金銭を受け取っていない|恐喝未遂はどう処分されるのか
性犯罪の疑いで捜査を受けている方から、「示談をしたいのに、相手の方と連絡が取れない」というご相談を受けることがあります。警察に尋ねても連絡先は教えてもらえず、弁護士を通じて申し入れても返事がないまま日数だけが過ぎていく、という状況です。
性犯罪の事件では、示談が成立しているかどうかが処分の判断で考慮されることが多く、連絡がつかない状態が続くと、手の打ちようがないように感じられます。ただ、「示談ができない」と一口に言っても、話がどこで止まっているのかは事件ごとに異なります。止まっている地点が違えば、次に検討できることも違ってきます。
この記事では、性犯罪の事件で示談が進まない状態になったときに、弁護人がどこを確認し、何を組み立てていくのかを整理します。
この記事で扱うことと扱わないこと
この記事で扱うのは、次のような場面です。
・相手の方の連絡先が分からず、示談の申入れそのものができていない場合
・申入れはできたものの、応答がないまま処分の時期が近づいている場合
・いったん交渉が始まったものの、途中で止まってしまった場合
一方、次の点は事件ごとの事情に左右される部分が大きいため、この記事では扱いません。
・示談金の金額の目安
・処分の見通し
・個別の事件での具体的な対応方針
これらは、捜査の進み方や記録の内容を確認したうえで、個別に検討することになります。
「示談ができない」は一つの状態ではない
ご相談の場面で「示談ができない」と言われる状況は、実際には次のように分かれます。どこで止まっているかによって、その時点で分かっている情報も、次に検討できることも変わります。
| 止まっている地点 | その時点で分かっていること | 次に検討すること |
|---|---|---|
| 捜査機関への照会をまだしていない | 氏名も連絡先も分からない | 弁護人からの照会の申入れ |
| 照会したが開示を断られた | 開示を望まない意向がある | 時期を改めた申入れの可否 |
| 連絡先の開示は受けたが応答がない | 連絡先は判明している | 申入れの経路と回数の記録 |
| 相手方に代理人が就き、交渉を断られた | 窓口は判明している | 代理人を通じた条件の見直し |
| 個人特定事項を秘匿する措置がとられている | 弁護人の側に条件が付されている | 書面の作り方の調整 |
「連絡が取れない」という言葉は、この5つのどれについても使われます。ご本人からは同じ行き詰まりに見えても、弁護人が次に取る手続は別のものになります。ご相談は、どこで止まっているのかを確認するところから始まります。
連絡先の照会は、手続の段階ごとに窓口が変わる
相手の方の連絡先は、捜査機関が把握していても、ご本人に伝えられることはありません。再び接触されることへの懸念があるためで、この扱いは事件の内容を問わず共通しています。そこで、弁護人が捜査機関に対して示談の申入れをしたい旨を伝え、連絡先を開示してもらえないか意向を確認してもらう、という形をとります。
ここで見落とされやすいのが、申入れをする相手方が、手続の進み方に応じて移っていくという点です。
警察が捜査している段階
事件が警察にある間は、担当の警察官を通じて意向を確認してもらうことになります。被害の申告からあまり時間が経っていない時期でもあり、この段階では開示を断られることが少なくありません。
なお、逮捕・勾留された方に国選弁護人が選任される場面については、個人特定事項を秘匿する措置がとられている事件でも、被疑者に知らせないことを条件として国選弁護人となろうとする者に氏名を開示してよいかどうか、被害を受けたとされる方の意向を確認するよう努めるという運用が示されています(令和6年2月から実施されている警察庁の通達)。連絡先が分からないために弁護活動が出発点でつまずくことのないよう配慮されたものです。
事件が検察庁に送致された後
送致後は、担当の検察官が窓口になります。警察の段階で断られていても、検察官から改めて意向を確認してもらえる場合があります。時間の経過とともに受け止め方が変わることもあり、同じ結果になるとは限りません。
起訴された後
起訴された後も、公判を担当する検察官を通じた申入れは可能です。被害を受けたとされる方に代理人が就いている場合や、刑事裁判に参加する手続がとられている場合には、その代理人が窓口になります。
個人特定事項を秘匿する措置がとられている場合
