会社・学校に無断で立ち入った|建造物侵入の成立範囲

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

退職した会社に私物を取りに戻った、休日に忘れ物を取りにオフィスへ入った、母校のグラウンドに立ち寄った。こうした行為の後に警察から連絡が来て、「建造物侵入」という言葉を初めて聞いた、という方は少なくありません。

建造物侵入罪は、塀を乗り越えるような場面だけの罪ではありません。正面から歩いて入った場合でも、成立が問題になることがあります。一方で、無断だからといって常に犯罪になるわけでもありません。

この記事では、会社と学校という具体的な場面に絞って、どこまでが「立ち入ってよい範囲」と扱われ、どこから「侵入」と評価されるのかを整理します。

会社や学校への立入りは建造物侵入罪の問題になる


刑法130条前段は、正当な理由がないのに人の住居、人の看守する邸宅・建造物・艦船に侵入した者を処罰すると定めています。このうち、住居以外の建物に無断で立ち入った場合が建造物侵入罪です。

法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金です。拘禁刑は、2022年の刑法改正により懲役刑と禁錮刑が一本化されたもので、2025年6月1日から施行されています。未遂も処罰の対象とされています(刑法132条)。

会社のオフィス、工場、倉庫、店舗、学校の校舎や体育館は、いずれも「人の看守する建造物」にあたります。「看守する」とは、その建物を事実上管理・支配していることをいい、常に人が中にいることまでは必要とされていません。無人の建物でも、施錠や設備管理を通じて管理されていれば、看守されている建造物として扱われます。

なお、建造物侵入罪は親告罪ではありません。被害者側の告訴がなくても、捜査が進むことがあります。公訴時効は3年です。

成立を分けるのは「管理権者の意思に反するかどうか」


条文にある「侵入し」の意味について、最高裁は、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと判断しています。そのうえで、管理権者があらかじめ立入り拒否の意思を積極的に示していなかった場合であっても、建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、その立入りを容認していないと合理的に判断されるときは、同罪の成立を免れないとしています(最高裁昭和58年4月8日判決)。

ここで押さえておきたいのは、次の2点です。

・鍵を壊した、塀を越えたといった態様は、成立の必須条件ではない
・「立入禁止」と明示されていなくても、状況から容認されていないと判断されれば足りる

さらに最高裁は、営業中の銀行支店出張所に、ATM利用客のカードの暗証番号などを盗撮する目的で立ち入った事案について、そのような立入りが管理権者である支店長の意思に反することは明らかであるから、立入りの外観が一般の利用客と特に異ならなくても建造物侵入罪が成立するとしています(最高裁平成19年7月2日決定)。

つまり、外から見て自然な立ち入り方であっても、立ち入った時点でどのような目的を持っていたかによって、評価が変わり得るということです。会社や学校のように、一定の範囲で人の出入りが想定されている建物では、この「目的」の要素が判断の中心になりやすいといえます。

立入りが認められる範囲は場所ごとに区切られている


会社や学校は、建物全体が一律に開放されているわけでも、一律に閉ざされているわけでもありません。受付ロビーまでは来客が自由に入れても、執務室や更衣室、サーバー室は別の扱いになります。承諾の範囲は、建物単位ではなく区画単位で考えるのが実務的です。

場面建造物侵入の成立をどう見るか
営業時間中の店舗・来客用ロビー来客として通常の目的で立ち入る限り、問題になりにくい
「関係者以外立入禁止」の表示がある区画管理権者の意思が示された典型例で、無断で立ち入れば成立する方向に働く
受付を通らずに執務室へ入った部外者の立入りが想定されていない区画であり、意思に反する立入りと判断されやすい
就業時間外・休日のオフィス通常は立入りが想定されておらず、在職中でも問題になることがある
更衣室・トイレなど性別で区分された場所区分に反する立入りは、目的にかかわらず容認されていないと判断されやすい
門やフェンスで囲われた敷地・駐車場建物内に入っていなくても、囲繞地として同罪の対象になり得る


囲繞地とは、建物に接してその周辺に存在し、かつ管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することによって、建物の附属地として建物利用のために供されるものであることが明示されている土地をいいます(最高裁昭和51年3月4日判決)。会社の敷地や学校のグラウンドは、これにあたることが多い場所です。

