公務員・教員の場合|身分上の処分と刑事処分の関係
振込を終えた直後から既読がつかなくなった。約束の時間になっても相手は現れず、電話もつながらない。個人とやり取りをして先にお金を渡したあとで連絡が途絶えた、というご相談は少なくありません。
このとき頭に浮かぶのは「これは詐欺なのか」「返してもらえるのか」という二つの疑問だと思います。ただ、会えなかったという結果だけでは、詐欺にあたるかどうかも、返金を求められるかどうかも決まりません。判断の手がかりは、お金を渡す前後のやり取りのほうに残っています。
この記事では、個人を相手に前払いをしたあと会えなくなった場面について、何が争点になり、どの順番で動くと選択肢が残りやすいのかを整理します。相手を追い詰めるための手順を示すものではありません。
この記事が想定している場面
- お互いに成人で、店を介さず個人どうしでやり取りをしていた。
- SNSやアプリ、その場での口頭の約束で話が進んだ。
- 会う前に、または当日の追加分として、先にお金を渡した。
- 約束の日時に相手が現れず、その後の連絡がつかない。または連絡は取れるものの会えない状態が続いている。
- 自分がすでに警察から呼び出しを受けている、という事情はない。
相手が18歳未満である可能性がある場合は、話の組み立て方がまったく変わります。この記事の範囲を超えるため、思い当たる事情があれば自己判断せずに個別にご相談ください。
店を通した予約の前払いや、店から説明と違う金額を求められた場合は、店との関係の問題として別に整理する必要があるため、ここでは扱いません。
「会えなかった」にはいくつもの形がある
| 会えなかった経緯 | その時点で起きていること | 後から争点になりやすい点 |
|---|---|---|
| 最初から会う意思がなかった | 受け取ることだけが目的で、連絡先も使い捨てにされている | お金を渡した時点で相手が何を考えていたか |
| 会う意思はあったが直前にやめた | 受け取ったあとで気持ちが変わった | 気が変わった時期と、その後の対応 |
| 条件を変えられて会わなかった | 渡したあとに金額や内容の話が動いた | 最初に何をどこまで約束していたか |
| 日程が延び続けている | 連絡は取れるが会う日が決まらない | 引き延ばしが続いた期間と、その理由 |
| そもそも別人だった | 写真や説明と実際の相手が違う | 説明のどの部分が事実と違っていたか |
結果が同じでも、扱いは同じにならない
渡した側から見れば、どの経緯でも「払ったのに会えなかった」という一つの出来事です。しかし法律の目で見ると、この五つは別の話として扱われます。刑事の問題になりやすいのは一番上だけで、下の四つは、話し合いや民事の請求で解決を考える領域に入ります。
自分の場合がどこに当たるのかを先に見当をつけておくと、警察に相談する話なのか、返金の交渉から入る話なのかを切り分けやすくなります。
分かれ目は「渡した時点で相手が何を考えていたか」
だまし取ったといえるかどうかは、後から見た結果ではなく、お金を受け取った時点で相手に約束を果たす意思があったかどうかで判断されます。受け取ったあとに気持ちが変わって会わなかったという経緯であれば、渡した側から見た景色は同じでも、刑事の評価は変わってきます。
意思は、言葉ではなく行動から推し量られる
相手が「最初からだますつもりでした」と説明することは、まずありません。そのため、受け取った時点の考えは、周囲の事実から推し量られていきます。手元に残っているもののうち、次のような点がその材料になります。
- 渡す前のやり取りで、相手がどこまで具体的に日時や場所を約束していたか。
- 受け取った直後の反応が、それまでのやり取りと比べてどう変わったか。
- アカウントや電話番号が、受け取った直後に消えたり変わったりしていないか。
- 同じ相手に同じ形でお金を渡した人が、ほかにもいる様子がないか。
- 振込先の口座名義が、相手が名乗っていた名前と結びつくか。
これらは一つひとつが決め手になるものではなく、積み重なって初めて意味を持ちます。だからこそ、記録を消さずに残しておくことが後から効いてきます。
約束の中身によって、返金の話も変わる
性的な行為の対価とされる約束は、法律上の後ろ盾を持ちにくい
