深夜の騒音・迷惑行為で通報された|どの法令で問題になるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

深夜に音楽をかけていた、友人と自宅で話し込んでいた、路上で立ち話が長引いた——そうした場面で警察官が訪ねてきたとき、「これは犯罪になるのか」「このまま逮捕されることがあるのか」と不安になる方は少なくありません。騒音や深夜の迷惑行為は、ひとつの法律でまとめて扱われているわけではなく、音の出し方や場所によって問題になる法令が変わります。ここでは、通報を受けた側の立場から、どの法令が関係し、どの段階で刑事手続に進むのかを整理します。

通報された時点では、まだ罪名が決まったわけではない


110番通報を受けて警察官が現場に来ることと、刑事事件として立件されることは、別の段階の話です。近隣からの通報の多くは、警察官がその場で状況を確認し、音を出していた側に注意を伝えて終わります。この段階では被害届も告訴も出ておらず、事件番号が付くわけでもありません。

一方で、同じ通報が繰り返されたり、音を出す行為が特定の相手に向けられていたり、通報をきっかけに別のトラブルが起きたりすると、事情が変わってきます。どの法令が問題になるかは、次のように場面ごとに分かれます。

深夜の騒音・迷惑行為で問題になりうる法令


場面問題になりうる法令扱い
自宅からの音(音楽・テレビ・楽器・話し声など)軽犯罪法1条14号(静穏妨害)拘留又は科料
特定の相手に向けて音を出し続け、体調不良を生じさせた場合刑法204条(傷害罪)15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
相手の身辺近くで大きな音を出した場合刑法208条(暴行罪)2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
路上や公園で騒いだ場合軽犯罪法1条13号、各都道府県の迷惑防止条例拘留又は科料、条例により異なる
飲食店など娯楽場の中で騒いだ場合軽犯罪法1条5号拘留又は科料
車やバイクの空ぶかし・急発進道路交通法71条5号の3(騒音運転等)5万円以下の罰金
店舗の深夜営業やカラオケの音東京都環境確保条例132条ほか行政指導・勧告・命令が中心
生活騒音の音量そのもの東京都環境確保条例136条行政指導・勧告が中心
苦情を受けて相手方に押しかけた場合刑法130条、222条、208条など罪名により異なる


同じ「うるさい」という苦情でも、音が自宅から出ているのか路上なのか、不特定多数に向けたものか特定の相手に向けたものかで、参照される条文が変わります。順に見ていきます。

軽犯罪法の「静穏妨害」は三つの条件がそろって初めて問題になる


近隣の騒音で最初に挙がる条文が、軽犯罪法1条14号です。条文は「公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者」と定めており、法定刑は拘留又は科料です。

この条文で押さえておきたいのは、次の三つの条件がそろう必要があるという点です。

・公務員(多くは臨場した警察官)の制止をきかないこと
・音を異常に大きく出して静穏を害したこと
・近隣に迷惑をかけたこと

つまり、通報を受けた警察官が注意をした最初の時点では、この条文の要件はまだ満たされていません。注意を受けても同じ音の出し方を続けた場合に、初めて条文の想定する状況に近づいていきます。逆に言えば、警察官から声をかけられた段階で音量や時間帯を改めれば、この条文が問題になる場面はほとんど生じません。

なお「近隣に迷惑をかけた」という部分については、苦情を述べている人が1名だけでは足りないと解釈されています(野木新一ほか『註釈軽犯罪法』)。また、騒音規制法や自然公園法など、個別の場面を対象とした規定が適用される場合には、そちらが優先し、14号は適用されないと整理されています。

刑法の暴行罪・傷害罪が問題になるのはどんな場面か


騒音が刑法上の罪に結びつくのは、音が「近隣一般」ではなく「特定の相手」に向けられている場合です。

暴行罪について、最高裁は、相手の身辺近くでブラスバンド用の大太鼓や鉦などを連打し、頭脳の感覚が鈍って意識がもうろうとする気分を与えたり、脳貧血を起こさせたりする程度に達したときは、身体に対する不法な攻撃として暴行にあたると判断しています(最高裁昭和29年8月20日判決)。ここでは、音を相手の身体のすぐ近くで浴びせたという点が重視されています。

傷害罪については、隣家に向けて長期間にわたり大音量を出し続けた事案があります。最高裁は、自宅の台所の窓を開けてラジオと複数の目覚まし時計を置き、約1年半にわたり、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないと認識しながら連日朝から深夜ないし翌未明まで音を鳴らし続け、隣家の住人に慢性頭痛症・睡眠障害・耳鳴り症を生じさせた行為について、傷害罪の実行行為にあたると判断しました(最高裁平成17年3月29日決定)。第一審の奈良地裁は懲役1年の実刑としています。

