元交際相手の家の前で待っていた|住居侵入とつきまといの境界

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

別れた相手と直接話がしたい、預けたままの荷物を返してほしい、連絡がつかないので誤解を解きたい。そうした理由から、相手の自宅の前で待っていたという方がいらっしゃいます。ほかに手段がないと考えた末の行動であっても、後日、警察から連絡が入ることがあります。

 「家の前で待っていただけで罪になるのか」という問いに、一言で答えることはできません。実際には、どこで待ったのか、どのような態様だったのか、何回目なのかという別々の要素が、それぞれ別の法律で評価されるからです。

 この記事では、自宅前での待ち伏せが刑法の住居侵入罪の問題になる場面と、ストーカー規制法の問題になる場面を切り分け、その境界がどこにあるのかを整理します。待っていた側、つまり疑いを向けられた側の立場から解説します。

「待っていた」行為は二つの法律で別々に評価される


 自宅前で待つ行為について、多くの方は「ストーカーになるかどうか」という一点で考えます。しかし実務上は、次の二つが別々に検討されます。

どこで待ったか……敷地や建物の内側に立ち入っていれば、刑法130条の住居侵入罪の問題になります
どのように、何回待ったか……敷地の外にいた場合でも、ストーカー規制法の「つきまとい等」に当たることがあります

 この二つは重なることもあれば、片方だけが問題になることもあります。門の外の路上に立っていただけであれば住居侵入罪にはなりにくい一方、ストーカー規制法の対象から外れるわけではありません。逆に、その日が一度目で繰り返しがなかったとしても、敷地の中に入っていれば住居侵入罪は成立し得ます。

 「一度だけだから」「家の中には入っていないから」という理由だけで、直ちに問題がないとはいえないのはこのためです。

どこで待ったか|住居侵入罪の線引き


条文と法定刑


 刑法130条前段は、正当な理由がないのに、人の住居や人の看守する邸宅・建造物などに侵入した場合を処罰しています。法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金で、未遂も処罰の対象です(刑法132条)。親告罪ではないため、被害者の告訴がなくても捜査は始まります。

「侵入」とは何を指すか


 ここでいう「侵入」とは、居住者や管理する人の意思に反して立ち入ることをいいます。判例は、立入りを拒む意思が積極的に示されていなくても、建物の性質や使用目的、管理の状況、管理する人の態度、立入りの目的などから、その立入りを容認していないと合理的に判断されるときは「侵入」に当たるとしています(最高裁昭和58年4月8日判決)。

 したがって、「鍵はかかっていなかった」「塀を乗り越えたわけではない」といった事情だけで、成立が否定されるわけではありません。

待った場所ごとの目安


待っていた場所住居侵入罪との関係
敷地の外の道路・歩道建物にも敷地にも立ち入っていないため、住居侵入罪としては原則問題になりません
門扉や塀の内側にある庭・玄関前住居に接続し、塀や垣根で囲われた土地は住居の一部として扱われ、立ち入った時点で成立し得ます
囲いのない駐車場・空き地囲障がなく、建物の付属地であることが明示されていない土地は、130条の対象から外れる場合があります
集合住宅のエントランス・共用廊下・階段各住戸の玄関前までの共用部分について、130条の客体に当たるとした最高裁判例があります
オートロックの内側居住者に続いて入る、暗証番号を使うなど、態様によっては意思に反する立入りと判断されやすくなります


 塀や垣根で囲われた敷地が住居の一部として扱われることは古くから認められており(最高裁昭和25年9月27日判決)、その意味も判例で示されています(最高裁昭和51年3月4日判決)。集合住宅については、各号棟の1階出入口から各室玄関前までの部分を「人の看守する邸宅」に当たるとした最高裁平成20年4月11日判決、分譲マンションの共用部分に立ち入った行為について住居侵入罪の成立を認めた最高裁平成21年11月30日判決があります。

 もっとも、囲いのない土地であれば何をしてもよい、という意味ではありません。後述のとおり、別の規定が用意されています。

「話がしたかっただけ」は正当な理由になるか


 130条は「正当な理由がないのに」立ち入った場合を処罰しています。ここでの正当な理由とは、法令上の根拠がある場合などを指しており、本人にとって切実な事情があることとは別の問題です。

