電話や対面で強い言葉を使った|害悪の告知の「具体性」はどこまで必要か

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

電話口で声を荒らげてしまった、対面での話し合いでつい強い言い方をしてしまった。あとになって「あれは脅迫罪になるのだろうか」と気にかかる方は少なくありません。調べてみると「脅迫罪になる言葉」を並べた記事が数多く見つかりますが、実際の判断は、口にした言葉そのものよりも、その言葉がどこまで具体的な中身を含んでいたかに左右されます。ここでは、刑法が求める「害悪の告知」にどの程度の具体性が必要とされてきたのかを、裁判例を手がかりに整理します。

「強い言葉を使った」ことと脅迫罪は同じではない

 脅迫罪は刑法222条に定められています。1項は生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫した場合を、2項は同じ内容を親族について告知した場合を対象としており、法定刑はいずれも2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。未遂を処罰する規定は置かれていません。

 条文が求めているのは、害を加える旨を告げたことです。声の大きさ、口調の激しさ、乱暴な言い回しそのものを取り締まる規定ではありません。強い言葉であっても、害を加えると告げたと読み取れなければ、この条文の枠には入らないという整理になります。

 逆に、丁寧な言い方であっても害を加えると告げたと読み取れる場合はあります。「言い方が乱暴だったかどうか」と「害を告げたかどうか」は別の物差しだ、という点が出発点になります。

「具体性」が問われるのは3つの場所

 害悪の告知にどこまで具体性が必要かという問題は、実際には次の3つに分かれて検討されています。

具体性が問われる場面問われている中身足りないと判断されやすい言い方
①何に対する害か生命・身体・自由・名誉・財産のどれに向けられた害なのかが読み取れるか「後悔することになる」など、何が起きるのか読み取れない言い方
②誰が加える害か告げた本人、またはその人の影響が及ぶ相手の手で起きる害として告げられているか「そのうち天罰が下る」など、告げた人が左右できない事柄
③どの程度あり得ることか一般の人から見て、実際に起こりうる事柄として受け取れる内容か現実味がないと受け取られる内容


 この3つのうちどれかが欠けていると、言葉自体は強くても害悪の告知とは認められにくくなります。逆にいえば、この3つが押さえられていれば、表現が遠回しであっても告知にあたると判断される場合があります。

具体的に述べる必要がないとされている部分

 まず、意外に思われることの多い点から確認します。次の各点は、脅迫罪の成否を考えるうえで具体的に示されている必要はないと扱われてきました。

・いつ、どこで、どのような方法で害を加えるのかという段取り。
・名誉に関する害の場合、どのような事実を持ち出すのかという中身。大審院の古い判例に、名誉を害する事実を持ち出すと告げれば足り、どの事実かまで告げる必要はないとしたものがあります。
・言葉が明示的であること。実際には出火していないのに火災見舞いのはがきを送った事案について、直接的な表現でなく暗示によるものでもよいとした最高裁判例(昭和35年3月18日)があります。
・告げた人に、実際に実行する意思や能力があること。
・相手が現実に怖がったこと。判断は一般の人を基準に客観的に行われるとされており、相手が動じなかったとしても、それだけで成立が否定されるわけではありません。

 つまり、「細かいことは何も言っていない」「本気で実行するつもりはなかった」という説明だけでは、成否の判断はつきません。ここが、言った側の感覚と法律上の評価がずれやすいところです。

それでも「漠然としすぎている」とされた裁判例

 一方で、内容が漠然としているとして脅迫罪の成立が否定された裁判例も蓄積されています。

 よく取り上げられるのが、「遠からぬ将来において、人民と正義の名において貴様に厳烈な審判が下されるであろう」と記したはがきを郵送した事案です。裁判所は、この文言では意味内容が漠然としていて何の害を加えようとするのか明らかでないとし、さらに、その害を差出人自身や差出人の影響を受ける誰かが加えるものと読み取れない点も指摘して、脅迫罪の成立を否定しました(名古屋高等裁判所 昭和45年10月28日判決)。

 同じころ、「人民政府ができた暁には人民裁判によって裁かれる」と告げた事案でも、その害が告げた人自身や、その人が左右しうる他人を通じて実現するものとして告げられたとはいえないとして、成立が否定された例があります(広島高等裁判所松江支部 昭和25年7月3日判決)。

