接見禁止がついて家族が会えない|解除に向けた動き
前科調書という言葉は、刑事裁判が始まってから初めて耳にすることが少なくありません。法廷で検察官が読み上げる証拠の中に「前科調書」が含まれていて、自分に関する書面であるのに、それがどこで作られ、何が書かれているのかは分からないまま手続が進んでいく、ということが起こります。
前科調書は、前科があるかないかを大まかに示した書面ではありません。過去に確定した有罪の裁判を、日付と罪名と刑の内容という単位で特定するための書面です。そこに並ぶ日付は、刑を加重する規定が働くかどうか、執行猶予を付けられる立場にあるかどうかといった、法律上の判断に直接つながっています。
この記事では、前科調書がどのような根拠で作られ、何が書かれ、何が書かれないのか、そして裁判のどの場面で提出されるのかを、規程と条文に沿って整理します。前科がその後の生活にどう影響するか、記録がどこにどれだけ残るのかという話題は、それ自体が別の主題ですので、ここでは踏み込みません。
前科調書とは何か
前科調書は、検察事務官が作成する、前科の調査結果の報告書です。法務総合研究所が発行している犯歴事務解説(平成30年3月5日発行の五訂版)は、前科調書をこのように位置づけたうえで、その作成方法を細かく定めています。
根拠となるのは、法務大臣訓令である犯歴事務規程(昭和59年4月26日法務省刑総訓第329号)です。同規程第13条第2項は、犯歴担当事務官が、特定の者が有罪の裁判を受けこれが確定した事実を明らかにする書面を作成する場合には、前科調書によることとしています。犯歴担当事務官とは、犯歴の把握等に関する事務を所管し、または分担する検察事務官のことです。
書面は5つの様式に分かれている
現行の規程(令和7年5月29日改正、同年6月1日施行)は、前科調書として次の5つの様式を定めています。
| 書面の名称 | 様式 |
|---|---|
| 前科調書(甲) | 様式第37号 |
| 前科調書(道交) | 様式第37号の2 |
| 前科調書(乙) | 様式第38号 |
| 前科調書(丙) | 様式第39号 |
| 前科調書(丁) | 様式第40号 |
犯歴事務解説によれば、(甲)は電子計算機で処理されている犯歴についての照会に、(乙)は電子計算機で処理されていない犯歴のうち道路交通法関係を除くものについて、(丙)は道路交通法関係の犯歴について、(丁)は犯歴票の写しを添付することとなる場合に、それぞれ作成されるとされています。作成名義は、(甲)が地方検察庁本庁の犯歴担当事務官、その他は本籍地を管轄する地方検察庁の犯歴担当事務官です。
(道交)という様式が置かれているのは、道路交通法違反などで罰金以下の刑に処する裁判のうち、令和7年1月1日より前に確定したものが電子計算機による把握の対象から外されている(第2条第2号)ことと関係します。同日以後に確定したものは電子計算機で把握される扱いになっており、様式もそれに合わせて整えられています。
照会する側は限られている
第13条第1項は、検察官または検察事務官が、刑事事件について、他の検察庁の犯歴担当事務官に対して、特定の者が有罪の裁判を受けこれが確定した事実の有無を照会する場合には、電子計算機または前科照会書(様式第35号)によることとしています。規程が想定している照会の主体は検察官と検察事務官であり、本人や家族、勤務先が取り寄せられる種類の書面ではありません。
「前科がないこと」を示す書面ではない
条文の文言をもう一度見ると、前科調書は「有罪の裁判を受けこれが確定した事実を明らかにする書面」です。つまり、確定した有罪の裁判があることを前提に作られる書面であって、前科がないことを証明するために用意されるものではありません。
何が書かれているのか
犯歴事務解説は、前科調書に記載する前科は、その人に係る全ての有罪の確定裁判であるとしています。ただし、前科調書を必要とする理由によっては一部だけを記載しても差し支えないとされており、例えば刑の執行猶予の言渡しの取消しを請求する場面では、猶予された刑と取消しの原因となる刑を記載すれば足りる、という例が挙げられています。
欄ごとの記載内容は、おおむね次のとおりです。
| 欄 | 記載される内容 |
|---|---|
| 氏名・生年月日・本籍(国籍) | 人を特定するための事項。生年月日は元号で記載する扱いとされている |
| 裁判・確定・刑終了の日等 | 裁判の日、確定の日、刑の執行が終わった日。仮釈放期間の満了により刑の執行が終了した場合は仮釈放の日も記載される。1つの裁判で2つ以上の刑が言い渡されたときは、刑ごとに執行終了の日が記載される |
| 罪名 | 罪名が複数あるときは全てを記載し、「窃盗等」のように略記しない扱いとされている |
| 刑名・刑期・金額等 | 刑の種類、刑期、金額。執行猶予の言渡しがあればその期間、保護観察が付いていればその表示。刑の一部の執行猶予では、猶予された部分の期間も記載される |
