「全治○週間」と言われた|診断書と傷害の重さの評価
人を部屋や車から出られない状態にしてしまい、その過程で相手がけがをした。警察から「逮捕監禁致傷」という罪名を告げられたものの、監禁の分とけがの分がどう扱われるのかがわからない。こうしたご相談では、罪の重さの見当がつかないこと自体が不安につながっています。
逮捕監禁致傷罪の刑は「3月以上15年以下の拘禁刑」と説明されます。ただ、この数字だけを見ても幅が広すぎて、自分の事件がどのあたりに位置するのかはわかりません。この罪の重さは、数字の幅よりも、事件の終わり方として何が選べるかが変わる点に表れます。
この記事では、逮捕監禁致傷罪の刑がどのように組み立てられているのか、けがが「監禁から生じた」と評価されるのはどの場面か、そのうえで示談がどの段階で意味を持つのかを、条文と判例の枠組みに沿って整理します。
「監禁」と「けが」は別々に評価されるとは限らない
監禁の疑いをかけられている状況で相手がけがをしている場合、最初に思い浮かぶのは「監禁罪と傷害罪の二つに問われるのか」という疑問だと思います。
刑法は、この場面のために別の条文を置いています。刑法221条は「前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する」と定めており、逮捕や監禁の罪から死傷の結果が生じた場合を、一つの罪としてまとめて評価する仕組みになっています。
もっとも、けががあれば当然にこの条文が使われるわけではありません。けががどの行為から生じたのかによって、一つの罪として評価される場合と、監禁の罪と傷害の罪が別々に成立する場合とに分かれます。この分かれ目は、後で述べるように処分の見通しにも示談の組み立てにも関わってきます。
条文の位置づけを確認する
逮捕・監禁の罪と、その結果が生じた場合の加重類型は、次のように整理できます。
| 罪名 | 条文 | 刑の範囲 |
|---|---|---|
| 逮捕・監禁罪 | 刑法220条 | 3月以上7年以下の拘禁刑 |
| 逮捕監禁致傷罪 | 刑法221条 | 3月以上15年以下の拘禁刑 |
| 逮捕監禁致死罪 | 刑法221条 | 3年以上20年以下の拘禁刑 |
なお、拘禁刑は2025年6月1日に施行された改正により、それまでの懲役と禁錮を一本化した刑です。古い解説では「懲役」と書かれていることがありますが、指している範囲は同じです。
「傷害の罪と比較して、重い刑により処断する」の読み方
刑法221条は、逮捕監禁致傷罪そのものの刑を数字で書いていません。二つの条文を並べて枠を組み立てる、という書き方をしています。
比べるのは、逮捕・監禁罪の「3月以上7年以下の拘禁刑」と、傷害罪(刑法204条)の「15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」です。下限は、拘禁刑の下限が1月である傷害罪よりも、3月と定められている逮捕・監禁罪のほうが重くなります。上限は、7年の逮捕・監禁罪よりも、15年の傷害罪のほうが重くなります。それぞれ重いほうを組み合わせた結果が、3月以上15年以下という枠です。
ここで見落とされやすいのが、傷害罪に用意されている50万円以下の罰金という選択肢が、この組み立ての中では残らないという点です。逮捕・監禁罪の側に罰金の定めがなく、重いほうの刑によって処断するという条文の建て方の中では、罰金が選択肢として残らないためです。
罰金がないことが手続に与える影響
罰金刑があるかどうかは、金額の問題にとどまりません。刑事訴訟法461条は、略式命令で科すことができるものを100万円以下の罰金または科料に限っています。罰金の定めがない罪では、この手続を使う余地がありません。
傷害罪であれば、事案によっては書面のやり取りで罰金を納めて終わる略式手続が用いられることがあります。逮捕監禁致傷罪では、その道がありません。起訴された場合は、公開の法廷で審理を受けることになります。
一方で、言い渡される刑が3年以下であれば執行猶予を付ける余地があります(刑法25条1項)。逮捕監禁致傷罪の下限は3月ですから、事案によっては執行猶予の範囲に収まることもあります。上限の15年という数字だけを見て見通しを立てないほうがよい部分です。
けがが「監禁から生じた」といえるかどうか
逮捕監禁致傷罪が成立するには、けがという結果と監禁とが結びついている必要があります。裁判例は、死傷の結果が逮捕・監禁そのもの、またはその手段となった行為から生じたことを求めてきました(名古屋高裁昭和31年5月31日判決)。
実務上は、二つの型で整理されています。一つは、死傷の結果が逮捕・監禁そのもの、またはその手段となった行為から生じた場合です。もう一つは、被害者や第三者の行為が間に入っていても、その結果が逮捕・監禁の持っていた危険が現実になったものと評価できる場合です。
三つの場面に分けて考える
けががどの行為から生じたのかは、次の三つに分けて検討されるのが一般的です。
