毛髪鑑定は何がわかるのか|過去の使用と立証の限界

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

薬物事件の捜査では、尿検査だけでなく、髪の毛の提出を求められることがあります。「尿は陰性だったのに、なぜ髪まで採るのか」「何か月も前のことまで分かってしまうのか」と不安に感じる方は少なくありません。

 毛髪鑑定は、尿では届かない時期をさかのぼって調べられる一方で、そこから読み取れることには限りがあります。この記事では、毛髪鑑定で何がわかり、何がわからないのか、そして刑事手続の中でどのように位置づけられるのかを整理します。

毛髪鑑定はどのような検査か

 摂取された薬物の成分は血液に入り、その一部が毛根の部分から毛髪に取り込まれます。毛髪は伸びていくため、取り込まれた成分は成長とともに毛先の側へ移動していきます。つまり毛髪には、体内に薬物があった時期の記録が、根元から毛先に向かって順に残るという性質があります。

 尿や血液の中の成分は比較的短い期間で体外に排出されますが、毛髪に取り込まれた成分は長く残ります。時間が経ってから捜査が始まった場合でも当時の状態を調べられることがある、というのが毛髪鑑定が用いられる理由です。

尿・血液との役割の違い


調べる資料さかのぼれる時期の目安主に問題になる点
尿使用から比較的短い期間時間が経つと検出されなくなる
血液尿よりさらに短い期間採取に伴う身体への負担が大きい
毛髪数か月前まで及ぶ場合がある直前の使用が反映されにくく、解釈に幅が残る


 厚生労働省の地方厚生局麻薬取締部も、押収された薬物の鑑定に加えて、薬物の使用歴を知るための毛髪分析を行っていることを公表しています。捜査機関にとって、毛髪の分析はすでに特別な手法ではなくなっています。

毛髪鑑定でわかること


過去にさかのぼった使用の有無

 最も基本になるのは、その毛髪に規制薬物の成分やその代謝物が含まれているかどうかです。尿の検査が採尿の時点から見て比較的近い時期を対象とするのに対し、毛髪では数か月前の時期まで対象になり得ます。尿が陰性であった場合に髪の毛の提出を求められることがあるのは、この差を埋めるためです。

おおよその時期

 毛髪は1か月あたり約1センチ伸びるとされており、根元からの距離が時間の目盛りに近い役割を果たします。そこで、毛髪を根元側から区切って分けて分析し、成分がどのあたりに分布しているかを調べることで、摂取の時期をある程度推定することが試みられます。採取の際に、後頭部などから頭皮のすぐ近くで切り取り、どちらが根元でどちらが毛先かを明確にした状態で保管することが求められるのは、このためです。

繰り返し使っていたかどうかの手がかり

 成分の分布が広い範囲に及んでいれば、その期間に繰り返し摂取があったことをうかがわせる材料になります。一度だけだったのか、続いていたのかという評価は、処分の見通しや再発防止の必要性を考えるうえで意味を持ちます。ただし、後で述べるとおり、回数や量を数字で言い当てられるわけではありません。

毛髪鑑定ではわからないこと


直前の使用

 意外に思われるかもしれませんが、ごく最近の摂取は毛髪には反映されにくいという限界があります。毛根の部分に取り込まれた成分が頭皮の外に出てくるまでには一定の時間がかかり、その間は毛髪を切って調べても現れません。「昨日使ったかどうか」を毛髪で確かめることは、そもそも想定されていないのです。尿と毛髪では対象になる時期がずれており、両者は入れ替えのきくものではありません。

使用した日

 毛髪から読み取れるのは「およそこのあたりの時期」という幅であって、特定の日付ではありません。毛髪が伸びる速さには個人差がありますし、区切って分析するといっても、切り分けの一区画が数週間から1か月分に相当します。覚醒剤の使用罪などでは起訴状に記載される日時に幅が生じることがありますが、毛髪鑑定はその幅を狭める方向に働きにくい資料です。

摂取した量や回数

 毛髪に取り込まれる量は、髪質などの条件にも左右されるとされています。検出された濃度が高いことが直ちに大量の摂取を意味するわけではなく、濃度から使用量を逆算することはできないと考えておくのが安全です。

どのような経緯で体内に入ったのか

 成分が検出されたとしても、それが自分の意思による摂取だったのか、知らないうちに摂取させられたものだったのかまでは、毛髪の分析からは出てきません。経緯の評価は、供述や周辺の事情を含めた別の判断になります。

結果の読み方に慎重さが求められる理由

 毛髪鑑定には、技術上および解釈上の課題が残っていることが専門家からも指摘されています。日本毒性学会の学術年会で報告された内容では、毛髪への薬物の取り込みの詳しい仕組みはまだ解明されておらず、外部から付着した可能性も考慮する必要があるため、分析結果の解釈には注意を要するとされています。

外部からの付着

 薬物を扱った手で髪に触れる、粉末や煙が付着するといった経路でも、成分が毛髪の表面に付く可能性があります。鑑定では洗浄などの前処理によってこれを取り除く工夫がなされますが、体内を通って取り込まれたものと外から付いたものを常に完全に区別できる方法が確立しているとまでは言えません。

