公然わいせつ・下着の持ち去りなど「軽く見られがちな性犯罪」の実際

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「一線は越えていない」「盗ったのは下着一枚で、金額にすれば数百円」。公然わいせつや下着の持ち去りは、性犯罪の中では軽い部類だと受け止められることの多い類型です。実際、初犯で件数も一件であれば、不起訴や罰金で手続きが終わることは少なくありません。

 ただ、そこで想定されている「軽く終わる形」は、いくつかの条件がそろったときの姿にすぎません。同じ「下着一枚」でも、どこで、どうやって手に入れたかによって、法律上の枠組みは大きく変わります。

 この記事では、公然わいせつと下着の持ち去りという二つの類型について、どこまでが軽く終わり得る範囲で、どの線を越えると扱いが変わるのかを条文と実務の流れに沿って整理します。ご本人だけでなく、ご家族の方にも読んでいただける内容です。

「軽い部類」という感覚は、どこから来るのか


公然わいせつと窃盗では、法定刑の幅がまったく違う


 まず、二つの類型がそれぞれどの条文に当たるのかを確認します。

 公道や公園などで性器を露出したり、外から見える場所で性的な行為に及んだりした場合は、公然わいせつ罪(刑法174条)に当たり得ます。法定刑は、6か月以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料です。刑法犯の中では、確かに軽い部類に位置づけられます。

 一方、他人の下着を持ち去る行為は、窃盗罪(刑法235条)です。法定刑は10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金で、被害額の大小は犯罪の成立そのものには影響しません。数百円の下着一枚でも、他人の財物であることに変わりはないためです。

 この時点で、上限だけを見ても6か月と10年という開きがあります。「性犯罪の中では軽い」という感覚は、主に公然わいせつ罪の法定刑から来ているものですが、下着の持ち去りは出発点から別の枠にいる、という点は押さえておく必要があります。

 なお、拘禁刑は、2025年6月1日に施行された改正刑法によって、従来の懲役刑と禁錮刑が一本化されたものです。古い記事では「懲役」と表記されていますが、指している刑罰の重さの位置づけは大きく変わっていません。

警察の統計では「色情ねらい」という独立の分類が置かれている


 実務上の位置づけを示す材料がもう一つあります。警察庁の犯罪統計は窃盗の手口を細かく分類していますが、その中に「色情ねらい」という独立の項目が置かれ、侵入して行われたものとそうでないものに分けて集計されています。捜査機関の側では、下着の持ち去りは金銭目的の窃盗とは動機の異なる類型として、あらかじめ分けて把握されているということです。

分岐① 「入って盗った」が加わると、枠そのものが変わる


 下着の持ち去りで最も結果を左右するのが、その場所に立ち入る行為があったかどうかです。

 他人の敷地やベランダ、共用部分の奥まった場所に立ち入った場合には、住居侵入罪(刑法130条前段)が成立し得ます。マンションのベランダや戸建ての庭など、建物の中に入っていなくても、敷地内に足を踏み入れた時点で問題になります。コインランドリーや共同ランドリールームに、下着を持ち去る目的で立ち入った場合は、建造物侵入罪として扱われることがあります。管理している側がその目的を知っていれば立ち入りを認めなかったといえるためです。

 住居侵入罪・建造物侵入罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金です。そして、侵入行為と窃盗行為は手段と目的の関係に立つため、牽連犯(刑法54条1項後段)として、重いほうである窃盗罪の刑で処断されます

 ここで起きているのは、単に罪名が一つ増えたという話ではありません。処断の枠が「6か月以下」ではなく「10年以下」の側に置かれます。加えて、住居に立ち入ったという事実は被害者の生活空間が侵されたという評価につながりやすく、示談でも量刑でも重く見られる傾向があります。「盗ったのは下着一枚」という説明が、当事者の実感としては正しくても手続きの中でそのまま通らない理由の一つがここにあります。

分岐② 一件で終わるか、余罪が出るか


 初犯で一件のみ、という前提が崩れる場面も少なくありません。

 公然わいせつも下着の持ち去りも、同じ行為が繰り返される傾向のある類型とされています。同じ地域や同じ時間帯で複数回行われていれば、目撃情報や防犯カメラの映像が蓄積され、一件の捜査から他の事件へ捜査が広がることがあります。下着の持ち去りでは、自宅から押収された物から、届出のあった他の被害と結びつくこともあります。

