児童福祉法違反と児童買春はどちらで立件されるのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

18歳未満の相手との性的な行為が問題になったとき、捜査の場面で出てくる罪名は一つではありません。児童福祉法違反、児童買春、青少年保護育成条例違反。どれも同じような出来事を指しているように見えるのに、定められている刑の重さは大きく違います。

この記事は、そのうち児童福祉法違反、すなわち児童に淫行をさせる行為と、児童買春とがどこで分かれるのかを、条文の作りと判例・学説の議論からたどるものです。よく見かけるのは「対価を渡したかどうかで決まる」という説明ですが、この整理は児童福祉法との関係では十分ではありません。

なお、本稿は罪名を軽いほうに寄せるための説明の作り方を扱うものではありません。どちらの規定に当たる場合であっても重い処分の対象であり、経過を後から組み立て直すことは、かえって不利に働く場面があります。以下は、いま何が問題とされているのかを把握するための整理としてお読みください。

二つの規定は同じ場面を別の角度から捉えている


まず、それぞれの条文が何を禁じているのかを並べます。

法令禁じている行為定められている刑
児童福祉法34条1項6号児童に淫行をさせる行為10年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科(60条1項)
児童買春・児童ポルノ禁止法4条対償を供与し、又はその供与の約束をして、児童に対し性交等をすること(2条2項)5年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
青少年保護育成条例の淫行処罰規定青少年とのみだらな性交又は性交類似行為2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金とする自治体が多い


いずれも「児童」「青少年」は満18歳に満たない者を指します(児童福祉法4条、児童買春・児童ポルノ禁止法2条1項)。男女の区別はなく、男児も保護の対象です。

同じ18歳未満を守ろうとしながら、刑の上限には5倍の開きがあります。この差がどこから生まれているのかが、本稿の主題です。

児童買春罪は「対償」を軸に組み立てられている


児童買春罪の条文は、行為者と児童がどういう関係にあるかを問いません。要件になっているのは、対償を渡したか、あるいは渡す約束をしたか、そのうえで性交等をしたか、という点です。

そのため、その日に知り合ったばかりの相手であっても成立します。裏を返せば、この条文は一回の性的行為と、それに向けられた見返りという単位で組み立てられています。

児童福祉法34条1項6号は「させる行為」を軸に組み立てられている


これに対し、児童福祉法34条1項6号が禁じているのは「児童に淫行をさせる行為」です。対償は要件に入っていません。

ここで見落とされやすいのが、条文の主語です。34条1項の柱書は「何人も、次に掲げる行為をしてはならない」となっており、教師や雇用主といった立場にある者に対象を限る文言は、条文には置かれていません。解説では「本来なら児童を守るべき立場にある大人」という言い方がよく使われますが、それは条文上の限定ではなく、あとで見る判断の中で関係が重く働くという実務の姿を言い換えたものです。

自分が相手方になった場合も含まれる


「させる」という言葉からは、第三者を相手にさせる場面が思い浮かびます。この規定はもともと、児童に売春をさせる行為を処罰する趣旨で設けられたもので、かつては第三者を相手方とする類型に限られると解されていました。自ら相手方となった場合には適用がないとした裁判例もあります。

しかし最高裁は、条文の文言のうえでは行為者自身が相手方となる場合も除かれていないことなどを理由に、行為者が自分を相手方として児童に淫行をさせる行為もこの規定に含まれると判断しました(最高裁平成10年11月2日決定)。

したがって、「第三者にあっせんしたわけではないから児童福祉法の話ではない」という理解は、現在の実務では通りません。

最高裁が示した判断の枠組み


では「淫行」と「させる行為」はどう判断されるのか。最高裁平成28年6月21日決定は、次の枠組みを示しました。

・「淫行」とは、児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいう
・児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交等も、これに含まれる
・「させる行為」とは、直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして、児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいう

そして「させる行為」に当たるかどうかは、行為者と児童の関係、助長・促進行為の内容と児童の意思決定に対する影響の程度、淫行の内容と淫行に至る動機・経緯、児童の年齢、その他その児童が置かれていた具体的な状況を総合して判断するとされています。暴行や脅迫を用いたことは要件になっていません。

