置き引きは窃盗か占有離脱物横領か|駅・カフェ・空港での荷物
友人に頼まれて、自分が持っていた薬物を少しだけ分けた。お金は受け取っていないし、売るつもりもなかった。そうした経緯から、「持っていたことと変わらないのではないか」「渡しただけなら軽く済むのではないか」と考える方は少なくありません。
しかし、渡す行為・受け取る行為は所持とは別に定められた犯罪であり、処分の見通しを左右する要素も所持事件とは異なります。ここでは、譲り渡した側と譲り受けた側それぞれについて、何が分かれ目になるのかを、法定刑・営利の目的・罪の数・没収の四つの角度から整理します。
「渡した」「受け取った」は所持とは別の罪
覚醒剤取締法も麻薬及び向精神薬取締法も、所持と並べて「譲り渡し」「譲り受け」を禁じています。ここでいう譲渡しとは、相手方にその薬物についての処分権限を与えて所持を移すことをいい、売買に限らず、無償で分ける場合も含まれます。量が少なくても、相手が親しい友人でも、この点は変わりません。
もっとも、法定刑の枠そのものは所持と同じです。覚醒剤であれば所持・譲渡し・譲受けのいずれも10年以下の拘禁刑(覚醒剤取締法41条の2第1項)、大麻を含む麻薬(ヘロイン等を除く)であれば7年以下の拘禁刑(麻薬及び向精神薬取締法66条1項)と定められています。「渡したのだから当然に重い」という関係にあるわけではありません。処分の見通しを動かすのは、このあと述べる別の要素です。
受け取った側は所持も併せて問われることがある
譲り受けた側については、受け取ったこと自体のほかに、その後手元に置いていた事実が所持として問題にされることがあります。どこまでを一つの行為とみるかは事案によりますが、渡した側・受け取った側のいずれについても、聞かれる範囲は受け渡しの一場面にとどまりません。
受け取った側を処罰する規定がない薬物もある
薬物の種類によって、処罰される行為の範囲は同じではありません。睡眠薬や精神安定剤などの向精神薬については、譲り渡す行為と、譲渡しの目的で所持する行為だけが処罰の対象とされており(同法66条の4)、譲り受ける行為そのものを処罰する規定は置かれていません。手元にある薬を分けたという場面では、渡した側と受け取った側で立場が大きく異なることがあります。
第一の分かれ目は「営利の目的」があったかどうか
同じ譲渡しでも、営利の目的があったと認定されると、適用される条項が変わります。覚醒剤では1年以上の有期拘禁刑となり、情状によりこれに加えて500万円以下の罰金が併科されます(41条の2第2項)。ヘロイン等を除く麻薬では1年以上10年以下の拘禁刑に、情状により300万円以下の罰金が併科されます(66条2項)。
| 薬物 | 営利の目的なし | 営利の目的あり |
|---|---|---|
| 覚醒剤 | 10年以下の拘禁刑 | 1年以上の有期拘禁刑(情状により500万円以下の罰金を併科) |
| 麻薬(ヘロイン等を除く。大麻を含む) | 7年以下の拘禁刑 | 1年以上10年以下の拘禁刑(情状により300万円以下の罰金を併科) |
ここで注意したいのは、この罰金が拘禁刑に代わるものではなく、拘禁刑に加えて科されるものだという点です。刑の下限が設けられることと、金銭的な負担が加わることの両面で、枠組みが変わります。なお、営利の目的の有無は所持・譲渡し・譲受けのいずれについても問題になり、受け取った側にも同じ区別が当てはまります。
「お金は受け取っていない」で終わる話ではない
営利の目的とは、犯人が自ら財産上の利益を得ること、または第三者に財産上の利益を得させることを目的とすることをいうと理解されています。代金を受け取ったかどうかだけで決まるものではありません。
最高裁昭和42年3月3日決定は、麻薬取締法の営利の目的について、行為の動機が財産上の利益を得る目的に出たことで足りるとしたうえで、共犯者に融通していた金銭の回収を図るという動機であった事案について、被告人自身に営利の目的があったと認めています。また、繰り返し行われていることも必要ではなく、1回限りの行為でも認められ得ます。利益は金銭に限られず、見返りとして薬物を分けてもらう、生活の面倒をみてもらうといった形も問題になります。
捜査機関が見ている事情
営利の目的の有無は、本人の説明だけでなく、次のような外側の事情から検討されます。
・自分で使う分としては説明のつきにくい量や、小分けされた状態
・計量器、未使用の袋や注射器など、分けて渡すための道具
・代金や立替金のやり取りの記録
・やり取りに使われた通信の履歴や、隠語の使用
・収入と釣り合わない現金の保有
渡した相手の数と回数で「罪の数」が変わる
