置き忘れの財布を拾って使った|遺失物横領と窃盗の分かれ目
SNSで知り合った相手が18歳未満だと分かった、あるいはその可能性に気づいた。まだ会っていないし、性的な行為にも至っていない。それでも捜査の対象になることがあるのか。そう考えて、やり取りのどこまでが問題にならないのかを調べておられる方もいると思います。
この点について、2023年7月13日に施行された改正刑法により、会う前のやり取りの段階そのものを対象とする条文が新たに置かれました。都道府県の条例にも、画像の送信を求める行為だけを取り出して禁じる規定があります。「まだ何もしていない」と感じている段階が、条文の上ではすでに別の評価を受けている場合があるということです。
本稿は、SNS上のやり取りがどの法令のどの条文と関係しうるのかを、条文の作りに沿って整理するものです。責任を免れるための説明の組み立て方や、相手の年齢の確かめ方を示すものではありません。実際の見通しは事案の中身によって変わりますので、個別の判断は弁護士にご確認ください。なお、以下の内容は男女を問わず当てはまります。
「どの段階から」という問いの立て方
「どこからが違法になるのか」という問いは、やり取りが進む順番のどこかに一本の線が引かれていることを前提にしています。しかし、条文はそのようには作られていません。
関係しうる法令はそれぞれ別の目的で作られており、線もそれぞれ別のところに引かれています。会うことを求める行為を対象とする条文、画像を求める行為を対象とする条文、実際に性的な行為に至った場合の条文が、互いに独立して並んでいます。一つの行為が同時に複数の条文に触れることもあれば、ある条文の射程を外れていても別の条文には届いていることもあります。
したがって、「まだ会っていない」「まだ触れていない」という事実は、どの線を越えていないかの説明にはなっても、どの線も越えていないことの説明にはなりません。以下では、やり取りが進む順に、それぞれの段階でどの条文が関わってくるのかを見ていきます。
会う前の段階を対象とする条文が置かれている
刑法182条は、16歳未満の者に対する面会要求等の罪を定めています。1項は、わいせつの目的で16歳未満の者に対して一定の方法により面会を要求した者を、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。
相手が13歳以上16歳未満である場合には、行為者が「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」であることが要件に加わります。この年齢差の要件は満年齢の引き算ではなく生年月日どうしの比較で書かれているため、当てはめには注意が必要です。
この条文で押さえておきたいのは、実際に会ったかどうかを問わず、要求した時点で成立しうる形になっているという点です。会う約束が流れた場合や、相手が応じなかった場合であっても、要求という行為そのものが対象とされています。
要求の仕方が三つに書き分けられている
1項は、面会の要求であれば何でも対象とするのではなく、次の三つの方法に限定しています。
・威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること
・拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること
・金銭その他の利益を供与し、又はその申込みもしくは約束をして面会を要求すること
このうち実務で問題になりやすいのが二つ目です。一度断られた後にもう一度会うことを求めるという、やり取りの中ではありふれた場面が、条文の文言としてそのまま置かれています。三つ目についても、交通費や食事代を出すという申し出が「利益」の供与の申込みと評価される余地があります。
実際に会った場合は別の項に移る
1項の罪を犯し、その結果としてわいせつの目的で16歳未満の者と面会した場合には、2項が適用され、法定刑が2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に上がります。会った場所で何かをしたかどうかは、2項の要件そのものには含まれていません。
| 項 | 対象となる行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 1項 | わいせつの目的で、一定の方法により面会を要求すること | 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 2項 | 1項の罪を犯し、よってわいせつの目的で面会をすること | 2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 3項 | 一定の姿態をとってその映像を送信することを要求すること | 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
画像や動画を求める段階を対象とする条文