また、最高裁は、警察署庁舎の東側にあった高さ約2.4メートル、幅約22センチメートルのコンクリート製の塀について、庁舎建物とその敷地を他から明確に画するとともに外部からの干渉を排除する作用を果たしており、庁舎建物の利用のために供されている工作物であるとして、刑法130条にいう「建造物」の一部を構成し、建造物侵入罪の客体にあたると判断しています(最高裁平成21年7月13日決定)。敷地の中に足を踏み入れていなくても、塀の上に上がった行為が問題になった事案です。

会社の場合|立場によって線引きが変わる


同じオフィスに入る行為でも、その人の立場によって、承諾があるといえる範囲は変わります。

在職中の従業員

従業員には、業務のために自社の建物へ立ち入ることについて包括的な承諾があると考えられます。ただしその承諾は、通常の時間帯に、業務上必要な区画へ、業務のために入ることを前提としたものです。正規に貸与されたIDカードや鍵を使っていても、承諾された目的の外にある立入りであれば、建造物侵入罪の成立が問題になります。

たとえば、深夜に他部署の書類を持ち出す目的で入った、更衣室に撮影機器を設置する目的で入った、といった場面です。実際に、勤務先の建物へ職務上与えられた鍵で立ち入りながら、目的が窃盗であったために窃盗罪と建造物侵入罪の両方に問われた事例が報じられています。

退職した元従業員

退職により、包括的な承諾の前提そのものがなくなります。私物の回収や書類の受け取りが目的であっても、事前に会社の了解を得ずに立ち入れば、意思に反する立入りと判断される可能性があります。返却し忘れたIDカードが物理的に使えたとしても、それは承諾が残っていることを意味しません。

在職中のトラブルが背景にある場合、会社側が警戒を強めていることも多く、立入り自体が事件化しやすい状況にあります。私物の返還は、書面や代理人を通じて日程を調整するのが安全です。

取引先・出入業者・求職者

納品、点検、面接など、来訪の目的が事前に共有されていれば、その目的と場所の範囲内での立入りは問題になりません。逆に、用件が終わった後に別の区画へ移動した、アポイントを装って入った、といった場合には評価が変わります。

テナントビルに入居している会社

雑居ビルやオフィスビルでは、共用部の管理権者はビルの管理会社、専有部の管理権者は入居企業と、管理権が分かれていることがあります。共用部への立入りと、特定の会社のフロアへの立入りとで、それぞれ別に問題になり得る構造です。示談を検討する際にも、誰が相手方になるのかを最初に確認する必要があります。

学校の場合|開放されている範囲と時間帯が基準になる


学校は、門や塀で敷地が囲われていることが多く、校舎に入っていなくても敷地に立ち入った時点で問題になり得る場所です。他方で、行事や見学のために一定の範囲が開放されることもあり、時期や時間帯によって扱いが変わります。

・卒業生が母校を訪れる場合、卒業生であること自体は立入りを正当化する理由になりません。事前に学校側の許可を得ているかどうかが中心的な判断材料になります
・保護者向けに開放されている行事であっても、開放されている範囲を超えて校舎内を移動すれば、別に評価される可能性があります
・大学のように出入りが比較的自由な施設でも、体育館の更衣室やシャワー室のように、部外者に開放されているとは考えにくい区画があります
・夜間や休日など、施設が閉じられている時間帯の立入りは、成立が問題になりやすい場面です

過去には、取材目的で大学の校舎内に許可なく立ち入り、職員の質問に対して身分や目的を明らかにしなかった記者が、建造物侵入の疑いで現行犯逮捕された例が報じられています。本人が正当な理由があると考えていても、外形的な事情から異なる評価を受けることがあります。

退去を求められた後も残った場合


刑法130条の後段には、不退去罪が定められています。要求を受けたにもかかわらず、住居や建造物から退去しなかった場合に成立する罪で、法定刑は建造物侵入罪と同じです。

立入り自体には問題がなかった場合でも、退去を求められた後に相当な時間その場にとどまれば、この罪が問題になります。会社の受付や学校の職員室で押し問答になった場面が、これにあたることがあります。

退去を求められたときは、その場で言い分を主張し続けるよりも、いったん建物の外へ出たうえで、あらためて連絡手段を通じて対応を検討するほうが、結果的に不利益が小さくなることが多いといえます。

