事件番号・担当検察官はどう確認するのか|家族が問い合わせる方法
職場や学校、取引先や指導の場面で知り合った相手との間に性的な関係があり、後になって「立場を利用された」「断れる状況ではなかった」と言われる。そうしたご相談は少なくありません。
このとき多くの方がまず口にされるのは、「立場を使ったつもりはない」という点です。ただ、刑法の条文には「立場を利用した」という言葉は出てきません。条文は、別の言い方をしています。
この記事では、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪で挙げられている類型のうち、経済的・社会的な関係の上での影響力に関わる部分について、条文がどう書かれているのかを整理します。疑いを向けられている側の視点で書いていますが、事実と違う説明を組み立てるためのものではありません。すでに呼び出しを受けている場合や身柄を拘束されている場合は、取るべき対応が個別の事情によって変わりますので、早めに弁護士にご相談ください。
「立場を利用した」は条文の言葉ではない
刑法176条1項は、同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態の原因となりうる行為や事由を挙げています。その八番目に置かれているのが、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」です。性交等があった場合の177条1項は、この各号をそのまま引用しています。
読んで分かるとおり、ここに「利用した」という言葉はありません。条文が見ているのは、行為者が立場を使ったかどうかではなく、相手の側に不利益への不安があり、それによって同意しない意思を持ったり示したりすることが難しい状態になっていたかどうかです。問いの主語が違う、と言い換えてもよいと思います。
「立場を利用したつもりはない」という説明は、それ自体としては自然なものです。ただ、条文の問いとは少しずれた答えになっていることがあります。何が問われているのかを先に押さえておくと、説明の組み立て方も変わってきます。
この類型は四つの部分でできている
条文の言葉を分けていくと、この類型が四つの部分から成り立っていることが分かります。
| 部分 | 条文の言葉 | 確かめられやすい事実 |
|---|---|---|
| 地位 | 経済的又は社会的関係上の地位 | 雇用や委託の関係、指揮命令の関係、指導や監督の関係、取引の関係、家庭内での役割など |
| 影響力 | その地位に基づく影響力 | その地位から相手の何を左右できたか。評価、配置、シフト、成績、進路、契約の継続など |
| 不利益 | 影響力によって受ける不利益 | 失われうるものが具体的に何か。収入、雇用の継続、評価、成績、取引、住まい、家族関係など |
| 憂慮 | 不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること | 相手がそれを不安に思っていたか。いつ、どのやり取りからそう言えるか |
法務省の説明では、「経済的……関係」は金銭その他の財産に関する関係を広く含み、「社会的関係」は家庭・会社・学校といった社会生活における関係を広く含むとされています。範囲そのものが広く取られていますので、「会社の上司と部下ではないから関係がない」とは言いにくい書き方です。
あわせて確認しておきたいのが「不利益を憂慮」の意味です。法務省の説明では、自分やその親族などに不利益が及ぶことを不安に思うこととされています。ここでいう不利益は、相手本人に及ぶものに限られていません。家族の勤め先や生活に関わる関係だった場合には、この点が問題になることがあります。
いずれにしても、立場があるという事実は、四つのうちの一つ目にすぎません。残りの三つがどう認定されるかで、話は変わってきます。
「憂慮させた」形と「憂慮していた」形
この類型には、二つの書き方が並べられています。
| 形 | 条文の言葉 | 問題になり方 |
|---|---|---|
| 不安を作り出した形 | 不利益を憂慮させること | 言葉や態度によって、相手に不安を生じさせた場合 |
| すでにある不安に関わる形 | それを憂慮していること | もともと相手が抱えていた不安があり、その状態のもとで行為に至った場合 |
この二つは、確かめられる事実がかなり違います。前者では、何を言ったか、どんな伝え方をしたかが中心になります。後者では、言葉があったかどうかよりも、その関係の中で相手がどういう状況に置かれていたかが見られます。
後者の形は、行為者が不利益を口にしていなくても問題になりうる書き方になっています。「不利益をほのめかしたことは一度もない」という説明は、前者を否定するものではありますが、後者については何も答えていないことになります。ここを分けずに話すと、説明がかみ合わないまま進んでしまうことがあります。
上下関係があれば当然に成立するわけではない
もっとも、条文は関係の存在だけで結論を出す作りにはなっていません。法務省の説明でも、挙げられている八つの行為・事由はいずれもその程度を問わないとしたうえで、罪が成立するにはそれらにより相手が困難な状態になっていることが必要だとされています。関係があったことと、その関係が状態を作ったことは、別々に見られます。
上下関係の存在は出発点であって、それだけで結論が決まるものではありません。実際の検討では、たとえば次のような点が問われます。
・その地位から、相手の何を実際に左右できたのか。肩書があっても、評価や処遇に関わらない立場であれば影響力の中身は変わります
・想定されている不利益がどの程度具体的か。「気まずくなる」ということと、収入や在籍が変わることとは、性質が違います
・行為の時点で、その関係がどうなっていたか。退職や卒業、取引の終了によって関係の中身が変わっていることもあります
・関係が終わっていた場合でも、推薦や紹介など、影響が残る事情がなかったか
役職がなくてもこの類型が問題になる場面がある
「社会的関係上の地位」は、組織の役職に限られません。法務省は、18歳の成人と14歳の中学生との間の性的行為について、社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させたような場合には処罰の対象になりうる、という説明をしています。組織図に載るような上下関係を前提にした説明ではありません。