譲渡が問題になる事件では、渡した相手ごと、機会ごとに罪の数が増えていく点が所持事件と大きく異なります。裁判例では、多数の相手に譲り渡した場合は基本的に各譲渡行為が併合罪になるとされる一方、同じ相手に対する数回の譲渡については、相手ごとにまとめて一つの罪とみる説示もされています(東京高裁昭和31年3月26日判決ほか)。
併合罪として処理されると、最も重い罪について定められた刑の長期に、その2分の1を加えたものが上限になります(刑法45条、47条)。渡した回数や相手の人数は、量刑の事情にとどまらず、刑の枠そのものに影響します。
渡す直前の所持が別罪にならないこともある
もっとも、罪が機械的に足し算されるわけでもありません。名古屋高等裁判所金沢支部平成30年2月20日判決は、譲渡未遂の直前に同じ場所で行われていた所持について、譲渡に当然伴うもので別個に処罰するに値しないとして、所持罪は譲渡未遂罪に吸収され別罪を構成しないと判断しました。第一審が二つの罪の併合罪としていた処理を改めたものです。どこまでを一つの犯罪とみるかは、事案ごとの判断になります。
代金を受け取っていれば没収・追徴の対象になる
押収された薬物そのものが没収されることに加え、譲渡の代金は「薬物犯罪収益」として没収の対象となり、すでに使ってしまって没収できない場合には同額が追徴されます(麻薬特例法11条1項1号、13条1項)。裁判所の裁量で行うかどうかを選ぶものではなく、原則として行われるものです。
最高裁は、規制薬物の譲渡についてこの財産を「対価として得た財産そのもの」と捉えており、仕入れにかかった費用などを差し引くことはしないとしています(最高裁平成17年7月22日決定)。また、代金の前払いを受けたものの、約束した量の一部しか発送できずに未遂に終わった事案でも、代金全額が対象になるとされました(最高裁令和元年12月20日判決)。
裏を返せば、対価を受け取っていない譲渡では、この意味での収益は生じません。有償か無償かは、営利の目的の判断とは別の場面でも、金銭的な結果を左右します。
取調べが「誰に、いつ、いくらで」に集中する理由
譲渡・譲受けが問題になる事件では、取調べの質問が相手方と時期、そして対価に向かいます。理由は二つあります。一つは、ここまで述べたとおり、相手と回数が罪の数を、対価が営利の目的と追徴の額を左右するからです。もう一つは、渡した相手や入手先の捜査につながるためで、話した内容はそのまま別の事件の端緒として扱われます。
同じ出来事についての説明が途中で変わると、変わったこと自体が信用性の問題として記録に残ります。相手方も並行して取調べを受けていることが多く、双方の説明は突き合わされます。答えにくい部分について、その場でつじつまを合わせようとすることは、結果として不利に働きやすい対応です。
聞かれる前に整理しておきたいこと
記憶があいまいなまま断片的に答えることを避けるため、次の点は早い段階で整理しておくことをおすすめします。
・いつ、どこで、誰に渡したのか(あるいは誰から受け取ったのか)
・金銭や、それに代わるやり取りがあったかどうか
・その場に他に誰がいたのか
・やり取りに使ったアプリや通信手段
・はっきり覚えている部分と、分からない部分の区別
弁護士に相談する意味
薬物事件には示談をする相手方がいないため、できることは、事実関係を正確に整理することと、再び関わらない状態をどう作るかに集中します。とりわけ譲渡・譲受けの事件では、営利の目的の有無と罪の数という、法律の枠そのものにかかわる部分が争点になりやすく、取調べの初期段階での説明が、その後の手続に長く影響します。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件について初回無料でご相談をお受けしており、ご相談の受付は24時間対応しています。ご本人の身柄が拘束されている場合の即日の接見にも対応しているほか、出頭や自首に同行する場合は全国対応が可能です(移動にかかる費用は別途申し受けます)。深夜・早朝についても、状況により対応できる場合があります。
まとめ
・渡す行為・受け取る行為は所持とは別の罪だが、法定刑の枠そのものは所持と同じ
・向精神薬のように、受け取る側を処罰する規定が置かれていない薬物もある
・営利の目的が認められると刑の下限が設けられ、罰金が併科されることがある
・営利の目的は代金の有無だけで決まらず、利益を得る動機があれば認められ得る
・渡した相手の数と機会の数で罪の数が変わり、併合罪では刑の上限が引き上げられる
・渡す直前の所持が譲渡に吸収され、別罪にならないと判断された裁判例もある
・代金を受け取っていれば、必要経費を差し引かずに没収・追徴の対象となる
・取調べは相手方・時期・対価に集中するため、説明の一貫性が重要になる


