風俗トラブルで店の「顧問弁護士」が出てきた|客側がまず確認すべきこと
性風俗の利用をめぐるトラブルで、「途中でやめたのだから問題にはならないはずだ」「最後までしていないので大丈夫だ」という受け止め方を耳にすることがあります。
ただ、刑法は、行為が完了したかどうかだけで結論を決める仕組みにはなっていません。途中で終わったという事情は評価に関係しますが、その関係の仕方は、多くの方が想像しているものとは少し違います。「途中でやめた」という一言のなかに、法律上はまったく別の話がいくつも混ざっているためです。
この記事では、「途中でやめた」「未遂だった」という状況が条文の上でどう位置づけられるのかを、順を追って整理します。
この記事が想定している場面
- 成人同士の間で起きたトラブルを想定しています。相手が18歳未満の場合は別の規定が働くため、当てはめが変わります
- すでに逮捕・勾留されている、警察から呼び出しを受けているという段階であれば、記事を読むより先に個別の相談をご検討ください
- 特定の行為を勧める趣旨ではありません。また、事実と違う説明の組み立て方をお伝えするものでもありません
- 一般的な整理であり、個別の事案の見通しをお示しするものではありません
「途中でやめた」という言葉に混ざっている四つの場面
ご相談のなかで「途中でやめた」と語られる状況は、法律上は少なくとも四つに分かれます。どれに当たるかによって、検討する条文も、争点になる事柄も変わります。
| 語られ方 | 法律上の位置づけ | 検討の中心になること |
|---|---|---|
| そもそも要件を満たす状況がなかった | 犯罪の成立自体が問題にならない | 刑法177条の要件を満たすか |
| 始めたが完了しなかった | 未遂 | 「実行の着手」があったか |
| 自分の判断でやめた | 中止未遂に当たる余地がある | 「自己の意思により」といえるか |
| 完了した後に離れた | 既遂 | 未遂の問題ではない |
このうち一番上と一番下は、そもそも未遂の話ではありません。一番上は成立要件の問題、一番下はすでに既遂に達した後の話です。ご本人の感覚では同じ「途中でやめた」でも、法律上の扱いは大きく異なります。
なお、刑法177条(不同意性交等罪)の成立要件そのものは別のコラムで扱っています。ここでは、要件を満たす可能性がある状況を前提に、「完了しなかった」ことがどう評価されるかに絞ります。
未遂は処罰の対象とされている
まず押さえておきたいのは、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪については、未遂を処罰する規定が置かれているという点です(刑法180条)。「完了していないのだから条文の対象外だ」という理解は、条文の建て付けと合いません。
しかも、未遂だからといって別の軽い法定刑が用意されているわけではありません。刑法177条の法定刑は5年以上の有期拘禁刑と定められており、未遂であってもこの枠から出発します。
未遂による刑の減軽は「できる」規定
刑法43条の本文は、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者について、その刑を減軽することが「できる」と定めています。減軽しなければならない、とは書かれていません。実務ではこれを任意的減軽と呼びます。
減軽する場合の計算方法は刑法68条3号にあり、有期拘禁刑については長期と短期をそれぞれ2分の1にします。刑法177条の「5年以上の有期拘禁刑」は上限が20年ですから、この計算をすると2年6月以上10年以下という幅になります。
この幅は、刑を決める際の出発点となる範囲であって、実際に言い渡される刑を予測するものではありません。ただ、刑の全部の執行猶予は言い渡される刑が3年以下の拘禁刑などである場合に検討できる制度とされている(刑法25条1項)ため、減軽が行われるかどうかで検討の土俵そのものが変わる、という意味は持ちます。
どこからが「未遂」なのか
未遂は、犯罪の実行に「着手」していることが前提です。着手より前の段階でやめた場合は、そもそも未遂にもなりません。刑法177条には予備を処罰する規定が置かれていないため、着手前の段階は、この罪については処罰の対象になりません。
では、着手はどの時点で認められるのでしょうか。最高裁は、被害者を車の運転席に引きずり込もうとした段階で、姦淫に至る客観的な危険性が認められるとして、その時点で実行の着手があったと判断しています(最高裁昭和45年7月28日決定)。