役職があるかどうかだけを見て、この類型に当たるかどうかを判断することはできません。部活動の先輩後輩、習い事の指導、住まいや生活を支えている関係など、社会生活の中でできる関係は幅広く含まれます。
同時に、これは逆方向にも働きます。役職があるという一点で当然にこの類型になるわけではないのと同じように、役職がないという一点で当てはまらないと言えるわけでもありません。見られているのは、肩書ではなく関係の中身です。
立場の話がこの類型だけで扱われるとは限らない
立場が関わる場面でも、検討されるのがこの類型に限られるとは限りません。
たとえば、断った場合の処遇について具体的な言い方をしていれば、暴行・脅迫の類型の側でも読まれることがあります。急に距離を詰められて考える時間がなかったという経過であればいとまがないという類型が、予想外の展開に固まってしまったという経過であれば恐怖や驚愕の類型が、それぞれ同時に問題になることもあります。
一つの出来事が、複数の類型にまたがって読まれることがあります。「立場の話ではない」と言えたとしても、それで全部が終わるわけではない、という前提で臨んでおいたほうが安全です。
相手が18歳未満の場合は別の入口がある
相手が18歳未満で、その人を現に監護している立場にあった場合には、刑法179条という別の規定があります。この規定は、監護している者であることによる影響力があることに乗じて行為に及んだことを要件としており、困難な状態になっていたことを別に必要とする作りにはなっていません。
同じ「影響力」という言葉が出てきても、条文の組み立てが違うということです。監護者に当たるかどうかの判断や、16歳未満の相手に関する規定については、それぞれ別に説明が必要になりますので、ここでは立ち入りません。相手の年齢が18歳未満であった可能性がある場合は、早い段階でそのことを弁護士に伝えてください。
「その後も関係が続いていた」ことをどう見るか
条文が見ているのは、行為の時点で相手がどういう状態にあったかです。
行為の後も連絡が続いていたことや、職場での関係が変わらなかったことは、それだけで当時に困難な状態がなかったことを示すものではありません。関係が続く事情は、ほかにもあり得るからです。反対に、その後の経過が当時の判断材料に一切ならないというわけでもありません。当時のやり取りの内容とあわせて、事情の一つとして見られることがあります。
どちらか一方に寄せて説明したくなる場面ですが、記録が残っている以上、後から食い違いが出るほうが不利に働きます。
「立場は関係ない」と述べるとき、何を否定しているのか
取調べや面談で「立場は関係ない」「利用していない」と述べること自体は自然です。ただ、その一言が四つの部分のどれについてのものなのかは、自分の中で分けておいたほうがよいと思います。
・地位そのものがなかったという趣旨なのか
・地位はあったが、相手の処遇や評価を左右できる立場ではなかったという趣旨なのか
・不利益に触れる発言をしたことがない、という趣旨なのか
・相手が不安を抱えている様子はうかがえなかった、という趣旨なのか
この四つは、確かめられる事実がそれぞれ違います。一つの言葉でまとめて答えると、後から「どれについての説明だったのか」があらためて問題になることがあります。
なお、記憶があいまいな部分を推測で埋めないでください。あとで別の記録と食い違ったときに、話全体の信用に影響します。分からないことは分からないまま伝えるほうが、結果として説明は通りやすくなります。
「同意があると思っていた」は別の問い
相手がどういう状態にあったかという話と、そのことを自分がどう認識していたかという話は、条文の中で別の位置にあります。後者はいわゆる故意の問題で、検討の順番も、見られる事実も異なります。ここでは扱いませんが、両方が同時に問題になる事件は珍しくありません。相談の際は、どちらについての話をしているのかを意識して整理しておくと、行き違いが減ります。
相談の前に整理しておくと役に立つこと
・相手と知り合った時期と、そのときの互いの立場
・自分がその立場で実際に決められたことと、決められなかったこと(評価、人事、シフト、成績、契約の継続など)
・行為に至るまでの経緯を、日付の分かる範囲で時系列に
・当日までのやり取りの記録。消したり書き足したりしないこと
・行為の後のやり取りと、関係がその後どうなったか
・相手が知っている自分の情報(勤務先、家族構成、連絡先など)
特に二つ目は見落とされやすい項目です。「上司だった」「指導する立場だった」という一言だけでは、影響力の中身までは決まりません。
弁護士に確認できること
・書面や説明から、どの類型を前提に見られているのかを読み取れるか
・自分の言い分が、四つの部分のどれについてのものとして整理されるか
・職場や学校の調査、懲戒の手続と、刑事の手続との関係をどう扱うか
・相手方や共通の関係者への連絡について、今の段階でどうしておくべきか
・手元の記録のうち、何をどのような形で残しておくべきか
立場が逆の場合
この記事は疑いを向けられている側を主に想定して書いていますが、立場のある相手との間で被害に遭ったという方もいらっしゃいます。その場合は、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通番号#8891)などの窓口があります。職場や学校の中の関係であるほど、相談先を組織の外に持っておくことに意味があります。
まとめ
・条文に「立場を利用した」という言葉はなく、見られているのは、相手の側に不利益への不安があり、それによって困難な状態になっていたかどうかです
・この類型は、地位・影響力・不利益・憂慮という四つの部分でできています。立場があることは一つ目にすぎません
・「憂慮させた」形と「憂慮していた」形があり、後者は不利益を口にしていなくても問題になりうる書き方です
・「不利益」は本人に及ぶものに限られず、家族などに及ぶ不安も含むとされています
・上下関係があることは出発点であって、それだけで結論が決まるわけではありません
・役職の有無だけで当てはまるとも当てはまらないとも言えず、見られているのは関係の中身です
・一つの出来事が複数の類型にまたがって読まれることがあり、相手が18歳未満なら別の規定もあります
立場のある関係の中で起きたことは、当事者にとって説明しづらい部分が多く残ります。ただ、条文が何を問題にしているのかが分かれば、どこを丁寧に話すべきかも見えてきます。早い段階で事実関係を整理し、弁護士とともに説明の筋道を立てておくことをおすすめします。


