児童買春の『対償』とは何か|金銭以外の提供でも成立するのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

児童買春・児童ポルノ禁止法の条文を読むと、「児童買春」の定義の中心に「対償」という耳慣れない言葉が置かれていることに気づきます。

 この言葉の理解は、実務上かなり重要です。「現金は渡していないから児童買春ではない」「食事をおごっただけだ」「相手にはお金が渡っていない」。こうした説明が、条文の構造上どこまで意味を持ち、どこから持たなくなるのかは、「対償」をどう捉えるかで決まってくるからです。

 一方で、「対償がなければ何の問題もない」という理解も、法律の全体像からは離れています。対償の有無は「罪になるかどうか」の分かれ目というより、「どの法令が適用されるか」の分かれ目として働く場面が多いためです。

 この記事では、児童買春における「対償」について、条文の構造に沿って整理します。

「対償」は条文のどこに出てくるのか


定義規定は法2条2項に置かれている

 児童買春を処罰しているのは、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」といいます)です。

 同法4条は「児童買春をした者は、5年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する」と定めるのみで、何が児童買春にあたるかは書いていません。その中身は、2条2項の定義規定に置かれています。

 「この法律において『児童買春』とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。一 児童 二 児童に対する性交等の周旋をした者 三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者」

 なお、2025年6月1日施行の改正刑法により「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。改正前に書かれた解説記事では「5年以下の懲役」と表記されている場合があります。

条文は「3つの問い」に分解できる


問い条文上の言葉検討すべきこと
何を渡したか「対償」それは経済的な利益といえるか
誰に渡したか「次の各号に掲げる者に対し」児童本人・周旋者・保護者等のいずれかか
いつ渡したか「供与し、又はその供与の約束をして……性交等をする」性交等との結びつきがあるか


 「対償」というと、つい「何を渡したか」だけに関心が向きがちです。しかし条文の作りを見ると、渡したモノの種類だけで決まる要件ではないことが分かります。以下、この3つの軸に沿って順に見ていきます。

何を渡したか。「対償」は金銭に限られない


対償とは「経済的な利益」を指すと解されている

 「対償」は、性交等の見返りとして与えられる経済的な利益を意味すると解されています。日常語でいう「対価」とほぼ同じ内容です。

 条文が「金銭」ではなく「対償」という広い言葉を選んでいる以上、現金の授受がなければ成立しない、という読み方はできません。この点は、複数の法律事務所の解説でも一致して指摘されているところです。

対償にあたりうるものの例

 実務上、対償として問題になりうるものには、次のようなものがあります。

  • 衣類、アクセサリー、化粧品、電子機器などの物品の提供。
  • ギフトカード、プリペイドカード、電子マネー、ポイント、ゲーム内課金といった金銭に準じるもの。
  • 携帯電話の利用料金や買い物代金などの立替払い。
  • 自宅に泊める、ホテル代を負担するといった宿泊場所の提供。
  • 貸していたお金を返さなくてよいことにする、借金を代わりに支払うといった債務の免除・肩代わり。
  • 経済的な価値をもつ役務の提供。


 これらに共通するのは、金銭に換算して評価できる利益であることです。逆にいえば、経済的な価値を持たない好意や関心の表明は、それ自体では対償にあたりません。

金額の大小は、成立そのものを左右しにくい

 「渡した額が少なかったから対償にはあたらない」という説明が試みられることがあります。しかし、条文は金額の下限を定めていません。金額の多寡は、成立の有無というより量刑の判断に影響する事情として扱われるのが一般的です。

 もっとも、後述するとおり、金額が実費程度にとどまる場合には「性交等の見返りといえるか」という別の観点から争われる余地が残ります。

誰に渡したか。児童本人に渡っていなくても成立しうる


供与の相手方は4つの類型がある

 2条2項は、対償を渡す相手として次の者を挙げています。

  1. 児童本人(1号)。
  2. 児童に対する性交等の周旋をした者(2号)。
  3. 児童の保護者(3号前段)。親権者、未成年後見人その他、児童を現に監護する者を指します。
  4. 児童をその支配下に置いている者(3号後段)。


 ここで見落とされやすいのが、児童本人が1円も受け取っていない場合でも児童買春が成立しうる、という点です。仲介した業者や個人に料金を支払った場合、あるいは児童を支配下に置いている者に金銭を渡した場合も、条文上は同罪の射程に入ります。

保護者の範囲は形式的な資格に限られない

 3号にいう「保護者」は、親権者や未成年後見人だけでなく「児童を現に監護するもの」を含みます。したがって、法律上の親子関係がなくても、児童と同居して生活の面倒をみている者であれば保護者にあたりうると考えられています。

 この条文の作りは、児童本人への支払いを避ける形をとれば規制を免れる、という結果を生じさせないための設計と理解されています。

いつ渡したか。「渡した」だけでなく「約束した」でも足りる


供与の約束のみでも要件を満たす

 条文は「対償を供与し、又はその供与の約束をして」と定めています。実際に手渡していなくても、渡す約束をしたうえで性交等に至れば、この要件は満たされます。

 したがって、次のような場合でも成立は妨げられないと考えられています。

  • 支払う約束をしたが、結局支払わずに立ち去った場合。
  • 約束した額より少ない金額しか渡さなかった場合。
  • 支払う予定だったが、途中で行為が中断したため支払わなかった場合。