この考え方からすると、着手が認められる時点は、多くの方が想像するより早い場合があります。「まだ何もしていない」という感覚と、条文上の評価がずれることは珍しくありません。
着手前でも別の罪名が残ることはある
着手がないと判断されたとしても、それは刑法177条の未遂が成立しないという意味にとどまります。その場で行われたことの内容によっては、暴行罪や脅迫罪、強要罪、住居侵入罪など、別の条文の検討が残ることがあります。
「未遂にもならなかった」ことと「何の責任も生じない」ことは、同じではありません。
中止未遂(中止犯)とは何か
刑法43条には、本文に続けてただし書があります。自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除するという規定です。
本文の減軽が「できる」であるのに対し、ただし書は「減軽し、又は免除する」と書かれています。要件を満たすと判断された場合には、減軽か免除かのどちらかが行われることになります。実務ではこれを必要的減免と呼び、外部の事情でやむなく終わった場合(障害未遂)と区別しています。
| 項目 | 障害未遂(刑法43条本文) | 中止未遂(刑法43条ただし書) |
|---|---|---|
| 完了しなかった原因 | 外部の事情による | 自分の意思による |
| 刑の減軽 | 減軽することができる | 減軽するか、免除する |
| 典型的な例として挙げられるもの | 抵抗された、第三者が来た、人に見つかった | 思いとどまった、後悔した |
| 判断の中心 | 着手があったか | 任意性と中止行為があったか |
要件その1 「自己の意思により」といえるか
中止未遂の第一の要件は、任意性です。一般には、そのまま続けようと思えば続けられる状況だったにもかかわらず、自分の判断でやめた、と評価できるかが問われます。
逆に、外から加わった事情が引き金になっている場合には、任意性が否定される方向で判断されやすいと説明されます。相手に強く抵抗された、大きな声を出された、第三者が近づいてきた、人の気配がした、といった事情がきっかけであれば、障害未遂と評価される可能性があります。
ここで注意したいのは、任意性はご本人の説明だけで決まるものではないという点です。「自分の意思でやめた」と述べたとしても、その場に何があったかという客観的な事情と突き合わせて判断されます。複数人が関与していた場合に、自分だけがやめても他の人が行為を遂げてしまったときは、そもそも未遂の問題にならない、とも整理されています。
要件その2 「中止した」といえる行為があったか
もう一つの要件は、中止行為です。着手した直後の段階であれば、それ以上進めないという不作為でも中止行為と評価され得る、というのが一般的な説明です。
他方で、すでに結果に向かう流れが動き出している場面では、何もしないだけでは足りず、結果を防ぐための真摯な行動が必要とされると説明されます。けがをさせてしまった場合に救護をしたかどうかといった事情が問題になるのは、この考え方によるものです。
「刑の免除」は無罪ではない
中止未遂に当たると判断された場合の効果には「刑の免除」が含まれますが、これは無罪判決とは別のものです。刑を免除するときは判決でその旨を言い渡すこととされており(刑事訴訟法334条)、犯罪事実が認定されたうえで刑を科さない、という有罪判決の一種と理解されています。
「免除されれば何も残らない」という受け止め方は、正確ではありません。
「途中でやめた」つもりでも未遂にならない場合
実務で誤解が生じやすいのが、既遂に達した後にやめたケースです。
刑法177条の「性交等」は条文上定義されており、一般には挿入があった時点で既遂に達すると理解されています。既遂に達した後で行為を中断しても、未遂に戻るわけではありません。時間の長短も、既遂か未遂かの区別そのものを変えるものではありません。
この点は、ご本人の感覚と条文の評価がもっとも大きくずれやすいところです。
性交等に至らなくても、別の罪名の既遂になり得る
逆の方向のずれもあります。性交等に至らなかったとしても、それまでに行われた行為の内容によっては、刑法176条(不同意わいせつ罪)の既遂として評価される余地があります。