性的な行為の対価としてお金を払う約束は、公の秩序に反するものとして効力を認められにくいと説明されています。効力が認められないと、受け取った側が未払い分を請求できないのと同じように、渡した側も「約束が果たされていないのだから返せ」と言いにくくなります。この壁は、双方に同じように働きます。
この点を根拠に「返す義務はない」と説明する情報が多く出回っており、実際に相手からそう言われることもあります。
それでも、話が全部そこで終わるわけではない
もっとも、この壁がすべての場面を一律にふさぐわけではありません。食事や一緒に過ごす時間だけを内容にしていた約束は、同じ扱いになるとは限りません。また、相手の落ち度が大きく、渡した側の落ち度がそれに比べて小さいといえる場合には、返還を求められる余地があるとされています。
さらに、最初からだまし取る目的で受け取られたお金は、約束の対価というよりだまし取られたお金として見る余地があり、先ほどの枠にそのまま収まるとは限りません。話し合いのうえで「返す」と合意すること自体も妨げられていません。裁判で通しにくいことと、交渉の余地がないこととは別の問題です。
支払い方法によって、残っている道が変わる
| 支払い方法 | 手元に残る記録 | 回復に向けて考えられること |
|---|---|---|
| 現金の手渡し | 自分のメモや当日の移動の記録程度 | 相手を特定する手がかりが乏しく、入口で止まりやすい |
| 銀行口座への振込 | 日時・金額・口座名義が明細に残る | 金融機関と警察への相談が早いほど、口座に資金が残っている可能性がある |
| 送金アプリ・電子マネー | アプリの履歴に相手のIDや送金日時が残る | 事業者ごとに扱いが異なるため、まず提供事業者に申し出る |
| ギフト券などのコード送付 | 購入履歴とコードの控え | 使われた後は追いにくいが、購入履歴は経緯の裏づけになる |
| クレジットカード | 利用明細に加盟店名が残る | 個人あての送金だと、カード会社に争ってもらう枠に乗りにくい |
振込には、制度としての道が用意されている
振込が使われた場合には、犯罪に使われた口座の資金を被害に遭った人に分配する仕組みが法律で設けられています。対象は、人の財産を害する罪の犯罪行為で、財産を得る方法として振込みが利用されたものと説明されており、口座への振込を使った詐欺は、その代表例として挙げられています。
ただし、この仕組みには前提と限界があります。口座を止める判断をするのは金融機関であり、その後も公告などの手続を経るため、結果が出るまでに相応の時間がかかります。分配されるのは口座に残っていた資金なので、被害額の全部が戻る制度ではありません。相手がすでに引き出していれば、分ける原資そのものが残りません。
現金の手渡しはこの枠組みに乗りません。送金アプリなどは、支払い方法や事業者によって扱いが変わるため、履歴を残したうえで事業者に確認することになります。
早く動くことに意味がある理由
- 口座に資金が残っているかどうかは、日単位で変わっていく。
- やり取りの記録は、相手のアカウント削除やアプリの仕様で見られなくなることがある。
- 相手のプロフィールや投稿は、消される前に保存しておかないと後から確認できない。
- 請求できる期間には区切りがあり、時間が経つほど当時の事実を確かめ直しにくくなる。
どれも「今日中に何かをしなければ手遅れ」という話ではありませんが、日が空くほど選べる手が減っていくという方向には動きます。
相手が誰か分からない、という壁
民事の手続は、相手の氏名と住所が分かっていることを前提に組み立てられています。書面を送る宛先も、裁判を起こすときの相手方の欄も、そこが埋まらなければ先へ進みません。呼び名と携帯番号しか分からない状態では、正しさを争う以前の段階で止まってしまいます。
前払いだからこそ、残っているものもある
一方で、前払いには「渡す前に振込先や連絡先を教えてもらう」という段階が挟まります。会ってその場で現金を渡す場合に比べると、相手側の情報が一つ多く残っていることになります。
口座名義は、その数少ない手がかりの一つです。弁護士会を通じて照会をかける仕組みもありますが、照会に応じるかどうかには限界があり、これで情報が得られると決まっているわけではありません。過度に期待せず、しかし手がかりとして残しておく、という位置づけになります。