| 恩赦事項・その他 | 恩赦のほか、執行猶予の言渡しを取り消した決定の日と取消しをした裁判所、犯行時に少年であった場合のその年齢、公民権の停止・不停止の別と停止期間、仮釈放の取消しの日と残刑の執行の始期など |
| 態様 | 酒酔い、無免許といった違反の態様 |
日付がいくつも並ぶ理由
前科調書には、裁判の日、確定の日、刑の執行が終わった日という複数の日付が並びます。これは記録として丁寧だからではなく、法律上の判断がこれらの日付を起点にしているためです。
例えば刑法第56条第1項は、拘禁刑に処せられた者が、その執行を終わった日またはその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯し、有期拘禁刑に処するときを再犯としています。この場合、第57条により、刑の長期は2倍以下に加重されます。5年をどこから数えるかについては、最高裁判所昭和57年3月11日判決が、執行が終わった日の翌日から起算するとしています。刑の執行が終わった日が数日違うだけで、当てはまるかどうかが変わり得るということです。
書かれないもの
一方で、前科調書に載らないものもあります。
- 起訴されなかった事件や、捜査の対象になっただけの事件は、有罪の確定裁判ではないため記載されない。
- 少年のときの保護処分は刑罰ではないため、それ自体は前科として記載されない。
- 交通反則通告制度により反則金を納付した場合は、刑罰を受けたことにならないため記載されない。
- 事件の具体的な中身、被害の額、示談が成立したかどうかといった事情は記載されない。
- 反省の程度や現在の生活状況といった評価は、書面の性質上、含まれない。
何があったかを説明する書面ではなく、確定した裁判を特定する書面である、と考えると位置づけが分かりやすいと思います。
裁判のどの場面で提出されるのか
刑事裁判で検察官が請求する証拠は、実務上、甲号証と乙号証に分けて呼ばれています。裁判所の説明によれば、被告人が警察官や検察官に話した内容をまとめた供述調書や、被告人の戸籍、前科前歴に関する書類が乙号証であり、それ以外が甲号証です。前科調書は、この乙号証として請求されるのが通常です。
証拠の請求は、証拠等関係カードという書面で整理されます。その記載要領を定めた通達(平成12年8月28日刑二第278号)には略語表があり、前科調書や前科照会(回答)書は「前科」と略記されることとされています。法廷で読み上げられる標目が短いのは、この略語によるものです。
同意しなくても証拠になり得る
書面の証拠は、相手方が同意しなければ証拠にできないのが原則で、実務上も刑事訴訟法第326条第1項の同意によって証拠能力が認められる書面が大部分を占めます。ところが前科調書は、この原則がそのまま当てはまらない書面です。
刑事訴訟法第323条は、同条各号に当たる書面については、同意がなくても証拠とすることができるとしています。第1号は、公務員がその職務上証明することができる事実についてその公務員が作成した書面です。前科調書はこれに当たると解されており、検察事務官が作成した前科調書を第1号の書面とした裁判例(名古屋高等裁判所昭和25年11月4日判決)もあります。
そのため、前科調書について不同意という意見を述べても、それだけで取調べを止められるとは限りません。弁護人が検討するのは、同意するかどうかよりも、記載内容が正確かどうか、そしてその前科を今回の事件でどこまで考慮すべきかという点になります。
前科は何のために使われるのか
前科調書が提出される目的は、一つではありません。大きく分けると次のようになります。
| 場面 | 前科が持つ意味 | 関係する主な規定 |
|---|---|---|
| 刑の加重 | 拘禁刑の執行を終わった日等から5年以内に更に罪を犯し、有期拘禁刑に処するときは再犯とされ、刑の長期が2倍以下に加重される | 刑法第56条第1項、第57条、第59条 |
| 執行猶予の可否 | 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあるか、ある場合はその執行を終わった日等から5年を経過しているかが、猶予を付けられるかどうかの要件になる | 刑法第25条第1項 |
| 犯罪の成立要件 | 一定の前科があること自体が罪の成立要件に組み込まれているものがある | 盗犯等の防止及び処分に関する法律第3条など |
これに加えて、同種の前科があるかどうか、それがどれくらい前のことかといった事情が、刑を決める際に考慮される事情の一つとして扱われます。もっとも、古い前科や今回の事件と関係の薄い前科がどの程度重く見られるかは、事案によって異なります。
犯人かどうかの証明には原則として使えない