つまり、「性交等に至らなかった」ことは、直ちに「未遂で済む」ことを意味しません。どの罪名で見るかによって、既遂・未遂の線が引かれる位置が変わるためです。どちらの罪名で検討されるかは、その場の状況やご本人の認識をもとに判断されます。
未遂や中止でも変わらないこと
- 告訴がなくても起訴できる点は変わりません。性犯罪は2017年の改正で親告罪ではなくなっており、既遂か未遂かでこの扱いは変わりません
- 公訴時効の期間も短くなりません。不同意性交等罪とその未遂罪は15年、不同意わいせつ罪とその未遂罪は12年とされています(刑事訴訟法250条3項)
- 逮捕・勾留を判断する枠組みも同じです。逃亡や証拠隠滅のおそれをどう見るかという判断であり、既遂か未遂かだけで決まるものではありません
- 民事上の請求が消えるわけでもありません。損害賠償の請求は、刑事の罪名や既遂・未遂とは別のレイヤーで検討されます
- 撮影が絡む場合は別の法律の問題になります。性的姿態撮影等処罰法にも未遂を処罰する規定があり、こちらはこちらで検討が必要です
説明の仕方でもっとも注意が要る点
ここまでの整理を踏まえると、実務上、非常に大きな意味を持つ事柄が一つあります。
「途中でやめました」という説明は、同時に「始めました」という説明でもある、という点です。
中止未遂は、未遂であることが前提の制度です。未遂であるためには、実行に着手していなければなりません。したがって、中止したことを述べることは、着手があったことを前提とする話になります。
一方で、そもそも要件を満たす状況ではなかった、という主張とは、出発点が異なります。二つを同時に、整理しないまま述べてしまうと、説明の一貫性が問われる場面が出てきます。
これは、どちらかの説明を選んで組み立てるべきだ、という話ではありません。事実がどうであったかがすべての出発点です。ただ、同じ出来事でも、どの言葉で説明するかによって、記録に残る意味合いが変わることは知っておいたほうがよいと考えます。取調べで作成される供述調書は、後の手続でも使われる記録になります。
相談の前に整理しておきたいこと
- 時間の流れを、覚えている範囲で順番に書き出す。何時ごろ、どこで、どういうやり取りがあったか
- やめた前後に何が起きていたかを分けて書く。誰が何を言ったか、外から何か起きたか
- 記憶があいまいな部分は、あいまいなまま残す。つじつまを合わせるために埋めないことが重要です
- 手元にある記録を確認する。予約や連絡のやり取り、時刻の分かるものなど
- 店から連絡や請求が来ている場合は、その内容と日付も控えておく
特に三つ目は重要です。後から思い出したことと、その場で認識していたことが混ざると、説明の信頼性にかかわります。分からないことを「分からない」と伝えられる状態にしておくほうが、結果的に整理は進みやすくなります。
避けたほうがよい対応
- 「未遂だから問題にならない」と自己判断して、そのまま放置すること
- 相手や店に直接連絡を取り、その場で解決しようとすること
- 記録や履歴を消すこと。あとで確認が必要になる場面があります
- 関係者に口裏合わせを求めること。事案そのものとは別の問題を生みます
- 思い出せないことを、想像で補って説明すること
まとめ
- 「途中でやめた」という言葉には、成立要件の話、未遂の話、中止の話、既遂後の話が混ざっています
- 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は、未遂も処罰の対象とされています(刑法180条)
- 未遂による刑の減軽は「できる」規定であり、当然に減軽されるものではありません(刑法43条本文)
- 自己の意思により中止したと判断された場合は、減軽か免除が行われます(刑法43条ただし書)。ただし免除は無罪ではありません
- 外から加わった事情が引き金になっている場合は、任意性が否定される方向で判断されやすいと説明されます
- 既遂に達した後にやめても未遂には戻らず、性交等に至らなくても別の罪名の既遂になる余地があります
- 非親告罪であること、公訴時効の期間、民事上の請求は、既遂か未遂かでは変わりません
- 「やめた」と述べることは「始めた」ことを前提とする説明になります。事実の整理を先に行うことが大切です
早く動いたからといって、望ましい結果が保証されるわけではありません。ただ、事実関係を整理しないまま説明を重ねてしまうと、後から修正するのが難しくなる場面はあります。判断に迷う段階であっても、状況を整理する目的で相談していただくことに意味はあると考えています。