182条3項は、16歳未満の者に対し、性交等をする姿態や、性的な部位を触りもしくは触られる姿態、性的な部位を露出した姿態などをとってその映像を送信することを要求した者を、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。年齢差の要件は1項と同じです。
ここでも、画像が実際に送られてきたかどうかは要件になっていません。要求した時点で完成する形の条文であり、相手が応じなかった場合でも対象から外れるわけではありません。
3項には手段の限定が置かれていない
1項と3項を並べて読むと、条文の作りに違いがあることが分かります。1項は威迫や利益の供与など三つの手段に限定していますが、3項にはそうした限定がありません。求め方が穏やかであったか、相手が嫌がっていなかったかという事情は、3項の成否そのものを左右する要件としては書かれていないということです。
もう一つ、3項は「姿態をとってその映像を送信すること」という書き方をしています。相手が以前から持っていた画像を送るよう求める行為は、この文言との関係で議論の余地があります。ただし、後で述べるとおり、3項の射程から外れることが問題にならないことを意味するわけではありません。条例や児童ポルノ禁止法が別の要件で置かれているためです。
条例は刑法とは別の線を引いている
東京都青少年の健全な育成に関する条例18条の7は、何人も青少年に対し、その青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めてはならないと定めています。違反した場合の罰則は26条7号により30万円以下の罰金です。
注目すべきは対象の広さです。条例にいう青少年は18歳未満の者であり、刑法182条3項のような年齢差の要件は置かれていません。相手が16歳以上18歳未満であっても、また行為者との年齢が近くても、条例の側では対象になり得ます。
| 項目 | 刑法182条3項 | 東京都条例18条の7 |
|---|---|---|
| 対象となる相手 | 16歳未満(13歳以上は行為者が5歳以上年長の場合) | 18歳未満 |
| 求める内容 | 一定の姿態をとってその映像を送信すること | その青少年に係る児童ポルノ等の提供 |
| 求め方の限定 | 条文上の限定なし | 拒まれたのに求める、又は威迫・欺き・困惑・対償による |
| わいせつの目的 | 1項と異なり要件とされていない | 要件とされていない |
| 罰則 | 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
求め方についても、条例は「拒まれたにもかかわらず求めること」を一つの型として挙げています。刑法182条1項の二つ目の号と発想が共通しており、断られた後にもう一度求めるという行為が、複数の法令で別々に線引きの対象とされていることが分かります。
画像が実際に送られてきた場合
求める段階を超えて画像が送られてきた場合には、児童ポルノ禁止法が関わってきます。18歳未満の者に姿態をとらせたうえでその画像を得た場合は、同法7条4項の製造罪の問題となり、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金が定められています。
また、自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持し、または電磁的記録を保管した場合には、同法7条1項により1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています。相手がもともと持っていた画像を受け取った場合であっても、この規定との関係は残ります。
なお、条例がこうした要求行為を独立に禁じているのは、児童ポルノ禁止法の製造罪に未遂を処罰する規定がなく、画像が送られてこなければ同法では捉えられないという事情が背景にあります。段階ごとに空白が生じないよう、複数の法令が重なり合う形で組まれているということです。
出会い系サイト規制法はどこを捉えているのか
いわゆる出会い系サイト規制法は、インターネット異性紹介事業を利用して児童を性交等の相手方となるように誘引する行為などを禁じており、違反には100万円以下の罰金が定められています。名称から、ネット上で未成年者に声をかける行為全般を対象とする法律だと受け取られることがあります。
しかし、警察庁が示している解釈基準は、この点について踏み込んだ説明をしています。同法にいう「利用して」とは、異性交際に関する情報を公衆が閲覧できる状態に置いて伝達することを指すとされ、書き込みを見た側がその書き込んだ者に対して個別にメッセージを送ったとしても、同法にいう「利用して」には当たらないとされています。
つまり、公開の場に書き込む側を捉える規定であり、それを見て個別にやり取りを始めた側は、この法律の射程には入りにくいということです。この空白を埋める位置にあるのが、先に述べた刑法182条や条例の規定だと理解しておくと、条文どうしの関係が整理しやすくなります。
会うところまで進んだ場合に重なってくるもの
