盗撮で「その場で100万円」の示談書にサインした|支払い義務はあるか

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

 メンズエステを利用中に「盗撮していましたよね」と指摘され、その場でスタッフや女性から示談書を差し出されて、100万円という金額にサインしてしまった——。帰宅して冷静になってから、「本当にこの金額を払わなければいけないのか」「サインした以上もう逃げられないのか」と不安になる方は少なくありません。

 結論から言えば、その場で署名した示談書に必ずしも記載どおりの支払い義務が生じるとは限りません。一方で、「サインしたのだから当然無効」と言い切れるものでもなく、支払い義務があるかどうかは、そのときの状況によって変わってきます。

 この記事では、メンズエステ利用者(客側)の立場から、その場で作成された盗撮の示談書がどこまで自分を縛るのか、支払い義務の有無を分けるポイントを整理します。

その場でサインした「示談書」──まず状況を整理する

 メンズエステの盗撮トラブルでは、次のような流れで示談書へのサインを求められるケースが見られます。

  • 施術中にスマートフォンやカメラを指摘され、「盗撮の証拠がある」と言われる
  • 別室や店の奥に移動させられ、店長・スタッフ・女性が同席する
  • 「警察に通報する」「会社や家族に連絡する」などと告げられる
  • その場で金額の入った示談書(誓約書・念書という表題のこともあります)を出され、署名・押印を迫られる

 この状況では、「早くこの場を終わらせたい」「表沙汰にしたくない」という心理から、内容を十分に確認しないまま署名してしまうことが起こりがちです。

 ただし、署名したという事実だけで、記載された100万円の支払いが自動的に確定するわけではありません。支払い義務の有無は、後述する複数の事情を総合して判断されるもので、サインの一点だけで決まるものではない、という点をまず押さえておいてください。

盗撮トラブルは「刑事」と「民事」の二層構造

 盗撮をめぐるトラブルを正しく理解するには、問題が2つの層に分かれていることを知っておく必要があります。

 刑事の層は、国が科す刑罰の問題です。令和5年(2023年)7月13日以降に発生した盗撮は、性的姿態撮影等処罰法が定める撮影罪(性的姿態等撮影罪)の対象になり得ます。正当な理由なく、ひそかに人の性的な部位などを撮影した場合などに成立し、法定刑は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。撮影場所や態様によっては、各都道府県の迷惑防止条例が問題になる場合もあります。

 民事の層は、被害者に対する損害賠償(慰謝料)の問題です。示談書に書かれる「示談金」は、基本的にこの民事上の賠償にあたります。

 ここで重要なのは、示談書へのサインは民事の合意にすぎず、それによって刑事の問題が自動的に消えるわけではないという点です。現場で「示談すれば警察には言わない」と持ちかけられることがありますが、被害届の提出は本来被害者側の判断であり、示談書があるから刑事責任がなくなる、あるいは示談書がないから必ず立件される、という単純な関係にはありません。この構造を理解しておくと、「その場で払えば全部終わる」という圧力に流されにくくなります。

その場の示談書に支払い義務があるかを分ける5つのポイント

 署名済みの示談書について支払い義務を争えるかどうかは、主に次の5点で見ていきます。

1. 実際に盗撮があったのか(事実の有無)

 損害賠償は、加害行為があって初めて発生します。撮影の事実がない、あるいは撮影したと決めつけられているだけ(誤解・でっち上げ)であれば、賠償の前提そのものを欠くことになります。メンズエステでは、店側が金銭目的で盗撮の事実をでっち上げる、いわゆる美人局的な手口が問題になることもあります。

2. 金額が相当か

 盗撮の示談金は、事案の内容によって大きく幅があり、悪質性などによって増減するのが一般的です。実際の被害(撮影の有無・内容・拡散の有無など)や慰謝料の水準に照らして示談金が明らかに過大である場合、その示談は公序良俗違反(民法90条)として、全部または一部が無効と判断される余地があります。