警察に相談するときに考えておくこと
お金を返してほしいという民事の話と、だまし取られたという刑事の話は、別の窓口で別の判断がされます。約束が守られなかっただけの事案は、警察が立ち入る話ではないと整理されることが多く、その線引きは相談の場でも問題になります。
また、警察に相談すれば「どのような約束でお金を渡したのか」を説明することになります。自分の側の事情を伏せたまま話を進めるのは難しく、この点を気にして相談をためらう方は少なくありません。成人同士のやり取りを前提とすれば、支払った側の行為そのものに罰則を定めた規定は置かれていませんが、相手の年齢や約束の内容によっては別の法律の問題になり得ます。気になる事情がある場合は、警察に行く前に弁護士に整理を頼むという順番も選べます。
かえって不利になりやすい対応
- 連絡がつくまで、何十回も電話やメッセージを送り続ける。
- 相手のアカウントや写真を、事情を書き添えてSNSに投稿する。
- 相手の家族や勤務先に伝えると告げて、返金を迫る。
- 住所を調べたと伝えて、直接訪ねる意思を示す。
- 返金の代行をうたう業者や個人に、手数料を先に払って任せる。
上の四つは、正当な請求であっても手段のほうが問題にされることがあります。取り戻す側が別のトラブルの当事者になってしまえば、話はさらに動かしにくくなります。最後の一つについては、弁護士でない人が報酬を得て他人に代わって交渉することは制限されている、という点も押さえておいてください。
「返金する」と言われたあとに起きること
連絡が戻り「返します」と言われた場合でも、そこから別の名目の支払いを求められることがあります。手数料、保証金、送金を通すための費用といった説明で、二度目の支払いに誘導する形です。返金をうたって別の操作や支払いをさせる手口には、消費生活の分野でも注意が呼びかけられています。
受け取る前に何かを払う必要がある、という説明が出てきた時点でいったん止める。返金の話が出たときは、この一点を目安にすると被害が重なりにくくなります。
取り戻せる見込みが薄いときに整理しておくこと
- 渡した金額と日付を、一度まとめて記録の形にしておく。
- 取り戻すためという説明で、同じ相手に追加の支払いをしない。
- やり取りの保存は続け、自分の側からは消さない。
- 同じ経路で新しい約束をしない。
金額が戻らなかったとしても、経緯を整理しておくことには意味があります。後から相手が特定されたり、同じ相手について別の申告が集まったりして、状況が動くことがあるためです。
弁護士に相談すると変わること
- 手元の記録のどこが、だまし取られたと説明できる材料になるのかを整理できる。
- 金融機関や警察に伝えるべき事実を、時系列に沿って組み立てられる。
- 相手の特定に使える照会の可否も含めて、現実的な見通しを聞ける。
- 自分の側の事情をどこまで説明する必要があるのかを、あらかじめ確認できる。
まとめ
- 会えなかったという結果だけでは、詐欺かどうかも返金を求められるかどうかも決まらない。
- 分かれ目は、お金を受け取った時点で相手に約束を果たす意思があったかどうかにある。
- その意思は、渡す前後のやり取りやアカウントの動きといった事実から推し量られる。
- 性的な行為の対価とされる約束は効力を認められにくく、この壁は渡した側にも働く。
- 一方で、約束の中身や落ち度の大きさによっては、返還を求められる余地も残る。
- 支払い方法によって残っている道は変わり、振込には制度としての仕組みが用意されている。
- その仕組みは時間がかかり、全額が戻るものでもないため、早く動くほど選択肢が残る。
- 執拗な連絡やSNSでの公開は、取り戻す側を別のトラブルの当事者にしてしまう。
- 返金の話が出たあとに、受け取る前の支払いを求められたら、いったん止めて確認する。
弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容が外部に伝わることはありません。当事務所では無料でご相談をお受けしています。一人で抱え込まずに、まずは事実の整理からご一緒させてください。