| けがの原因になった行為 | 評価の方向 |
|---|---|
| 監禁に着手する前の暴行によるもの | 監禁の罪とは切り離して評価される |
| 監禁の状態を保つ手段として加えた暴行によるもの | 暴行や脅迫は監禁の罪に吸収され、逮捕監禁致傷罪として一つの罪で評価される |
| 監禁中ではあるが、報復や制裁など別の動機から加えた暴行によるもの | 監禁の罪と傷害の罪が別々に成立し、併合罪となる |
監禁の手段として暴行や脅迫が加えられた場合、その暴行や脅迫は監禁の罪に吸収され、別に暴行罪や脅迫罪が成立するわけではないとされています。これに対して、監禁の状態を保つためではなく、腹立ちや制裁といった別の動機から暴行に及んだ場合には、監禁の罪と傷害の罪が別々に成立し、両者は併合罪の関係になると判断した最高裁の決定があります(最高裁昭和42年12月21日決定)。
一つの罪になるか二つの罪になるかで変わること
同じ「監禁してけがをさせた」という出来事でも、一つの罪として評価されるか、二つの罪として評価されるかによって、刑を決める枠の作られ方が変わります。
二つ以上の罪が併合罪の関係に立つ場合、刑法47条により、最も重い罪の刑の長期に2分の1を加えたものが枠の上限になります。ただし、それぞれの罪の長期を合計した年数を超えることはできません。一つの罪としてまとめて評価される場合には、このような加重は行われません。
どちらの整理が本人にとって有利かは事案によって異なり、一般化できるものではありません。ただ、けががどの行為から生じたのかという事実の整理が、罪名の選択を通じて刑の枠そのものに関わってくる、という構造は知っておいてよいところです。取調べで「いつ、どういうつもりで手を出したのか」を細かく聞かれるのは、この点が関係しています。
「けが」は外から見える傷に限られない
逮捕監禁致傷罪でいう傷害は、打撲や骨折のような目に見える傷に限られません。
最高裁は、監禁された被害者が外傷後ストレス障害を発症した事案について、精神的機能の障害を生じさせた場合も刑法にいう傷害に当たると判断しています(最高裁平成24年7月24日決定)。精神的な障害が刑法上の傷害に当たることを、最高裁として初めて認めた判断です。
もっとも、この決定は同時に線引きも示しています。一時的な精神的苦痛やストレスを感じたという程度にとどまる場合ではなく、医学的な診断基準が求める特徴的な症状が継続して現れていることを前提としている点です。相手が精神的な不調を訴えているというだけで、直ちに致傷の結果があると評価されるわけではありません。
また、長期にわたる拘束によって足の筋力が落ちる、骨量が減るといった身体機能の低下が傷害結果とされた裁判例もあります(最高裁平成15年7月10日判決)。拘束の期間が長い事案では、暴行を加えていなくても致傷の問題が生じ得ます。
相手が逃げようとしてけがをした場合
走行中の車から降りようとした、窓や階段から出ようとしたといった場面で、相手がけがをすることがあります。この場合、けがを直接引き起こしたのは被害者自身の行動ですが、それだけで結びつきが切れるわけではありません。
先に触れたとおり、被害者や第三者の行為が間に入っていても、その結果が逮捕・監禁の持っていた危険が現実になったものと評価できる場合には、致傷の結果として扱われます。「相手が勝手に飛び降りた」という説明が、そのまま責任の否定につながるとは考えにくい場面です。
もっとも、逃げようとした経緯や、そのとき現場がどのような状況だったのかは、量刑の判断では意味を持ちます。事実関係を正確に残しておくことは、争うためというより、評価を適正なものにするために必要になります。
「けがをさせるつもりはなかった」という説明の位置
刑法221条は、死傷の結果について認識があったことを成立の要件にしていません。そのため「そこまでするつもりはなかった」という説明が、そのまま罪の成立を否定する方向に働くとは限りません。
ただし、この説明にはいくつかの効き場所があります。一つは量刑です。計画的に危害を加えたのか、押し問答の延長で手が出たのかは、事情として考慮されます。もう一つは、先に述べた罪数の整理です。「引き止めるつもりだった」のか「腹が立って手を出した」のかは、一つの罪になるか二つの罪になるかの分岐に直結します。
いずれにしても、供述の内容は後から評価の材料になります。取調べで調書が作られた場合は、内容を読み、事実と違う部分があれば増減変更を申し立てることができます(刑事訴訟法198条4項)。
示談はどの段階で意味を持つのか
検察官は、犯人の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状ならびに犯罪後の情況を考慮して、起訴するかどうかを判断します(刑事訴訟法248条)。被害者との示談は、このうち犯罪後の情況として考慮される事情の一つです。
