撮影罪と迷惑防止条例はどちらが適用されるか|都道府県による差

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

「盗撮」について調べると、撮影罪という言葉と、迷惑防止条例という言葉の両方が出てきます。どちらも見たことはあるけれども、自分の場合はどちらの話なのかが分からない。そうした状態のままご相談にみえる方は少なくありません。

 この二つは、新しい法律が古い条例をそっくり置き換えた、という単純な関係ではありません。どちらが問題になるかは、いつの行為か・何を撮ったか・どこで撮ったか・どのように撮ったか、という四つの点で分かれます。そして迷惑防止条例のほうは、名前は似ていても中身が都道府県ごとに違います。ここでは、その分かれ方と、今も残っている地域差を順番に整理します。

この記事の前提


  • 性風俗店の利用に関連して、撮影について指摘を受けている、あるいは心当たりがあるという場面を想定しています
  • 成人同士の場面を前提としています。相手方が18歳未満に当たる可能性がある場合は別の法律が重なるため、個別の確認が必要です
  • すでに逮捕されている、警察から呼び出しを受けているという段階の方は、記事を読み進めるより先に弁護士にご相談ください
  • 法令の違いを知る目的は、責任を免れる方法を探すことではありません。自分に起きていることを正確に把握し、正確に説明できるようにするためのものです


「盗撮」を取り締まる法令は一つではない


 前提として、「盗撮罪」という名前の罪は存在しません。盗撮は日常語であり、実際の事件では、その行為がどの条文に当てはまるかが個別に検討されます。関わってくる主な法令は、次の四つです。

  1. 性的姿態撮影等処罰法の撮影罪(2023年7月13日施行。全国一律に適用される法律)
  2. 各都道府県の迷惑防止条例(正式な名称は県ごとに異なります)
  3. 軽犯罪法1条23号(住居・浴場・更衣場・便所など、人が通常衣服を着けない場所をひそかにのぞき見る行為)
  4. 刑法130条前段の住居侵入罪・建造物侵入罪(撮影のために立ち入った点をとらえるもの)


 このうち中心になるのが、最初の二つです。両者は次のように性格が違います。

比べる点撮影罪(性的姿態撮影等処罰法2条)迷惑防止条例
定めている主体国(法律)各都道府県
適用される範囲全国一律その都道府県の中の行為だけ
場所の要件なし(場所を問わず対象になり得る)条文に列挙された場所・乗物に限られる
撮影の対象性的な部位、それを現に覆っている下着、わいせつな行為や性交等がされている間の姿態通常衣服で隠されている下着又は身体など(表現は県ごとに異なる)
法定刑3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金県により6月以下から1年以下の拘禁刑など


 なお、撮影罪の条文が「何を、どのような態様で撮ることを禁じているのか」という構造そのものについては、別のコラムで詳しく扱っています。ここでは、条例との分かれ目に必要な範囲でだけ触れます。

どちらが問題になるかは、四つの問いで決まる


一つ目 いつの行為か


 撮影罪は2023年7月13日に施行されました。刑罰法規は行為の時点の法令によって判断されるため、この日より前の撮影については、撮影罪ではなく、当時の迷惑防止条例などで扱われます。

 注意したいのは、基準になるのは撮影した時点であって、発覚した時点ではないという点です。2024年に発覚した事案でも、撮影が2022年であれば、その県の当時の条例が出発点になります。逆に、施行日以降の撮影であれば、場所がどこであっても撮影罪が視野に入ります。

二つ目 何を撮ったか


 撮影罪の対象は、性的な部位や、それを現に覆っている下着、わいせつな行為や性交等がされている間の姿態です。裏を返すと、衣服の上から身体を撮っただけの場合は、撮影罪の対象からは外れます

 ただし、それで何も問題にならないという意味ではありません。迷惑防止条例には、多くの県で「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」を禁じる条項が置かれています。最高裁は、ショッピングセンターで女性客の後ろを執拗に追尾し、ズボンの上から臀部を至近距離で多数回撮影した行為について、この「卑わいな言動」に当たると判断しました(最高裁平成20年11月10日決定)。さらに、女性客の下半身に向けてカメラを構えた行為についても同様の判断が示されています(最高裁令和4年12月5日決定)。

 つまり、撮影の対象という切り口で見ると、撮影罪が正面から捉える部分と、条例が拾う部分とが並んでいるということになります。

三つ目 どこで撮ったか


 ここが、風俗の場面で最も効いてくる違いです。

 撮影罪には場所の要件がありません。ホテルの客室でも、店舗の個室でも、自宅でも、条文の要件を満たせば成立し得ます。

 これに対して迷惑防止条例は、条文に書かれた場所でなければ適用できません。代表的な区分は次の三つです。

  1. 公共の場所・公共の乗物(道路、駅、電車など)
  2. 学校、事務所、タクシーなど、不特定又は多数の者が利用し、出入りする場所・乗物
  3. 住居、浴場、更衣場、便所など、人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所


 かつては、この二つ目を条例に持たない県が多くありました。学校の教室での撮影を「公共の場所」と解釈できず立件を見送った事例が報じられ、2019年前後から各県で規制場所を広げる改正が相次いだという経緯があります。撮影罪が作られた背景の一つも、この地域差でした。

四つ目 どのように撮ったか


 撮影罪の中心となる類型には「ひそかに」という要件があります。相手が撮影に気づいていない状況を指すもので、面と向かって拒まれながら撮った場合は、この類型からは外れ、別の類型や他の罪の検討に移ります。

