エスカレーター・階段での撮影|撮影罪の典型類型と立証

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

エスカレーターや階段での撮影は、いわゆる盗撮の典型例として語られることが多い場面です。ただ、実際にどの規定で問題になるのかを決めているのは、場所そのものではありません。何が写っていたのか、どのような態様で撮ったのか。この二つが、当てはまる条文を分けています。

この記事は、エスカレーターや階段での撮影がどの規定のどの部分に当たると評価されるのか、そしてその評価がどのような材料をもとに行われるのかを整理したものです。個別の事件の結論を示すものではなく、話の枠組みを確かめるための見取り図としてお読みください。

撮った側と指摘した側のどちらかに立場を限定した内容ではありません。用語や条文の意味を確認したい方に向けて書いています。

この記事が想定している場面


次のような場面を念頭に置いています。

・駅や商業施設のエスカレーターで、後ろから機器を向けたと指摘された
・階段の下の位置から撮影したのではないかと言われた
・その場で駅員や警察官から事情を聞かれ、機器の中を確認された
・後日になって警察から連絡があり、当時のことを尋ねられた

なお、後からどのように人物が絞り込まれるのか、身柄がどう扱われるのか、申告した方とのやり取りをどう進めるのかは、それぞれ別の解説で扱っています。ここでは、成立し得る規定と、その判断に使われる材料に絞って説明します。

場所が罪名を決めているわけではない


エスカレーターや階段での撮影について、都道府県の条例違反として説明されている記事を見かけることがあります。ただ、令和五年七月十三日に性的姿態撮影等処罰法が施行され、性的姿態等撮影罪という全国共通の規定が置かれました。現在は、この法律と各都道府県の条例の両方が、撮影行為に関する規定を持っています。

性的姿態等撮影罪の法定刑は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金と定められています。条例の罰則は都道府県ごとに異なります。

どちらの規定で扱われるのかは、エスカレーターだから、階段だから、という場所の区別では決まりません。次に見るように、撮影罪の側が対象を限定して定めているためです。

撮影罪が対象としている姿態は限定されている


性的姿態等撮影罪が対象としているのは、条文上、次のものです。

・人の性的な部位。性器、肛門、これらの周辺部、臀部、胸部を指します
・人が身に着けている下着のうち、現に性的な部位を直接または間接に覆っている部分
・わいせつな行為や性交等がされている間における人の姿態

下着については、通常衣服で覆われており、かつ性的な部位を覆うのに用いられるものに限る、という限定が置かれています。さらに、そのうち現に性的な部位を覆っている部分、という限定が重ねられています。下着が写っていればどれでも当たる、という書き方にはなっていません。

対象から外れる姿態も定められている


条文には、対象から除かれるものも書かれています。人が通常衣服を着けている場所において、不特定または多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し、またはとっているものは除かれます。除かれた後に残るものが、条文上「対象性的姿態等」と呼ばれています。

エスカレーターや階段での撮影が典型例として挙げられるのは、この除外が働きにくい場面だからです。段差のある構造では、通常の視線からは見えない位置に機器を置くことができます。そこに写るものは、本人が人の目に触れることを認識したうえで自ら見せているものとは考えにくい、という整理になります。

四つの類型のうち、この場面で問題になりやすいもの


撮影罪は、撮影の態様や方法を四つに分けて定めています。法務省の説明では、次のように整理されています。

類型この場面での位置づけ
正当な理由がないのに、ひそかに撮影する行為エスカレーターや階段での撮影が問題になるのは、主にこの類型です
同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態にさせ、またはその状態を利用して撮影する行為通行中の場面で単独で問題になることは多くありません
性的なものではない、特定の者しか見ないなどと誤信させて撮影する行為同じく、この場面で単独に問題になることは多くありません
正当な理由がないのに、十六歳未満の者を撮影する行為相手の年齢によっては、重ねて検討されることがあります


四つ目の類型については、十三歳以上十六歳未満の方が相手の場合、撮影した側が五歳以上年長であるときに対象となります。

「ひそかに」は撮影の態様を指している


一つ目の類型にある「ひそかに」は、撮影されることを相手に知られないような態様を指すものと説明されています。撮影する側の内心だけを問うのではなく、外から見て分かる撮り方を問題にしている点が特徴です。

そのため、撮影の途中や直後に相手が気づいたという事情があっても、それによって「ひそかに」という評価が当然に消えるわけではありません。気づかれる前の段階で、どのような態様で機器が向けられていたのかが検討されることになります。

「正当な理由がないのに」という要件


ひそかに撮影する類型には、「正当な理由がないのに」という要件が置かれています。法務省の説明では、医師が救急搬送された意識不明の患者の姿を医療上のルールに従って撮影する場合などが、正当な理由がある場合の例として挙げられています。

例として示されているものの性質からも分かるように、この要件は、日常的な撮影の多くを広く逃がすために置かれたものではありません。

何が写っていたかで、当たる規定が分かれる


ここまでを踏まえると、同じエスカレーターでの撮影でも、影像の内容によって検討される規定が変わることが分かります。

影像に写っていたもの主に検討される規定
性的な部位、または下着のうち現に性的な部位を覆っている部分性的姿態等撮影罪
通常衣服で隠されている下着や身体で、上に当たらないもの都道府県の条例の撮影に関する規定
着衣のままの姿で、隠されている部分が写っていないもの条例の他の規定に当たるかどうかが検討されます


