他人のポイント・電子マネーを使った|電子計算機使用詐欺

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

 家族のスマートフォンに入っていた決済アプリで支払いを済ませた、落ちていた交通系ICカードでそのまま買い物をした、以前に教えてもらったIDでログインして貯まっていたポイントを使った。キャッシュレス決済が日常になったことで、こうした行為が刑事事件として扱われる場面が出てきています。

 このとき、報道や検索でよく目にするのが「電子計算機使用詐欺」という罪名です。ただ、他人のポイントや電子マネーを使った場面のすべてがこの罪になるわけではありません。同じ「他人の残高で支払った」という出来事でも、どのように使ったかによって、詐欺罪、窃盗罪、電子計算機使用詐欺罪のいずれが問題になるかが変わってきます。

 この記事では、罪名がどこで分かれるのか、使った行為以外にどのような問題が重なるのか、家族のものだった場合はどう考えられるのかを、順を追って整理します。

この記事で扱う場面


 ここでは、次のような場面を念頭に置いています。

・他人名義のICカードやプリペイドカードで支払いをした
・他人のスマートフォンや決済アプリを使って会計を済ませた
・他人のIDとパスワードでログインし、貯まっていたポイントを使った
・他人のアカウントでポイントを商品や別のサービスに交換した
・他人のクレジットカードの情報を使って電子マネーをチャージした

 いずれも、現金を直接手にしていないという点が共通しています。そのため「物を盗ったわけではない」と受け止められがちですが、刑法は、財物を得た場合だけでなく、支払いを免れるといった利益を得た場合も対象にしています。

罪名を分けているのは二つの物差し


 どの罪が問題になるかは、大きく二つの物差しで整理されています。

 一つ目は、直接向き合った相手が人か機械かという点です。詐欺罪は人をだますことを内容とする罪ですので、無人の機械を相手にした場合には、詐欺罪の枠組みでは捉えられません。

 二つ目は、得たものが商品などの財物か、支払いを免れたという利益かという点です。窃盗罪は財物を対象とする罪であり、利益だけを得た場合は対象になりません。この二つの物差しからこぼれ落ちる部分を受け止めているのが、電子計算機使用詐欺罪です。

使い方の場面直接向き合った相手得たもの問題になりやすい罪
店員にカードやアプリの画面を示して商品を受け取った人(店員)商品という財物詐欺罪
無人のセルフレジや自動販売機で商品を受け取った機械商品という財物窃盗罪
自動改札などを通り、運賃の支払いを免れた機械支払いを免れたという利益電子計算機使用詐欺罪
オンラインでチャージ、購入、ポイント交換をした機械残高や利用権という利益電子計算機使用詐欺罪


 もっとも、実際の事件では複数の行為が組み合わさっていることが多く、捜査機関がどの罪名で立件するかには幅があります。上の表は、考え方の見取り図として捉えてください。

電子計算機使用詐欺が問題になるのはどの部分か


 電子計算機使用詐欺罪は、刑法246条の2に定められています。他人の事務処理に使われるコンピューターに虚偽の情報や不正な指令を与えて、財産権の得喪や変更に関する事実と異なる記録を作り出し、あるいはあらかじめ用意した虚偽の記録を使わせることによって、財産上の利益を得た場合に成立するとされています。法定刑は10年以下の拘禁刑で、未遂も処罰の対象とされています。

 電子マネーの残高やプリペイドカードの残度数は、その記録が動くことで財産の帰属が変わる性質のものですので、ここでいう記録に当たると解されています。他方、キャッシュカードの磁気の記録は、口座番号などの事実を示すものにとどまるため、これには当たらないと整理されています。他人のキャッシュカードでATMから現金を引き出した場合が窃盗罪として扱われるのは、この違いによるものです。

入力した情報自体が正しくても問題になることがある


 ここでいう「虚偽の情報」は、そのシステムが予定している事務処理の目的に照らして内容が真実に反する情報を指す、というのが裁判例の考え方です(東京高裁平成5年6月29日判決)。

 この点が表れているのが、他人のクレジットカードの番号や有効期限を決済画面に入力し、電子マネーを購入した事案に関する最高裁の判断です。入力された番号や有効期限そのものは実在する正しい情報でしたが、名義人本人が購入を申し込んだという意味を持つ情報が事実に反するとして、電子計算機使用詐欺罪の成立が認められました(最高裁平成18年2月14日決定)。

 つまり、打ち込んだ数字が正しいかどうかではなく、そのシステムが前提としている「本人による利用」という部分が事実と違っているかどうかが見られている、ということになります。

店員に示して商品を受け取った場合


 店頭で他人名義のカードや決済アプリの画面を示し、店員から商品を受け取った場合には、加盟店に対する詐欺罪が問題になります。カードやアカウントを使っているのが本人かどうかは、店側が商品を渡すかどうかを判断する前提になっている、と考えられているためです。

 実際にも、他人のIDとパスワードで家電量販店のアプリにログインし、店舗でその画面を示して他人のポイントを使い商品を購入したとして、不正アクセス禁止法違反と詐欺の疑いで摘発された例が報じられています。ポイントであっても、それによって代金の支払いに充てられている以上、財産上の価値があるものとして扱われています。

無人の機械から商品を受け取った場合


 一方、セルフレジや自動販売機のように、人が介在しない形で商品を受け取った場合は、だまされる相手がいません。この場合は、機械を通じて商品という財物の占有を移したものとして、窃盗罪の枠組みで検討されることになります。

