誓約書の「罰金100万円」は本当に払う義務がある?法的効力を検証
風俗店へのスカウトが職業安定法違反で摘発されたというニュースを目にして、その店を紹介してもらった自分にも何か及ぶのではないかと不安になる方がいます。結論から言えば、職業安定法が禁じているのは「働き手を店に紹介する行為」であって、客として店やキャストを紹介してもらうこと自体ではありません。
ただし、この整理は「紹介の向き」が反対になった瞬間に意味を失います。知り合いの女性に働き先として店を教え、店につないだ場合、その人はもう客ではなく紹介した側として評価されます。加えて2025年6月に施行された改正風営法により、紹介を受けた店の側にも新しい規制が加わりました。
この記事では、職業安定法が何を禁じているのかを条文の組み立てから確認したうえで、客の立場がどこまでで、どこから変わるのかを整理します。特定の行為をすすめる趣旨でも、責任を軽く見せる趣旨でもありません。
この記事で想定している場面
- スカウトや知人から店を紹介され、その店を利用した。
- 店から「女性を紹介してくれたら礼をする」と持ちかけられている。
- 知り合いの女性から働き先の相談を受け、店を教えようか迷っている。
- 利用していた店やスカウトが摘発され、自分に連絡が来るのか心配になっている。
職業安定法が禁じているのはどの「紹介」か
職業安定法は、仕事を探している人と人を雇いたい側を結びつける「職業紹介」のルールを定めた法律です。ここでいう職業紹介とは、求人と求職の申込みを受けて、雇う側と働く側との間に雇用関係が成立するよう取り持つことを指します。
この法律は、公衆衛生または公衆道徳の上で有害とされる業務に就かせる目的で、職業紹介や労働者の募集などを行うことを禁じています(職業安定法63条2号)。裁判所は、売春に限らず、性交類似行為を伴う仕事やアダルト作品への出演についても、この「有害な業務」にあたると判断してきました。定められた罰則は重い部類に属しており、スカウトグループの摘発が続いているのはこの条文が根拠になっています。
押さえておきたいのは、この規定が向けられている相手は「紹介した側」であって、紹介されて働くことになった女性ではないという点です。働くことになった側を処罰する規定は置かれていません。ただし、事情を知る立場として警察から話を聞かれることはあります。
「紹介」には向きが二つある
同じ「紹介」という言葉でも、誰と誰を結びつけたのかによって扱いが変わります。
| 紹介の向き | 具体的な場面 | 職業安定法との関係 |
|---|---|---|
| 働き手を店へ | 女性に働き先として店を教える、店に引き合わせる | 禁止されている紹介にあたりうる |
| 客を店へ | 客に店を教える、客を店に案内する | この法律が対象にしている紹介ではない |
| 客に相手を | 客に特定の女性を引き合わせる | 雇用の話ではないため対象外だが、別の法律の問題は残る |
職業安定法は雇用に関する法律です。したがって働き手と雇い主を結びつけたかどうかが分かれ目になります。客として店を教えてもらう場面は、そもそもこの法律が想定している「紹介」に当たりません。
客として紹介を受けただけの場合
スカウトから「いい店がある」と声をかけられて利用した、常連客に別の店を教えてもらった、といった経緯そのものは、職業安定法の禁止する行為には該当しません。この法律は、あくまで人を働かせるための紹介を規制しているためです。
紹介した相手が摘発されても、利用が罪になるわけではない
紹介してくれた相手が別の場面でスカウト行為をしていて摘発された、という場合でも、その人の行為と自分の利用行為は切り離して考えることになります。紹介を受けたという事実だけで、客が職業安定法違反の共犯として扱われる筋道は通常想定しにくいところです。
ただし「店が適法かどうか」は別の話
紹介経由で入った店が届出をしていなかった、年齢の確認がされていなかった、といった事情がある場合、職業安定法とは別の枠組みで問題が生じます。店側の手続の問題と客の立場の関係は、それだけで一つの論点になるため、別の記事で扱っています。ここでは「職業安定法の話」と「店が適法かどうかの話」は別々に考えるという点だけ押さえてください。
立場が入れ替わるのはどこか
客だった人が紹介した側に回るのは、次のような場面です。
- 知り合いの女性から収入の相談を受け、働き先として特定の店を教えた。
- 店の担当者と女性を引き合わせ、面接や体験入店の段取りをつけた。
- 店から「連れてきてくれたら礼をする」と言われ、心当たりのある女性に声をかけた。
- スカウトを名乗る人物の依頼で、送迎、連絡の取り次ぎ、待ち合わせ場所の確保などを手伝った。
いずれも、本人の意識としては「相談に乗っただけ」「手伝っただけ」であることが多い場面です。しかし外から見れば、働き手と店を結びつける動きに関与したことになります。客として通っていた店であっても、女性を連れて行った時点で立場は変わります。
「一度だけ」「頼まれただけ」はどう評価されるか
一度きりの私的な口添えが、直ちに処罰の対象になるとは限りません。実際に摘発されているのは、役割分担のある組織が反復して行っていた事案が中心です。もっとも、何回行ったか、報酬を受け取ったか、誰かの指示で動いていたかといった事情によって評価は動きます。「一度だけだから問題ない」と自分で線を引くのは危うい判断です。
お礼を受け取ると問題が重なる
