無実でも示談すべき?否認と示談のジレンマ
風俗店とのトラブルについて検索すると、同じ論点なのに正反対のことが書かれたページが並ぶことがあります。どちらが正しいのかを見分けようとして、かえって判断がつかなくなったという声をよく聞きます。
このとき役に立つのは、書き手を肩書きで格付けすることではありません。書かれている内容を元の資料と突き合わせて確かめる手順を持っておくことです。法律の条文も裁判所の判断も、誰でも無料で読める場所に公開されています。そして、あなたの事件についての資料は、あなたの手元にあります。
この記事では、風俗トラブルに関する情報を一次情報で確かめる方法を、実際の手順に落として説明します。
この記事の前提
本記事は、性風俗店を利用する側(客側)の立場を想定しています。調べ方についての一般的な説明であり、個別の事案について結論を示すものではありません。
すでに警察から連絡が来ている、期限が書かれた書面が届いているといった場合は、調べ物を先行させるより、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。調べている間に期限が過ぎてしまうことがあるためです。
なお、そもそも情報がなぜずれるのか、生成AIの回答をどう扱うかについては、別の記事で扱っています。本記事は「確かめる手順」に絞ります。
「一次情報」には二種類ある
一次情報というと、法律の条文や裁判所の判断を思い浮かべる方が多いと思います。それは半分です。もう半分は、あなたの事件そのものの記録です。
実務では、結論が分かれる原因の多くが、法律の理解の違いではなく、事実の詰め方にあります。同じ「本番トラブル」という言葉でも、店の書面に何と書かれていたか、いつ誰から何を言われたか、支払いがあったかによって、検討すべき点は変わります。
制度の一次情報は、誰にとっても共通です。事件の一次情報は、あなたにしかありません。ネット上の解説は前者を要約したものであって、後者を持っていません。ここが、情報をいくら集めても不安が消えない理由です。
制度の一次情報はどこにあるのか
まず、制度側の一次情報の置き場所を整理します。
| 調べたいこと | 主な公開元 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 法律・政令の条文 | e-Gov法令検索(デジタル庁) | 条例は収録されていない。時点を指定すると、その日に施行されていた条文を確認できる |
| 都道府県の条例 | 各都道府県の例規集、都道府県警のサイト | 内容が都道府県ごとに異なる |
| 裁判所の判断 | 裁判所ウェブサイトの裁判例検索 | すべての判決等が掲載されているわけではないと、裁判所自身が明記している |
| 制度の趣旨・運用 | 所管官庁の公表資料(法務省のQ&A、警察庁や都道府県警の通達など) | 改正時に作られた資料は、その時点での説明 |
| 統計 | e-Stat(政府統計の総合窓口)、各種白書 | 集計の定義を必ず確認する |
| 公布された原文 | 官報発行サイト | 2025年4月から電子データが正本。発行から原則90日間は全体を無料で閲覧できる |
このうち、一般の方が実際に使う場面が多いのは、条文と条例の二つです。裁判例や官報まで当たる必要がある場面は多くありません。
条文を確認するときは、e-Gov法令検索で法令名を検索し、条番号で該当箇所を開きます。改正が公布済みでまだ施行されていない場合は、施行予定日ごとの条文が用意されているため、今の条文と、これから変わる条文を分けて読むことができます。過去の時点を指定して、その日に施行されていた条文を表示させることも可能です。「いつの条文を見ているのか」を意識しないまま読むと、改正前後の内容が混ざってしまいます。
確かめる五つの手順
- 根拠が示されているかを見る
- 条文を自分で開く
- いつの話かを合わせる
- 誰に向けて書かれた記事かを見る
- 数字は定義と出所を見る
一つ目が出発点です。条文番号も、裁判所名と年月日も、資料名も書かれていない主張は、正しいか誤りか以前に、確かめようがありません。「〜とされています」「〜が一般的です」という書き方が続く記事は、参考程度にとどめるのが無難です。
二つ目は、孫引きの言い換えではなく、原文を一文でも読むという意味です。条文は思ったより短く、読んでみると解説の力点が原文と違うことに気づく場合があります。
三つ目は、記事の公開日と、書かれている出来事の時期の両方を見るということです。更新日が新しくても中身が更新されていないページはありますし、逆に古い記事が、当時の制度の説明としては正確なこともあります。
四つ目は、風俗トラブルでは特に影響が大きい点です。店側やキャスト側に向けて書かれた解説と、客側に向けた解説では、同じ場面についての助言が反対方向になります。この見分け方は別の記事で詳しく扱っています。
五つ目については後ろで詳しく触れますが、金額や割合の数字は、どこの誰が、何を対象に、どう数えたものかまで示されて初めて意味を持ちます。数字だけが独り歩きしている記述は、そのまま自分に当てはめないことです。
風俗トラブルで間違えやすい三つの照合
条例は都道府県ごとに違う
盗撮や客引き、つきまといには、刑法や国の法律だけでなく、都道府県の条例が関わることがあります。ここで見落とされやすいのが、e-Gov法令検索に条例は収録されていないという点です。国の法令だけを確認して「該当する条文がない」と考えるのは早計です。