 ご相談では、次のような説明を伺うことがあります。

・置いたままの荷物を返してほしかった
・貸したお金の話をしたかった
・連絡がつかないので、直接会って誤解を解きたかった
・別れることに納得できず、理由を聞きたかった

 いずれも本人にとっては理由のある行動ですが、居住者の意思に反する立入りである以上、それだけで住居侵入罪の成立が否定されるとは限りません。むしろ目的の内容は、意思に反する立入りだと認識していたかどうかを判断する材料として扱われることがあります。荷物や貸金の問題であれば、直接訪ねる以外の方法が残されていた点を指摘されやすいところでもあります。

招き入れられた後に残った場合


 いったん相手の承諾を得て中に入った場合でも、退去を求められたのに応じずにとどまれば、130条後段の不退去罪の問題になります。入ること自体が許されていたことと、その後も居続けてよいこととは、別に評価されます。

敷地に入っていなくても|ストーカー規制法の「つきまとい等」


「待ち伏せ」は条文に明記されている


 ストーカー規制法2条1項1号は、つきまとい、待ち伏せ、進路に立ちふさがること、住居・勤務先・学校その他その現に所在する場所もしくは通常所在する場所(住居等)の付近における見張り、住居等への押し掛け、住居等の付近をみだりにうろつくことを挙げています。「待ち伏せ」はこの条文に明記された行為であり、敷地の外の路上にいた場合でも対象になります。

 また、「住居等」には自宅だけでなく勤務先や学校、さらに相手が現に所在する場所も含まれます。自宅前を避けて職場の近くで待った場合でも、同じ号の問題になります。相手が在宅していたかどうかも、押し掛けの評価では問われません。

三つの要件


 もっとも、この規定はあらゆる「待つ」行為に及ぶわけではありません。次の要件があります。

1 目的……特定の相手に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を満たす目的で行われたこと。相手方には、本人のほか配偶者や親族など密接な関係のある人も含まれます。
2 不安を覚えさせる方法……1号から4号の行為は、身体の安全、住居等の平穏もしくは名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法で行われた場合に限られます。
3 反復……ストーカー行為として処罰の対象になるのは、同一の相手に対してつきまとい等を反復した場合です。

 金銭の回収だけが目的であり好意も怨恨もない、という事案では1が争点になり得ます。ただし、別れた相手に対する行為である以上、感情の問題ではないという説明が常に通るとは限りません。

繰り返していない場合の扱い


 一度きりであれば、ストーカー行為罪(18条)には当たりません。しかし、警察本部長等による警告(4条)や公安委員会による禁止命令等(5条)は、反復して行われたことを要件としていません。同法3条に違反する行為があり、さらに反復して行うおそれがあると認められれば、一度の行為でも警告の対象になり得ます。

 また、警告や禁止命令等は、その原因となった行為だけを禁じるものではなく、条文に挙げられた行為全般に及ぶ形で行われます。自宅前で待ったことをきっかけに警告を受けた後は、手紙やメッセージの送信、位置情報の取得なども対象に含まれることになります。

罰則


場面法定刑
ストーカー行為をした場合(18条)1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合(19条)2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金
その他の禁止命令等に違反した場合(20条)6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金


 ストーカー行為罪は平成28年の改正で非親告罪となっており、告訴がなくても起訴することができます。

どちらにも当たらないときに残る規定


 敷地に立ち入っておらず、繰り返してもいない場合でも、次の規定が問題になることがあります。

・軽犯罪法1条28号……他人の進路に立ちふさがり、その身辺に群がって立ち退こうとせず、または不安もしくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう行為で、拘留または科料が定められています。反復や目的の要件はありません。
・軽犯罪法1条32号……入ることを禁じた場所に正当な理由なく入る行為。囲いのない土地であっても、立入りを禁じる表示がある場合などに問題になり得ます。
・迷惑防止条例……都道府県ごとに、つきまといや見張りなどを規制する規定が置かれています。たとえば東京都の条例では、反復して行うことが要件とされています。
・脅迫罪・強要罪など……待っていた際の言動によっては、別の罪が検討されることがあります。

統計から見た実際の扱われ方


 警察庁が令和8年3月に公表した令和7年のストーカー事案等への対応状況によると、ストーカー規制法違反での検挙が1,546件であったのに対し、刑法犯その他の特別法犯での検挙は2,171件でした。その内訳で最も多かったのが住居侵入の437件です。