ただし、この事案は、隣家を狙って意図的に音を出す状態が1年半続き、実際に診断のつく健康被害が生じたというものです。生活の中で出てしまう音や、時間帯への配慮を欠いた程度の音とは、性質が大きく異なります。日常的な生活音がそのまま傷害罪として扱われるわけではない点は、押さえておいてよいところです。

条例による騒音の規制は、まず行政の手続から始まる


東京都には「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(環境確保条例)があり、136条で、別表に定める規制基準を超える騒音を発生させてはならないと定めています。深夜(23時から翌6時まで)の基準値は次のとおりです。

地域の区分23時〜6時の基準値
第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、田園住居地域など40デシベル
第1種・第2種中高層住居専用地域、第1種・第2種住居地域、準住居地域など45デシベル
近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域など50デシベル
商業地域のうち知事が指定する地域55デシベル


測定するのは、音源のある敷地と隣地との境界線上の音量です。学校・保育所・病院・図書館・老人ホームなどの敷地の周囲おおむね50メートル以内では、この値から5デシベル引いた値が基準になります。

ここで注意したいのは、この基準はマンションなど同一の建物の中の住戸間の音には適用されないという点です。東京都も、集合住宅など同一建物内部における各住戸間の騒音・振動には基準値を適用しないと明示しています。上下階や隣室の足音・生活音をめぐるトラブルでは、条例の数値を持ち出して「基準を超えている」「超えていない」と争うことができないため、後述する民事上の判断が中心になります。

飲食店などを営んでいる場合は、別の規定が用意されています。条例132条は、飲食店営業、ガソリンスタンド、ボーリング場、ゴルフ練習場、売場面積250平方メートル以上の小売業などについて、23時から翌6時までの間、住居系の用途地域とその周囲20メートル以内で、定められた基準を超える騒音を敷地内で発生させてはならないと定めています。さらに、飲食店営業・喫茶店営業では、同じ時間帯に営業場所でカラオケ装置や楽器などの音響機器を使用することが原則として制限されています。防音対策により音が外部に漏れない場合や、住宅・病院などから50メートル以上(商業地域では20メートル以上)離れていて基準を超えない場合などは、例外として扱われます。

これらの条例違反については、いきなり刑事手続に進むのではなく、区市の担当部署による調査、指導、改善勧告、改善命令という行政上の手続が先に置かれています。飲食店に苦情が寄せられた場合、まず区市の環境担当窓口から連絡が入ることが多いのはこのためです。

路上・店内・車での深夜の迷惑行為


自宅からの音ではなく、外での行為が問題になることもあります。

軽犯罪法1条13号は、公共の場所において多数の人に対して著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかける行為を定めています。深夜の路上や公園で大声を上げ続けるような場面が想定されます。同じく5号は、飲食店やダンスホールなどの娯楽場において入場者に対して、あるいは電車やバスの中で乗客に対して、著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかける行為を対象としています。

東京都の迷惑防止条例5条2項は、公共の場所や公共の乗物において、多数でうろつき、またはたむろして、通行人や乗客などに対し、いいがかりをつけたり、すごんだりして不安を覚えさせるような言動をすることを禁じています。違反した場合の罰則は6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金で、常習と認められる場合は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金とされています。単に人数が集まって話していただけであれば対象になりませんが、通行人に絡むなどの行為が加わると、この条文の射程に入ってきます。

車やバイクの音については、道路交通法71条5号の3が、正当な理由がないのに、著しく他人に迷惑を及ぼす騒音を生じさせるような方法で急発進・急加速・空ぶかしをすることを禁じています。いわゆる騒音運転等で、5万円以下の罰金が定められ、反則行為としての取扱いもあります。深夜の住宅街でエンジンを吹かす行為は、この条文が想定する場面のひとつです。マフラーの改造が伴う場合には、整備不良や道路運送車両法の不正改造の問題も別途生じます。

「逮捕」が現実に問題になる場面


騒音そのもので身柄を拘束されることは、実際にはあまり多くありません。理由は罪名の重さにあります。

軽犯罪法違反のように拘留・科料にあたる罪については、刑事訴訟法が逮捕を強く制限しています。現行犯であっても、住居や氏名が明らかでない場合や逃亡のおそれがある場合に限って逮捕でき(刑事訴訟法217条)、逮捕状による場合も、住居不定か、正当な理由なく出頭要求に応じない場合に限られます(同法199条1項ただし書)。したがって、身元がはっきりしていて、警察からの連絡にきちんと応じている限り、この類型で逮捕に至る場面は限定的です。

