医師をだまして処方を受けた|処方薬の不正入手が問われる罪

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

眠れない、痛みが引かない、手元の薬が足りない。そうした事情から、症状を実際より重く伝えたり、ほかの病院にかかっていることを伏せたりして薬を出してもらった。あるいは、自分あてに交付された処方箋をコピーして薬局に出した。しばらく経ってから薬局や病院に呼ばれたり、警察から連絡が入ったりして、初めて事の重さに気づく方がいらっしゃいます。

 処方薬の不正入手というと、薬に関する取締法規の問題だと受け止められがちです。しかし実際に中心となるのは、刑法の詐欺罪や文書偽造の罪です。ここでは、どの行為がどの法律で問われるのか、薬の種類によって何が変わるのか、どこで発覚するのかを、疑いを向けられる側の立場から整理します。

処方薬の不正入手は三つの場面に分かれる


 ひと口に不正入手といっても、問われ方は次の三つに分かれます。

・医師に対して事実と異なる説明をして、処方を受けた場合
・交付された処方箋を複製したり、書き換えたりして薬局に出した場合
・他人の名前や健康保険証を使って受診し、薬を受け取った場合

 どの場面かによって、適用される条文も、争える点も変わります。ご自身の事案がどこに当たるのかを切り分けることが出発点になります。

中心になるのは詐欺罪


 刑法246条1項は、人を欺いて財物を交付させた者を10年以下の拘禁刑に処すると定めています。罰金刑の定めがないため、起訴されて有罪となれば拘禁刑が言い渡されます。未遂も処罰され(刑法250条)、公訴時効は7年です。

 薬は「財物」ですから、うそを言って薬の交付を受けた行為は、薬物法の問題である以前に財産犯として扱われ得ます。処方薬の事案が想像以上に重く扱われることがあるのは、この点によります。

「代金は払っている」で終わる話ではない


 近年の最高裁は、詐欺罪にいう「人を欺く行為」があったかどうかを判断する際に、相手方にとって交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ったかどうかを重視しています。暴力団員が自己名義の預貯金口座を開設した事案についての最高裁平成26年4月7日決定は、反社会的勢力であるかどうかは交付の判断の基礎となる重要な事項であるとして、その点を偽った行為を人を欺く行為に当たるとしました。

 これを処方の場面に置き換えると、症状の内容、ほかの医療機関にかかっているかどうか、いま何をどれだけ服用しているかは、医師が処方を決めるうえでの前提になる事柄だといえます。代金を払っているから財産的な被害はない、という説明だけで終わる話ではない、ということです。

もっとも、詐欺罪の成立が否定された裁判例もある


 他方で、古い裁判例には詐欺罪の成立を認めなかったものもあります。東京地方裁判所昭和37年11月29日判決は、医師名義の証明書を偽造・変造して、医師の処方箋がなければ購入できない注射液を薬局の店主から交付させた事案について、薬事行政上の規制をくぐったにとどまり、個人の財産上の法益を侵害するものではないとして、詐欺罪には当たらないと判断しました。

 ただし、これは60年以上前の下級審の判断です。同種の事案が必ず同じ結論になるわけではありませんし、現に詐欺罪として立件されている事案もあります。争える余地があるかどうかは、何を偽ったのか、対価が支払われているのか、公的医療保険が使われているのかといった事情によって変わります。自己判断で「財産的な被害はないから問題ない」と考えるのは危険です。

処方箋に手を加えた場合は文書の罪が重なる


 処方箋をカラーコピーする、日数や数量を書き換える、記載のない薬を書き足す。こうした行為は、自分あてに交付された処方箋であっても違法です。想定される罪名は次のとおりです。

問われ得る罪根拠条文法定刑
詐欺刑法246条1項10年以下の拘禁刑
私文書偽造等刑法159条1項3月以上5年以下の拘禁刑
偽造私文書等行使刑法161条1項3月以上5年以下の拘禁刑
麻薬処方箋の偽造・変造麻薬及び向精神薬取締法70条14号1年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金
向精神薬処方箋の偽造・変造麻薬及び向精神薬取締法72条4号20万円以下の罰金


 手を加えた処方箋を薬局の窓口に出せば行使に当たり、そこで薬を受け取れば詐欺の問題が加わります。作っただけで薬局に出していない段階であっても、偽造の罪は成立し得ます。

薬物法の罰則が軽いことを理由に軽く考えないほうがよい


 麻薬及び向精神薬取締法が定める処方箋の偽造・変造の罰則は、上の表のとおり比較的軽く設定されています。そのため、この条文だけを見て「たいしたことはない」と受け止めてしまう方がいます。しかし同じ行為について刑法の罪が併せて問題になり、実際にはそちらが処分の重さを左右することがあります。