前科は、被告人がその事件の犯人であることを証明するための材料としては、原則として用いることができません。最高裁判所平成24年9月7日判決は、前科証拠は、証明しようとする事実について、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されると述べました。そのうえで、被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合については、前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるものであって初めて証拠として採用できる、としています。
以前に同じような罪を犯したのだから今回も犯人だろう、という推論は許されないということです。事実関係を争っている事件で前科調書が請求された場合には、それが何を証明するための証拠として出されているのかを確認する意味があります。
起訴状と判決書での扱い
起訴状には、裁判官に事件について予断を生じさせるおそれのある書類などを添付したり、その内容を引用したりしてはならないとされています(刑事訴訟法第256条第6項)。最高裁判所昭和27年3月5日大法廷判決を踏まえ、前科を起訴状に記載することは原則として許されないと解されています。前科調書が姿を現すのは、審理が始まってからです。
他方、前科が刑の加重や犯罪の成立要件に関わる場合には、判決書にも現れます。常習累犯窃盗の事件について、累犯前科に関する証拠を判決書の証拠の標目に挙げなかったことが理由の不備等に当たるとして、原判決が破棄された高等裁判所の裁判例もあります。前科が法令の適用に関わる事件では、その前科を認定した証拠まで判決書に示される必要があるということです。
記載に誤りがあると思ったとき
前科調書は電子計算機の出力または犯歴票に基づいて作成されますが、犯歴事務解説は、機械的に転記するのではなく、内容に誤りがないか、記載されている事項に矛盾はないかを子細に点検し、正確を期さなければならないとしています。裏を返せば、誤りが生じ得ることは前提とされています。
前科調書(甲)の印字を作成者が独自に訂正することは認められておらず、訂正が必要な場合には戸籍事項訂正または犯歴事項訂正の手続によることとされています。犯歴事務規程も、戸籍事項の訂正(第5条、第11条)と犯歴事項の訂正(第6条、第12条)の手続をそれぞれ定めています。
被告人側から内容を確かめる手段としては、弁護人が公訴提起後に訴訟に関する書類を閲覧謄写できること(刑事訴訟法第40条第1項)、検察官が取調べを請求する証拠書類について弁護人に閲覧の機会を与えること(同法第299条第1項)があります。手元に判決書の謄本や当時の書類が残っていれば、日付を突き合わせることができます。
誤解しやすい点
- 検察庁が把握している犯歴と、市区町村が備える犯罪人名簿は、範囲が同じではない。市区町村長への通知の対象からは、道交裁判や、満18歳未満のときに犯した罪に係る一定の裁判が除かれている(犯歴事務規程第3条第3項)。
- 刑法第34条の2により刑の言渡しが効力を失っても、検察庁の記録が同時に消えるわけではない。規程が犯歴の抹消を定めているのは、有罪の裁判を受けた者が死亡したことを知ったときである(第18条)。
- 前科調書に不同意という意見を述べれば取り調べられない、とは限らない。
- 前科があることは、今回の事件の犯人であることの証明には、原則として使えない。
- 前科調書は、本人が請求して取り寄せる種類の書面ではない。
手元でできること
- 過去の事件について、判決の言渡日、確定した時期、刑の内容、刑の執行が終わった時期を、思い出せる範囲で書き出しておく。
- 判決書の謄本や、罰金の納付に関する書類など、当時の書類が残っていないかを確認する。
- 執行猶予が付いていた場合は、猶予期間がいつ満了したかを確認する。
- 記憶と前科調書の記載が食い違うと感じたときは、その場で受け入れず、弁護人に伝える。
- 前科の有無や時期は処分や量刑の枠組みに関わるため、相談の早い段階で正確に伝えておく。
まとめ
- 前科調書は、犯歴事務規程第13条第2項に基づき、犯歴担当事務官である検察事務官が作成する報告書である。
- 書面には(甲)(道交)(乙)(丙)(丁)の5つの様式がある。
- 記載されるのは、原則としてその人に係る全ての有罪の確定裁判である。
- 裁判の日、確定の日、刑の執行が終わった日といった日付が並ぶのは、法律上の判断がこれらの日付を起点にしているためである。
- 起訴されなかった事件、少年のときの保護処分、反則金の納付は記載されない。
- 刑事裁判では乙号証として請求され、証拠等関係カードでは「前科」と略記される。
- 刑事訴訟法第323条第1号の書面と解されており、同意がなくても証拠となり得る。
- 前科は、刑の加重や執行猶予の可否、量刑の判断に関わる一方で、犯人であることの証明には原則として使えない。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件のご相談をお受けしています。前科調書に何が書かれ、それが今回の手続にどう影響するのかは、事案によって異なります。手続の途中で内容の分からない書面が出てきたときは、そのままにせず、記載を確認したうえで対応を検討することをおすすめします。


