ATMで金を下ろさせられる・カードを切らされる|悪質な恐喝からの離脱法
風俗店でのトラブルで警察の捜査が始まり、弁護士を通じて示談を申し入れたものの、「会いたくない」「示談はしない」と断られてしまう。実際によくあるご相談です。
示談が刑事処分に与える影響は小さくありませんから、拒否されたと聞いた時点で「もう起訴されるしかないのか」と考えてしまう方もいます。しかし、示談が成立しないことと、不起訴の可能性がなくなることは同じではありません。
ここでは、示談を拒否された状況で客側に何ができるのかを、性風俗トラブルに特有の事情も含めて整理します。
まず「誰が」拒否しているのかを切り分ける
風俗の事案では、被害を訴えている本人と、店が別々に動いていることが少なくありません。最初に確認すべきは、拒否しているのが誰なのかです。
- 本人(キャスト・セラピスト)が拒否している……本来の意味での示談拒否です。
- 店が「本人は応じない」と言っている……店の判断で取り次がれていないだけの場合があります。店の意向と本人の意思は一致するとは限りません。
- 捜査機関から「被害者が連絡先の開示を望んでいない」と伝えられた……現時点で接触を望まないという意味であり、賠償そのものを一切拒む趣旨とは限りません。
とくに注意したいのが、店が示談の窓口として前に出てくるケースです。店に金銭を支払っても、被害を訴えている本人との間の清算は成立しません。後日あらためて本人から請求や被害申告がなされるおそれが残ります。また、弁護士でない者が報酬を得る目的で示談交渉を行えば、弁護士法72条が禁じる非弁行為の問題が生じ得ます。2026年2月には、客と示談交渉をしたとして宮崎市内の風俗店の店長らが弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じられました。店が主導する「示談」は、刑事処分の面でも民事の清算の面でも、期待した効果を持たない可能性があります。
不起訴には種類がある——示談が効くのは主に「起訴猶予」
不起訴処分は一つではなく、主に次の三つに分かれます。
| 種類 | 内容 | 示談との関係 |
|---|---|---|
| 嫌疑なし | 犯罪の嫌疑が認められない | 示談とは別物 |
| 嫌疑不十分 | 有罪を立証するだけの証拠がない | 示談とは別物 |
| 起訴猶予 | 嫌疑はあるが訴追の必要がないと判断される | 影響が大きい |
起訴猶予の根拠は刑事訴訟法248条で、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないとき」は起訴しないことができると定められています。示談はこのうち「犯罪後の情況」を基礎づける代表的な事情です。
裏を返せば、示談は判断材料の一つであって、唯一の材料ではありません。列挙された事情のうち、事件後の行動によってなお動かせる部分は残っています。
同時に見落とせないのが、事実関係に争いがある場合です。同意があったと考えている、行為の範囲が相手の説明と食い違っている、そもそも身に覚えがない——こうした事案で示談だけを追いかけると、争点の主張が後手に回りかねません。認めて起訴猶予を目指すのか、事実を争って嫌疑不十分を目指すのかは方向性が異なりますので、早い段階で見極める必要があります。
「拒否」は永久的な結論とは限らない
示談拒否といっても、内容はさまざまです。
- 加害者と一切関わりたくない、恐怖心がある
- 提示された金額に納得できない
- 店や家族が反対している
- 処罰を望む気持ちが強い
- そもそも連絡が取れていない
このうち、条件の設計や時期の選び方で状況が変わる余地のあるものもあります。実務では、次のような働きかけが検討されます。
連絡先を教えてもらえない場合……被疑者本人が直接連絡先を知ることは通常できませんが、弁護人が捜査機関に被害者の意向確認を打診し、本人が承諾すれば「弁護人限り」という条件で連絡先が伝えられることがあります。第三者である弁護士が窓口になることで、応じてもらえる場合があります。
恐怖心が理由の場合……面会せず書面のみでやり取りする、氏名や住所を相手に開示しない形にする、接触禁止条項を入れるなど、相手の負担を下げる条件を提示することが考えられます。
時期の問題……事件直後は感情が最も強い時期です。処分が決まる前という制約はありますが、捜査の進み具合を見ながら再度打診することで、対応が変わることもあります。
いずれも相手方の意思が前提であり、応じてもらえる保証はありません。それでも、「一度断られた=終わり」と決めつける必要はない、というのが実務上の感覚です。
示談が成立しなくてもできること
示談が整わない場合に検討される手段には、おおむね次のようなものがあります。効果の強さは、上にあるものほど大きい傾向にあります。
1. 賠償の申入れと交渉経過を記録化する
