風俗トラブルで弁護士ができること・できないこと|期待値を先に揃える

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

風俗店とのトラブルで弁護士を探しているとき、いちばん知りたいのは「頼めばどうにかなるのか」だと思います。ただ、この問いに「はい」とだけ答える説明は、あとで落胆を生みます。弁護士が代わりにできることには範囲があり、その範囲は弁護士の力量ではなく、その事柄を最終的に決める人が誰かによって決まっているからです。

 この記事では、性風俗を利用した男性(客側)の立場から、弁護士に依頼したときに何が動き、何が動かないのかを整理します。どの窓口に相談するかの比較や、早く動くことにどんな意味があるかは別の記事で扱っていますので、ここでは「依頼したあとに起きること・起きないこと」に絞ります。

 なお、相手が18歳未満であった可能性がある場合や、すでに逮捕・勾留されている場合は前提が大きく変わります。当てはまる方は、この記事の一般論よりも個別の相談を優先してください。

「できる・できない」は能力ではなく、誰が決めるかで決まる


 弁護士にできることを考えるとき、「腕のいい弁護士なら何とかしてくれる」という見方をしてしまいがちです。しかし実際には、あなたのトラブルを構成する一つひとつの事柄に、それぞれ決定権を持つ人がいます。決定権が誰にあるかによって、弁護士の関わり方は次の四つに分かれます。

その事柄を決めるのは弁護士の関わり方
第1層あなた自身代理人として、そのまま実行できる
第2層相手方(店・キャスト・その代理人)提案し交渉できるが、成立させるかは相手方が決める
第3層警察・検察官・裁判所主張し資料を出せるが、判断そのものは公的機関が行う
第4層決められる人がいない弁護士にもできない


 「依頼したのに思ったように進まない」と感じる場面の多くは、第2層や第3層の事柄を第1層だと思っていたことから生まれます。逆にいえば、第1層に属する事柄は、依頼したその日から動きはじめます。

第1層|弁護士が単独で進められること


 相手方の同意も公的機関の判断も必要としない領域です。依頼の効果がもっとも分かりやすく出るのがここです。

  • 起きた出来事を法的に整理し、刑事の問題・民事の問題・発覚の問題に切り分ける
  • 請求の中身(誰が・何を根拠に・いくら・いつまで)を分解し、支払義務の有無と金額の相当性を別々に検討する
  • 連絡の窓口を弁護士に移し、あなたに代わって受け答えをする
  • 回答書・通知書・示談書案などの書面を作成し、期限のある書面に間に合わせる
  • 手元の記録を保全し、必要な資料の取り寄せ方を設計する
  • 債務不存在確認訴訟など、こちらから手続を起こす選択肢を検討する
  • 捜査機関に対して、こちらの言い分や事情を意見書として提出する


調査には「頼めば分かる」ものと、そうでないものがあります


 弁護士には、所属する弁護士会を通じて官公庁や企業に必要事項を照会する制度があります(弁護士法23条の2)。ただし、照会を受けた側が回答を拒んだ場合に、裁判でその回答を強制する方法までは認められていません。最高裁も、報告を拒んだこと自体を理由とする損害賠償や、報告義務の確認を求める訴えを認めない判断を示しています。相手方の身元や店の実態は調べれば判明する、という前提は置かないほうが安全です。

第2層|相手方が同意しなければ成立しないこと


 示談がその代表です。金額の減額、分割払い、あとから蒸し返さない約束(清算条項)、口外禁止の約束、すでに払ったお金の返還——これらはいずれも、相手方が「それでよい」と言って初めて成立します。弁護士は交渉の材料を整え、法的な根拠を示し、落としどころを探ることはできますが、相手方に合意を義務づけることはできません。この構造は、相手が店であっても、キャスト本人であっても、その代理人であっても変わりません。

弁護士がついても、店に「直接連絡してはならない」という義務は生じません


 「弁護士に依頼すれば店からの連絡は止まる」と説明されることがあります。実務上、代理人がついたことを通知すれば連絡が弁護士宛てに移ることは多く、その意味では期待してよい効果です。ただし、法律上の位置づけは知っておいてください。

 貸金業者やサービサー(債権回収会社)については、弁護士に委任した旨の通知を受けたあとに本人へ直接取立てをすることが法律で禁じられています(貸金業法21条1項9号、サービサー法18条8項)。しかし風俗店はこれらの規制を受ける業種ではなく、同じ禁止規定が及ぶわけではありません。また、相手方に代理人がついたら直接交渉しないという規律(弁護士職務基本規程52条)は、弁護士を縛るものであって、弁護士ではない店側の担当者を拘束するものではありません

 したがって、通知後も連絡が続く可能性は残ります。続いた場合にどう記録し、どう対応するかまで含めて、最初に打ち合わせておくのが現実的です。

第3層|決めるのが警察・検察官・裁判所である事柄


 刑事の側面が出てきたとき、結論を決めるのは弁護士でも当事者でもありません。

 起訴するかしないかを決めるのは検察官です(刑事訴訟法248条)。弁護士は、示談書や被害弁償の資料、経緯を説明した意見書を提出して判断材料を増やすことはできますが、不起訴という結論そのものを約束することはできません。