薬の種類によって適用される法律が変わる


 もう一つ見落とされやすいのが、薬の区分によって規制の仕組みが違うという点です。

薬の区分手元に持っていること他人に渡した場合
向精神薬(睡眠薬・抗不安薬など)処罰規定は置かれていない麻向法66条の4により処罰され得る
麻薬(医療用の鎮痛薬など)法律上の例外に当たる場合は許容されるみだりな譲渡しは麻向法の処罰対象
覚醒剤原料に当たる医薬品覚醒剤取締法に別の定めがある同法により処罰され得る
上記以外の処方箋医薬品処罰規定は置かれていない業としての販売は薬機法違反


向精神薬は「渡した側」だけが処罰される


 睡眠薬や抗不安薬の多くが含まれる向精神薬については、麻薬及び向精神薬取締法66条の4が譲渡しと譲渡し目的の所持を処罰していますが、譲り受けることや単純に持っていること自体を処罰する規定は置かれていません。そのため、不正に入手して自分で使っていたという事案では、同法違反ではなく刑法の詐欺罪や文書偽造の罪が中心になります。

麻薬は所持できる場合が条文で定められている


 麻薬については、同法28条1項が原則として麻薬取扱者以外の所持を禁じたうえで、麻薬施用者から施用のため交付を受けた者や、麻薬処方箋により調剤された麻薬を譲り受けた者が所持する場合を例外としています。正規の診療を経ていない入手の場合、この例外に当たるかどうかが問題になり得ます。

手元に残った薬を人に渡す・売ると別の罪が加わる


 入手した後の行為で、問題が広がることもあります。家族や友人に分けた、フリマアプリやSNSで売った、といった場面です。

 向精神薬であれば、無償でも有償でも麻薬及び向精神薬取締法66条の4の対象になり得ます。それ以外の医薬品でも、許可を受けずに業として販売すれば医薬品医療機器等法24条1項に違反し、同法84条により3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科の対象となります。自治体の薬務担当部署も、病院で処方された薬の余りを出品する行為について、「一度だけ」「余ったから」でも違法になる可能性があると注意を呼びかけています。

どこで発覚するのか


 処方薬の事案は、その場では何も起きずに終わることが少なくありません。それでも後から発覚するのは、次のような経路があるためです。

・薬剤師は処方箋に疑わしい点があるときに医師へ確認する義務を負っており(薬剤師法24条)、この照会をきっかけに判明することがある
・複数の医療機関や薬局にまたがる受診歴・調剤歴が、保険者から届く医療費の通知や診療報酬明細の審査を通じて表に出ることがある
・薬局や医療機関から保健所、地方厚生局の麻薬取締部、警察に連絡が行き、そこから捜査が始まることがある

 こうした経路をたどるため、行為から数か月、場合によっては1年以上経ってから連絡が来ることも珍しくありません。時間が空いたことをもって終わったと考えないほうがよいでしょう。

連絡が来る前に整理しておきたいこと


 呼び出しや取調べでは、経緯を細かく確認されます。次の点は、記憶が薄れる前に自分の中で整理しておくと落ち着いて対応できます。

・いつ、どの医療機関や薬局で、どのような説明をしたのか
・処方箋そのものに手を加えたのか、説明の内容だけの問題なのか
・受け取った薬を自分で使ったのか、他人に渡したり売ったりしたのか
・手元に残っている薬や処方箋、診察券、お薬手帳の有無
・公的医療保険を使ったのか、自費だったのか

 なお、事実と異なる説明をその場しのぎで重ねると、後から訂正することがかえって難しくなります。分からないことは分からないと伝え、記憶が曖昧な部分を無理に埋めないことが大切です。

弁護士に相談する意味


 この類型が一般的な薬物事件と大きく違うのは、医療機関や薬局という相手方が存在する点です。薬物事件では示談の相手がいないのが通常ですが、処方薬の不正入手では、薬剤費相当額の弁償や謝罪を通じた対応を検討できる場面があります。捜査機関に対して、行為の経緯や再発防止の見通しをどう説明するかも処分の判断に関わります。

 背景に薬への強い依存がある場合には、同じことを繰り返さない状態をどう作るかという点も見られます。医療につなぐ段取りを含め、早い段階で方針を立てておくことが望ましいといえます。

 当事務所では初回のご相談を無料でお受けしており、お問い合わせは24時間受け付けています。逮捕された場合の即日接見のほか、出頭や自首に弁護士が同行する対応も全国で行っています(移動にかかる費用は別途申し受けます)。深夜・早朝についても、状況により対応できる場合があります。

まとめ


・処方薬の不正入手は、薬の取締法規より先に刑法の詐欺罪や文書偽造の罪が問題になる
・詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で罰金の定めがなく、未遂も処罰される
・近年の判例は、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ったかどうかを重視している
・代金を払っていた事案で詐欺罪の成立を否定した古い裁判例もあるが、結論が一律に決まるわけではない
・自分あての処方箋であっても、複製や書き換えは私文書偽造等の罪に当たり得る
・向精神薬は譲り渡した側が処罰される一方、手元に持つこと自体の処罰規定は置かれていない
・薬局の疑義照会や医療費の通知をきっかけに、時間が経ってから発覚することがある

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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