 この数字は、自宅前での行為が「ストーカー規制法に当たるかどうか」だけで処理されているわけではないことを示しています。繰り返していないから問題にならない、という見立ては実態と離れています。

警察から連絡が来たときに


この段階で避けたい行動


 次のような行動は、状況を難しくすることがあります。

・相手に直接連絡し、自分の口で事情を説明しようとすること
・共通の知人や家族を介して伝言を頼むこと
・相手のSNSを見に行くこと
・「もう行かない」と伝えるために、もう一度自宅前へ行くこと
・記録を意識して、端末のメッセージ履歴などを削除すること

 いずれも、それまでの行為に新たな一回を加える結果になったり、記録を隠したと受け止められたりすることがあります。連絡を取ること自体が、拒絶の意思を示された後の行為として評価される場合もあります。

整理しておきたいこと


 相談の前に、次の点を思い出せる範囲で書き出しておくと、見通しを立てやすくなります。

・いつ、どこで、どのくらいの時間待っていたか
・敷地や共用部分に立ち入ったかどうか、どこまで進んだか
・その日の目的と、相手とのやり取りの経緯
・過去に同じことをした回数と、その間隔
・相手から拒絶の意思を示されていたか、それはいつか

弁護士に相談する意味


 この類型では、起きた出来事そのものよりも、その出来事をどの枠組みで評価するかが結論を左右します。立ち入った範囲が住居の一部といえるのか、共用部分のどこまで進んだのか、目的の要件を満たす事案といえるのか。同じ出来事でも、整理の仕方によって扱いが変わり得る部分があります。

 また、当事者どうしで直接連絡を取ることが適切でない状況では、謝罪や示談の申し入れも、窓口を代理人に移して行うことになります。相手の連絡先を知らない場合や、接触を控えるべき場合でも、弁護士を通じてであれば経路を確保できることがあります。

 当事務所では24時間体制でご相談を受け付けており、初回のご相談は無料です。捜査機関から連絡が入る前の段階であっても、ご相談いただけます。

よくある質問


待っていただけで、相手とは話していません。それでも罪になりますか


 会話や接触がなかったことは、成立を否定する決め手にはなりません。ストーカー規制法1号の「待ち伏せ」「見張り」は、相手に声をかけることを前提としていないためです。敷地に立ち入っていた場合には、それとは別に住居侵入罪が問題になります。

敷地には入っていません。住居侵入にはなりませんか


 建物にも囲われた敷地にも立ち入っていなければ、住居侵入罪の問題にはなりにくいといえます。ただし、集合住宅では敷地の外と内の境目が分かりにくく、エントランスや共用廊下は「入っていない」と考えていても住居侵入罪の客体に当たり得ます。また、敷地の外であってもストーカー規制法や軽犯罪法の問題は残ります。

貸したお金を返してほしかっただけです


 請求する権利があること自体は、相手の住居に立ち入ってよい理由にはなりません。ストーカー規制法についても、金銭の話をしたかったという説明だけで目的の要件が否定されるとは限らず、それまでの経緯や言動と併せて判断されます。金銭の問題は、代理人を通じた請求や法的手続によって進めることができます。

警告を受けました。前科はつきますか


 警告は刑罰ではなく行政上の措置であるため、それ自体で前科がつくものではありません。ただし、警告の対象になった行為について刑事事件としての捜査が並行して行われることはあり、警告を受けたこと自体が、その後の判断の前提として扱われます。

まとめ


 自宅前で待つ行為は、「どこで待ったか」という場所の問題と、「どのように、何回待ったか」という態様の問題に分けて評価されます。敷地や共用部分に立ち入っていれば刑法130条の住居侵入罪が、路上にとどまっていてもストーカー規制法のつきまとい等が、それぞれ別に検討されます。

 どちらにも当たらない場合でも軽犯罪法や迷惑防止条例が残されており、実際の統計でも、ストーカー事案では住居侵入での検挙が相当数を占めています。「一度だけ」「中には入っていない」という自己判断で様子を見るよりも、事実関係を整理したうえで、どの枠組みの問題なのかを確認しておくことをおすすめします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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