性犯罪の事件では、逮捕状や起訴状に氏名や住所といった個人特定事項を記載しない措置がとられることがあります(刑事訴訟法201条の2、271条の2など)。この場合、ご本人には氏名が伝わらず、弁護人に対しても、ご本人に知らせないことを条件として伝えられるという形になります。事案によっては、弁護人にも知らされないことがあります。
もっとも、氏名が分からないことと、示談ができないこととは同じではありません。書面の上で当事者をどのように特定するか、支払をどの経路で行うかを調整することで、氏名を書かないまま合意の内容を残す方法があります。この点は、示談書の作り方の問題として別に整理しています。
相手方に代理人が就いている場合の進め方
被害を受けたとされる方に弁護士が就くことがあります。この場合、連絡先が分からないという問題はなくなりますが、代わりに交渉の作法が変わります。
弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならないとされています(弁護士職務基本規程52条)。したがって、こちら側の弁護人が本人に直接連絡することはできず、やり取りは代理人を通じて行われます。この規程が向けられているのは弁護士ですが、ご本人やご家族が直接連絡を試みることも、同じ理由から控えるべき場面です。
代理人から「示談に応じる意思はない」との回答が届くこともあります。この回答は、その時点で交渉の余地がないことを示すものであって、その後の事情まで固定されるという意味ではありません。金額以外の条件、たとえば接触を避ける約束や、生活圏や勤務先を分ける取り決めについて改めて打診することで、話が動くこともあります。ただし、断りの回答を受けた後に繰り返し接触を図ることは、受け止め方を硬くする方向に働きます。間隔と回数の判断は、弁護人と相談しながら決めることになります。
「示談ができなかった」と「示談をしなかった」は同じではない
示談が成立していない事件でも、記録の上では性質の異なる二つの状態があります。示談を試みたが相手方の意向で成立しなかった場合と、そもそも申入れをしていない場合です。処分を判断する側から見れば、この二つは別のものとして扱われます。
そこで、示談の成立が見込みにくい事件でも、弁護人は次の点を書面に残していきます。
・いつ、どの経路で、誰に対して申入れをしたか
・どのような回答があったか
・申入れを何回行い、どの時点で止まったか
・賠償に充てる金額を用意し、支払える状態にしていること
・謝罪の意思を記した書面を用意し、渡せる状態にしていること
これらは示談書の代わりになるものではありません。ただし、示談が成立しなかった理由と、その間に何をしていたのかを説明する材料にはなります。何もしないまま処分の時期を迎えた場合と、記録が残っている場合とでは、説明できる内容が変わってきます。
示談が成立しないまま処分の時期が来たとき
検察官は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況を考慮して、起訴するかどうかを判断します(刑事訴訟法248条)。示談の成否はこの「犯罪後の情況」の代表的なものですが、考慮される事情はそれだけではありません。行為の内容、事件に至る経緯、前科前歴の有無、同じことが繰り返されない状態が作られているかといった事情も、あわせて見られます。
なお、現在の不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は、告訴がなくても起訴することができる罪とされています。示談が成立すれば手続が終わるという関係にはありませんし、逆に、示談が成立していないことがそれだけで結論を決めるわけでもありません。
示談の受け皿にも、それぞれ前提がある
示談ができない場合の対応として、供託や贖罪寄付が挙げられることがあります。ただし、これらにもそれぞれ前提があり、連絡が取れない事件では使えないことがあります。
供託
弁済供託は、支払おうとしたが受け取ってもらえない場合などに、法務局に金銭を預ける手続です(民法494条)。相手方の氏名や住所が分からなければ手続を進めることは難しく、連絡先の開示を受けていない事件では、そもそも選択肢に入らないことが多くなります。
贖罪寄付
贖罪寄付は、弁護士会などに一定額を寄付し、その証明書を提出するものです。反省の姿勢を形にする方法の一つではありますが、被害を受けた方への賠償ではありません。示談に代わるものではなく、補助的な材料として位置づけられます。
支払える状態を保っておくこと