 このほか、警察官に対して「本署に連絡すると、もっと重い責任を持ってくるぞ」と述べた事案について、告知の日時・場所・方法や当事者の置かれた状況もあわせて考えると、客観的で具体的な害悪を告げたとはいえないとして無罪とした裁判例(静岡地方裁判所 昭和33年5月20日判決、控訴審でも維持)もあります。口論の中で「自分は服役してきた人間だ」といった趣旨を述べたにとどまる事案で、成立が否定された例も知られています。

 これらに共通するのは、どの法益に向けられた害なのかが読み取れないこと、そしてその害を告げた人が左右できるものとして示されていないことです。

抽象的な言い回しでも足りるとされた裁判例

 もっとも、遠回しであれば安全ということにはなりません。次のような例では、具体性が足りているとされています。

・取調べを受ける中で、自分を憎んでいる者が他にもいる、仲間も相当意気込んでいるという趣旨を述べた事案について、害悪の告知にあたるとされた最高裁判例(昭和27年7月25日)。害を加えるのが第三者であっても、告げた人の影響下にあるものとして示されていれば足りるという考え方が表れています。
・警察官に対し、活動をやめなければ不幸が起こるという趣旨を述べた事案について、当時の状況とあわせて考えれば畏怖させるに足りる告知だとされた裁判例。相手が実際には動じなかったとしても成立は否定されないとも述べられています。
・「証人をこしらえて罪におとしてやる」という趣旨の発言について、人を畏怖させる程度に具体的であれば足りるとされた裁判例。
・地方の警察官に対し、いずれ裁きを受けることになるという趣旨のビラを用いた事案で、その内容と当時の社会情勢とがあいまって具体的な害悪の告知にあたるとされた最高裁判例(昭和29年6月8日)。

似た言葉で結論が分かれているのはなぜか

 ここまでを並べると、気づかれる点があると思います。「いずれ裁かれる」という趣旨の言葉について、成立を認めた裁判例と否定した裁判例の両方があるということです。

 分け目になったのは、言葉そのものではありませんでした。当時その言葉がどのような情勢の中で発せられたか、告げた人と相手との関係はどうだったか、その害を告げた人が動かせるものとして示されていたか。こうした周辺の事情を含めて判断された結果、同じような言い回しでも結論が反対になっています。

 したがって、「この言い方ならセーフ」「この単語を使ったらアウト」という形の線引きは、実務上はうまく機能しません。ご自身の発言を振り返るときも、単語だけを抜き出すのではなく、そのときの状況とあわせて確認していくことになります。

電話や対面という場面が評価に加わる理由

 メールやSNSでのやり取りは、文言がそのまま残ります。これに対し、電話や対面のやり取りでは、残るのは通話の履歴や当事者の記憶であって、言葉づかいの細部は残らないことが通常です。

 その分、判断材料として周辺の事情が大きく入ってきます。どこで話していたか、その場に何人いたか、相手との距離や体格差、それまでの関係、その前後にどんなやり取りがあったか、といった事情です。同じ一言でも、退去を求められている場に居座って発したのか、電話越しに一度だけ口にしたのかで、受け取られ方は変わります。

複数人で言った場合、道具を示した場合

 脅迫にあたる行為を数人で共同して行った場合や、団体・多衆の威力を示して行った場合、凶器を示して行った場合には、暴力行為等処罰に関する法律1条により、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という、刑法222条より重い法定刑が定められています。対面の場面で人数がそろっていたかどうかは、この点でも意味を持ちます。

電話を繰り返した場合

 1回ごとの内容が具体性を欠いていても、架電を重ねること自体が別の問題として扱われることがあります。相手や状況によっては、ストーカー行為等の規制等に関する法律や各都道府県の迷惑防止条例、業務妨害の規定が検討される場面もあります。「脅迫罪にはあたらない」という結論が、「何も問題にならない」という意味にはならないという点は押さえておきたいところです。

記録が残りにくい場面で、事実はどう確かめられるのか

 録音がなければ何も分からない、というわけではありません。実際の手続では、次のようなものが手がかりとして扱われます。

・通話の日時や回数が分かる履歴。
・その直後に相手が誰かに相談していた記録や、警察への通報の記録。
・その場に居合わせた人の話。
・やり取りの前後に交わされたメッセージなど、文字で残っている部分。
・当事者双方の説明が、他の記録と食い違わずに説明できるかどうか。

 言った側にとっても、記憶だけで組み立てるのは負担が大きくなります。日時・場所・同席者・話の流れを、覚えているうちに書き出しておくと、後の説明が整理しやすくなります。