謝罪と賠償を申し入れた事実、提示した条件、断られた経緯を時系列でまとめ、報告書として検察官に提出する方法です。何もしなかった場合と、申し入れたが受け入れられなかった場合とでは、「犯罪後の情況」の評価は同じにはなりません。
2. 被害弁償の申出と原資の確保
金額の合意までは至らなくても、賠償金を受け取ってもらえることがあります。相手が「金銭は受け取るが許すつもりはない」という立場をとることもありますが、その場合でも被害弁償の事実は残ります。受領してもらえない場合には、弁護人が示談金相当額を預かり、支払意思と資力を客観化しておく方法も取られます。
なお、示談書に相手が処罰を望まない旨の条項(宥恕条項)が入るかどうかで、処分への影響は変わってきます。宥恕まで得られない一部の合意でも意味がないわけではありません。
3. 供託——風俗事案では使いにくい場面が多い
受領を拒まれた場合の法的手段として、民法494条の弁済供託があります。ただし、供託書には被供託者の氏名・住所を記載する必要があり、供託先も相手の住所地を管轄する法務局です。性風俗の事案では、相手の本名も住所も分からず源氏名しか知らないことが多く、捜査機関も性犯罪の被害者情報は厳重に秘匿します。「示談を拒否されている」状況とは、多くの場合「供託もできない」状況とほぼ重なります。
加えて、供託は損害額が明確な財産犯に向いた手段であり、慰謝料が中心となる事案では相当額の判断が難しいという問題もあります。相手の意向に反して支払いを押し付ける側面があるため、かえって処罰感情を刺激するおそれも指摘されています。使える場面は限られると考えておいたほうがよいでしょう。
4. 贖罪寄付
弁護士会や犯罪被害者支援団体などへ寄付を行う方法です。被害者本人への賠償ではないため、示談や被害弁償に比べれば影響は弱く、検察官によって評価が分かれることもあります。それでも、相手に届ける手段が完全に絶たれている場合には、反省を客観的な形にする数少ない方法になります。実施の要否・時期・寄付先は、担当弁護士と相談して決めるのが無難です。
5. 示談以外の情状を積み上げる
248条が挙げる事情は示談だけではありません。前科前歴の有無、事件の態様、捜査への対応、再発防止のための具体的な行動(通院・カウンセリング・生活環境の見直し)、家族による監督の体制、反省文などが、判断材料になり得ます。「示談ができなかったので何もありません」という状態を作らないことが要点です。
風俗事案でとくに注意したい三つのこと
自分で相手を探さない。
源氏名やSNSから相手を特定しようとする、店の前で待つ、店に何度も連絡する——こうした行動は、たとえ謝罪が目的でも、罪証隠滅や接触のおそれと評価され、身体拘束の理由を作りかねません。態様によってはストーカー規制法や脅迫罪の問題にもなり得ます。示談を望む気持ちが、最も不利な事情に転化してしまう典型例です。
店が持ちかける「示談」で終わりにしない。
前述のとおり、店への支払いは本人との清算にはなりません。刑事処分との関係でも、被害者本人の意向が確認できない合意は評価されにくいのが実情です。
「示談をまとめる」と持ちかける第三者に注意。
弁護士資格のない者が報酬を得て交渉することは弁護士法72条の問題があり、そこで作られた書面が後に役に立たないおそれがあります。
時間の制約がある
不同意わいせつ罪(刑法176条)や不同意性交等罪(同177条)は2017年の法改正で非親告罪となっており、告訴の取下げや示談があっても当然に不起訴となるわけではありません。逆にいえば、示談以外の事情を積み上げる余地もそのぶん残されています。
もっとも、これらの活動が意味を持つのは、原則として処分が決まる前です。逮捕された場合の身体拘束は最長で23日程度、在宅事件でも検察官が処分を決める時期は事案によります。起訴後の示談も量刑上の考慮要素にはなりますが、取り得る選択肢の幅は狭くなります。なお、略式命令を受けた場合でも、告知から14日以内であれば正式裁判を請求できます(刑事訴訟法465条1項)。
避けたい対応・今からできること
避けたい対応
- 相手方や店に直接連絡する、謝罪に行く
- 「示談できないなら仕方ない」と放置する
- 記録やデータを削除する(証拠隠滅と評価されるおそれ)
- SNSで事情を発信する
- 拒否されたからと、店の言い値をそのまま支払う
今からできること
- 出来事をA4一枚程度の時系列にまとめる(曖昧な点は「曖昧」と書く)
- やり取りの記録を消さず保存する
- 窓口を一本化し、自分では交渉しない
- 賠償に充てられる資金の目処を早めに立てる
最後に——過度な期待はしないほうがよい
示談が成立していなくても不起訴になった例はあります。一方で、事案が重いほど、また相手の処罰感情が強いほど、示談なしで起訴猶予を得るのは容易ではありません。「示談を断られてもこうすれば不起訴になる」と言い切れる方法は存在しない、というのが率直なところです。
それでも、できることが残っているかどうかで、結論が変わる場面はあります。示談を断られた時点は、終わりではなく、方針を組み直す時期だとお考えください。