これに対し、傷害罪、器物損壊罪、住居侵入罪、脅迫罪、公務執行妨害罪などには、こうした制限がありません。騒音の場面で身柄拘束が問題になるのは、多くの場合、音そのものではなく、その周辺で起きた行為によるものです。たとえば、通報を受けて臨場した警察官ともみ合いになった、苦情を伝えに来た相手ともめて手が出た、腹を立てて相手方の玄関や車を壊した、といった状況です。

通報を受けた側として実務上重要なのは、その場でのやり取りを荒立てないことです。音の出し方について言い分があるとしても、その場で言い争うのではなく、後日改めて説明する形にしたほうが、結果的に問題が広がりにくくなります。

通報された後にとっておきたい対応


警察官の訪問を受けた後、あるいは管理会社から連絡があった後にできることを整理します。

・音の出方を具体的に見直す。時間帯を改める、防音マットやカーテンを使う、機器の置き場所や向きを変えるなど、実際にとった対策を記録しておく
・いつ、どのような音について、誰から苦情があったかを時系列でメモに残す。後で経緯を説明する際の基礎資料になる
・相手方の住戸へ直接出向いて釈明することは避け、管理会社や大家、自治会など第三者を経由して伝える
・警察から連絡があった場合は、日程を調整したうえで応じる。連絡がつかない状態を続けると、手続が別の方向に進むきっかけになりうる
・身に覚えのない音について苦情を受けている場合は、否定するだけで終わらせず、自宅の状況や在宅時間を客観的に示せる材料を用意しておく

音の性質によっては、自治体が簡易騒音計の貸し出しを行っていることもあります。数値を確認すること自体が、話し合いを冷静な方向に戻す材料になる場合があります。

刑事とは別に、民事の問題が残ることがある


刑事事件にならなかったとしても、損害賠償や差止めを求められる可能性は別に残ります。民事では「受忍限度」という考え方が用いられ、通常我慢すべき程度を超えているかどうかが判断の軸になります。

受忍限度の判断では、音量だけでなく、発生の頻度、時間帯、続いた期間、被害の内容、地域の性質、苦情を受けてからどのような対応をとったかといった事情が総合的に考慮されます。苦情を受けた後に何の対策もとらなかったという経緯は、判断を左右する要素になり得ます。逆に、対策をとった記録が残っていれば、そのこと自体が説明の材料になります。

賃貸物件の場合は、賃貸借契約上の用法遵守義務との関係も生じます。苦情が繰り返され、改善がみられないと判断されると、契約の更新や継続に影響することがあります。

弁護士に相談を検討したほうがよい段階


次のような状況になっている場合は、早い段階で弁護士に相談しておくと、対応の幅が保たれます。

・警察から出頭を求められている、または事情を聴きたいと連絡が来ている
・相手方から慰謝料や治療費を請求する書面が届いた
・管理会社から契約の解除や退去を示唆されている
・自分に心当たりのない音について苦情が続き、当事者同士の話し合いが成り立たなくなっている
・苦情のやり取りの中で、相手方との間に別のトラブルが生じている

弁護士が窓口に入ることで、相手方との直接のやり取りを避けながら事実関係を整理でき、必要に応じて示談の形で区切りをつけることもできます。捜査機関から連絡が来ている段階であれば、聴かれる内容の見通しを立てたうえで臨むことができます。

まとめ


深夜の騒音や迷惑行為は、ひとつの罪名にまとめて扱われるものではありません。自宅からの音であれば軽犯罪法1条14号、特定の相手に向けた継続的な音であれば刑法の暴行罪・傷害罪、路上や店内での行為であれば軽犯罪法1条13号・5号や迷惑防止条例、車の音であれば道路交通法、営業に伴う音や音量そのものであれば環境確保条例と、場面ごとに参照される条文が変わります。

通報を受けた段階では、まだ罪名が確定したわけではありません。軽犯罪法の静穏妨害は、警察官の制止に従わずに同じ状態を続けた場合を想定した条文であり、身元がはっきりしていれば逮捕の制限も働きます。実際に手続が動くのは、音そのものよりも、その周辺で起きた行為が加わったときであることが多いといえます。

弁護士法人若井綜合法律事務所では、近隣トラブルに関するご相談をお受けしています。警察から連絡が来ている場合、相手方から金銭の請求を受けている場合など、状況に応じた対応をご案内しますので、判断に迷われた段階でご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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