 「約束を守らなかったから成立しない」という筋道は、条文の文言からは出てきません。

性交等に至らなければ、同罪では処罰されない

 一方で、逆の方向にも限界があります。児童買春・児童ポルノ禁止法には、児童買春罪についての未遂処罰規定が置かれていません

 そのため、対償を渡した、あるいは渡す約束をしたにとどまり、性交等に至らなかった場合には、児童買春罪としては処罰されないことになります。

 ただし、これは「何の問題も生じない」という意味ではありません。やり取りの内容によっては、出会い系サイト規制法上の禁止誘引行為や、2023年に新設された16歳未満の者に対する面会要求等の罪など、別の規定が問題となる場合があります。警察庁の資料によれば、面会要求等の罪は令和6年に134件が検挙されています。

事後に渡した場合の扱い

 条文は「供与し、又はその供与の約束をして……性交等をする」という順序で書かれています。文理上は、供与または約束が性交等に先行する構造です。

 もっとも、実務では「行為の後で渡したから対価ではない」という説明がそのまま通るとは限りません。事前のやり取りの中に金銭等の授受を前提とする了解が読み取れる場合には、支払いのタイミングが後であっても、対価関係が認められる方向に働きます。

 つまり、渡した「時点」そのものより、性交等と結びついた取り決めがあったといえるかが判断の中心になります。

対償性が争われる場面と、その主張の通りにくさ


よく出てくる3つの説明

 捜査の場面で示される説明として、次のようなものがあります。

 1つ目は「お小遣いとして渡しただけ」というものです。金銭を渡した事実は認めつつ、性交等の見返りではないと説明する形になります。もっとも、渡した経緯や金額、その前後のやり取りが記録として残っている場合、この説明だけで対価関係を否定するのは容易ではないと指摘されています。

 2つ目は「食事をご馳走しただけ」というものです。食事の提供も、それが性交等の見返りとして位置づけられていれば対償にあたりえます。逆に、食事の提供と性交等が対価の関係に立っていなければ、児童買春には該当しないという整理になります。

 3つ目は「交通費を渡しただけ」というものです。待ち合わせ場所までの実費程度の交通費については、性交等の対価として支払われたとは評価されない余地があるとする見解もあります。ただし、金額が実費の水準を超えていく場合には、この整理はあてはまりにくくなります。

判断を分けるのは「対価関係」の有無

 この3つに共通するのは、争点が「渡したモノが何か」ではなく、渡したことと性交等とが対価の関係に立っているかに移っている点です。

 そして、この対価関係は、当事者の説明だけで決まるものではありません。事前のメッセージのやり取り、金額の決まり方、支払いの方法といった客観的な事情から判断されることになります。

 やり取りの記録が残っている場合、そこに書かれた内容と食い違う説明を重ねることは、かえって信用性を損なう方向に働くこともあります。この点は、説明の組み立てを一人で決める前に検討しておくべき部分です。

「対償がなければ問題ない」とはいえない理由


統計が示す実際の内訳

 警察庁が公表している資料によると、令和6年における児童買春事犯等の検挙件数は次のとおりです。

罪名令和6年の検挙件数
不同意わいせつ(児童が主たる被害者)2,137件
不同意性交等(児童が主たる被害者)1,461件
みだらな性行為等(青少年保護育成条例)773件
児童買春416件
淫行させる行為(児童福祉法)63件
合計4,850件


 注目したいのは、対償の授受を要件としない青少年保護育成条例違反(773件)が、児童買春(416件)を上回っていることです。総数の4,850件は過去10年で最多となっています。

 対償の有無は、責任を負うかどうかの分かれ目というより、適用される法令が変わる分岐点として機能している、という実態が読み取れます。

青少年保護育成条例(いわゆる淫行条例)

 東京都の場合、青少年の健全な育成に関する条例18条の6が「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない」と定め、24条の3が2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金を規定しています。対償の授受は要件ではありません。

 「みだらな性交等」の意義について、最高裁は福岡県の同種条例に関する昭和60年10月23日の判決で、青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段による性交等のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させる対象として扱っているとしか認められないような性交等をいう、という趣旨の判断を示しています。

 対償の授受があった事実は、この「性的欲望を満足させる対象として扱った」という評価を基礎づける方向に働きうる点にも留意が必要です。

児童福祉法

 児童福祉法34条1項6号は「児童に淫行をさせる行為」を禁じ、60条1項がこれに違反した者を10年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定めています。児童買春罪より法定刑の上限が高い規定です。

 「淫行をさせる行為」の意義について、最高裁平成28年6月21日決定は、直接・間接を問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をすることを助長し促進する行為をいうとしたうえで、行為者と児童の関係、助長・促進行為の内容と児童の意思決定への影響の程度、淫行の内容や動機・経緯、児童の年齢その他の具体的状況を総合考慮して判断するとしています。