 余罪が複数になると、次のような形で見通しが変わります。

  • 身柄を拘束する必要性が高いと判断されやすくなり、逮捕・勾留に至る可能性が上がる
  • 一件ずつ立件され、再逮捕という形で拘束が続くことがある
  • 初犯であっても、略式手続による罰金ではなく、正式に起訴されて公開の法廷で審理される可能性が出てくる


 「初犯だから」という説明は、あくまで立件される事件が一件にとどまる場合の話です。前科がないことと、事件が一件であることは、別のことがらとして扱われます。

分岐③ 示談の相手がいるか、いないか


 処分を左右する要素として示談が挙げられますが、この二つの類型では、示談の位置づけが同じではありません。

 公然わいせつ罪は、特定の個人ではなく社会の性的な秩序を守るための規定と理解されており、法律上は「被害者」が観念されにくい罪です。もっとも実務では、行為を目撃して通報した方が被害者に準じる立場として扱われることが多く、その方への謝罪や被害弁償が処分の判断に影響することがあります。

 これに対して下着の持ち去りは、被害を受けた特定の方が存在します。持ち去られた物そのものの価値は小さくても、自宅の敷地に他人が入った、自分の身に着けるものが持ち出されたという点で、被害者が受ける不安は金額では測れません。示談の話し合いが必要になる場面は多く、同時に、被害者側が接触自体を拒むことも珍しくありません。

 もう一つ実務的な注意点があります。性的な動機が背景にある事件では、捜査機関が被疑者本人に被害者の連絡先を伝えることは、通常ありません。被害者の安全と平穏を確保する必要があるためです。弁護人が就いた場合には、被害者の意向を確認したうえで弁護人限りという条件で連絡先が伝えられることがあり、そこから話し合いが始まります。

 言い換えると、ご本人やご家族が直接被害者を探して謝罪しようとする対応は、事態を悪化させる方向に働きます。証拠隠滅や被害者への働きかけと受け取られれば、身柄拘束の必要性が高いという判断につながりかねません。連絡を取りたいという気持ちは自然なものですが、経路の設計だけは慎重に行う必要があります。

分岐④ 露出の態様によっては、刑法ではなく軽犯罪法になる


 露出行為については、公然わいせつ罪よりさらに軽い枠に振り分けられる場合があります。

 軽犯罪法1条20号は、公衆の目に触れるような場所で、公衆に嫌悪の情を催させるような仕方で、しりやももなど身体の一部をみだりに露出した者を、拘留または科料に処すると定めています。性器の露出や性的な行為そのものは公然わいせつ罪の領域ですが、そこに至らない態様の露出は、この規定で処理されることがあります

 この枠に収まった場合の違いは小さくありません。

  • 刑罰は拘留または科料に限られ、罰金刑は定められていない
  • 公訴時効は1年で、公然わいせつ罪の3年より短い
  • 定まった住居がない場合や、正当な理由なく出頭に応じない場合を除いて、逮捕することができない(刑事訴訟法199条1項ただし書)


 ただし、どちらの枠に入るかは、露出した部位や場所、周囲の状況などを総合して評価されるもので、ご本人が「これは軽いほうだ」と判断できる性質のものではありません。取調べでの説明の仕方によって評価が動く余地もあります。

終わった後に残るもの――罰金と拘禁刑の間にある段差


略式命令の罰金でも前科は残る


 この種の事件では、公開の法廷を開かず書面審理で終える略式手続がとられることがあります。短期間で終わり、法廷に立つ負担もありません。ただし略式命令による罰金も有罪の判断に基づくものですから、前科として記録に残る点は通常の判決と変わりません。「裁判にならなかった」ことと「前科がつかなかった」ことは別です。

