情状証人として家族が法廷に立つ|実際に聞かれること
整体院や治療院、リラクゼーションサロンで、施術中の行為について「告訴する」「告訴した」と告げられる相談があります。身体に直接触れる仕事である以上、こうした申告はどの施術者にも起こり得ますが、いざ自分の身に起きると、何が始まっているのか、これから何が起きるのかが分からないまま時間だけが過ぎてしまいがちです。
この記事は、施術中の行為をめぐって告訴や被害届が問題になったときに、まず確かめるべきことと、施術という場面に特有の争点を整理するものです。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師、整体師、セラピストなど、施術に関わる方が、疑いを向けられた側の立場で読むことを想定しています。行為を正当化する説明の作り方を示すものではなく、事実関係を整理して手続に向き合うための材料としてお読みください。
「告訴された」と言われたら、まず三つを確かめる
「告訴」という言葉は、日常会話では「訴える」「警察に言う」とほぼ同じ意味で使われます。しかし手続の上では、どの段階で何が出されたのかによって、置かれている状況はかなり違います。
誰が、どこに、何を出したのか
最初に区別したいのは、相手が口頭で述べている段階なのか、書面が実際に警察や検察に出された段階なのかです。店に苦情の電話が入っただけ、相手方の代理人弁護士から慰謝料を求める通知が届いただけという段階であれば、刑事手続はまだ始まっていません。逆に、警察から本人に連絡が来ている場合は、すでに何らかの申告が受理されている可能性があります。
告訴・被害届・損害賠償請求は別のもの
三つは目的も出し先も異なります。混同したまま対応を決めると、必要のない場面で支払いを約束したり、逆に動くべき場面で放置したりすることになります。
| 種類 | 出す先 | 法律上の位置づけ | 主な意味 |
|---|---|---|---|
| 被害届 | 警察 | 犯罪捜査規範61条に基づく被害の届出 | 捜査のきっかけになる |
| 告訴 | 警察・検察 | 刑事訴訟法230条。被害者が事実を申告し、処罰を求める意思を示すもの | 受理されると書類等を検察官に送る義務が生じる(同242条)ほか、処分結果が告訴人に通知される(同260条) |
| 損害賠償請求 | 本人または代理人から直接 | 民法709条・710条に基づく請求 | 刑事手続とは別に、金銭の支払いを求めるもの |
受理されているかどうか
告訴について、犯罪捜査規範63条1項は、司法警察員たる警察官は告訴をする者があったときはこれを受理しなければならないと定めています。口頭で告訴があったときは告訴調書を作成することとされています(同64条1項)。もっとも、実際の窓口では、事実関係の確認や書面の補正を求められ、その場で受理されないこともあります。相手が「告訴した」と言っていても、受理まで至っているかどうかは外からは分かりません。相手の言葉を前提に見通しを立てるのではなく、警察からの連絡の有無という事実で判断するほうが確実です。
性犯罪は「告訴がなければ処罰されない罪」ではない
「告訴を取り下げてもらえば終わる」と考えて、相手に連絡を取ろうとする方がいます。ここは誤解が多い部分です。
かつて強制わいせつ罪などは親告罪、つまり告訴がなければ起訴できない罪でした。しかし2017年7月13日施行の改正で非親告罪となり、告訴がなくても捜査や起訴ができる仕組みに変わっています。現在の不同意わいせつ罪・不同意性交等罪も同じです。
この違いは、実際の場面で三つの形で表れます。
- 告訴の取消しは公訴の提起前であればできますが(刑事訴訟法237条1項)、非親告罪では、取り消されたからといって当然に捜査や起訴ができなくなるわけではありません。
- 親告罪の告訴期間である「犯人を知った日から6か月」(同235条本文)は適用されないため、数年前の施術について申告されることもあります。
- 残る時間的な制約は公訴時効です。不同意わいせつ罪は12年、不同意性交等罪は15年とされ、被害を受けた方が18歳未満だった場合はさらに加算されます。
つまり、告訴の取下げを目的として相手に接触することは、期待した効果が得られないだけでなく、後述するとおり強く不利に評価されるおそれがあります。
施術中の行為で問題になる条文
どの条文が問題になるかは、行為の内容によって分かれます。
不同意わいせつ罪(刑法176条1項)
176条1項は、同条が挙げる行為や事由によって、相手が同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にさせたか、その状態に乗じてわいせつな行為をした場合に成立するとしています。八つの類型が挙げられていますが、施術の場面で挙がりやすいのは次のようなものです。
- 眠っているなど意識がはっきりしない状態を利用したとされる場合。
- 不意打ちのように行われ、拒む意思を示すいとまがなかったとされる場合。
- 予想と異なる事態に直面して、恐怖や驚きで動けなかったとされる場合。