これは、上から下に向かって軽くなっていくという意味ではありません。どの規定で扱われるかが変わるという話であり、行為の評価や、申告した方との関係で生じる問題がなくなるわけではありません。

東京都の条例が撮影について定めていること


東京都の条例では、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような行為として、通常衣服で隠されている下着または身体を機器を用いて撮影することが挙げられています。対象となる場所も条文に書かれており、住居、便所、浴場、更衣室のような場所と、公共の場所、公共の乗物、学校、事務所などが分けて示されています。

撮影罪と違い、条例は都道府県ごとに内容が定められています。同じ行為でも、どの都道府県で起きたかによって条文の書き方が異なる点には注意が必要です。

立証の中心が影像そのものになる理由


エスカレーターや階段での撮影では、影像そのものが検討の中心になります。理由は二つあります。

一つは、影像が行為が行われたことを示す記録であるという点です。もう一つは、影像の内容が、条文の要件に当たるかどうかを判断する材料そのものになっているという点です。前に見たとおり、条文は写っている対象を細かく限定しています。したがって、何がどの範囲で写っているのかを見ないと、そもそもどの規定の問題なのかが決まりません。

角度、写っている範囲、写っている時間の長さは、いずれもこの判断に関わってきます。撮影した側の記憶と、実際に残っている影像の内容が食い違うことも、実務ではしばしばあります。

「顔が写っていない」という説明が向かっている先


相談の場面でよく聞かれるのが、顔が写っていないから相手が誰か分からないはずだ、という説明です。ただ、この説明が向かっているのは、条文に当たるかどうかという論点ではありません。

条文は、顔が写っていることを要件にしていません。顔が写っているかどうかは、申告した方を特定できるか、という別の論点に関わる事情です。二つは分けて考える必要があります。

影像のほかに参照されるもの


影像だけで話が完結するわけではありません。次のようなものが併せて見られます。

・機器の操作に関する記録
・その場に居合わせた方の説明
・現場でのやり取りの内容
・駅や施設が保有している記録
・本人が述べた説明と、これらとの整合

このうち、機器の中身がどこまで調べられるのか、施設側の記録がどのような手続で捜査機関に渡るのかについては、それぞれ別の解説で扱っています。

説明するときに起きやすい行き違い


この場面では、次のような行き違いが起こりやすくなります。

・後ろ姿を撮っただけと説明したものの、残っている影像の内容と合わない
・相手が気づいていたのだから「ひそかに」には当たらないはずだと考える
・撮れていなかったのだから何も起きないと考える
・その場で削除したことを、記録がなくなったことと同じに考える
・落ち着かせようとして、申告した方に直接連絡してしまう

撮影に至らなかった場合や、機器を向けた段階での扱いについては、別の解説で整理しています。ここでは、撮れていないという説明が、それだけで話を終わらせるものではない、という点にとどめます。

相談する前に整理しておきたいこと


弁護士に相談する際は、次の点を思い出せる範囲で書き留めておくと、話が進みやすくなります。

・いつ、どの施設のどのあたりでの出来事か
・その場で誰と、どのようなやり取りがあったか
・機器を渡したか、中を見せたか、何かの書面に署名したか
・警察官や駅員から何を告げられたか
・その後に届いた連絡や書面があるか

はっきりしない部分は、無理に埋めずに、分からないままお伝えください。記憶があいまいなところを推測で補うと、後から説明が変わる原因になります。

弁護士に確認できること


次のような点は、事情を伝えたうえで確認することができます。

・想定される規定と、その要件の意味
・現時点で分かっている事実が、どの要件に関わるのか
・手続がどの段階にあり、次に何が起こり得るのか
・自分で対応してよい部分と、そうでない部分の切り分け
・申告した方との関係で、何をしてはいけないか

まとめ


・エスカレーターや階段での撮影は、場所によって罪名が決まるわけではない
・性的姿態等撮影罪は、令和五年七月十三日に施行された全国共通の規定である
・対象は、性的な部位、現に性的な部位を覆っている下着の部分、わいせつな行為や性交等の間の姿態に限定されている
・本人が人の目に触れることを認識して自ら見せている姿態は、対象から除かれている
・エスカレーターや階段は、この除外が働きにくいため典型例として挙げられる
・「ひそかに」は、撮影されることを知られないような態様を指す
・何が写っていたかによって、撮影罪と条例のどちらが検討されるかが変わる
・条例の内容は都道府県ごとに異なる
・影像は、行為の記録であると同時に、要件に当たるかどうかの判断材料そのものになる
・顔が写っているかどうかは、条文の要件とは別の論点である

こうした場面では、断片的な情報だけで見通しを立てようとすると、かえって説明が揺れてしまうことがあります。分かっている事実と分からない事実を分けたうえで、どの規定のどの要件が問題になっているのかを確認するところから始めるのが、遠回りに見えて確かな進め方です。早く動いたからといって望ましい結果が約束されるわけではありませんが、何が問題になっているのかを取り違えたままでいるよりは、整理された状態で判断できるようになります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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