 被害届についても同じです。被害届には、いったん出されたものを取り下げる法律上の手続が定められていません。また、2017年の法改正により性犯罪の多くは告訴がなくても起訴できる犯罪(非親告罪)になりましたので、相手が許すという意思を示したとしても、それだけで刑事手続が自動的に終わるわけではありません。示談や宥恕(ゆうじょ)の意思は、検察官が判断するときの重要な事情の一つ、という位置づけです。

 逮捕・勾留を避けたい、早く身柄を解いてほしいという希望も構造は同じです。意見書の提出や不服申立てはできますが、判断するのは捜査機関と裁判所です。

第4層|弁護士に限らず、誰にもできないこと


  • 起きた事実そのものをなかったことにする
  • すでに相手方や第三者の手元に渡った情報・記録を完全に回収する
  • 支払いや署名をした時点まで時間を戻す
  • 相手方の感情や態度を思いどおりに変える
  • 家族や勤務先に知られないことを保証する


 最後の点は補足が要ります。弁護士には守秘義務があり(弁護士法23条)、依頼を受けた事実や相談の内容を外に出すことはありません。連絡の方法や書面の送付先に配慮することもできます。ただし条文は「正当な理由がある場合を除き」という構造になっており、加えて、相手方の行動や裁判所からの書類の送達など、弁護士の側で制御できない経路も存在します。「知られにくくする工夫はできるが、保証はできない」というのが正確な言い方です。

よくある期待と、実際に起きること


よくある期待実際に起きやすいこと
依頼すれば店からの連絡は止まる窓口が弁護士に移り、連絡が減ることは多い。ただし直接連絡を禁じる法律上の規定はない
依頼すれば払わずに済む支払義務の有無と金額の相当性は別々に検討される。ゼロになるとは限らない
被害届を取り下げさせられる取下げの法定手続はない。示談や宥恕は判断材料の一つ
家族や会社に知られない配慮はできるが、保証はできない
依頼すればすぐ終わる相手方の対応と手続の期限に従うため、待つ期間が生じる
すでに払った分を取り戻せる任意に支払った金銭の回収は容易でない場合が多い
不起訴にしてもらえる判断するのは検察官。弁護士は材料を出す立場


期待がずれやすい4つの場面


  1. 依頼直後に動きが見えない期間がある……通知を出してから相手方の返答を待つ間は、外から見ると何も起きていないように見えます。どのくらい待つのか、次に何をするのかを先に聞いておくと不安が減ります。
  2. 相手方が反応しない……返事が来ない、金額を下げないという事態は起こり得ます。その場合に何を次の手として想定しているかを、依頼の段階で確認しておきます。
  3. 途中で見通しが変わる……新たな資料が出てくれば、当初の見通しは変わります。見通しが変わること自体は不誠実の表れではありませんが、変わった理由の説明は受けるべきです。
  4. 費用と結果が比例しない……弁護士費用は活動に対して発生するもので、結果を買うものではありません。着手金の性質や、追加費用が生じる場面を最初に確認してください。


依頼前に確認しておきたい5つの質問


  1. この件で、いま最も急ぐことは何ですか
  2. 考えられる結果として、良い場合と悪い場合はそれぞれどのようなものですか
  3. 費用は何に対していくら発生し、どの場面で増えますか
  4. 相手方が応じなかった場合、次にどの手段が残りますか
  5. 連絡はどの方法で、どのくらいの頻度で受けられますか


 答えの歯切れの良さで選ばないことをおすすめします。初回の相談で結論が出ないこと自体は、珍しいことではありません。

依頼しないほうが合理的な場合もあります


  • 請求も接触もないまま相当の期間が経過し、現に何も起きていない場合
  • 請求額が小さく、弁護士費用のほうが上回る見込みが立つ場合(いわゆる費用倒れ)
  • すでに相手方と合意が成立しており、争う実益が乏しい場合


 もっとも、「何も起きていない」ように見えて、期限だけが進んでいることもあります。判断がつかない段階で、見通しだけを聞くために相談するという使い方もできます。

まとめ


  • 弁護士にできることの範囲は、力量ではなく「誰がその事柄を決めるか」で決まる
  • 自分の側で完結すること(整理・窓口・書面・手続の申立て)は、依頼した時点から動きはじめる
  • 示談・減額・返金は相手方の同意が要る。起訴するかどうかは検察官、有罪無罪と刑は裁判所が決める
  • 受任通知で連絡が弁護士に移ることは多いが、風俗店に直接連絡を禁じる法律上の規定はない
  • 「一切知られない」「不起訴にできる」と言い切る説明には、距離を置いたほうがよい
  • 弁護士に依頼する意味は、結果を約束してもらうことではなく、選べる手段を把握したうえで自分で選べるようにすること

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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