- 施術者と客という関係の中で、断りにくい立場に置かれていたとされる場合。
うつ伏せで視界がない、下着をずらす前提の手技がある、密室で一対一であるといった施術の性質は、これらの類型と結び付けて主張されやすい事情です。相手がその場で抗議しなかったことは、同意があったことの説明にはなりません。
施術だと思わせた場合は同条2項
あまり知られていませんが、176条2項は、行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、またはその誤信に乗じてわいせつな行為をした場合も同様に処罰する、と定めています。「治療の一環である」「体のゆがみを確認するために必要だ」と説明して行われた行為は、この2項が正面から問題になる類型です。施術という場面は、条文上、特に名指しされていないだけで、想定されている構造そのものにあたります。
挿入があれば177条、撮影があれば撮影罪
膣や肛門に身体の一部や物を挿入する行為が含まれる場合は、不同意性交等罪(刑法177条)の問題になります。着替え中の様子などを撮影した場合は、性的姿態等撮影罪が別に成立し得ます。
| 罪名 | 根拠 | 法定刑 | 公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 不同意わいせつ罪 | 刑法176条 | 6か月以上10年以下の拘禁刑 | 12年 |
| 不同意性交等罪 | 刑法177条 | 5年以上の有期拘禁刑 | 15年 |
| 性的姿態等撮影罪 | 性的姿態等撮影処罰法2条 | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 | 3年 |
法定刑は幅を示したものであり、そのまま見通しを表すものではありません。
争点は「触れたか」よりも「その接触に説明がつくか」
施術は、そもそも身体に触れることを内容とする仕事です。そのため、触れた事実そのものは争いにならないことが多く、争点は別のところに移ります。
最高裁は平成29年11月29日の大法廷判決で、行為そのものが持つ性的な性質が明確な場合には、行為者の意図などを考慮するまでもなくわいせつな行為にあたるとし、性的性質が不明確な場合には具体的な事情を考慮することがある、という枠組みを示しました。施術中の接触は、多くがこの「不明確な場合」に位置づけられます。だからこそ、その部位に触れる必要があったのか、通常の手順から外れていないか、事前にどう説明していたかが具体的に問われることになります。
現場でよく聞かれる言い分と、条文との噛み合い方を整理すると次のようになります。
- 「施術上必要だった」…必要性があったこと自体は重要ですが、手技の一般性や説明の有無と併せて検討されます。必要性を後から説明するだけでは足りません。
- 「同意書にサインをもらっている」…同意書は施術の内容と範囲についての合意であり、そこに書かれていない部位や態様まで包括的に同意したことにはなりません。
- 「嫌がっていなかった」…拒まなかったことと同意していたことは別に評価されます。
- 「性的な意図はなかった」…意図がないという説明が通る場面はありますが、行為の性的性質が明確とされれば、その説明だけでは足りません。
いずれも「説明として弱い」というだけであって、責任があるという意味ではありません。事実関係そのものが違うのであれば、争うことが出発点になります。
記録の扱いが結論を左右する
密室で行われる施術では、双方の説明が食い違ったときに、周辺の記録が判断材料になります。次のものは、時間が経つと失われるか上書きされます。
- カルテ、施術録、問診票、同意書。
- 予約システムの記録(来店時刻、担当者、コース、施術時間)。
- 店内・入口の防犯カメラ映像(機種によっては1週間から1か月程度で上書きされます)。
- 決済履歴、レシート、回数券の消化記録。
- 予約や来店後のやり取り(メッセージアプリ、メール、口コミへの返信)。
- シフト表、日報、同時間帯にいたスタッフの名前。
ここで重要なのは、消さないこと、そして後から書き足さないことです。記録を削除すれば証拠隠滅を疑われますし、後から加筆した施術録は、かえって内容全体の信用性を落とします。防犯カメラは上書きされる前に保存を依頼する必要があり、これは早さがそのまま結果に影響する数少ない部分です。
告訴を受けた後に起きること
申告が受理されると、事情聴取の呼び出しが来ることが一般的です。自宅で生活しながら捜査が進む在宅事件になることもあれば、逮捕されることもあります。施術中の事案は、目撃者がおらず当事者の説明が中心の証拠になるため、申告した相手や同僚に働きかけたと疑われる事情があると、身体拘束の必要性が認められやすいという特徴があります。相手への直接連絡を避けるべき最大の理由はここにあります。
告訴が受理された事件では、警察は書類や証拠物を検察官に送らなければならないとされています(刑事訴訟法242条)。その後、検察官が起訴するかどうかを判断し、告訴をした人には処分結果が通知され(同260条)、不起訴の場合は請求があれば理由が告げられます(同261条)。
