偽造と変造はどう違うのか|文書に関する罪の全体像

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「偽造」と「変造」は、どちらも文書に関する罪でよく出てくる言葉です。ニュースや警察からの説明で耳にしたとき、「変造のほうが軽いのだろうか」「自分の行為はどちらにあたるのか」と気になる方は少なくありません。実際には、この二つは行為の出発点が違うだけで、法定刑そのものは同じに定められています。ここでは、偽造と変造の分かれ目、混同されやすいもう一つの区別、そして文書に関する罪の全体像を、順を追って整理します。

偽造と変造は「どこから作ったか」が違う


刑法でいう「偽造」とは、作成する権限のない人が、他人の名義を使って文書を作り出すことをいいます。判例は、その本質を、文書の名義人と実際に作成した人との人格の同一性を偽る点にあると説明しています。ゼロから作る場合だけでなく、他人の名前を勝手に書いて書類を完成させる場合も含まれます。

これに対して「変造」は、すでに真正に成立している他人名義の文書に、権限のない人が変更を加えることをいいます。もっとも、どんな変更でも変造になるわけではなく、文書の本質的な部分にまで及ばない変更にとどまる場合が変造とされます。

つまり、何もないところから作り出したのが偽造、もともとある文書に手を加えたのが変造、というのが出発点の整理です。ただし、この整理だけでは足りない場面があります。

手を加えた場合でも「偽造」とされることがある


既存の文書に手を加えたとしても、その変更によって、元の文書とは別の証明力を持つ新しい文書ができあがったと評価されるときは、変造ではなく偽造として扱われます。

代表的なのが、自動車運転免許証に貼られた写真をはがして別人の写真に貼り替え、あわせて生年月日欄の数字を書き換えたという事案です。最高裁は、写真と生年月日の記載は免許証の内容として重要な事項にあたるとしたうえで、これらを改めて全く別個の新たな免許証としたときは公文書偽造罪が成立すると判断しました(最高裁決定 昭和35年1月12日)。

一方で、日付や付随的な記載の一部を書き換えたにとどまる場合には、変造と評価された裁判例もあります。判断の分かれ目は、書き換えた分量ではなく、その記載が「その文書が何を証明するための書面か」という中心部分にあたるかどうかです。名前や写真のように、誰についての文書かを決める記載に手が加われば、別の文書を作り出したのと同じだと見られやすくなります。

変造だから軽い、とは限らない


ここが誤解されやすい点です。刑法は、偽造と変造を同じ条文のなかに並べて規定し、法定刑も同じに定めています。

区分偽造の法定刑変造の法定刑
有印公文書1年以上10年以下の拘禁刑(155条1項)1年以上10年以下の拘禁刑(155条2項)
無印公文書3年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金(155条3項)同左(155条3項)
有印私文書3月以上5年以下の拘禁刑(159条1項)3月以上5年以下の拘禁刑(159条2項)
無印私文書1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金(159条3項)同左(159条3項)


法定刑に差を生んでいるのは、偽造か変造かではなく、次の二つです。

・公文書か私文書か(役所や公務員が作成すべき文書か、それ以外か)
・有印か無印か(名義人の印章や署名があるか)

たとえば運転免許証や住民票、印鑑登録証明書は公文書、契約書や領収書、履歴書は私文書です。同じ「書き換え」でも、対象が公文書であれば、より重い枠組みで検討されることになります。

もう一つの区別「有形偽造」と「無形偽造」


偽造・変造と並んで混同されやすいのが、有形偽造と無形偽造という区別です。これは「偽造か変造か」とは別の軸で、名義を偽ったのか、内容にうそがあるのかを分けるものです。

・有形偽造……権限のない人が、他人の名義で文書を作ること(狭い意味での偽造)
・無形偽造……作成する権限のある人が、自分の名義で内容の異なる文書を作ること

刑法は、私文書については原則として有形偽造と変造だけを処罰しています。自分の名義で事実と違う内容を書いたというだけでは、私文書偽造罪の枠には入らないのが原則です。例外として、医師が公務所に提出すべき診断書などに虚偽の記載をした場合の虚偽診断書等作成罪(160条)が置かれています。

これに対し公文書については、内容のうそも処罰の対象とされています。公務員が職務上作成する文書に虚偽の記載をした場合の虚偽公文書作成等罪(156条)、公務員に虚偽の申立てをして登記簿などの原本に事実と異なる記載をさせた場合の公正証書原本不実記載等罪(157条1項)がこれにあたります。