 同じ店舗で、同じ残高を使い、同じ商品を手にしていても、有人のレジを通ったかセルフレジを通ったかで検討される罪名が変わり得るのは、こうした整理によるものです。

ポイントと電子マネーは同じように扱われるのか


 法律上の位置づけは、両者で異なります。対価を支払ってチャージする電子マネーやプリペイドカードは、資金決済に関する法律にいう前払式支払手段に当たり、発行者は同法の規制を受けます。これに対し、買い物のおまけとして無償で付与されるポイントは、対価を得て発行されるという要件を満たさないため、前払式支払手段には当たらないとされています。

 もっとも、これは発行する事業者に対する規制の話です。刑事の場面では、代金の支払いに充てられる以上、ポイントも電子マネーも財産上の価値があるものとして扱われ得ます。「ポイントはお金ではないから問題にならない」という理解は、事実と異なる場合があります。

「使った」以外の行為も別に評価される


 ひとつの出来事の中に、複数の行為が含まれていることも少なくありません。

・カードやスマートフォンそのものを持ち去った場合は、その取得について窃盗罪や占有離脱物横領罪が問題になります
・他人のIDとパスワードを入力してログインした場合は、不正アクセス禁止法違反が問題になります
・その後に残高やポイントを使った行為は、上で見た枠組みで別に検討されます

 これらが重なった場合、手段と結果の関係にあるものは一つの刑で処断され、そうでないものはそれぞれ別個に扱われます。取調べで一つの行為だけを説明したつもりでも、ほかの行為について質問が及ぶことがあるのは、こうした構造によるものです。

家族や同居人のものだった場合


 「家族のものだから問題にならない」と考えられることがありますが、いくつか分けて考える必要があります。

 まず、多くの決済サービスの規約は、登録した本人だけが利用できると定めています。家族間でのアカウントの共有は、この規約に反する行為ではあっても、そのことが直ちに犯罪になるわけではありません。規約違反と犯罪の成否は、別の問題として検討されます。

 次に、刑法には、配偶者や直系血族、同居の親族との間で財産犯が行われた場合に刑を免除し、その他の親族との間では告訴がなければ起訴できないとする定めがあり、電子計算機使用詐欺罪にも準用されています。ただ、これが働くのは、被害を受けた人との間に親族関係がある場合です。発行会社や加盟店が被害者と評価される場面では、家族間の出来事であってもこの定めは働きません。家族のポイントを使ったという事案が刑事手続に乗ることがあるのは、この点によるものです。

「許可をもらっていた」はどこまで通るか


 名義人から使ってよいと言われていた、という事情は、実際の事件でしばしば主張されます。ここで確認されるのは、次のような点です。

・いつの時点の承諾か。以前に一度使ってよいと言われたことは、今回の利用についての承諾とは限りません
・どこまでの範囲の承諾か。金額や用途を限った承諾であれば、その範囲を超えた部分は別に評価されます
・誰に対する関係での承諾か。名義人が了解していても、本人だけが利用できるという前提で取引をした店舗や発行会社との関係は、これとは別に検討されます

 もっとも、承諾があったという事情がまったく意味を持たないわけではありません。行為の悪質性や、名義人との関係の修復といった点は、処分を検討するうえで考慮され得る事情です。事実関係を正確に整理しておくことに意味があります。

心当たりがあるときに先にやらない方がよいこと


 連絡が来ていない段階でも、次のような行動は、後から不利に働くことがあります。

1 利用履歴やアプリ、端末のデータを消すこと
2 名義人や店舗に直接連絡を取り、その場で解決しようとすること
3 同じアカウントに再びログインすること
4 事実と違う説明を、家族や勤務先にしてしまうこと
5 金額を確かめないまま、求められた額をそのまま支払うこと

 キャッシュレス決済は、いつ、どこで、どの端末から使われたかという記録が残る仕組みです。事実の確認は記録に沿って行われますので、記憶だけで説明を組み立てるよりも、手元の情報を整理したうえで対応を検討する方が結果的に負担が少なく済みます。

弁償や示談は誰に対して行うのか


 この類型では、損失を受けた立場が一つとは限りません。誰に対して何を行うのかを整理しないまま動くと、支払ったのに解決にならなかった、ということが起こり得ます。

立場生じ得る損失検討される対応
名義人(残高やポイントの持ち主)残高やポイントが減ったこと減少分の回復と謝罪
発行会社や決済事業者補償を行った場合の負担窓口を通じた精算
店舗や加盟店代金を回収できなかった場合の損失代金相当額の支払い


 どの立場が被害を受けたものとして扱われるかは、補償がすでに行われたかどうかなど、事案の経過によって変わります。連絡先の確認や、話し合いの窓口の設定を含め、弁護士を通じて進める方法もあります。

まとめ


・他人のポイントや電子マネーを使った場合、罪名は「相手が人か機械か」「得たものが財物か利益か」で分かれます
・店員に示して商品を受け取れば詐欺罪、無人の機械であれば窃盗罪、支払いを免れたのであれば電子計算機使用詐欺罪が問題になりやすい整理です
・電子計算機使用詐欺罪では、入力した情報自体が正しくても、本人による利用という前提が事実と異なる点が問題とされることがあります
・ポイントは資金決済に関する法律上の前払式支払手段に当たらない場合がありますが、刑事の場面では財産上の価値があるものとして扱われ得ます
・カードや端末の持ち去り、ログインした行為は、使った行為とは別に検討されます
・家族間であっても、発行会社や店舗が被害者と評価される場面では、親族間の特則は働きません
・記録が残る仕組みであるため、履歴の削除や直接の接触は、後の説明を難しくすることがあります

 電子マネーやポイントの不正利用は、金額の大小にかかわらず、記録から経緯をたどりやすい類型です。その一方で、どの罪に当たるのか、被害をどう回復するのかは、使い方や関係者の立場によって変わります。身に覚えのある方や、家族が連絡を受けたという方は、自己判断で動く前に、事実関係の整理と今後の見通しについて弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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