 もう一つ、条例には撮影する目的で機器を差し向け、又は設置する行為を独立して禁じる規定を置く県が多くあります。実際には撮れていなかった場合でも、この規定に触れることがあります。撮影罪の側にも未遂を処罰する規定があるため、「撮れていなかったから何も起きない」とは言い切れません。

両方に当たる場合はどう扱われるのか


 一つの行為が撮影罪にも条例違反にも当たり得る場面は、珍しくありません。この場合、実務上は法定刑の重い撮影罪で立件されるのが通例で、条例違反は、撮影罪の要件を満たさない場面を補う位置づけになっています。

 もっとも、これは条例が役目を終えたという意味ではありません。撮影罪の施行後も、佐賀県が2023年10月、栃木県が2024年7月、奈良県が2025年10月というように、各県の条例改正は続いています。撮影罪では捉えきれない行為が条例に残されている、という理解のほうが実態に近いといえます。

都道府県による差は、今も残っている


差その一 禁止されている場所の範囲


 47都道府県のすべてが迷惑防止条例を持ち、いずれも盗撮を禁じる規定を置いています。ただし、先ほどの三つの区分のうちどこまでを対象にするかは、今も一様ではありません。

 一般財団法人地方自治研究機構の整理(2025年12月時点)によれば、三つすべてを対象とする県が大半である一方、滋賀県・宮崎県・鹿児島県は三つ目のうち公衆浴場や公衆便所などに限っており、岩手県は一つ目の公共の場所・乗物のみを対象としています。

差その二 罰則の重さ


 罰則も県によって違います。代表的な例を並べると、次のようになります。

法令撮影した場合常習の場合
撮影罪(全国一律)3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金常習を加重する規定はない
東京都の条例1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
岐阜県の条例1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(向ける・設置にとどまる場合は6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
秋田県・茨城県の条例6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金


 同じ行為でも、県が変われば法定刑の上限が変わるということです。撮影罪が全国一律である意味は、この表を見るとつかみやすいと思います。

差その三 条文の作り


 条文の組み立て方そのものにも差があります。衣服を透かして見る機器(透視機器)についての規定を置く県と置かない県があり、実際に記録したかどうかで刑を分ける県と分けない県があります。常習の加重の幅も、先ほどの表のとおり一様ではありません。

 「ある県の解説記事に書かれていた内容が、自分の県にもそのまま当てはまる」とは限らない、ということです。

移動中や、場所がはっきりしない場合


 条例は都道府県の区域内でしか適用できないため、移動中の行為では、どの県の条例を使うのかという問題が起きます。航空機内での撮影について、どの都道府県の上空だったかを特定できず立件に至らなかった事例が報じられたこともありました。

 撮影罪は全国一律の法律なので、この問題は生じません。移動中であっても、県境が特定できなくても、成立の判断に影響しません。

風俗の場面で見かける三つの誤解


誤解その一 「店の個室は公共の場所ではないから問題にならない」


 かつての条例には確かに場所の制約がありましたが、撮影罪には場所の要件がありません。個室であること自体は、成立を左右する事情ではありません。

誤解その二 「昔のことだから軽い条例で済む」


 施行日より前の行為に撮影罪が適用されないのは、そのとおりです。ただし適用されるのは、その県の当時の条例です。上限が軽い県もあれば、常習の加重が重い県もあります。また、罪名ごとに公訴時効の期間が異なるため、「古いから終わっている」と自己判断するのは危険です。時効の考え方は別のコラムで扱っています。

誤解その三 「撮れていなかったのだから何も残らない」


 撮影罪には未遂を処罰する規定があり、条例には機器を差し向け・設置する行為を捉える規定があります。画像が残っていないことは、事実関係を整理するうえで意味のある事情ですが、それだけで手続が終わるわけではありません。

ネット上の説明を読むときの注意点


  • 2023年7月13日より前に書かれた記事は、条例だけを前提にしています。更新日を確認してください
  • 「懲役」と書かれた記事が多く残っていますが、2025年6月1日から懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されています
  • 条例の罰則として挙げられている数字は、東京都など特定の県の例であることがほとんどです
  • 「通常はこう扱われる」という記述は、都道府県と事案によって動きます。断定的な数字ほど出典と対象地域の確認が必要です


相談の前に整理しておきたいこと


  1. いつの出来事か。複数回なら、それぞれの時期
  2. どの都道府県か、どのような場所か(店舗の個室、ホテルの客室など)
  3. 何を撮ったとされているのか。データが残っているのか
  4. 店や相手方から、どのような言葉で何を求められているか
  5. 警察からの接触があるか。あるなら、いつ、どのような形か


 一方で、次の三つは避けたい対応です。データを自分の判断で削除したり端末を初期化したりすること、その場で現金を渡したり念書に署名したりすること、相手方本人に直接連絡を取ろうとすること。いずれも、後の手続で不利に評価されることがあります。

まとめ


  • 「盗撮罪」という罪名はなく、撮影罪・迷惑防止条例・軽犯罪法・住居侵入罪などが場面ごとに使い分けられています
  • どちらが問題になるかは、行為の時期・撮った対象・場所・撮り方の四つで分かれます
  • 撮影罪は2023年7月13日以降の行為が対象で、場所の要件がなく、全国一律に適用されます
  • 迷惑防止条例は、禁止される場所の範囲も罰則の重さも都道府県によって異なり、その差は現在も残っています
  • 両方に当たり得る場合は重い撮影罪で扱われるのが通例ですが、条例は撮影罪が届かない部分を補う形で今も改正が続いています
  • 衣服の上からの撮影は撮影罪の対象外ですが、条例の「卑わいな言動」として問題になった裁判例があります
  • 早く相談したからといって良い結果が約束されるわけではありませんが、事実関係が新しいうちのほうが、確認できることは多く残っています

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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