脅迫罪にあたらない場合に残る問題

 具体性を欠くとして脅迫罪にあたらないとされても、そこで話が終わるとは限りません。同じ発言が別の枠組みで問題になることがあります。

枠組み問題になりやすい場面法定刑などの目安
侮辱罪(刑法231条)人格をおとしめる発言。ただし「公然と」行われたことが要件で、1対1のやり取りではこの要件を欠く場合があります1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
名誉毀損罪(刑法230条)公然と具体的な事実を挙げて社会的評価を下げた場合3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
暴行罪(刑法208条)言葉に加えて、押す・つかむなどの有形力を伴った場合2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
強要罪・恐喝罪義務のないことを求めた場合、金銭の交付を求めた場合強要罪は3年以下の拘禁刑、恐喝罪は10年以下の拘禁刑
民事の損害賠償刑事とは別に、慰謝料などの請求を受けることがあります事案により異なります
勤務先での対応就業規則に基づく調査や処分が並行して進むことがあります勤務先の規程により異なります


 要求とセットになっているかどうかで枠組みが移る点は、それ自体が一つの論点です。金銭の要求や、義務のない行為の要求が伴っていた場合には、脅迫罪だけを見ていては足りないことになります。

強い言葉を使ってしまったあとにできること

 実際にご相談を受ける場面で、初動としてお伝えしていることを挙げます。

・その後に連絡を重ねない。釈明のつもりの連投が、かえって回数の多さという事実として残ることがあります。
・やり取りの記録を消さずに残す。自分に不利に見えるものも含めて残しておくほうが、後から説明しやすくなります。
・記憶が新しいうちに、日時・場所・同席者・話の流れを書き出しておく。
・謝罪や話し合いを申し入れる場合も、伝え方と窓口を整えてから行う。直接の接触が、別の問題を重ねてしまうことがあります。
・警察から連絡があった場合は、日時と担当部署を控えたうえで、対応の方針を相談する。
・「あの程度なら問題にならないはずだ」と自分だけで結論を出さない。ここまで見てきたとおり、判断は周辺の事情を含めて行われます。

言われた側の立場から見た場合

 ここまでは言った側の視点で整理してきましたが、言われた側についても一言添えます。

 「具体的なことは何も言われていないから、相談しても取り合ってもらえないのではないか」と感じて、相談をためらう方がいらっしゃいます。ですが、これまで見てきたとおり、具体性の評価は周辺の事情を含めて行われるものです。ご自身で先に結論を出す必要はありません。緊急性が高くない相談であれば警察相談専用窓口(#9110)もありますし、記録を持って弁護士に相談することもできます。

よくあるご質問


相手が怖がっていなくても脅迫罪になりますか

 判断は一般の人を基準に客観的に行われるとされており、相手が現実に畏怖したことは要件とされていません。相手が平然としていたことは、事情の一つとして考慮されうるにとどまります。

短い一言でも成立することがありますか

 言葉の長さは基準になっていません。短い一言でも、どの法益への害かが読み取れ、告げた人が左右できる事柄として示されていれば、告知にあたると判断される場合があります。反対に、長く言い連ねていても漠然としていれば認められないことがあります。

冗談のつもりでした。お酒が入っていた場合はどうなりますか

 冗談のつもりだったという説明は、故意の有無を判断する事情の一つになりえますが、それだけで結論が決まるわけではありません。周囲の状況から見て害を告げたと受け取られる言い方であったかどうかが検討されます。飲酒についても、それだけで責任が否定されると考えるのは難しいところです。

まとめ

 害悪の告知の具体性について、押さえておきたい点を整理します。

・加害の方法・日時・段取りまで示す必要はなく、暗示的な表現でも告知にあたりうる。
・一方で、どの法益への害かが読み取れない場合や、告げた人が左右できない事柄を述べただけの場合には、告知にあたらないと判断された裁判例がある。
・似た言葉でも結論が分かれており、決め手になっているのは言葉そのものより周辺の事情である。
・電話や対面では文言が残らない分、その場の状況が判断材料として大きく入ってくる。
・脅迫罪にあたらない場合でも、別の枠組みで問題になることがある。

 強い言葉を使ってしまった経緯には、それぞれの事情があります。そのうえで、発言の評価は当事者の感覚だけでは定まりません。気にかかることがある段階で、記録と経緯を整理したうえでご相談いただければ、取りうる対応をご一緒に検討できます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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