示談が成立すれば処分に影響し得ますが、非親告罪である以上、示談が成立すれば当然に不起訴になるという関係ではありません。相手方の心情や事案の内容によって結論は変わります。
資格と営業への影響
施術者にとって、刑事処分と並んで重いのが資格の問題です。ここは資格の種類によって仕組みが違います。
| 立場 | 根拠法 | 定められている処分 |
|---|---|---|
| あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師 | あはき法3条・9条1項 | 期間を定めた業務の停止、または免許の取消し |
| 柔道整復師 | 柔道整復師法4条・8条1項 | 期間を定めた業務の停止、または免許の取消し |
| 整体師・セラピストなど | 国家資格の制度なし | 免許制度としての処分はない |
条文を読むうえで押さえておきたい点が四つあります。
- 欠格事由として挙げられているのは「罰金以上の刑に処せられた者」だけではなく、「業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者」も含まれます。刑の確定だけが起点とは限りません。
- 処分は「できる」と書かれています。該当したら自動的に免許が取り消されるという規定ぶりではなく、事案の内容が考慮されます。
- 免許の「停止」ではなく「業務の停止」という制度です。停止と取消しでは、その後の回復可能性が大きく異なります。
- 免許を取り消された場合でも、その後の事情により再免許を与えることができるとされています(あはき法9条2項、柔道整復師法8条2項)。ただし運用は厳格です。
免許の取消しは不利益処分にあたるため、処分の前に本人が意見を述べる機会が設けられるのが通常で、処分に不服がある場合には行政上の不服申立てや取消訴訟という手続もあります。刑事手続とは別の時間軸で進む点に注意が必要です。
整体師やリラクゼーション業のように国家資格の制度がない場合、免許制度上の処分はありません。ただし、勤務先との雇用関係、店舗の賃貸借、施設賠償責任保険の対応など、事実上の影響は別に生じます。
今の段階でしないほうがよいこと
初動での対応が、後の手続で繰り返し取り上げられます。
- 申告した相手に直接連絡する。謝罪のつもりでも、口止めや働きかけと受け取られる場合があります。
- カルテや予約データ、映像を削除する、あるいは記録を後から書き足す。
- その場でまとまった金額の支払いを約束する、内容を確認しないまま誓約書に署名する。
- SNSや口コミサイトで反論する。相手が特定できる形になれば、別の紛争を生みます。
- 記憶があいまいな部分を推測で埋めて説明を固めてしまう。一度した説明を後から変えると、変えたこと自体が不利に評価されます。
事情聴取では、調書の内容を確認し、違う部分の訂正を求め、署名押印を拒むことができます(刑事訴訟法198条)。分からないことを分からないまま述べるより、その場で確認するほうが安全です。
勤務している場合と、経営している場合
勤めている施術者の場合、店の顧問弁護士や店側の保険は、あくまで店の立場を守るために動きます。店と本人の利害は、常に一致するとは限りません。店に事実関係を報告する場面と、自分の刑事手続に向けて説明を整理する場面は、分けて考える必要があります。
経営している場合は、従業員の行為について使用者としての責任(民法715条)を問われる可能性があり、施術所の届出や店舗名の公表といった営業面の問題も重なります。刑事、民事、資格・営業という三つの流れが同時に進むため、どれから手を付けるかの順序が実務上の判断になります。
まとめ
- 「告訴された」と言われても、書面が出ているか、受理されているかで段階が違います。事実で確認します。
- 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は非親告罪です。告訴の取下げを目的に相手へ接触することは、効果が乏しいうえに不利に働きます。
- 施術だと思わせて行われた行為は、刑法176条2項が正面から問題になります。
- 争点は触れたかどうかよりも、その接触に施術上の説明がつくかどうかに移ります。
- カルテ、予約記録、防犯カメラは、消さず、書き足さず、上書きされる前に保存します。
- 資格への影響は「自動的に取消し」ではありませんが、業務停止・免許取消しの制度が定められており、刑事手続とは別に進みます。
- 事実関係が違うのであれば争うべき場面であり、行き過ぎがあったのであれば別の組み立てになります。早い段階で方針を分けておくことが、その後の選択肢を残します。
施術中の行為をめぐる事案は、密室であること、身体接触が業務そのものであること、資格や営業が同時に問題になることが重なり、他の類型とは異なる整理が必要になります。ご自身の状況がどの段階にあるのか分からない場合は、記録が失われる前に、早めに弁護士へご相談ください。