3. 署名は任意だったか

 部屋から出られない状況に置かれた、「サインしないと警察・会社・家族に知らせる」と告げられた、といった事情の下で署名させられた場合、強迫による意思表示として取消しを主張できる余地があります(民法96条)。ただし、いったんサインがある示談書については、「内容を確認したうえで自分の意思で署名した」と推定される傾向が強く、任意でなかったことは署名した側が客観的な証拠で示していく必要があります。録音や当日のメモが後で意味を持つのはこのためです。

4. 錯誤はなかったか

 事実を誤解していた、法的な意味を取り違えていた、といった重要な思い違いにもとづいて署名した場合には、錯誤による取消し(民法95条)が問題になることがあります。

5. 相手方が正当な当事者か

 示談は本来、加害者とされる人と被害者本人(またはその代理人)との間で行うものです。被害者本人ではない店やスタッフが、自ら被害者に代わって金銭を取り立てているような場合には、その正当性が問題になり、態様によっては非弁行為や恐喝罪(刑法249条)の疑いが生じることもあります。

サインしてしまった後にできること

 その場で署名してしまっても、打てる手が残っている場合があります。
 まだ支払っていない場合は、慌てて全額を振り込む前に、一度立ち止まって弁護士に相談することを検討してください。支払いを済ませてしまうと、後から取り戻すハードルは上がります。
 すでに支払ってしまった場合でも、事情によっては返金を求められることがあります。
 
 あわせて、手元の証拠を保全しておくことが大切です。署名した示談書のコピー(スマホ撮影でも可)、当日のやり取りの録音、時系列のメモなどは、後から任意性や金額の相当性を争う際の材料になります。
 
 また、署名後も店や相手から連絡・請求が続く場合は、直接対応を続けるとかえってこじれることがあります。弁護士名義で窓口を一本化することで、直接のやり取りを止められる場合があります。

「支払い義務の有無」と「盗撮したかどうか」は別の問題

 最後に混同されやすい点を整理します。示談書の効力を争えるかどうかと、実際に盗撮という行為があったかどうかは、別のレイヤーの話です。

 実際に撮影していた場合、示談書の金額を争えたとしても、撮影罪という刑事責任の問題は別に残ります。この場合は、示談書への対応と並行して、早い段階で刑事面の相談をしておくことが望まれます。
 反対に、撮影の事実がない、あるいはグレーな指摘にとどまる場合は、でっち上げや証拠づくりの手口を見極めることが出発点になります。どちらのケースでも共通して言えるのは、その場で完結させようとせず、早めに弁護士に相談したほうが選択肢を残しやすいということです。

弁護士に相談するメリット

 盗撮の示談書トラブルで弁護士に依頼すると、次のような対応が期待できます。

  • 相手方(店・被害者側)との直接交渉を避け、冷静な話し合いに戻せる
  • 示談を続ける場合でも、被害の程度に見合った適正な金額での解決を目指せる
  • 不当な取り立てや威圧的な要求に対して、法的な線引きをして対応できる
  • 蒸し返しを防ぐ清算条項や、撮影データの取扱いなど、必要な条件を整理できる

 メンズエステの利用という事情から、「表沙汰にしたくない」という気持ちにつけ込まれやすいトラブルでもあります。利用したこと自体への引け目を理由に不当な要求に応じてしまう前に、まずは客側の立場に立って対応する専門家に相談することを検討してください。

まとめ

  • その場で署名した盗撮の示談書でも、記載どおりの支払い義務が必ず生じるとは限らない
  • 示談書(和解契約)は誓約書・念書とは性質が異なり、成立の前提が崩れれば争う余地がある
  • 盗撮トラブルは刑事(撮影罪)と民事(賠償)の二層構造で、示談書へのサインで刑事が消えるわけではない
  • 支払い義務の有無は「撮影の事実/金額の相当性/署名の任意性/錯誤/相手方の正当性」で分かれる
  • 支払い前・支払い後いずれでも打てる手があり、早期に弁護士へ相談したほうが選択肢を残しやすい

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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