交際中・夫婦間でも成立するのか|継続的関係と同意の推認
出会った相手から「二十歳です」「もう働いています」と聞かされていた。ところが後日になって警察から連絡が入り、相手は十八歳未満だったと告げられる。児童買春の疑いをかけられた方からのご相談では、こうした経緯をうかがうことが少なくありません。
このとき多くの方が最初に口にされるのが、「年齢を偽られていた」という一言です。ただ、この一言がそのまま結論につながるかというと、そう単純ではありません。相手の申告は判断の材料のひとつではあっても、それだけで結論が決まる材料ではないからです。
この記事では、児童買春事件で「相手の年齢を知らなかった」という言い分がどのように扱われるのかを、条文の作りに沿って整理します。捜査機関への説明の組み立て方をお示しするものではなく、いま何が問題になっているのかを把握していただくための内容です。
まず、どの条文で問われているのかを確かめる
児童買春を処罰しているのは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律、いわゆる児童買春・児童ポルノ禁止法です。同法にいう「児童」とは十八歳に満たない者を指し、性別は問いません。
同法二条二項は、対償を供与し、またはその供与の約束をして、児童に対し性交等をすることを児童買春と定めています。対償の渡し先は児童本人に限られておらず、性交等の周旋をした者や、児童の保護者などに渡した場合も含まれる書き方になっています。罰則は五年以下の拘禁刑または三百万円以下の罰金です。
年齢の話に入る前に、どの法令のどの条文で疑いを向けられているのかを確かめておくことをおすすめします。後で述べるとおり、同じ「年齢を知らなかった」という言い分でも、条文によって扱われ方が変わるためです。
児童買春罪は、相手が十八歳未満であるという認識を要する
刑法三十八条一項は、罪を犯す意思がない行為は罰しないと定めています。過失を処罰するには、そのための規定が別に置かれている必要があります。
児童買春・児童ポルノ禁止法四条には、過失で児童買春をした場合を処罰する規定は置かれていません。したがって、相手が十八歳未満であるという認識がないまま性交等に及んだ場合、児童買春罪は成立しません。その意味で、「年齢を偽られていた」という経緯は、法律上まったく無関係な事情というわけではありません。
ここで認識の対象となっているのは、相手が十八歳未満であるという点です。相手の正確な年齢まで分かっていた必要はありません。十七歳だと思っていた相手が実際には十五歳だった、という食い違いがあっても、十八歳未満であるという認識自体は失われないという整理になります。
もっとも、ここから先が実際の事件で争いになるところです。
求められる認識の程度は、確信までは必要とされていない
認識といっても、相手が十八歳未満だと言い切れる状態にあったことまでが求められているわけではありません。実務上は、十八歳未満かもしれないと思いながら、それでもかまわないという心理状態であった場合にも、故意があったものとして扱われています。いわゆる未必の故意です。
このため、「はっきりとは知らなかった」ということと、「認識がなかった」ということは、同じ意味にはなりません。取調べでは、この二つの違いを意識しないまま答えてしまい、後から供述の意味づけをめぐって争いになることがあります。
「知らなかった」の扱いは、法令ごとに設計が違う
十八歳未満の相手との性的な行為に関する法令には、年齢を知らなかったことの扱いについて明文を置いているものと、置いていないものがあります。明文があるかどうかで、争点そのものが変わります。
| 法令・条文 | 年齢の不知に関する明文 | 争点になるもの |
|---|---|---|
| 児童買春・児童ポルノ禁止法四条(児童買春) | 置かれていない | 認識があったかどうか |
| 同法五条から八条(周旋・勧誘・提供等) | 同法九条に規定あり | 過失がなかったかどうか |
| 児童福祉法三十四条一項六号(児童に淫行をさせる行為) | 同法六十条四項に規定あり | 過失がなかったかどうか |
| 東京都青少年の健全な育成に関する条例十八条の六(みだらな性交等) | 同条例二十八条の列挙に含まれていない | 認識があったかどうか |
| 刑法百七十六条三項・百七十七条三項(十六歳未満) | 置かれていない | 認識があったかどうか |
同じ「知らなかった」でも、どの条文で問われているかによって、認識の有無が問題になるのか、確認を怠らなかったかどうかが問題になるのかが変わります。
同じ法律の中でも、児童買春罪は扱いが分かれている
児童買春・児童ポルノ禁止法九条は、児童の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れることはできない、ただし過失がないときはこの限りでない、という趣旨の規定です。
注意していただきたいのは、この規定が及ぶ範囲です。条文が挙げているのは五条、六条、七条二項から八項まで、および八条であり、児童買春そのものを処罰する四条は挙げられていません。さらに、この規定の主語は「児童を使用する者」とされており、児童を雇い入れて働かせているような立場の者が想定されています。
つまり、児童買春の疑いを向けられた側については、原則どおり認識の有無が問題になります。「児童買春なら年齢を知らなくても処罰される」という説明を見かけることがありますが、条文の作りはそうなっていません。ただしこれは、知らなかったと述べれば済むという意味ではなく、認識があったかどうかが正面から調べられるという意味です。
条例は、都道府県ごとに作りが違う
対償のやり取りがなかった場合には、各都道府県の青少年保護育成条例が問題になります。この条例についても、年齢を知らなかったことの扱いは自治体ごとに異なります。
東京都の条例では、二十八条が年齢の不知による免責を否定していますが、そこに挙げられているのは図書類や深夜の立入りなどに関する規定であり、みだらな性交等を禁じた十八条の六は挙げられていません。大阪府の条例にも同様の規定がありますが、挙げられている条文の中身は東京都とは異なります。