この枠組みだけでは、二つの罪が重なってしまう


ここに、あまり語られない問題があります。

対償を渡して性交等をする行為は、児童の判断に働きかけて性的行為を後押ししている点で、右の「事実上の影響力を及ぼして助長し促進する行為」という説明にそのまま当てはまってしまいます。つまり、この枠組みを文言どおりに当てはめると、児童買春罪に当たる行為はすべて児童福祉法違反にも当たることになり、より軽い児童買春罪をわざわざ置いた意味が失われてしまいます

この点は以前から刑法学で指摘されてきたところで、条例の淫行処罰規定との間にも同じ問題が生じます。「どちらで立件されるのか」が、条文と最高裁の枠組みを読むだけでは答えの出ない問いになっているのは、そのためです。

議論されている分かれ目は、影響力の「性質」


学説では、児童福祉法34条1項6号が及ぶ範囲を限る考え方がいくつか示されています。

・雇用関係、身分関係、親子関係など、優越的な地位の利用や困窮状態の利用といった支配関係がある場合に限るとする見解
・親子や養親子、教師と教え子のように、児童の人格形成に関わる依存関係があり、その関係を用いて淫行に至った場合に限るとする見解

いずれも、行為者と児童の関係に着目している点は共通しています。さらに近年は、影響力の強さではなく、その影響力が一回限りのものか、それとも関係が続くかぎり効き続ける性質のものかという点で区別すべきだとする整理も示されています。

対償は、通常はその一回の行為に向けられたものです。これに対し、住まいや生活を握られている、学校や職場での評価を握られているといった関係から生じる圧力は、その関係が解消されないかぎり続きます。ここに違いを見る、という考え方です。

刑の重さの違いは何を映しているのか


三つの規定は、児童の心身の健全な育成を守ろうとする点では共通しています。学説には、その共通の保護をどれだけ損なうおそれがあるかという物差しで、条例の淫行処罰規定、児童買春罪、児童福祉法違反の順に重くなっていると整理する見方があります。

その見方によれば、性的な行為について自分で適切に判断する力がまだ育っていない段階で行為に及ばせることは、そのときの被害にとどまらず、将来にわたって自分で判断するための土台を損なうおそれを生みます。そして、行為者からの働きかけが続く性質のものであるほど、同じことが繰り返されるおそれも高まり、その分だけ損なわれる度合いも大きくなる、と説明されます。

刑の上限が2倍になっているのは、行為の見た目の激しさではなく、こうした関係の続き方が想定されているからだ、という理解です。もっとも、これは条文に書き込まれた区別ではなく、条文と裁判例をつなげて説明するために示されている整理であることには、留意が必要です。

対償を渡していても児童福祉法違反となった例がある


この整理が実務でどう現れるかを示すのが、対償が介在しているのに児童福祉法違反として処理された裁判例です。

たとえば、児童が行為者のもとで生活を続けるためには求めに応じるほかない状況に置かれていた事案では、生活費や小遣いが渡されていた事実がありながら、単なる取引と見ることはできないと判断されています。また、それ以前の行為が知られることを恐れて困惑していた児童に対し、現金を渡す約束をして性交させた事案でも、児童福祉法違反の成立が認められています。

「対価を渡したから児童買春、渡していないから条例」という三分法は、児童福祉法との関係では成り立ちません。金銭のやり取りがあったかどうかは、罪名を決める最後の決め手にはならないのです。

見られているのは、承諾に至るまでに何が働いたか


逆向きの裁判例もあります。現金を渡す約束をして性交した事案について、児童買春罪の成立を認めたものです。

この二つを並べると、分岐点の位置が見えてきます。児童が応じるという判断をするまでの過程で、働いていたのが対償の申し出だけだったのか、それとも関係から生じる別の圧力もあったのか。そこが見られている、という読み方です。

気をつけたいのは、これは行為そのものの態様がどれだけ悪質かという話とは別だという点です。行為に及んだ後の事情がどれほど重いものであっても、承諾に至るまでに働いたものが対償だけであれば、児童買春罪の枠で処理されることがあります。その逆もまた同じです。