同時に問題になりやすい罪


建造物侵入罪は、単独で立件されるよりも、建物の中で行われた行為とあわせて問題になることが多い罪です。次のような組み合わせが典型的です。

・物を持ち出した場合の窃盗罪
・撮影行為があった場合の性的姿態等撮影罪や各都道府県の迷惑防止条例違反
・設備や書類を壊した場合の器物損壊罪
・業務を妨げた場合の威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪
・営業秘密にあたる情報を持ち出した場合の不正競争防止法違反
・他人のIDでシステムに接続した場合の不正アクセス禁止法違反

侵入が手段となり、建物内での行為が目的となっている関係にある場合、両者は牽連犯(刑法54条1項後段)として、最も重い刑により処断されます。なお最高裁は、建造物侵入罪と条例違反の盗撮が牽連犯となる事案について、罰金刑の上限は高い方の額によると判断しています(最高裁令和2年10月1日判決)。

どの罪が中心になるかによって、見通しも取るべき対応も変わってきますので、まず何が問題とされているのかを正確に把握することが出発点になります。

被害者が法人であることが実務に与える影響


会社や学校の事案で特徴的なのは、被害を受けたとされる側が個人ではなく法人だという点です。この違いは、実務上いくつかの形で表れます。

示談交渉の窓口が個人と異なる

会社であれば総務部や法務部、顧問弁護士が窓口になり、学校であれば校長や設置者である法人、公立校であれば教育委員会が関与します。担当者個人の判断で決められる事柄が少なく、社内の決裁を経る必要があるため、個人相手の示談に比べて時間がかかる傾向があります。

組織の方針として示談に応じない場合がある

前例をつくらないという理由から、示談そのものに応じない方針をとる組織もあります。その場合でも、謝罪文の受領や、再度立ち入らない旨の約束を書面で交わすといった対応が可能なことがありますので、何ができるかを個別に検討することになります。

勤務先が被害者である場合は懲戒処分が並行する

自社の建物への立入りが問題になった事案では、刑事手続とは別に、就業規則に基づく社内手続が進みます。刑事事件としての結論が出る前に社内での処分が先行することもあり、それぞれに対する説明の内容が食い違わないよう整理しておく必要があります。

警察から連絡を受けたときの対応


呼び出しの連絡があった段階では、まだ処分の方向が固まっていないことがほとんどです。この時期の対応が、その後の見通しに影響します。

・いつ、どの建物の、どの区画に、どのような目的で立ち入ったのかを、記憶している範囲で時系列に整理しておく
・当該の会社や学校に、無断で再び立ち入らない。連絡を取る必要がある場合も、直接訪問は避ける
・持ち出した物やデータがある場合は、自己判断で処分せず、返還や提出の方法を相談する
・貸与されていたIDカードや鍵が手元に残っている場合は、返却の経緯を含めて説明できるようにしておく
・取調べでは、記憶に反することを述べないようにする。あいまいな点はあいまいなまま伝えて差し支えありません

立入りの目的が成立の判断に大きく関わる罪ですので、当時どのような意図で建物に向かったのかという点は、詳しく聞かれることが多くなります。事実と異なる説明をすると、後から訂正することが難しくなります。

まとめ


会社や学校への無断の立入りは、建造物侵入罪の問題として扱われます。判断の中心は、鍵や塀を越えたかどうかではなく、その立入りが管理権者の意思に反するといえるかどうかです。

・承諾の範囲は建物単位ではなく、区画・時間帯・目的によって区切られている
・在職者、退職者、取引先、卒業生など、立場によって認められる範囲が変わる
・建物に入っていなくても、囲われた敷地や塀が対象になることがある
・被害者が法人である分、示談の窓口や進み方が個人の事案とは異なる

一方で、通常の来客として立ち入った場合や、開放されている範囲にとどまっていた場合まで犯罪になるわけではありません。ご自身の行為がどちらに近いのかは、当時の状況を具体的に整理してみないと判断できない部分があります。

弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を24時間受け付けています。警察から連絡があった段階、あるいは連絡が来るかもしれないと不安を感じている段階でも構いませんので、まずはお話をお聞かせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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