治療費・検査費・休業損害は認められるのか|請求項目別の検討
風俗店の個室やホテルの部屋で撮影が問題になったとき、その場で「盗撮は犯罪だ」と言われ、続けて金額を告げられることがあります。慌てて調べても、出てくる説明は事務所ごとに少しずつ違い、かえって不安が増したという声も少なくありません。
こうしたときに立ち返る先は、条文です。2023年7月13日に施行された法律が「何を、どういう形で禁じているのか」を一度分解しておくと、自分の状況がどこに当たり、どこに当たらないのかを落ち着いて整理できます。本コラムでは、いわゆる撮影罪の条文構造を、風俗を利用する場面に引きつけて読み解きます。
このコラムの前提と範囲
- お客さま側の立場を前提としています
- 成人同士のやり取りを前提としています。相手が18歳未満に当たり得る場合は、別の法律が重ねて関わるため個別にご相談ください
- すでに逮捕されている、警察から呼び出しを受けているという段階では、一般論よりも個別の検討が必要です
- 条文を知る目的は、責任をすり抜けるためではありません。撮影された側の被害が実在することを前提に、自分の行為と説明を正確に対応させるためのものです
1 「盗撮」と「撮影罪」は同じ言葉ではない
まず押さえておきたいのは、「盗撮」は日常語であって、条文に書かれた罪名ではないという点です。現場で飛び交う言葉と、条文が使う言葉は対応していません。この食い違いが、話をこじらせる原因になります。
| 現場で使われる言葉 | 条文の側から見るとどうなるか |
|---|---|
| 盗撮 | 「盗撮罪」という罪名の条文はない。撮影罪・迷惑防止条例・軽犯罪法などのどれに当たるかを分けて考える |
| 店の「撮影禁止」 | 店との契約やルールの話。守らなかったことは民事の問題になり得るが、刑事の成否とは別の軸 |
| 「同意がなかったのだから犯罪だ」 | 同意の有無は重要な事情だが、条文は「同意がない撮影」を一律に処罰する書き方ではない |
| 「消したからもう終わり」 | いったん成立した犯罪は消えず、消す行為自体が別に問題とされることもある |
言葉が整理されないまま金額の話に進むと、何について支払うのかが曖昧なまま合意してしまいがちです。まずは条文の側の言葉に置き換えるところから始めます。
2 撮影罪はどの法律のどこにあるか
正式名称は「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」です。長いため、性的姿態撮影等処罰法などと略されます。2023年7月13日から施行されました。
この法律は、撮影そのものだけを対象にしているわけではありません。撮った後の行為も、条文を分けて規定しています。
- 第2条 性的姿態等の撮影(本コラムで扱うのはここです)
- 第3条 撮影で作られた記録を提供する行為、不特定または多数に提供したり公然と陳列したりする行為
- 第4条 提供などの目的で記録を保管する行為
- 第5条 ライブ配信のように影像を送信する行為
- 第6条 送信された影像を記録する行為
本コラムは第2条に絞ります。第3条以降(送った、上げた、保存していた)は別のコラムで扱っていますので、そちらをご覧ください。
3 第2条は三段構えで書かれている
第2条第1項は、一文が長く読みにくい条文です。ただ、「何を」「どのように」「どうした」の三段に分けると、構造は素直です。
| 段 | 条文が問うていること | 風俗の場面での見え方 |
|---|---|---|
| 第1段 何を | 撮られたものが「性的姿態等」に当たるか | 性的な部位やそれを覆う下着、わいせつな行為や性交等の最中の姿 |
| 第2段 どのように | 第1号から第4号までの四つの態様のいずれかに当たるか | ひそかに/困難な状態に乗じて/誤信させて/16歳未満が対象 |
| 第3段 どうした | 「撮影する」行為をしたか | 未遂も処罰の対象とされている |
三段のすべてがそろって初めて第2条の話になります。逆にいえば、争いになるのはたいてい、このどこか一段です。
第1段 「性的姿態等」とは何を指すか
条文は次の二つを挙げています。
- 人の性的な部位(性器、肛門、これらの周辺部、臀部、胸部)、または身に着けている下着のうち、現に性的な部位を覆っている部分