実際に会い、性的な行為に至った場合には、これまで述べた条文に加えて別の法令が重なります。相手の年齢と行為の内容によって、関わる条文が変わります。
| 相手と行為 | 問題になりうる主な法令 |
|---|---|
| 16歳未満との面会の要求・面会 | 刑法182条1項・2項 |
| 18歳未満に対する画像の送信の要求 | 刑法182条3項、東京都条例18条の7 |
| 18歳未満の画像の受領・保存 | 児童ポルノ禁止法7条4項・7条1項 |
| 16歳未満との性的な行為 | 刑法176条3項・177条3項 |
| 16歳以上18歳未満との性的な行為 | 東京都条例18条の6、対償があれば児童買春 |
このほか、深夜に連れ出した場合の条例上の規定や、未成年者略取誘拐の規定、拒まれた後も連絡を続けた場合のストーカー規制法の規定なども、事案によっては関わってきます。
年齢の認識はやり取りの記録から判断される
これらの条文の多くは、相手が一定の年齢未満であることの認識を前提としています。そのため、捜査では「知らなかった」という説明の当否が争点になりやすいところです。
この点の判断材料になるのは、当のやり取りの記録そのものです。相手が学校や学年について述べていたか、時間帯や行動の説明が在学中の生活とどう整合するか、送られた画像に制服や学校に関する物が写っていなかったか。そうした事情が積み重ねられて認識の有無が判断されます。
また、年齢を知らなかったことの扱いは法令ごとに設計が異なります。刑法には年齢の不知に関する特別の規定が置かれていない一方、条例には規定が置かれているものがあり、その条文の列挙のされ方も条例ごとに違います。同じ「知らなかった」という説明でも、どの条文で問われているかによって意味が変わるということです。
「相手から誘われた」「同意していた」という説明
相手の側から連絡が来た、相手が積極的だった、嫌がっていなかった。こうした事情が説明されることは少なくありません。
もっとも、これまで見てきた条文は、相手が一定の年齢未満であることを理由として、同意の有無にかかわらず一定の行為を対象とする作りになっています。相手の側の言動は、事実関係を明らかにする材料にはなりますが、それ自体で条文の要件を打ち消すものとして書かれてはいません。
また、条例には、違反した者が青少年である場合には罰則を適用しないという規定が置かれています。相手の側も同じ立場に立つという前提で説明を組み立てると、実際の条文の作りとずれが生じることになります。
やり取りの記録はどう扱われるか
SNS上のやり取りは、この種の事案でほぼ中心的な証拠になります。端末を任意提出したり差し押さえられたりした場合、削除した履歴が復元されることもありますし、相手方の端末や事業者側に記録が残っていることもあります。
このため、記録を消すことは、こちらの説明を裏づける材料を失わせるだけでなく、証拠を隠す行為とみなされて身柄の拘束につながる方向に働くことがあります。相手方やその家族に直接連絡を取ることも、同じように評価される可能性があります。連絡が来た段階では、記録をそのまま残し、自分から動く前に弁護士に相談されることをおすすめします。
連絡が来た段階で整理しておきたいこと
警察から連絡があった、あるいは相手方や保護者から連絡が来たという段階では、次の点を落ち着いて整理しておくと、相談が具体的になります。
・どの機関から、どのような名目で連絡が来たのか
・相手の年齢について、いつ、どのような形で情報を得ていたか
・会う約束をしたか、実際に会ったか、その日時と場所
・画像や動画のやり取りがあったか、その方向と時期
・金銭や物のやり取り、その申し出があったか
・端末やアカウントについて、提出や開示を求められているか
弁護士に確認できること
弁護士に相談する場面では、次のような点を確認できます。
・どの法令のどの条文で問題とされている可能性が高いか
・要求の段階で完成する条文と、結果を要する条文のどちらが中心か
・取調べや任意提出を求められた場合に、どう対応するか
・相手方や保護者との対応を代理人に委ねる場合の進め方
・在宅で進む場合と身柄を取られる場合とで、見通しがどう変わるか
まとめ
・「どの段階から」という線は一本ではなく、法令ごとに別々に引かれている
・刑法182条は、会う前の要求の段階と、画像を求める段階をそれぞれ対象としている
・182条1項は手段を三つに限定しているが、3項にはその限定がない
・東京都条例18条の7は18歳未満を対象とし、年齢差の要件を置いていない
・画像が送られてきた場合には児童ポルノ禁止法の製造罪や所持罪が問題になる
・出会い系サイト規制法は公開の場への書き込みを捉える規定であり、個別のやり取りとは射程が異なる
・年齢の認識は、やり取りの記録の中身から判断される
条文が複数の段階に置かれている以上、「まだそこまで進んでいない」という感覚と、条文上の評価とは一致しないことがあります。連絡が来た段階、あるいは心当たりがある段階で、どの条文との関係が問題になりうるのかを早めに整理しておくことが、その後の対応の幅を広げます。当事務所では、この種のご相談を数多くお受けしています。ひとりで判断される前に、まずはご相談ください。