逮捕監禁致傷罪では、先に述べたとおり罰金という出口がありません。起訴されれば公開の法廷での審理になります。そのため示談は、量刑を軽くするためというより前に、起訴するかどうかの判断が行われる段階で意味を持つ場面が多くなります。捜査がある程度進んでから動き出すのと、早い段階で被害者側と連絡が取れているのとでは、置かれる状況が変わってきます。
ただし、示談が成立すれば起訴されないと決まっているわけではありません。拘束の期間や態様、けがの程度、被害者に残っている影響の大きさによっては、示談が成立していても公判請求されることがあります。示談は判断材料の一つであって、結論を決めるものではないという前提で考えたほうが、見通しを誤りません。
示談の対象範囲をどう設計するか
逮捕監禁致傷の事案では、示談書で何を清算するのかの設計が、通常の傷害事件より複雑になりがちです。理由は二つあります。
一つは、先に述べた罪数の問題です。けがが監禁とは別の動機による暴行から生じたと整理される場合、被害者が一人であっても、監禁の罪と傷害の罪という二つの事件として扱われます。示談の対象を一方だけにしてしまうと、残った側について解決していない状態が続きます。対象となる事実の範囲を書面上で明示しておく必要があります。
もう一つは、損害の見通しが立ちにくいことです。精神面の不調は、治療の期間や見通しが身体の傷ほどはっきりしないことがあります。治療が続いている段階で金額を確定させると、後から追加の請求が問題になることもあります。清算条項の書き方や支払いの時期は、治療の状況を踏まえて決めることになります。
本人が直接連絡することの難しさ
監禁が問題になっている事案では、被害者が加害者側との接触自体を強く避けたいと考えていることが少なくありません。謝罪の意図であっても、本人やその家族から直接連絡を取ることは、相手にさらに負担をかける結果になりがちです。
手続の面でも問題があります。被害者への働きかけは、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由(刑事訴訟法60条1項)があると判断される材料になり得ます。身柄が拘束されていない段階でも、接触の事実が後から不利に評価されることがあります。
連絡先を知っている場合でも、窓口を代理人に一本化し、被害者側の意向を確認してから進めるほうが実際的です。相手が示談の話を聞く意思があるのかどうかを確かめる段階自体を、第三者が担うことに意味があります。
手続の見通しについて
公訴時効は、逮捕監禁致傷罪では10年です(刑事訴訟法250条2項3号)。逮捕・監禁の罪は、拘束が続いている間ずっと犯罪が続いている継続犯と理解されているため、時効の起算点は拘束が終わった時点になります(刑事訴訟法253条1項)。
また、逮捕監禁致傷罪は裁判員裁判の対象ではありません。死亡の結果が生じた場合は対象になりますが、けがにとどまる事案では裁判官による審理になります。この点を心配される方は多いので、確認しておく価値があります。
連絡が来た段階で整理しておきたいこと
警察から連絡があった段階、あるいは相手方の代理人から書面が届いた段階で、次のような事実を時系列で整理しておくと、その後の見通しが立てやすくなります。
・相手が「出たい」「帰りたい」と言った場面があったか、あったとすればいつか
・その後にどのような対応をしたか
・けがの原因になった行為があったとして、それがいつ、どのような状況で行われたか
・その行為が、相手を引き止めるためのものだったのか、別の理由からのものだったのか
・その場に誰がいたか、車や部屋はどのような状況だったか
・相手が病院に行った時期と、診断の内容として聞いている範囲
・相手やその関係者から、これまでにどのような連絡が来ているか
記憶が新しいうちに書き出しておくことをおすすめします。時間が経つほど、順序や細部があいまいになります。
まとめ
この記事で整理した内容を振り返ります。
・逮捕監禁致傷罪の刑は3月以上15年以下の拘禁刑で、逮捕・監禁罪と傷害罪の重いほうを組み合わせて作られる
・傷害罪にある50万円以下の罰金は選択肢として残らず、略式手続を使う余地がない
・言い渡される刑が3年以下であれば執行猶予の余地はある
・けがが監禁の手段から生じたのか、別の動機による暴行から生じたのかで、一つの罪になるか二つの罪になるかが分かれる
・傷害は目に見える傷に限られず、精神的機能の障害や身体機能の低下も含まれ得る
・示談は、罰金という出口がない罪であるだけに、起訴するかどうかの判断が行われる段階で意味を持つ場面が多い
・被害者への直接の連絡は、相手の負担にも手続上の不利益にもつながり得るため、窓口は代理人に一本化する
罪名に「致傷」が付いた段階で、事案の見え方は変わります。ただ、その中身を決めるのは、どの行為からけがが生じたのか、拘束がどの程度続いたのか、相手にどのような影響が残っているのかという個別の事実です。連絡を受けた段階で事実関係を整理し、被害者側との関係をどう組み立てるかを早めに検討することが、その後の選択肢を広げることにつながります。


