家庭裁判所調査官の調査では何を見られているのか

若井亮

若井亮

テーマ:少年事件

事件が家庭裁判所に送られると、警察や検察の取調べとは別に、家庭裁判所調査官による調査が始まります。少年や保護者が呼び出され、生い立ちや家庭の様子まで尋ねられるため、どこまで話せばよいのか、何を見られているのかと戸惑う方は少なくありません。

 この調査は、捜査の続きではありません。何をしたのかという点は、送致された記録の中で既に整理されています。調査官が集めようとしているのは、その行為がなぜ起きたのか、そして何がそれを止めうるのかという材料です。この記事では、調査で扱われる事項と方法、面接の進み方、そして調査の結果がどこに残るのかまでを整理します。

調査官の調査は捜査の続きではない

 家庭裁判所調査官は、家庭裁判所に置かれ、少年保護事件などの審判に必要な調査を担当する裁判所の職員です。裁判所法にその職務が定められており、心理学、教育学、社会学といった行動科学の知識や技法を用いる点で、捜査機関とは役割が異なります。

 家庭裁判所が行う調査は、非行事実があったといえるかを記録に基づいて確かめる部分と、どのような処分が少年の立ち直りに結びつくかを見る部分に分かれます。前者を担当するのは裁判官で、後者を担当するのが調査官です。実務では、前者を法律調査、後者を社会調査と呼び分けています。

非行事実の存在が前提になる

 社会調査は、少年や家庭の私的な事情に深く立ち入るものです。そのため、非行事実が認められることを前提として進められるのが基本の形です。少年が事実を争っている場面では、まず事実の有無が問題になり、その判断は裁判官が行います。争いのある事件で調査官の面接にどう臨むかは、事実に関する主張と切り離して考えることができません。

調査事項として挙げられているもの

 少年審判規則は、審判に付すべき少年について、家庭及び保護者との関係、境遇、経歴、教育の程度及び状況、不良化の経過、性行、事件の関係、心身の状況など、審判及び処遇上必要な事項の調査を行うものと定めています。さらに、家族や関係人の経歴、教育の程度、性行等についても、できる限り調査を行うものとされています。

 実務では、これらがおおむね次のような区分で整理されています。

調査事項の区分主に扱われる内容
非行事実事件の経緯・態様・動機、本人の受け止め方
被害に関する事項被害の内容、謝罪や弁償の状況
生活史生育歴、家庭内の出来事、過去の問題行動
学業・職業関係在学や就労の状況、出欠や勤務の安定ぶり
性格・心身の状況行動の傾向、心身の状態
家庭家族関係、監護の実情、生活の枠組み
交友関係・地域環境付き合っている相手、生活圏の環境


 非行事実もこの中に含まれていますが、扱われ方が捜査とは異なります。誰が何をしたかを確定するためではなく、その行為が少年の生活の中でどのような位置を占めていたのかを見るために取り上げられます。

どのような方法で調べられるのか

 調査の方法は面接だけではありません。少年と保護者への面接調査を中心に、書面での照会、電話での照会、家庭や学校へ出向く出張調査、心理テストなどが組み合わされます。照会先には、学校、児童相談所、保護観察所、少年鑑別所などがあり、事件の内容によっては、被害を受けた方や勤務先に連絡が及ぶこともあります。

面接の場所と回数の目安

 面接の場所と回数は、身柄が拘束されているかどうかで変わります。在宅のまま手続が進む事件では、少年と保護者がともに家庭裁判所に呼ばれ、面接は一回から数回程度とされています。少年鑑別所に収容されている事件では、調査官が鑑別所に出向いて少年と面接する回数が三回から四回程度、保護者との面接は家庭裁判所で一回から二回程度と説明されることが多い形です。一回あたりの時間は一時間から二時間程度になるとされます。

事前に届く照会書

 面接に先立ち、少年や保護者あてに照会書が郵送され、質問事項に回答したうえで面接に臨む扱いがとられることがあります。少年に対しては事件の受け止めや反省点、生活の様子など、保護者に対しては家族の状況、住まいの状況、生育歴、養育の方針、被害者への対応、処分についての意見などが尋ねられます。書面は面接の出発点になるため、記入した内容と面接で話す内容が食い違わないよう、事前に整理しておく必要があります。

学校への照会

 在学中の少年については、学校に対する照会が行われることがあります。照会書では、出欠の状況、学習態度、部活動、交友関係、進路、総合所見などが尋ねられます。少年のプライバシーに配慮して、照会書に事件の内容そのものは記載されない扱いとされていますが、照会が届いたこと自体をきっかけに、学校が事態を把握することはあり得ます。