- わいせつな行為や性交等がされている間の人の姿態
後者があるため、体の一部が写っていない場面でも、行為の最中の姿を撮れば対象になり得ます。着衣のままの姿や顔だけを撮った場合は、この定義に当たらない一方で、後述する条例などが別に問題になることがあります。
見落とされやすい除外規定
第1号には、「人が通常衣服を着けている場所において、不特定または多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し、またはとっているもの」を除くという括弧書きがあります。除いた残りを、条文は「対象性的姿態等」と呼びます。
この括弧書きを見て、「相手は仕事として脱いでいるのだから除外に当たるのではないか」と考える方がいます。しかし除外されるのは、通常は服を着ている場所で、不特定または多数の人に見られると分かったうえで自ら露出しているような場面です。個室での接客は、相手を限った場所でのやり取りであり、この除外に当たる場面とは異なると考えられます。相手が職業として接客していることは、除外規定の話とは別の問題です。
第2段 四つの入口
第2条第1項は、次の四つの態様を並べています。どれか一つに当たるかどうかが検討されます。
- 第1号 正当な理由がないのに、ひそかに撮影する行為
- 第2号 刑法176条1項各号に挙げられた行為や事由(暴行・脅迫、アルコールや薬物の影響、睡眠などの意識不明瞭、経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力など)やこれらに類する事由により、同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にさせ、あるいはその状態にあることに乗じて撮影する行為
- 第3号 行為の性質が性的なものではないと誤信させ、または特定の者以外は閲覧しないと誤信させ、あるいはその誤信に乗じて撮影する行為
- 第4号 正当な理由がないのに、13歳未満を対象として撮影する行為、および13歳以上16歳未満を対象として5歳以上年長の者が撮影する行為
第1号の「ひそかに」は、相手が撮影されていることを認識していない状況を指す要件と整理されています。隠しカメラを置く、相手が背を向けている間に撮る、といった形が典型です。
第3段 「撮影する」と未遂
第2条第2項は、未遂も罰すると定めています。撮影が完了していない段階でも、着手があったと評価されれば対象になり得るという意味です。なお、東京都の迷惑防止条例のように、撮影目的で機器を差し向けたり設置したりする行為そのものを禁止する規定を置く例もあり、両者は別の条文です。
4 条文に戻ると見えてくること
(1)「同意がなければ直ちに撮影罪」ではない
解説記事の中には、成立要件を「被害者の同意がないまま撮影したこと」と要約しているものがあります。分かりやすい説明ですが、条文はそう書かれていません。第1号は「ひそかに」を、第2号は困難な状態を、第3号は誤信を、それぞれ要件としています。同意がないという事情は極めて重要ですが、どの号の入口に当たるのかを特定しないまま結論だけが決まることはありません。
(2)「相手は仕事で脱いでいた」は理由にならない
前述のとおり、除外規定は不特定または多数の目に触れることを前提に自ら露出している場面を想定したものです。料金を払って個室でサービスを受けたという事情も、第2条のどの要件にも登場しません。対価の支払いは、契約の話であって成立要件の話ではありません。
(3)店の許可と本人の同意は別の話
「撮影オプションがある店だった」「店から止められていなかった」という説明を聞くことがあります。店との関係と、撮られた本人との関係は別の層です。逆に、店のルールに違反したことは、それ自体では刑事の成否を決めません。二つを混ぜると、支払いの話も刑事の話も見通しが立たなくなります。
(4)「自分しか見ない」と言って撮った場合
風俗の場面で見落とされやすいのが第3号です。ここには「特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ」という文言があります。相手の了解を得て撮ったつもりでも、了解の前提として説明した内容と実際が食い違えば、この号が問題になり得ます。撮影の可否だけでなく、どこまでを説明したのかが後から問われることがある、ということです。