条例は都道府県ごとに内容が異なります。東京都の条例は東京都例規集データベースで確認でき、警視庁のサイトにも本文や改正内容の説明が掲載されています。他県の条例を前提にした解説を、そのまま東京での出来事に当てはめると、条文番号も要件もかみ合いません。
逆の見落としもあります。撮影に関する行為については、2023年7月13日に国の法律として処罰規定が設けられました。条例だけを取り上げた古い解説を読んでいると、こちらの規定が視野から抜けることになります。条例と国の法律は、どちらか一方を見れば足りるという関係ではありません。
施行日と「なお従前の例による」
性犯罪に関する刑法の規定は2023年7月13日に改正法が施行され、懲役と禁錮を一本化した拘禁刑は2025年6月1日に施行されました。そのため、古い罪名や「懲役」という表記が残っている解説は珍しくありません。
ただし、古い記述が直ちに誤りだとは限りません。法改正では、施行前にした行為への罰則の適用については従前の例による、と定められるのが通例だからです。施行前の出来事を説明している文脈であれば、旧法の表記が正確なこともあります。
見るべきなのは、記事の公開日だけではなく、その記述がいつの行為についてのものかです。公布日と施行日は別であり、改正のうち一部だけが先に施行される場合もあります。
議論の段階と、決まったことの区別
| 段階 | 何が起きた状態か | 読むときの意味 |
|---|---|---|
| 検討会・審議会 | 論点を整理している段階 | 「こう変わる」とはまだ言えない |
| 法案の提出 | 内容が条文の形になった段階 | 成立するとは限らない |
| 成立 | 国会で可決された段階 | まだ効力は生じていない |
| 公布 | 官報に掲載された段階 | 施行日が定められる |
| 施行 | 効力が生じた段階 | 以後の行為に適用される |
例えば売春防止法の見直しは、2026年3月に法務省の有識者検討会が初会合を開き、同年5月に論点が取りまとめられた段階です(本記事執筆時点)。「買う側の処罰が導入される」と読める記述を見かけることがありますが、現時点では検討が続いている段階にとどまります。この種の話題は動きがあるため、お読みの時点で最新の状況をご確認ください。
一次情報にたどり着けない情報もある
示談金の相場、逮捕される割合、事務所ごとの解決件数。これらは、公的な統計として同じ定義で公表されているものではありません。
参考になるのは、定義が公開されている数字です。例えば検察統計では、罪名別の起訴人員・不起訴人員とともに起訴率が公表されており、起訴率は起訴人員を起訴人員と不起訴人員の合計で割った値だと明記されています。逆に言えば、定義が示されていない割合は、何を分母にしたのか分からないということです。
事務所が公表している数字も、その事務所が自ら集計したものであり、集計の範囲や条件はそれぞれ異なります。数字自体を疑う必要はありませんが、あなたの事案に同じ結果が当てはまることを示すものではない、という距離感で読むのが適切です。
もう一つ、裁判例検索で「該当する裁判例がありませんでした」と表示されても、同種の裁判がなかったことにはなりません。裁判所のサイトには、すべての判決等が掲載されているわけではないと明記されています。
あなたの事件の一次情報をどう残すか
- 書面は封筒ごと保管する(消印や宛名も情報になります)
- 受け取った日時と、誰から届いたかを記録する
- 支払いは金額だけでなく、経路(現金・振込・カード)を残す
- やり取りは加工せず、元の形のまま残す
- 記憶があいまいな部分は、あいまいなまま書いておく
最後の一つは特に大切です。後から辻褄を整えた記録より、分からない点が分からないままになっている記録のほうが、確認の出発点として役に立ちます。
なお、不利に見える記録を削除することの問題については、別の記事で扱っています。手元の資料を減らす前に、一度立ち止まってください。
確かめても分からない三つのこと
- 条文が、自分に起きた事実にどう当てはまるか
- 相手方(店・キャスト本人・代理人を名乗る人)が次にどう動くか
- 選択肢が複数あるとき、自分にとってどれが現実的か
この三つは、公開資料をいくら読んでも出てきません。条文と事実を突き合わせる作業は、事実の側を具体的に聞き取らないと進まないためです。調べ物には、ここまでという範囲があります。
ただし、確かめる作業が無駄になるわけではありません。根拠を探しながら読むと、自分の事案について「いつ・誰が・何を言ったか」が自然に整理されていきます。相談の場で最も時間がかかるのは、この事実関係の確認です。調べた内容そのものより、その過程でできた時系列のメモのほうが役に立つ、ということも珍しくありません。
まとめ
- 一次情報は「制度の一次情報」と「あなたの事件の一次情報」の二つに分かれる
- 根拠が示されていない記述は、正誤の判断以前に確かめようがない
- 条例はe-Gov法令検索に載っておらず、都道府県ごとに内容が異なる
- 公布日と施行日は別で、施行前の行為には従前の例によるのが通例のため、古い表記が誤りとは限らない
- 検討の段階と、成立・公布・施行は区別して読む
- 定義が示されていない割合や相場は、何の数字か分からないまま受け取らない
- 手元の書面と記録は、加工せずそのまま残しておく
調べることは、結論を自分で出すためではなく、相談の質を上げるために役立ちます。確かめられるところまで確かめたうえで、残った疑問を持って相談に来ていただければ、限られた時間をより有効に使えます。


