位置測定端末(GPS)による監視制度|どんな場合に付くのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

保釈について調べていると、「保釈中はGPSを付けられる」という説明を目にすることがあります。2023年(令和5年)の刑事訴訟法改正で、裁判所が保釈中の被告人に端末の装着を命じることができる制度が新しく設けられたためです。

 ただ、この制度は保釈された人すべてに及ぶものではありません。法律は、命令ができる場面をかなり狭く区切っています。ここでは条文に沿って、どんな場合に命じられるのか、装着されると何を守ることになるのか、そしていつ終わるのかを順に整理します。

法律上の名前は「位置測定端末」

 報道では「GPS端末」と呼ばれますが、刑事訴訟法が使っている言葉は位置測定端末です。人の身体に装着される電子計算機で、人工衛星から発射される信号などを用いて、その位置と、その位置にいた時刻を測るものと定義されています(98条の12第1項)。裁判所が装着を命じることを「位置測定端末装着命令」といいます。

 端末には、法律上いくつかの機能と構造が求められています。身体から離れたことを検知する機能、通信が途絶えるおそれのある事由を検知する機能のほか、全部または一部を壊さずに身体から取り外すことを難しくする構造を備えていなければならないとされています(同条3項)。腕時計のように自分で着け外しするものではない、という前提で組み立てられた制度です。

いつから使われる制度なのか

 改正法は2023年5月17日に公布されました。ただし、すべての規定が同じ日に動き出したわけではなく、内容ごとに施行日が分かれています。公判期日への不出頭罪や制限住居離脱罪は2023年11月に、監督者制度は2024年5月に、出国制限の制度は2025年5月に施行されました。

 これに対して位置測定端末の部分は、公布の日から起算して5年を超えない範囲内で政令が定める日から施行することとされています。期限は2028年(令和10年)5月16日です。本稿の執筆時点(2026年8月)では、施行日を定める政令は確認できません。端末そのものとシステムを新たに開発することが前提になっている制度で、実際にも設計・開発の段階にあります。

 つまり、いま保釈されている人や、これから保釈を請求する人に、この命令が直ちに出されるという状況ではありません。制度の中身を知っておく意味は、施行後に自分の事件が対象になりうるのかどうかを見通しておく点にあります。

どんな場合に付くのか

 条文は、命令ができる場面を三つの要素で区切っています。

条文が置いている枠条文の言葉意味するところ
いつ保釈を許す場合起訴後の保釈の場面に限られる
何のため国外に逃亡することを防止するため国内での行動を見張るための制度ではない
何を位置と時刻を把握する必要があると認めるとき必要性は事件ごとに判断される


「保釈を許す場合」に限られる

 この命令は、裁判所が保釈を許す場面で出すものとされています。起訴前の勾留の段階には、そもそも保釈という制度がありませんから、捜査段階でこの端末を付けられることはありません

装着してからでなければ釈放されない

 装着命令が出されたときは、保釈を許す決定は、端末の装着をした後でなければ執行できないとされています(98条の13第2項)。装着そのものは、裁判所の指揮によって裁判所書記官その他の裁判所の職員が行います(同条1項)。保証金を納めれば釈放されるという通常の流れに、装着という一段階が加わる形です。

判断で見られるのはどんな事情か

 「国外に逃亡することを防止するため」という要件をどう当てはめるかについて、国会の審議では、次のような例が挙げられました。国外に生活の拠点があること、国外で継続的に生活できるだけの経済力や人的関係があること、正規の手続によらずに出国させることができる組織との関係があることなどです。

 いずれも例示であり、実際には個別の事件ごとに具体的な事情を踏まえて判断されると説明されています。裏を返せば、国内に生活の基盤があり、海外へ渡る手立ても見当たらないという事案では、この命令が問題になる場面は考えにくいということになります。

「所在禁止区域」とは何か

 装着命令をするとき、裁判所は所在禁止区域を定めることとされています(98条の12第2項)。条文が挙げているのは、飛行場または港湾施設の周辺の区域のほか、命令を受けた人が日本から出国する際に立ち入ることとなる区域です。そこに所在してはならない、という形で行動が制限されます。

 区域は法律で全国一律に決まっているのではなく、命令のたびに裁判所が定めます。国会審議でも、事件ごとに具体的な事実関係を踏まえて設定する趣旨だと説明されています。どの空港や港が想定されるのか、どの程度の広がりを持たせるのかは、事案によって変わりうるということです。

居場所は常に見られているのか

 装着と聞いて多くの人が気にするのがこの点です。条文の作りを見ると、位置情報が常時読み取られ続ける仕組みにはなっていません

 端末と、裁判所が使う位置測定設備には、いくつかの事由の発生を検知する機能が求められています。端末が身体から離れたこと、端末が所在禁止区域内にあること、通信が途絶えるおそれのある事由が生じたこと、それが解消したことなどです。そして、これらが検知されたときは、直ちに、かつ自動的に、装着している本人にもその発生が知らされることとされています(98条の12第3項・4項)。

 裁判所は、閲覧設備でこれらの事由の発生を確認したときは、直ちに検察官に通知しなければなりません。端末位置情報を表示して閲覧できるのも、その事由の発生に関わる範囲とされています。検察官が閲覧するには裁判所の許可が必要で、勾引状を執行するときや刑事施設に収容するときに検察事務官や司法警察職員が閲覧する場合も同様です(98条の20)。そのうえで、これらの場合を除いて端末位置情報の閲覧をしてはならないと定められています(98条の22)。