賠償に充てる金額を弁護士が預かり、相手方の意向が変わった時点で速やかに支払える状態にしておく、という進め方もあります。用意ができていることと、用意がないこととでは、説明できる内容が変わります。
起訴された後も、示談の機会が終わるわけではない
起訴前に示談が成立しなかったとしても、そこで話が終わるわけではありません。公判が始まってから交渉が再開し、判決までに合意に至る事件もあります。この場合、示談の成立は量刑の判断で考慮される事情になります。
制度の上では、公訴の取消しは第一審の判決があるまで可能とされていますが(刑事訴訟法257条)、起訴後にこれが行われる例は限られています。実際には、示談の成立は、公訴を取り消してもらうための手段というよりも、判決の内容に関わる事情として扱われるのが通常です。
判決が確定した後に賠償を行うこともあります。刑事の手続が終わっても、民事上の損害賠償の問題は別に残っており、人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から5年で時効にかかるとされています(民法724条の2)。刑事の結論が出た後に請求を受ける可能性も含めて、見通しを立てておくことになります。
ご本人やご家族が控えたほうがよいこと
連絡が取れない状態が続くと、ご自身で相手を探そうとされる方がおられます。次のような行動は、状況を悪くする方向に働きます。
・共通の知人や交流サイトを通じて連絡先を調べようとすること
・勤務先や学校、自宅の近くを訪ねること
・第三者に頼んで言付けを届けてもらうこと
・手紙や品物を直接送ること
・被害の申告を取り下げてほしいという趣旨を伝えてもらうこと
これらは、証拠に働きかける行為と受け止められる可能性があり、逮捕や勾留、保釈の判断にも影響します。内容によっては、つきまとい行為の規制や別の罪の問題になることもあります。示談の申入れは、弁護人を通じた経路に限るのが基本です。
ご相談の前に整理しておくとよいこと
ご相談の際は、次の点が分かっていると、話が早く進みます。
・事件の日時と場所、どのような行為が問題になっているか
・警察から呼出しや取調べを受けたか、その回数と時期
・逮捕や勾留をされているか、在宅で捜査を受けているか
・示談の申入れをしたことがあるか、どのような回答があったか
・賠償に充てられる金額の見込みと、用意できる時期
よくあるご質問
弁護士に依頼すれば連絡先を教えてもらえるのでしょうか
弁護人から捜査機関に申し入れ、相手の方の意向を確認してもらうという流れになります。開示するかどうかを決めるのは相手の方であり、弁護士が依頼を受けたことによって開示されるわけではありません。断られることもあります。
示談ができないと起訴されるのでしょうか
示談の成否は判断材料の一つですが、それだけで結論が決まるものではありません。行為の内容や経緯、前科前歴の有無なども考慮されます。示談が成立していない事件で不起訴となることもあれば、成立していても起訴されることもあります。
時間が経ってから示談ができることはありますか
あります。捜査の初期には応じられないとされていた事件で、事件が検察庁に移った後や、公判が始まった後に交渉が始まることもあります。ただし、処分の時期は手続の進み方によって決まりますので、いつまでも待てるわけではありません。時期の見通しを含めて検討することになります。
まとめ
・「示談ができない」という状態は、止まっている地点によって5つほどに分かれる
・連絡先の照会は、警察、担当検察官、公判担当の検察官と、段階ごとに窓口が変わる
・個人特定事項を秘匿する措置がとられていても、示談ができなくなるわけではない
・相手方に代理人が就いた場合、やり取りは代理人を通じて行う
・示談を試みて成立しなかったことと、申入れをしていないこととは、記録の上で分かれる
・供託や贖罪寄付にもそれぞれ前提があり、連絡が取れない事件では使えないことがある
・起訴された後や判決の後にも、賠償や示談の問題は残る
性犯罪の事件で示談が進まずお悩みの方へ
連絡が取れないまま日数が過ぎていく状況は、ご本人にとって落ち着かないものです。ただ、止まっている地点を確かめれば、その時点で取り得る手立ては残っていることが多くあります。処分の時期は手続の進み方によって決まりますので、動ける時間を確保するという意味でも、早い段階でご相談いただくことをお勧めします。
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