象です。

一方、火災でも傷病者でもない事柄について119番で虚偽を告げた場合は、この号の枠外になります。その場合は軽犯罪法や刑法の側で検討されることになります。

偽計業務妨害罪|出動や警戒を余儀なくさせた場合


刑法233条は、偽計を用いて人の業務を妨害した者を、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。

虚偽通報の事案でこの罪が問題になるのは、通報を受けた警察官や消防隊が、内容を真実と受け止めて現実に動いた場面です。裁判例では、携帯電話から119番通報をして消防指令に虚偽の火災発生を告げた事案について、この罪の成立が認められています(静岡地方裁判所平成29年1月31日判決)。

警察の活動がなぜ「業務」に当たるのかについては、虚偽の通報による妨害に対しては警察の強制力を向けようがない、という整理が裁判例で示されています(東京高等裁判所平成21年3月12日判決)。強制力を持つ公務であっても、嘘の通報を排除する働きを持たない以上、業務妨害の保護から外れないという考え方です。

軽犯罪法にとどまるのか、偽計業務妨害になるのか


同じ「いたずら通報」であっても、拘留・科料で済む軽犯罪法の話なのか、拘禁刑の可能性がある偽計業務妨害の話なのかで、位置づけは大きく変わります。この分かれ目について、参考になる考え方が二つあります。

一つは、先ほどの東京高等裁判所平成21年3月12日判決です。同判決は、軽犯罪法1条31号は刑法233条・234条および95条の補充規定であり、31号違反が成立し得るのは、これらの罪が成立しないような違法性の程度の低い場合に限られる、と述べています。つまり軽犯罪法は、刑法で捉えきれない軽い部分を受け止める位置にあるという整理です。

もう一つは、他人名義で虚構の注文をして徒労の配達をさせた事案に関する大阪高等裁判所昭和39年10月5日判決です。同判決は、動機・目的・態様に照らして、その手段は軽犯罪法1条31号にいう悪戯と見られる程度を超えており、刑法233条の偽計に当たると判断しました。あわせて、業務妨害の故意については、積極的に業務を妨害しようと意欲する場合に限られず、業務妨害の結果が生じることの認識があれば足りるとしています。

「困らせるつもりはなかった」という説明が、それだけで結論を左右しにくいのは、この故意の捉え方によるところが大きいといえます。

実際の判断では、次のような事情が見られます。

・通報の中身が、警察官や消防隊が現実に動くことを前提とするものだったか
・実際に何人が、どれくらいの時間、確認や警戒に当たったか
・一度きりだったのか、繰り返されたのか
・公衆電話や非通知など、発信元を隠す手立てがとられていたか
・通報に至った動機や、その場の状況

明確な回数や時間の基準が定められているわけではなく、これらを総合して見ていくことになります。

特定の人を犯人として申告した場合|虚偽告訴罪


刑法172条は、人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者を、3月以上10年以下の拘禁刑に処すると定めています。罰金刑の定めがなく、ここまで挙げてきた規定の中では重い部類です。

この罪は、実在する特定の人物を対象としていることが前提と解されています。架空の人物についての申告や、自分自身についての申告は、172条ではなく軽犯罪法1条16号の問題として扱われるのが一般的な整理です。

また、正式な告訴や告発の形をとっていなくても、虚偽の被害届の提出が「その他の申告」に当たり得るとされています。

なお、刑法173条は、申告した事件について、その裁判が確定する前または懲戒処分が行われる前に自白したときは、刑を減軽し、又は免除することができると定めています。誤った処分がなされることを未然に防ぐために設けられた規定で、減免するかどうかは裁判所の裁量に委ねられていますが、早い段階で事実を明らかにすることが評価され得る場面といえます。

どの罪で扱われるかによって手続の重さが変わる


法定刑の違いは、そのまま手続の違いにもつながります。

刑事訴訟法199条1項ただし書は、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合か、正当な理由なく出頭の求めに応じない場合に限って、逮捕状による逮捕ができると定めています。軽犯罪法1条16号は拘留又は科料のみを定めた条文ですから、この制限がかかります。出頭の求めに応じている限り、身柄拘束に進みにくい構造になっているということです。

これに対して偽計業務妨害罪や虚偽告訴罪にはこの制限がなく、事案によっては逮捕・勾留が行われることがあります。

公訴時効も異なります。軽犯罪法違反は1年、消防法44条20号違反と偽計業務妨害罪は3年、虚偽告訴罪は7年です。

なお、公務執行妨害罪(刑法95条)は暴行又は脅迫を手段とする罪なので、電話で虚偽の内容を告げただけでは通常この罪には当たりません。

勘違いによる通報の扱い


ここまで見てきた規定は、いずれも内容が事実と異なることの認識を前提としています。

本当に事件や火災が起きていると思って通報し、結果として事実と違っていた場合は、虚構の申告にも偽計にも当たらないのが通常です。思い違いや聞き違い、暗がりで人影を見誤ったといった場面が、これに当たります。