 日々の移動が逐一記録されて誰かに読まれ続ける、という形ではなく、決められた出来事が起きたときに、その範囲で確認する仕組みだと理解しておくとよいでしょう。

装着された人が守ること

 遵守事項は「区域に入らない」だけではありません。条文は五つを挙げています(98条の14第1項)。

守るべきこと具体的な内容
区域に所在しない定められた所在禁止区域内にいないこと
装着し続ける端末を自分の身体に付け続けること
妨げる行為をしない端末を壊す、通信に障害を与えるなどをしないこと
機能を保つ管理をする裁判所の定める方法で充電などを行うこと
途絶を知ったら報告する通信が行われていないと知ったときは遅滞なく報告すること


 最後の報告では、端末の損壊や障害の有無と程度、電池の残量、自分の現在地などを裁判所に伝えることになります。また裁判所は、位置の把握に必要な措置を講ずるため必要があると認めるときは、日時と場所を指定して出頭を命じることができます(同条2項)。充電を切らさないことまでが義務に含まれている点は、見落とされやすいところです。

区域に入る必要があるとき・端末を外す必要があるとき

 やむを得ない理由により必要があると認めるときは、裁判所は期間を指定して、所在禁止区域内に所在することや、端末を身体に装着しないでいることを許可することができます(98条の15)。期間は始期と終期を日時で指定することとされ、必要に応じて延長や短縮もできます。

 端末を外す許可については、実際に取り外した後でなければ効力が生じないとされ、取り外しも裁判所の指揮によって裁判所の職員が行います。条文は「裁判所は……許可することができる」という形で書かれており、許可を求める手続そのものは条文に細かく書かれていません。実際の運用は、施行に向けて整えられていくことになります。

守れなかったときに起きること

 結果は一つではなく、三つの層に分かれています。

  1. 保釈の取消しと保証金の没取。区域内にいた、許可なく外した、壊す・妨害するなどの行為をした、管理をしなかった、報告をしなかったか虚偽の報告をした、出頭しなかった、という六つの場合に、裁判所は保釈を取り消すことができ、保証金の全部または一部を没取することができます(98条の18)。
  2. 勾引。裁判所は、閲覧設備で区域内にいることや身体から離れたことの発生を確認したときなどに、その被告人を勾引することができます。ただし明らかに勾引の必要がないと認めるときは除かれます(98条の19)。
  3. 別の罪としての処罰。許可なく正当な理由なく区域内にいた場合、許可なく外した場合や装着しなかった場合、壊す・妨害するなどの行為をした場合は1年以下の拘禁刑。報告をしなかったか虚偽の報告をした場合と、指定された日時・場所に出頭しなかった場合は6月以下の拘禁刑とされています(98条の24)。


 細かい点ですが、充電などの管理を怠った場合は、保釈の取消しの理由には挙げられている一方で、罰則の条文には挙げられていません。同じ「違反」でも、どの層まで及ぶのかは行為によって違うということです。

いつ終わるのか

 装着させる必要がなくなったときは、裁判所は装着命令を取り消さなければならないとされています。この取消しは職権でもできますが、検察官のほか、命令を受けた本人や弁護人も請求できると条文に書かれています(98条の16)。取り消されたときは、できる限り速やかに端末を取り外すこととされています。

 このほか、次の場合には装着命令が効力を失います(98条の17)。保釈が取り消されて刑事施設に収容されたとき、拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があって収容されたとき、その判決に係る刑の執行が開始されたとき、無罪・免訴・刑の免除・刑の全部の執行猶予・公訴棄却・罰金・科料の裁判や勾留を取り消す裁判の告知があったとき、勾留状が効力を失ったときです。手続の節目ごとに終わり方が決められている、という整理になります。

見通しを立てるために

 この制度は、保釈を認めるかどうかそのものを決めるものではありません。保釈の可否は別の条文による判断であり、装着命令は、保釈を許す場面で国外への逃亡を防ぐ必要があると認められたときに加えられるものです。制度が動き出せば、これまで保釈が難しかった事案について、装着を前提とした保釈が検討される場面も出てくるという見方もあります。

 一方で、行動の自由やプライバシーに関わる措置であることも確かで、国会の附帯決議や弁護士会の意見でも、対象を必要な範囲にとどめるべきだという指摘がなされています。自分の事件が装着命令の問題になりうるのか、また命令の必要性についてどう主張していくのかは、事件の内容と生活の実情を踏まえた検討が必要になります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所は、池袋と新橋に事務所を構え、刑事事件のご相談をお受けしています。保釈や身柄に関することは、動ける時間が限られる分野です。気になる点があれば、早い段階でご相談ください。

まとめ


  1. 法律上の名前は「位置測定端末」で、2023年の刑事訴訟法改正で新しく設けられた制度です。
  2. 位置測定端末の部分は公布から5年を超えない範囲内で政令が定める日から施行され、期限は2028年5月16日です。
  3. 命令ができるのは「保釈を許す場合」で、目的は国外への逃亡の防止に限られています。
  4. 装着命令が出たときは、端末を装着した後でなければ保釈の決定を執行できません。
  5. 位置情報が常時読み取られる仕組みではなく、決められた事由の発生を確認したときに、その範囲で閲覧されます。
  6. 遵守事項は区域に入らないことだけでなく、装着の継続、妨げる行為をしないこと、充電などの管理、通信が途絶えたときの報告の五つです。
  7. 違反したときの帰結は、保釈の取消しと保証金の没取、勾引、別の罪としての処罰という三つの層に分かれます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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