同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲
刑事の捜査を受けている最中に、同じ出来事について損害賠償を求める訴状が届く。あるいは、刑事の処分を待っている間に、裁判所からの呼出状が郵便で届く。詐欺を疑われている場面では、こうして二つの手続が同時に動き出すことがあります。
このとき最初に浮かぶのが、「刑事が片づいてから民事に取りかかればよいのではないか」「先に民事で支払えば刑事も収まるのではないか」という順番の問題です。ところが二つの手続は別々の仕組みで動いており、片方の都合でもう片方を止めることは、そもそも想定されていません。
この記事では、詐欺を疑われている側の立場から、刑事手続と民事訴訟が並行して進むときに何が起きるのか、どこに判断の分かれ目があるのかを整理します。
この記事が想定している場面
次のような状況を念頭に置いています。
・警察や検察の捜査を受けている最中に、同じ出来事について損害賠償を求める訴状が届いた
・起訴されて公判が始まった後に、相手方から民事訴訟を起こされた
・在宅のまま捜査が続いている間に、裁判所からの呼出状や支払督促が届いた
・示談の話し合いがまとまらないまま、相手方が民事訴訟に踏み切った
・刑事は不起訴で終わったが、民事の請求だけが残っている
刑事と民事は、別々の仕組みで並行して動く
同じ出来事を扱っていても、二つの手続は、進行を決める人も、そこで決まる内容も異なります。
| 手続 | 進行を決めるのは誰か | そこで決まること |
|---|---|---|
| 刑事手続 | 捜査機関と検察官、起訴後は刑事裁判所 | 捜査を続けるか、起訴するか、有罪か、刑をどうするか |
| 民事訴訟 | 訴えを起こした相手方と民事裁判所 | 金銭を支払う義務があるか、あるとしていくらか |
刑事手続では、国の側が処罰を求めるかどうかを判断します。民事訴訟では、相手方が自分の権利として金銭の支払いを求め、その当否が判断されます。当事者の顔ぶれも、判断の対象も違うため、片方の結論がもう片方の結論をそのまま決めることはありません。
二つの手続は、互いの結論を待つようにはできていません。
どちらを先に進めるかを選べる場面は限られている
民事訴訟には、刑事事件が進んでいることを理由に手続を止める仕組みが、原則として用意されていません。訴訟手続の中止が定められているのは、天災その他の事由によって裁判所が職務を行うことができないとき(民事訴訟法130条)や、当事者が不定期間の故障によって訴訟手続を続行することができないときに、裁判所が決定で中止を命じる場合(同法131条1項)などです。
身体を拘束されている間であっても、代理人を選任して訴訟を進めることはできますから、刑事事件が動いていることだけを理由に、民事の手続が当然に止まるわけではありません。実務では、期日の変更(同法93条3項)や進行の打ち合わせによって時期を調整していくことになります。これは手続を止める対応ではなく、二つの時間軸を合わせる対応です。
選ぶ余地があるのは手続そのものの順番ではなく、こちらが何を、いつ、どちらの手続に出すのかという部分です。
民事の期限は、刑事の見通しを待たない
訴状には、第一回の期日の呼出状と、答弁書の提出期限が示されています。この期限は、刑事の処分がいつ出るかとは関係なく進みます。
答弁書を出さないまま第一回の期日にも出頭しないと、相手方が主張した事実を争わなかったものとして扱われることがあります(民事訴訟法159条)。第一回の期日については、答弁書を提出しておけば出頭しなくても陳述したものとみなす取扱いがありますが(同法158条)、これは最初の期日に限られたものです。
刑事の見通しが立つまで動かずにおきたい、という気持ちは自然なものです。ただ、その間も民事の日程は進みます。
刑事の結論を待っている間に民事の期限が過ぎると、争う機会のほうが先に失われます。
両方に響くのは、説明の一貫性
並行して進むことの難しさは、日程よりも、どちらで何をどう説明するかにあります。二つの手続は、記録の面でつながっているからです。
民事で出した書面が刑事に現れることがある
民事訴訟では、答弁書、準備書面、陳述書といった書面を重ねていきます。このうち本人が自分で作成した書面は、刑事の手続で証拠として扱われる余地があります。被告人が作成した供述書は、その内容が本人にとって不利益な事実の承認にあたるときなどに、証拠とすることができるとされています(刑事訴訟法322条1項)。民事の争点を早く整理したいという理由で書いた一文が、刑事の側で読み返されることがあります。
刑事の記録が民事に現れることがある
刑事の記録は、公判が開かれる前は原則として公にされません(刑事訴訟法47条)。もっとも、被害を訴えている側は、第一回の公判期日の後、事件が終わるまでの間に、裁判所に対して公判記録の閲覧や謄写を申し出ることができます(犯罪被害者保護法3条1項)。事件が終わった後についても、訴訟記録の閲覧を認める仕組みがあります(刑事訴訟法53条1項)。不起訴で終わった事件の記録についても、民事訴訟で被害回復のための損害賠償請求権を行使する目的である場合に閲覧を認める運用が示されています。
刑事の取調べで述べたことと、民事の書面に書いたことが食い違えば、その食い違い自体が両方の手続で問われます。
民事の尋問で聞かれたとき
民事訴訟では、争点と証拠の整理が終わった段階で、当事者本人が尋問を受けることがあります。ここには、刑事の取調べや公判とは違う仕組みがあります。
証人については、刑事訴追を受けるおそれのある事項などについて証言を拒むことができるとされています(民事訴訟法196条)。しかし、当事者本人の尋問には、この規定は準用されていません(同法210条)。