「どちらで立件されるか」は訴因の組み立てとして現れる


実際の事件では、この問題は「両方成立するがどちらが優先するか」という形ではなく、検察官がどの罪名で訴因を組み立てるかという形で現れます。

同じ人が複数の児童と関わっていた事案で、児童ごとに罪名が分かれて構成されることもあります。関係の中身が児童ごとに違えば、当てはまる規定も変わりうるからです。

そのため、捜査がどちらに向かっているのかは、外からは見えにくいまま進みます。取調べで何を重ねて聞かれているかが、手がかりの一つになります。金銭の額や渡した時期ばかりを問われているのか、それとも相手との出会い方、そこからの付き合いの長さ、生活や学校での関わりを問われているのか。聞かれている事柄は、捜査機関がどの要件を確かめようとしているかを映しています。

また、当初は一方の罪名で手続が始まっても、事情が明らかになるにつれて構成が見直されることもあります。最初に告げられた罪名が、その後もそのまま続くとはかぎりません。

どちらになるかで何が変わるか


項目児童福祉法34条1項6号児童買春罪
定められている刑の上限10年以下の拘禁刑5年以下の拘禁刑
拘禁刑と罰金の併科定めがある定めがない
公訴時効自分を相手方とする類型は12年5年
年齢を知らないことの扱い60条4項という規定が置かれている対応する規定が置かれていない


刑の上限は2倍、公訴時効の長さも大きく違います。処分の見通しも、身体拘束の期間の見込みも、この差の上に立って考えることになります。

「18歳未満とは知らなかった」の扱いも同じではない


年齢を知らなかったという説明は、どちらの規定でも出てくるものですが、条文の作りは同じではありません。

児童福祉法には60条4項が置かれ、児童を使用する者は児童の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができない、ただし過失のないときはこの限りでない、とされています。これに対し、児童買春・児童ポルノ禁止法にも同じ趣旨の規定はあるのですが、そこに児童買春罪の条文は挙げられていません

同じ「知らなかった」という説明でも、どの規定で問われているかによって、争われるのが認識なのか、それとも過失なのかが変わってくるということです。

どちらにも当たらないとされた場合に残るもの


対償がなく、関係から生じる続き物の影響力も認めがたいとされた場合でも、それで終わりということにはなりません。

・各都道府県の青少年保護育成条例の淫行処罰規定
・相手が16歳未満である場合の刑法176条・177条
・相手が16歳未満である場合の刑法182条、すなわち面会や映像送信の要求に関する罪
・撮影や画像の保存があった場合の児童ポルノに関する各罪

罪名が軽いほうに移ることは、問題が小さくなることを意味しません。

連絡が来た段階で整理しておきたいこと


捜査機関から連絡があった段階では、次のような点を時系列で思い出せる形にしておくと、見通しが立てやすくなります。

・相手とどのように知り合い、どのくらいの期間、どういう関わりがあったか
・学校、職場、住まい、家庭など、生活の面での関わりがあったか
・金銭や物のやり取りがあったか、あったとすればどういう名目だったか
・相手が置かれていた状況について、どこまで把握していたか
・すでに何を聞かれ、それにどう答えたか

なお、記録を消したり、相手やその家族に連絡を取ったりすることは、事実の解明を妨げる行動として重く受け止められうるため、避けてください

弁護士に確認できること


・いま自分が問われているのが、どの規定なのか
・関係の中身が、どちらの規定に向かう事情として見られやすいか
・その見立てのもとで、身体拘束や処分の見通しがどうなるか
・被害を受けた児童とその保護者への対応をどう進めるか
・取調べで聞かれている事柄が、どの要件に対応しているのか

まとめ


・児童福祉法34条1項6号と児童買春罪は、要件を組み立てている軸そのものが違う
・分かれ目は金品を渡したかどうかではなく、児童の判断に何が働いたか
・最高裁の枠組みをそのまま当てはめると二つが重なるため、実務では影響力の性質が問われる
・対償が介在していても、児童福祉法違反として処理された裁判例がある
・自分が相手方だから「させる行為」に当たらない、という説明は通らない
・どちらになるかで、刑の上限も公訴時効も、年齢の不知の扱いも変わる

18歳未満の相手をめぐる事件では、一つの出来事に複数の規定が重なります。どの規定で問われているのかによって、争点も見通しも変わってきます。捜査機関から連絡があった段階で、まず自分がどの位置に置かれているのかを確かめておくことが、その後の判断の土台になります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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