(5)「ひそかに」でなければ何も起きない、ではない
相手が気づいていた、あるいは制止されながら撮ったという場合、第1号の「ひそかに」には当たらない可能性があります。ただし、それで話が終わるわけではありません。第2号に当たらないかが検討されますし、第2条第3項は、刑法176条(不同意わいせつ)などの適用を妨げないと明記しています。実力を用いた場面では暴行罪や強要罪が、場所によっては条例が、それぞれ別に問題となり得ます。
5 撮影罪と条例・軽犯罪法の関係
撮影罪ができた後も、迷惑防止条例や軽犯罪法がなくなったわけではありません。次の三点で整理してください。
- 行為の時期。2023年7月13日より前の行為には、この法律は適用されません。当時の条例などで判断されます
- 対象の違い。撮影罪は「性的姿態等」に絞られています。条例は、通常衣服で隠されている下着や身体を対象とし、場所の要件を置いています
- 規定の違い。東京都の条例は、撮影する目的で機器を差し向け、または設置する行為も禁止しています。撮影罪の未遂とは条文が別です
なお条例は都道府県ごとに内容が異なります。他県の記事をそのまま当てはめられない点に注意が必要です。
6 撮ったあとの話は、別の条文
第2条は「撮る」段階の条文です。撮った記録を誰かに送る、掲示板やSNSに上げる、提供する目的で持ち続ける、といった行為は、第3条や第4条という別の条文で評価されます。撮影と提供は別々に成立し得るため、「一つの出来事だから一つの罪」とは限りません。この点は別のコラムで詳しく扱っています。
また、第3条が対象とするのは、第2条などに当たる行為で作られた記録です。相手の同意を得て撮った画像を後から無断で拡散した場合は、別の法律の問題として検討されることになります。
7 ネット上の説明を読むときの注意点
- 刑の呼び方。2025年6月に拘禁刑へ一本化されており、「懲役」と書かれた記事は更新されていない可能性があります
- 条例だけで説明した記事。撮影罪の施行前に書かれたまま残っているものがあります
- 「同意がなければ成立する」という要約。分かりやすさのために号の要件が省かれていることがあります
- 数字の扱い。示談金や逮捕率の数字は母集団が示されていないことが多く、そのまま自分の事案に当てはめられるものではありません
8 相談の前に整理しておきたいこと
- いつの出来事か(施行日の前後、そして時間の経過は見通しに影響します)
- どこで、どのような場所だったか
- どの機器で、どのような操作をしたか(設置したのか、手に持っていたのか)
- データが今どこにあるか(端末、クラウド、送信先)
- 相手や店から、いつ、どのような言葉で何を求められたか
反対に、次の対応は避けてください。
- 自己判断でのデータの削除や端末の初期化。証拠を意図的に消したと受け取られ、不利に働くことがあります
- その場での現金の支払いや念書へのサイン。何についていくら支払うのかが定まらないまま合意すると、後から蒸し返される余地が残ります
- 相手本人への直接の連絡。かえって事態を悪化させることがあります
まとめ
- 「盗撮」は日常語で、条文の罪名ではありません。どの条文の話かを分けて考えます
- 撮影罪の中心は第2条で、「何を」「どのように」「どうした」の三段構えです
- 「性的姿態等」には、行為の最中の姿も含まれます
- 除外規定は、不特定または多数の目に触れることを前提に自ら露出している場面を想定したものです
- 同意がないという事情だけで結論が決まるのではなく、四つの号のどれに当たるかが検討されます
- 店のルールと刑事の成否、そして金銭の請求は、それぞれ別の層の話です
- 撮った後の行為は別の条文で評価されます。早く動くことは選択肢を残しますが、早ければ良い結果が約束されるわけではありません
条文を読むことは、自分に有利な逃げ道を探すためではなく、何を説明すべきかを見極めるための作業です。事実関係が固まる前の段階でこそ、整理の仕方が後の見通しを左右します。判断に迷う点があれば、早めにご相談ください。