したがって、条例違反なら年齢を確かめなかったというだけで処罰される、と一般化することはできません。どの都道府県の条例が適用される事案なのかによって、争点の置きどころが変わります。
「偽られた」という事実は、三つの場面で別々に評価される
相手が年齢を偽っていたという出来事は、事件の中で一度だけ評価されるわけではありません。次の三つの場面で、それぞれ違う意味を持ちます。
・相手が十八歳未満であるという認識があったといえるかどうかを判断する場面
・過失がなかったといえるかどうかを判断する場面。年齢の不知に関する明文がある条文で問われている場合に問題になります
・処分や量刑を決めるにあたって、事件の経緯をどう見るかという場面
同じ一つの事実が、場面ごとに違う重みで受け止められます。どの場面の話をしているのかを取り違えると、説明がかみ合わなくなります。
相手の申告以外に、どのような事情が見られるのか
認識の有無は、本人の供述だけで判断されるものではありません。知り合った経緯、やり取りの内容と続いていた期間、待ち合わせの場所や時間帯、当日の会話、行為の後の言動といった事情が、あわせて検討されます。
相手が年齢を偽っていたという事実があっても、他の事情がそれと食い違う方向を示している場合には、認識が否定されるとは限りません。逆に、当時の状況の全体が申告の内容と自然に結びついている場合には、その申告は意味を持ちます。
いずれにしても、判断の材料になるのは当時の状況の全体であって、相手の言葉ひとつではありません。
年齢を確かめなかったことが、どう受け取られるか
年齢について尋ねなかった、あるいは相手の説明をそれ以上確かめなかったという経緯は、事案によって受け取られ方が変わります。
「聞いていないのだから知らない」という説明が、そのまま認識の否定につながるとは限りません。十八歳未満ではないかという疑いを持ちながら、あえて確かめずに進んだと受け取られた場合には、かえって未必の故意を基礎づける事情として扱われることがあるためです。
この点は、取調べでも掘り下げられやすいところです。何をどこまで気にしていたのかという内心にかかわる問いが続くため、答え方によっては意図しない意味づけをされることがあります。
年齢の点だけを争うということの意味
年齢の認識だけを争う場合、その姿勢が事件全体の中でどう読まれるかも考えておく必要があります。
児童買春罪は、対償の供与または供与の約束と、性交等という要素から成り立っています。年齢の点だけを争うという立て方は、それ以外の要素については前提にしている、と受け取られることがあります。
一方で、事実と違うことを認める必要はありません。どこを争い、どこを争わないのかは、集まっている資料の内容、相手方の言い分、事件の見通しとあわせて決めるべき事柄です。この判断を、警察から連絡を受けた直後にご自身だけで組み立てるのは負担が大きいところです。
児童買春罪が成立しない場合でも、残る問題がある
年齢の認識が認められず児童買春罪が成立しない場合でも、それで話が終わるとは限りません。相手の年齢と対償の有無によって、問題になる法令は移り変わります。
| 相手の年齢 | 対償 | 問題になりうる主な法令 |
|---|---|---|
| 十三歳未満 | 有無を問わない | 刑法百七十六条三項・百七十七条三項 |
| 十三歳以上十六歳未満で行為者が五年以上前に生まれている | 有無を問わない | 刑法百七十六条三項・百七十七条三項 |
| 十六歳以上十八歳未満 | あり | 児童買春・児童ポルノ禁止法四条 |
| 十六歳以上十八歳未満 | なし | 各都道府県の青少年保護育成条例 |
どの枠で問われるかによって、年齢の不知の扱いも法定刑も変わります。撮影や画像の保存があった場合には、さらに別の規定が重なることもあります。
連絡が来た段階で整理しておきたいこと
警察から連絡があった段階では、次の点を落ち着いて整理しておくと、その後の相談が進めやすくなります。
・どの法令のどの条文について聞かれているのか
・いつの、どの出来事についての話なのか
・相手の年齢について、いつ、どのような説明を受けていたのか
・そのやり取りが残っている媒体は何か
・これまでに誰に、どこまで話しているか
なお、やり取りの記録を消したり、相手方に連絡を取ろうとしたりする行動は、証拠隠滅と受け取られて不利に働くことがあります。判断に迷う段階では、動く前に相談されることをおすすめします。
弁護士に確認できること
年齢の不知が問題になる事件では、次のような点を弁護士に確認できます。
・どの条文で疑われていて、争点が認識なのか過失なのか
・「知らなかった」という説明が、当時の他の事情と整合しているか
・争う場合と争わない場合とで、見通しがどのように変わるか
・取調べで何を聞かれることが想定され、どのような点に注意すべきか
・児童側との対応をどのように進めるべきか
事案の中身を見ないまま方針を決めることは避けたほうがよいため、早い段階で事情を整理して相談されることをおすすめします。
まとめ
この記事の内容を整理します。
・児童買春罪は、相手が十八歳未満であるという認識がなければ成立しない
・ただし認識は確信である必要はなく、未必の故意でも足りるとされている
・年齢の不知の扱いは法令ごとに設計が違い、認識が問題になる条文と過失が問題になる条文がある
・児童買春・児童ポルノ禁止法九条の列挙に四条は含まれておらず、主語も「児童を使用する者」とされている
・条例の作りは都道府県ごとに異なり、一般化はできない
・「偽られた」という事実は、故意、過失、情状という三つの場面で別々に評価される
「年齢を偽られていた」という経緯は、事件の見通しを左右しうる事情です。もっとも、それが結論に結びつくかどうかは、当時の状況の全体と、どの条文で問われているかによって変わります。ご自身の記憶が新しいうちに事情を整理し、弁護士とともに見通しを立てておくことが、その後の対応の助けになります。