 付添人がついている場合には、照会の必要性について調査官と協議したり、成績や出欠の資料を自ら集めて提出することで学校への連絡を避けられないかを検討したりすることがあります。学校との関係が少年の生活の土台になっている場合、この点は早い段階で相談しておきたいところです。

見られているのは「要因の組み合わせ」

 調査で集めた事実は、そのまま並べられるわけではありません。なぜこの少年に、この時期に、この行為が起きたのかという筋道に組み立てられ、そのうえで、再び非行に及ぶ危険性が見通されます。調査の中心にあるのはこの作業です。

 その見通しは、二つの方向の事情を拾い出す形で説明されています。行為を後押しした事情と、行為を思いとどまらせうる事情です。前者を促進要因、後者を抑止要因と呼びます。そして、それぞれの要因が今後動きうるかどうかが見極められます。促進要因が薄まり、抑止要因が強まる見込みがあるかどうかが、処遇についての意見に結びついていきます。

抑止する側の事情として扱われやすいもの


  • 家庭に、生活時間や外出の様子を把握できる関わりが戻っていること。
  • 在学や就労の見通しが具体的であること。
  • 事件と結びついた交友関係や生活圏から距離が取れていること。
  • 被害を受けた方への謝罪や弁償について、本人が経過を説明できること。
  • 自分の行為の何が問題だったのかを、本人が自分の言葉で語れること。
  • 相談先や治療など、家庭の外の支えにつながっていること。


 いずれも、事件そのものの重さとは別の軸の事情です。少年事件で処分の見通しを立てにくいのは、行為の重さだけで決まる仕組みになっていないためです。

要保護性という言葉の中身

 これらの判断をまとめて、実務では要保護性と呼びます。要保護性は、再び非行に及ぶ危険性があるか、保護処分による教育でその危険性を取り除ける見込みがあるか、保護処分による対応が適切といえるか、という要素で説明されるのが一般的です。調査官が生い立ちや家庭の様子まで尋ねるのは、この三つを判断するための材料を集めているからです。

保護者に向けられる調査

 調査の対象は少年だけではありません。保護者も面接を受け、少年の生育歴、日々の生活の様子、事件の受け止め、今後の指導方針などを尋ねられます。少年法は、保護者に監護の責任を自覚させるため、調査や審判の場で訓戒や指導などの措置をとることができるとも定めており、調査官がその役割を担うことがあります。

 ここで問われているのは、保護者の落ち度を数え上げることではなく、これから少年の生活をどう支えられるかという点です。答えにくい事情があっても、事実と異なる説明を重ねると、少年の話や記録との食い違いとして表れてしまいます。

家庭訪問で見られていること

 事件によっては、調査官が自宅を訪ねることがあります。住まいの様子や少年の部屋を見たうえで、保護者と話をする形が一般的です。確かめられているのは、住まいの立派さではなく、少年が生活する場所として機能しているかという点です。部屋の様子について尋ねられたときに保護者が何も答えられないと、日頃の関わりが薄いと受け取られることがあります。

用意した答えが働きにくい理由

 調査官の面接は、追及の場ではありません。少年の話に耳を傾け、内省を促しながら進められることが多く、取調べとの雰囲気の違いに驚く少年もいます。ただし、和やかに進むことと、話した内容がそのまま受け取られることは別の話です。

 面接は複数回にわたり、少年、保護者、学校や関係機関という複数の相手から事情が集められます。事件の記録や照会の回答とも突き合わされるため、用意した言葉だけが浮いてしまうと、かえって不自然さが残ります。飾らずに、実際に生活の中で起きた出来事を、時期と併せて説明できるようにしておくほうが、伝わる材料になります。

反省の言葉より、変化の中身

 反省しているという言葉そのものが評価されるわけではありません。何が問題だったのか、同じ場面に置かれたときに何を変えるのか、そのために今の生活をどう組み直しているのか、という中身が扱われます。言葉を整えるより、生活の側で説明できる事実を作っておくほうが、調査の枠組みに沿った備え方だといえます。

調査の結果はどこに残るのか

 調査官は、調査の結果を少年調査票という書面にまとめ、処遇についての意見を付して家庭裁判所に報告します。少年審判規則は、調査の結果を書面で報告すること、その書面に意見を付すことを定めています。少年調査票は審判の前に裁判官へ提出され、審理の資料として扱われます。裁判官の判断に対して影響が大きいと説明されることが多く、付添人が調査官と早い段階でやり取りを重ねるのは、このためです。

 少年調査票には、非行に至る経緯、家庭の状況、保護者の姿勢、働き掛けの実施状況などが記載されます。保護処分となった場合、この記録は処遇を担当する機関にも送られ、その後の処遇の参考にされます。面接で話した内容は、審判の日で終わるものではないということです。