紹介の見返りとして金銭を受け取った場合、紹介行為そのものの評価に加えて、受け取ったお金の性質も問われます。組織的に行われている紹介の一部として報酬を受け取っていたと見られると、犯罪によって得られた収益を受け取ったこと自体が別に問題とされる余地があります。金額の多寡ではなく、受け取ったという事実が関与の裏づけとして扱われやすい点に注意が必要です。
2025年6月の改正で店側に加わった規制
従来、職業安定法が対象にしていたのは紹介した側でした。紹介を受け入れる店の側には、これを直接に規制する条文がありませんでした。2025年6月に施行された改正風営法は、この部分に新しい規定を置きました。
具体的には、店で異性の客に接する仕事に就こうとする人の紹介を受けた店が、紹介の対価として金銭その他の利益を渡すことを禁じるという内容です(風営法28条13項)。いわゆるスカウトバックの禁止と呼ばれています。紹介料か顧問料かといった名目は問われず、初回の支払だけでなく、その後に継続して渡される分も対価に含まれるとされています。第三者を経由させた支払も対象です。
対象になる営業とならない営業
| 区分 | あてはまる営業 |
|---|---|
| 規制の対象 | ソープランド、店舗型のヘルス、デリバリーヘルス |
| 対象外とされるもの | ストリップ劇場、ラブホテル、アダルト作品の制作 |
届出をしないまま営業している店も対象に含まれます。また、条文の建て付けの上では、男性を女性向けの店に紹介した場合も対象から外れるわけではありません。
客の側から見ると何が変わったか
この規制の名宛人は店です。客がこの条文で処罰されるわけではありません。ただ、客の側にとっても実際的な意味があります。「紹介してくれたらお礼を出す」という店からの誘いは、店にとって禁じられた行為になったということです。応じれば、店は規制に触れ、こちらは紹介した側として職業安定法の枠組みに近づきます。断る理由として、この改正はそのまま使えます。
紹介料をめぐるお金の扱い
紹介に関わる金銭には、先に払った分と受け取った分の両方があります。
先に払った側では、「紹介するから登録料を」「相手を確保するから保証金を」と求められて支払ったものの、相手と連絡が取れなくなるという相談が繰り返し寄せられています。この類型は紹介という言葉を使った金銭のだまし取りにあたる場面が多く、返金の可否は別の記事で扱っています。
受け取った側では、後になって返還を求められることがあります。ここで気をつけたいのは、「もともと違法なやり取りだから返さなくてよい」という理屈が、そのまま通るとは限らないという点です。どちら側の関与が重いかによって結論が動くため、自分に有利にも不利にも働きます。すでに受け取ってしまっている場合は、使い切る前に事実関係を整理しておくほうが選択肢が残ります。
スカウトや店が摘発されたときに起きること
紹介に関わる事件では、連絡のやり取りや送金の記録が調べられます。そこに自分の名前や番号が残っていれば、事情を知る人として連絡が来ることがあります。
このとき求められるのは、多くの場合、被疑者としてではなく事情を聞かれる立場での協力です。断ることはできますが、話した内容は記録として残り、後から言い直すのが難しくなります。聞かれているのが自分自身の行為についてなのか、他人の行為についてなのかを最初に確かめてください。自分が女性を店に引き合わせた記憶がある場合は、その場で説明を組み立てる前に弁護士に相談することをおすすめします。
なお、店が摘発された際に利用客がどう扱われるかという論点は、それ自体で範囲が広いため別の記事にまとめています。
関わりを整理するときの手順
紹介の話が持ち上がっている段階であれば、次の順序で整理すると判断しやすくなります。
- 自分の関与が「客として利用した」だけなのか、「人を店につないだ」ことがあるのかを分ける。
- つないだ記憶がある場合は、時期、相手、経緯、報酬の有無を時系列で書き出す。
- やり取りの記録を消さずに残す。削除は、後から不利な事情として扱われることがある。
- 店からの紹介の誘いには応じず、断った経緯もメッセージの形で残しておく。
- すでに受け取った金銭がある場合は、使途を確認し、返還を求められた場合に備える。
- 警察や店から連絡が来た段階で、自分で説明する前に弁護士に相談する。
まとめ
- 職業安定法が禁じているのは、有害な業務に就かせる目的で行う職業紹介などであり、名宛人は紹介した側である。
- 客として店やキャストを紹介してもらう行為は、この法律が想定している「紹介」には当たらない。
- 立場が変わるのは、働き手と店を結びつける側に回ったときである。
- 一度だけ、報酬なし、といった事情は評価に影響するが、それだけで問題がなくなるとは限らない。
- 2025年6月の改正風営法により、紹介を受けた店が対価を渡すことが禁じられた。名目や支払回数は問われない。
- 店からの「紹介してくれたら礼をする」という誘いは、店の側にとって禁じられた行為であり、断る根拠になる。
- 紹介をめぐる金銭は、払った側でも受け取った側でも後から争いになりやすい。
- 連絡が来た段階で記録を残し、自分で説明を組み立てる前に相談することが選択肢を広げる。
弁護士には守秘義務があります。誰にも話しにくい経緯であっても、相談した内容が家族や勤務先に伝わることはありません。判断に迷う段階でこそ、早めにご相談ください。