この記事は、緊急時の通報をためらわせる趣旨のものではありません。緊急かどうかの判断に迷う場面では、通報したうえで状況を伝えることが想定されています。他方、緊急性のない相談は警察相談専用電話「#9110」、救急車を呼ぶかどうか迷うときは「#7119」といった窓口が用意されています。

間違えてかけてしまったときは、無言で切らずに、誤ってかけた旨をその場で伝えておくと、後日の確認の手間を減らせます。

通報の発信元はどこまで分かるのか


令和7年版警察白書によれば、令和6年中の110番通報受理件数は約1060万件で、約3.0秒に1回の割合になります。このうち携帯電話等の移動電話からの通報が77.6%を占めました。なお、この件数には無応答・いたずら・かけ間違いなどは計上されていません。

同白書は、携帯電話等から110番通報がされた際に、音声通話と同時に発信者の位置情報が通知される「位置情報通知システム」を、全都道府県警察で運用していると記載しています。

通報内容は録音され、発信番号からの契約者照会も行われます。その場では何も言われなかった通報について、しばらく経ってから連絡が来ることがあるのは、こうした記録が残っているためです。

警察から連絡が来たときに考えられること


出頭を求められた場合は、日程を調整したうえで応じるのが基本的な対応になります。連絡に応じていること自体が、身柄拘束の必要性を検討するうえでの事情になります。

そのうえで、通報した日時・回数・内容を、記憶と発信履歴の両方から整理しておくと、聴取の場で説明が食い違いにくくなります。回数の見込みによって、軽犯罪法の範囲で収まるのか、業務妨害として扱われるのかの見通しも変わってきます。

被害を受けたのが警察や消防といった公的機関である場合、私人間の示談に当たるものは想定しにくく、その分、事実関係を整理して示す作業と、再発を防ぐ体制を具体的に示す作業が中心になります。虚偽告訴罪が問題になり、対象とされた個人がいる事案では、その方への謝罪や賠償が別途の検討課題になります。

一方で、次のような対応は、結果として不利に働きやすいものです。

・発信履歴やメッセージのやり取りを消す
・説明の内容をあらかじめ作り込み、記録と合わせようとする
・同席していた人に口裏合わせを頼む
・出頭の求めに応じないまま時間を置く
・「いたずらの範囲だ」と自分で結論を出し、連絡を放置する

よくあるご質問


Q.一度だけの通報でも罪になりますか。

A.回数は判断材料の一つであって、一度なら問題にならないと決まっているわけではありません。内容が虚構であれば軽犯罪法1条16号の問題は生じ得ますし、その一度の通報で複数の警察官が現場に向かったような場合には、業務妨害として検討されることもあります。

Q.出動には至らなかった場合はどうなりますか。

A.出動がなくても、通報を受けた側が内容の確認や照会に時間を割いていれば、業務への影響という問題は残ります。もっとも、どの程度の対応が現実に生じたかは、量刑や処分を考えるうえでの重要な事情になります。

Q.通報したのが未成年の子どもです。

A.20歳未満の場合は少年事件として扱われ、家庭裁判所で処分が検討されます。刑罰を科すことよりも、なぜその行動に至ったのかという背景の把握が重視される手続です。保護者としては、事実関係の整理と、家庭でどのように見守る体制をとるかを示せるよう準備しておくことが役立ちます。

まとめ


・いたずら通報は、軽犯罪法・消防法・刑法の複数の規定にまたがる問題である
・存在しない犯罪や災害を公務員に告げた場合、軽犯罪法1条16号(拘留又は科料)が問題になる
・火災や傷病者についての虚偽の119番通報には、消防法44条20号の罰則がある
・出動や警戒を現実に生じさせた場合、偽計業務妨害罪(3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が検討される
・裁判例は、軽犯罪法1条31号を刑法の補充規定と位置づけ、違法性の程度が低い場合に限られるとしている
・特定の人に処分を受けさせる目的があった場合は虚偽告訴罪の問題となり、裁判確定前の自白による刑の減免の規定がある
・軽犯罪法の範囲にとどまる場合、逮捕には住居不定または不出頭という要件が加わる
・事実と違うことの認識がない通報は、これらの罪には当たらないのが通常である

通報の内容や回数によって、どの規定で扱われるかは変わります。連絡を受けた段階で見通しを整理しておきたい場合は、弁護士による無料相談をご利用ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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