記録を見られる人は限られる

 保護事件の記録や証拠物は、家庭裁判所の許可を受けなければ閲覧や謄写ができないのが原則です。付添人については、審判開始の決定があった後は記録を閲覧することができるものとされており、謄写には許可が必要とされています。保護者が自由に読める性質のものではないため、記録に何が書かれているかを踏まえて動けるかどうかは、付添人が選任されているかどうかで差が出ます。

審判と、その後に続く場合

 少年審判規則は、家庭裁判所調査官は裁判長の許可を得た場合を除き審判の席に出席しなければならないと定めています。もっとも、実際に出席するかどうかは事件によって異なるとされます。出席した場合、調査でのやり取りを踏まえて、少年や保護者に質問がされたり、指導が行われたりすることがあります。

試験観察になった場合

 家庭裁判所は、保護処分を決めるために必要があると認めるときは、相当の期間、少年を家庭裁判所調査官の観察に付することができます。これが試験観察です。最終的な処分を一度留保したうえで生活の様子を観察する中間的な決定で、期間は事案に応じて設定されます。

 試験観察には、自宅で生活しながら観察を受ける形のほか、適当な施設、団体又は個人に補導を委託する形があります。委託を受けた先で就労する類型、生活指導を受けながら生活する類型、社会奉仕の活動に従事する類型などが挙げられています。期間中は、生活状況、交友関係、就学や就労の状況が確認され、経過が改めて裁判官に報告されます。指示に従わない状態が続けば、そのこと自体が判断の材料になります。

調査の中で行われる働き掛け

 調査は、事情を聞き取るだけの手続ではありません。調査の過程では、教育的措置と呼ばれる働き掛けが行われることがあります。被害の実情を学ぶ講習、清掃や福祉施設での活動といった社会奉仕、交通に関する講習、医師や看護師による保健指導、履歴書の作成や面接の指導といった就労支援、学習支援、親子で参加する行事、保護者を対象とした会、怒りの抑え方を扱う指導、課題作文など、各家庭裁判所の実情に応じてさまざまな形がとられています。

 これらは処罰として課されるものではありません。働き掛けに対する少年や保護者の反応そのものが、処遇を選ぶための材料として見られています。参加した後に何が変わったのかを説明できるかどうかが、調査の結果に反映されていきます。

調査を受ける前に確かめておきたいこと


  • 呼出しの日時と場所、同行が求められている人。
  • 事前に届いた照会書の記入内容と、面接で話す内容の整合。
  • 学校や勤務先への照会について、事前に相談できる余地があるか。
  • 被害を受けた方への対応が進んでいる場合、その経過を説明できる資料。
  • 生活の立て直しについて、誰が何を担当するのかという具体像。


 これらは、面接の場で急に整えられるものではありません。付添人が選任されていれば、調査の進み方に合わせて資料の準備や関係先との調整を進めることができますし、調査官の意見がまとまる前の段階で、少年の側の見方を書面で伝えることもできます。調査が始まってから動き出すよりも、家庭裁判所に事件が送られる前後の段階で相談しておくほうが、選べる手が残りやすくなります。

少年事件についてのご相談

 弁護士法人若井綜合法律事務所は、池袋と新橋に事務所を構え、刑事事件と少年事件のご相談をお受けしています。調査官の面接をどう迎えるか、照会書にどう回答するか、学校や勤務先との関係をどう保つかといった点は、事件の内容と少年の生活状況によって考え方が変わります。ご本人だけでなく、保護者の方からのご相談にも対応しています。

まとめ


  1. 家庭裁判所の調査は、非行事実を記録で確かめる部分と、処分を選ぶための社会調査に分かれ、後者を担当するのが家庭裁判所調査官である。
  2. 調査事項は、非行事実、被害に関する事項、生活史、学業や職業、性格や心身の状況、家庭、交友関係や地域環境といった区分で整理されている。
  3. 方法は面接だけでなく、書面や電話での照会、家庭や学校への出張調査、心理テストなどが組み合わされる。
  4. 面接の回数は、在宅の事件で一回から数回、鑑別所に収容されている事件では少年について三回から四回程度とされている。
  5. 中心にあるのは、行為を後押しした事情と思いとどまらせうる事情を拾い出し、それらが今後動きうるかを見極める作業である。
  6. 保護者も調査の対象で、家庭訪問では住まいの様子とともに、少年との関わり方が見られている。
  7. 調査の結果は少年調査票にまとめられ、意見を付して裁判官に提出されるほか、保護処分となった場合は処遇機関にも送られる。
  8. 照会書への回答や学校への照会の扱いは後から取り返しにくいため、調査が本格化する前に付添人と方針を共有しておきたい。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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