文書に関する罪の全体像


刑法第二編第十七章は「文書偽造の罪」としてまとめられています。全体を一覧にすると、次のような構成です。

条文罪名主な内容
154条詔書偽造等御璽・国璽等を使用した文書の偽造
155条公文書偽造等公文書の偽造・変造
156条虚偽公文書作成等公務員が内容虚偽の公文書を作成
157条公正証書原本不実記載等虚偽の申立てによる原本への不実記載
158条偽造公文書行使等154条から157条の文書の行使(未遂も処罰)
159条私文書偽造等私文書の偽造・変造
160条虚偽診断書等作成医師による診断書等への虚偽記載
161条偽造私文書等行使159条・160条の文書の行使(未遂も処罰)
161条の2電磁的記録不正作出及び供用電磁的記録の不正な作出とその使用


このほか、印章そのものを対象とする公印偽造(165条)や私印偽造(167条)、有価証券を対象とする有価証券偽造等(162条)、クレジットカード等を対象とする支払用カード電磁的記録不正作出等(163条の2)が、隣接する規定として置かれています。実務では、文書に関する罪だけが問題になることは多くなく、詐欺罪など他の罪と一緒に検討されることがしばしばあります。

コピーに手を加えた場合


原本ではなくコピーを対象にした場合はどうなるのか、という疑問もよく出てきます。判例は、機械的に複写されたコピーも原本と同様の社会的機能と信用性を持つとして、文書としての性質を認めています。

そのうえで最高裁は、記名押印のある売買契約書の金額欄などに改ざんを加えたうえで複写機で複写し、あたかも真正な契約書をそのまま複写したかのような外観のコピーを作成した行為について、その改ざんが原本自体にされたのであれば変造の範囲にとどまると見られる程度であっても、有印公文書偽造罪にあたると判断しました(最高裁決定 昭和61年6月27日)。手を加えた原本をコピーする行為は、元の文書を変更したというより、新たな文書を作り出したものと評価されるためです。

電子データの改ざんはどう扱われるか


紙ではなく電子データの場合、従来は電磁的記録不正作出及び供用罪(161条の2)で対応するのが基本でした。人の事務処理を誤らせる目的で、権利・義務や事実証明に関する電磁的記録を不正に作り出す行為が対象で、法定刑は5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、公務所または公務員が作るべき記録の場合は10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。

その後、令和7年法律第39号(情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律)により、文書または図画として表示されて行使されることになる電磁的記録が「電磁的記録文書等」として位置づけられ、その偽造・変造も文書偽造の罪の対象であることが条文上明記されました。刑法部分は令和7年6月から施行されています。PDFや電子契約の書類に手が加えられた場合、どの条文で検討されるかは、その記録の性質や使われ方によって変わってきます。

作っただけでも罪になるのか


偽造罪・変造罪は、いずれも「行使の目的」があることを前提としています。行使の目的とは、その文書を本物として使う意図のことで、作成の時点でこの目的があれば、実際に相手に示していなくても罪自体は成立し得ます。

そして、偽造・変造された文書を本物として使えば、別に行使罪が成立します。偽造私文書等行使罪(161条)は偽造・変造した人と同じ刑と定められており、未遂も処罰の対象です。公文書についても同様の規定(158条)が置かれています。

罪名の違いが実務で持つ意味


法定刑が同じであれば、偽造か変造かを気にする意味はないようにも思えます。しかし、実際の手続では次のような場面で違いが出てきます。

・評価される事実の幅が変わる……「新しい文書を作り出した」と評価されるか、「一部を書き換えた」と評価されるかで、行為の位置づけが変わり、量刑の検討にも影響します。
・公訴時効の起算に関わる区分が変わる……有印公文書は7年、有印私文書は5年、無印の場合は3年が目安です。
・被害の回復の形が変わる……書類を提出した先や名義を使われた方など、誰に対してどのような対応が必要かが変わります。

捜査機関の見立てが常に固まっているとは限らず、書き換えた箇所の意味や作成時の権限の有無について、説明の余地が残っている場合もあります。

疑いをかけられたときに整理しておきたいこと


心当たりのある方や、事情を聴かれている方は、次の点を時系列で整理しておくと、その後の対応を検討しやすくなります。

・対象となった書類は何か(誰の名義で、何を証明する書面か)
・自分にその書類を作成・変更する権限があったか、名義人の了解はあったか
・具体的にどの欄に、どのような変更を加えたか
・その書類を誰かに提出したか、提出前の段階か
・書類の提出先や名義人に、どのような不利益が生じているか

これらは、偽造にあたるのか変造にとどまるのか、そもそも罪に問われる行為なのかを検討するうえで、いずれも出発点になる情報です。

弁護士法人若井綜合法律事務所では、文書に関する罪をめぐるご相談についても、事実関係の整理から捜査対応、関係先との示談交渉まで対応しています。書類のどこにどう手を加えたのかによって評価が変わる分野ですので、ご自身の判断だけで説明の方針を決めてしまう前に、早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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