刑法および児童ポルノ関係の規定

 相手が13歳未満の場合、また13歳以上16歳未満で行為者が5歳以上年長である場合には、同意の有無にかかわらず不同意性交等罪や不同意わいせつ罪の問題となります。これらは児童買春罪より法定刑が重く、対償の有無は成立要件ではありません。

 また、行為の様子を撮影していた場合には、児童ポルノ製造罪が併せて問題となります。この場合、事案の評価は大きく変わります。

相手の年齢を知らなかった場合

 児童買春罪は故意犯です。相手が18歳未満であることを認識していなければ、同罪は成立しません。

 もっとも、確定的に知っていた場合だけでなく、「18歳未満かもしれないが、それでも構わない」という認識、いわゆる未必の故意でも故意は認められます。

 そして、年齢を知らなかったという説明が受け入れられるかどうかは、相手の外見や言動、持ち物、出会った経緯、事前のやり取りの内容といった客観的な事情から判断されます。客観的な状況と整合しない説明を重ねた場合、かえって不利に評価される可能性がある点は、対償性の争い方と同じ構造です。

SNSを端緒とする事案の特徴

 警察庁の資料によると、令和6年のSNSに起因する事犯では、被害児童と被疑者が知り合うきっかけとなった最初の投稿者は、被害児童からの投稿が約7割(1,071人)を占めています。その投稿内容の内訳を見ると、「援助交際募集」は191人(17.8パーセント)で、「プロフィールのみ」「日常生活」「趣味・嗜好」「友達募集」といった、一見して犯罪に結びつくとは考えにくい内容が約半数を占めています。

 この統計が示しているのは、やり取りの入口が明示的な形をとらない事案が相当数あるということです。そして、そうした事案では、対償性の認定はメッセージのやり取り全体の流れから判断されることになります。

 なお、こうしたやり取りは、後に端末の解析やアプリのサーバー上の記録から復元されることが少なくありません。「記録は消したから残っていない」という前提で説明を組み立てることには、相応のリスクが伴います。

対償の評価に迷いがある場合の考え方

 ここまで見てきたとおり、「対償」の判断は、渡したモノの種類だけで完結しません。

  • 渡したものが経済的な利益といえるか、という点。
  • 児童本人・周旋者・保護者等のいずれかに対するものか、という点。
  • それが性交等と対価の関係に立っているか、という点。


 この3点が揃うかどうかが検討の中心になります。そして、いずれの点についても、判断材料になるのは当事者の説明よりも、残されたやり取りや金銭の動きといった客観的な事情です。

 そのため、捜査機関から連絡を受けた段階で、「これは対償にあたらないはずだ」と自己判断して説明を固めてしまうことは、必ずしも得策とはいえません。説明の内容が客観的な記録と食い違った場合、その食い違い自体が不利な事情として評価されうるためです。

 事実関係の整理と、どの点が本当に争える部分なのかの見極めは、記録に何が残っているかを踏まえて行う必要があります。捜査の初期段階で弁護人を選任する意味は、この見極めを一人で背負わずに済む点にあります。

まとめ


  • 児童買春・児童ポルノ禁止法2条2項にいう「対償」は、性交等の見返りとして与えられる経済的な利益を指し、金銭に限られないと解されています。
  • 物品、ギフトカード、費用の立替払い、宿泊場所の提供、債務の免除なども、対償にあたりうるものとして挙げられています。
  • 実際に渡していなくても、渡す約束をして性交等に至れば要件は満たされます。
  • 対償を渡す相手は児童本人に限られず、周旋者、保護者、児童を支配下に置いている者も含まれます。
  • 判断の中心は「何を渡したか」ではなく、渡したことと性交等とが対価の関係に立っているかにあります。
  • 児童買春罪に未遂処罰規定はありませんが、性交等に至らなかった場合でも別の規定が問題となることがあります。
  • 対償がない場合でも、青少年保護育成条例、児童福祉法、刑法などの適用が問題となりえます。令和6年の統計では、対償を要件としない条例違反の検挙件数が児童買春を上回っています。


児童買春事件でお困りの方へ

 対償の評価は、事案ごとの事実関係に大きく左右されます。「これは対償にあたるのか」という点に迷いがある段階でご相談いただければ、残されている記録との整合性を踏まえたうえで、どの点が争える部分でどの点がそうでないかを整理することができます。

 すでに警察から呼び出しを受けている方、これから連絡が来るのではないかと不安を抱えている方も、まずはお気軽にご相談ください。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、全国どこからでもご利用いただける無料相談を受け付けております。

参照した法令・資料


  • 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条2項、4条。
  • 児童福祉法34条1項6号、60条1項。
  • 東京都青少年の健全な育成に関する条例18条の6、24条の3。
  • 最高裁昭和60年10月23日大法廷判決(福岡県青少年保護育成条例違反事件)。
  • 最高裁平成28年6月21日第一小法廷決定(刑集70巻5号369頁)。
  • 警察庁「児童ポルノ事犯等の現状」(令和7年12月23日・第55回基本計画策定・推進専門委員等会議 資料1-1)。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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