そして、当事者本人が正当な理由なく出頭せず、または宣誓や陳述を拒んだときは、裁判所は、その尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができるとされています(同法208条)。刑事訴追を受けるおそれがあることは、この「正当な理由」にあたり得ると説明されていますが、そう判断するかどうかを決めるのは裁判所です。
答えないという選択の意味が、刑事と民事とでは同じではありません。
支払いは、一つの損害に向けられている
刑事の示談金と、民事で請求されている金額は、名目が違っても、同じ出来事から生じた損害を対象にしていることが多いものです。すでに支払った分があれば、その分は民事の請求のなかで考慮されるのが通常です。
ただし、それは支払いの事実と、何に対する支払いなのかが書面に残っている場合の話です。示談書に清算条項があるかどうか、対象がその出来事の全体なのか一部なのかによって、後の民事訴訟での位置づけは変わります。金額の交渉に気を取られて対象の範囲があいまいなまま署名すると、支払った後に、同じ争いが形を変えて戻ってくることがあります。
同じ損害について二重に負担しないためには、金額よりも先に、何に対する支払いなのかを書面で確定させておくことが要になります。
刑事の手続のなかで民事の争いを終える方法
起訴された後であれば、相手方との間で成立した合意の内容を、刑事の裁判所に申し立てて公判調書に記載してもらう制度があります。いわゆる刑事和解です(犯罪被害者保護法19条)。双方が共同して、弁論の終結までに公判期日で申し立てる必要があり、公判調書に記載されると、その記載は裁判上の和解と同一の効力を持ちます。
相手方にとっては、支払いが滞ったときに改めて民事訴訟を起こさなくてよいという意味があり、こちらにとっては、刑事の手続のなかで民事の争いにも区切りをつけられるという意味があります。ただし、共同での申立てが前提ですから、相手方の同意が得られない場合には使えません。すでに民事訴訟が起こされているのであれば、その訴訟のなかで和解する形をとることもできます。どちらの形にするかは、相手方との交渉によって決まります。
なお、刑事の裁判所が被告人に損害賠償を命じる損害賠償命令という制度もありますが、対象となる罪は限られており、詐欺はそこに含まれていません(犯罪被害者保護法23条1項)。
詐欺の事案で二つの手続をひとつにまとめる道は、相手方と合意ができた場合に限られます。
結果は、そのまま連動しない
刑事が不起訴で終わっても、民事の支払義務が当然に消えるわけではありません。刑事は処罰の当否を、民事は賠償義務の有無と金額を判断するもので、判断の対象も、求められる立証の程度も異なるためです。
逆に、民事で和解が成立していることや、支払いが済んでいることは、刑事の処分や量刑を考えるうえで考慮され得る事情です。ただし、それだけで結論が決まるものではなく、いつ、どのような内容で、どこまで解決したのかという中身が見られます。
時間の見え方が違う
刑事の側では、詐欺罪の公訴時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。民事の側では、不法行為として構成される場合には損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年(民法724条)、契約に基づく請求として構成される場合には権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年(民法166条1項)といった期間が問題になります。
起点も期間も違うため、刑事が先に終わり、民事だけが後に残るという形になることも珍しくありません。刑事の処分が出た時点をひと区切りと考えていると、後から届いた書面への対応が遅れることがあります。
手元で整理しておきたいこと
並行して進んでいる場面では、次の点を早めにまとめておくと、判断の材料がそろいます。
・訴状や呼出状を受け取った日と、答弁書の提出期限、第一回の期日
・刑事の事件番号、担当している警察署や検察庁、次の呼出しの予定
・相手方が請求している金額と、その内訳
・これまでに支払った金銭の額、時期、名目、振込の記録
・示談書や合意書があれば、清算条項を含む全文
・相手方やその代理人とのやり取りの記録
避けたい対応
次のような対応は、後の選択肢を狭めることがあります。
・刑事の見通しが立つまで、民事の書面を出さずに様子を見る
・刑事と民事とで、事実関係の説明を使い分ける
・相手方に直接連絡して、その場で支払いを約束する
・内訳や清算の範囲を確かめないまま、請求額の一部を先に支払う
・過去のやり取りの記録を消したり、作り直したりする
まとめ
・刑事と民事は別々の仕組みで並行して動き、互いの結論を待つようにはできていない
・刑事事件が進んでいることを理由に民事訴訟が当然に止まる仕組みはなく、中止は限られた場合に定められている
・答弁書を出さないまま期日を過ごすと、争う機会のほうが先に失われることがある
・民事で出した書面は刑事に、刑事の記録は民事に現れることがあり、説明の一貫性が両方に響く
・当事者本人の尋問には証言を拒む規定が準用されておらず、答えないことが不利に働く場面がある
・支払いは同じ損害に向けられているため、金額よりも先に、何に対する支払いかを書面で残す
・起訴後に合意ができた場合には刑事和解という選択肢があり、詐欺は損害賠償命令の対象ではない
「どちらを先に進めるべきか」という問いは、実際には「どちらの期限が先に来るのか」「どの説明を、どちらに先に残すのか」という問いに置き換えて考えることになります。刑事と民事のどちらか一方だけを見て動くと、もう一方で戻しにくい形が固まってしまうことがあります。二つの手続の書面と期日をひとつの目で見渡したうえで順序を組み立てておくことが、結果として双方の負担を軽くします。