髪の状態による差

 染色や脱色、パーマなどの処理を受けた毛髪では、含まれる成分が影響を受けると指摘されています。また海外では、髪の色によって結果に差が出るのではないかという主張が訴訟の形で争われた例もあります。日本の実務で直ちに同じ評価がされるわけではありませんが、毛髪鑑定が万能の検査ではないことを示す事情ではあります。

資料の量と長さ

 毛髪に含まれる成分はごく微量であるため、分析には一定の本数が必要になります。毛髪が短い場合には、対象にできる期間もその長さの範囲にとどまります。もっとも、毛髪から結論が得られないことは、捜査が終わることを意味しません。押収された物、通信や移動の記録、供述など、他の資料に重心が移るだけです。

毛髪はどのように採取されるのか

 捜査機関から求められるのは、まず任意の提出です。応じた場合、提出された毛髪は領置され、鑑定機関への嘱託を経て分析されます。

令状が必要になる場合

 刑事訴訟法は、身体を拘束されている被疑者について、指紋や足型の採取、身長・体重の測定、写真撮影を令状によらずに行えるとしていますが、毛髪の採取はここに挙げられていません。本人が応じない場合に強制的に採取するには裁判官の令状が必要と考えられており、身体検査令状と鑑定処分許可状を用いる整理が説明されています。

断ることはできるが、それで終わるわけではない

 任意の段階であれば、提出を断ること自体は可能です。ただし、断ったことが疑いを弱める方向に働くとは限らず、令状の請求や別の捜査につながることもあります。応じるかどうかは、その時点で何がどこまで判明しているかによって判断が変わります。その場で結論を出す前に、弁護士に確認していただくのが安全です。

立証の中で毛髪鑑定が置かれる位置

 薬物の使用が問題になる事件では、これまで尿の鑑定書が中心的な資料として扱われてきました。毛髪鑑定は、尿が採取できなかった場合や、尿では対象にならない時期が問題になる場合に用いられる、補う立場の資料と説明されることが多いものです。

 もっとも、分析技術の向上に伴い、公判で証拠として用いられる場面は広がってきているとも指摘されています。毛髪鑑定だからといって軽く扱われる、という前提で構えることは適切ではありません。

陰性だった場合の意味

 毛髪から成分が検出されなかったとしても、それはその毛髪の、対象となった範囲からは検出されなかったということを意味するにとどまります。直前の使用が反映されにくいという性質もあるため、陰性の結果が使用のなかったことを証明するものではありません。裏を返せば、陽性の結果に対しても、時期や経緯について検討する余地は残ります。

量刑の場面での使われ方

 起訴された事実そのものの立証だけでなく、継続的に使用していたかどうかという評価を通じて、量刑の判断に影響することがあります。この点は、再発を防ぐためにどのような環境を整えるかという主張とも関わってきます。

薬物を摂取させられた側の立証に使われることもある

 毛髪鑑定は、疑いをかけられた側だけの問題ではありません。飲食物に睡眠薬などを入れられた疑いがある事案では、被害を受けた側の毛髪が重要な資料になります。尿や血液からは短い期間で検出されなくなるため、時間が経ってから相談した場合には、毛髪が残された手がかりになることがあります。

 当時の記憶がはっきりしない、何が起きたのか自分でも説明できないという状況でも、体内の状態を後から確かめられる可能性があるということです。心当たりがある場合は、できるだけ早い段階でご相談ください。

毛髪の提出を求められたときに整理しておきたいこと

 次のような点は後から思い出すことが難しく、早い段階で記録しておくと弁護活動に役立ちます。

・服用している処方薬や市販薬の名称と、いつから飲んでいるか
・染色、脱色、パーマなどの施術を受けた時期
・毛髪を採取された部位と、おおよその量
・根元側と毛先側が区別された状態で採取されたかどうか
・どの罪について、いつの時点の事実を前提として聞かれているか

 特に服用している薬については、成分によっては分析結果の説明が必要になる場合があります。心当たりがあれば、早めに伝えておくほうが後の手続を進めやすくなります。

弁護士に相談する意味

 毛髪鑑定は、専門的な分析を前提とする資料です。結果が出てから内容を検討するだけでなく、採取の段階でどのような前提が置かれているのかを確認しておくことが、後の主張の幅につながります。また、鑑定の結果をどう受け止めるかによって、争う方針を採るのか、事実を認めたうえで環境の調整に力を入れるのかという方針も変わってきます。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、初回の法律相談を無料でお受けしています。ご連絡は24時間受け付けており、逮捕されている場合の即日接見、出頭や自首への同行は全国に対応しています(遠方の場合は移動費用を別途申し受けます)。深夜早朝についても、状況に応じて対応いたします。

まとめ


・毛髪には、体内に薬物があった時期の記録が、根元から毛先に向かって順に残ります。
・尿では届かない数か月前の時期まで、調べる対象になり得ます。
・毛髪を区切って分析することで、摂取のおおよその時期を推定することが試みられます。
・一方で直前の使用は反映されにくく、毛髪は尿の代わりになるものではありません。
・読み取れるのは時期の幅であって、使用した日や量、回数を特定できるものではありません。
・外部からの付着や髪の状態による影響があり、結果の解釈には慎重さが求められます。
・任意の提出を断ることはできますが、それで捜査が終わるわけではありません。
・薬物を摂取させられた側にとっても、時間が経ってから使える資料になり得ます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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