公務員の失職ラインは「拘禁刑以上」


 職業への影響という点で、罰金と拘禁刑の間には明確な段差があります。

 公務員の場合、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで、または執行を受けることがなくなるまでの間は、欠格事由に当たると定められています(国家公務員法38条1号、地方公務員法16条1号)。そして在職中にこれに該当した場合は、任命権者の処分を待たずに職を失うことになります(同法76条、地方公務員法28条4項)。執行猶予が付いた場合でも、猶予期間中は欠格事由に当たります

 もっとも、地方公務員については、条例に特別の定めがある場合は例外とされており、失職の特例を設けている自治体もあります。

 ここで先ほどの分岐①が効いてきます。露出行為が公然わいせつ罪の枠にとどまり罰金で終わった場合と、住居に立ち入って下着を持ち去り窃盗罪として拘禁刑(執行猶予付きを含む)が言い渡された場合とでは、身分に及ぶ結果が変わり得るということです。民間企業でも、就業規則の懲戒事由をどう当てはめるかの判断に、この違いが影響することがあります。

公訴時効は罪名で3年と7年に分かれる


 「時間が経てば」と考えて動かずにいる方もいますが、待つ期間は罪名によってかなり違います。

罪名法定刑の上限公訴時効
公然わいせつ罪(刑法174条)6か月以下の拘禁刑3年
住居侵入罪(刑法130条)3年以下の拘禁刑3年
窃盗罪(刑法235条)10年以下の拘禁刑7年
軽犯罪法1条20号拘留・科料1年


 下着の持ち去りは7年です。しかもその間、捜査が始まっていないという保証はありません。防犯カメラの映像や現場に残された痕跡から、時間が経ってから捜査が及ぶこともあります。何も起きていないように見える期間と、捜査が進んでいない期間は、必ずしも一致しません

日本版DBSの確認対象には、現時点では含まれていない


 2026年12月25日に施行されるこども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS)では、学校や保育所などの事業者が、こどもと接する業務に就く方について性犯罪歴の有無を確認する仕組みが始まります。

 確認の対象となる「特定性犯罪」は法律の別表に限定して列挙されており、刑法176条・177条などの不同意わいせつ罪や不同意性交等罪、児童ポルノ法や性的姿態撮影等処罰法の罪などが挙げられています。公然わいせつ罪(刑法174条)と窃盗罪(刑法235条)は、この列挙には含まれていません

 ただし、こども家庭庁が公表している施行準備の資料では、確認対象となる事実の範囲について、下着窃盗やストーカー、不起訴となった事案、懲戒処分などを含めるかどうかが検討事項として挙げられています。現時点で対象外であることと、将来にわたって影響がないことは、同じではありません。

いま不安を抱えている方へ


 行為をしてしまった後、あるいはご家族の逮捕の連絡を受けた後で、まずお伝えしたいことがあります。

  • 撮影データや持ち帰った物を処分するなど、痕跡を消そうとする行動は、後の評価を悪くする方向にしか働きません
  • 被害者の方を自分で探して連絡を取ろうとすることは、避けてください
  • 取調べでは、記憶にないことを認める必要はなく、調書の内容に納得できなければ署名・押印を求められても応じない選択があります


 そのうえで、動くのであれば早いほうが選択肢は広く残ります。捜査機関に発覚する前に自ら申告した場合には、刑を減軽することができるとされていますし(刑法42条1項)、逮捕には理由だけでなく必要性も求められるため、逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを具体的に示せれば、身柄を拘束されずに手続きが進む可能性もあります。

 繰り返してしまう類型でもありますので、再発を防ぐための通院やカウンセリングにつながっているかどうかも、処分の判断において考慮される事情の一つです。ご家族が監督にあたれる状況を整えることも含め、示せる材料は事件の早い段階ほど作りやすくなります。

 当事務所では、初回無料の法律相談を24時間受け付けており、逮捕された方への即日の接見にも対応しています。出頭に弁護士が同行する対応は全国で可能で(移動にかかる費用は別途必要です)、時間帯によってはご相談の当日に動ける場合もあります。

 「大したことではないはずだ」と考えて時間だけが過ぎることも、「もう取り返しがつかない」と決めつけて動けなくなることも、どちらも結果を良くしません。自分がどの分岐に立っているのかを一度整理するだけでも、次にすべきことは見えてきます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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