本番を認める発言をしてしまった後にできること|自認の撤回と限界
風俗店とのトラブルで、店の担当者から「うちの顧問弁護士に相談している」と言われたり、弁護士名の書面が届いたりすることがあります。このとき多くの方が気にするのは「相手の弁護士にどう対応するか」ですが、その手前に、知っておくと落ち着いて考えられることがあります。それは、店側の顧問弁護士は、あなたと接触するずっと前から、店の側で仕事をしているという点です。
この記事では、事業者向けに公開されている情報をもとに、風俗店の顧問弁護士がどのような役割を担っているのか、そしてトラブルが起きたときに店側がどう動くよう設計されているのかを、客側の視点から整理します。相手を敵視するためではなく、目の前で起きていることの意味を読み違えないための整理です。
なお、実際に代理人が出てきた後の確認手順(本当に弁護士か、誰の代理人か、何を根拠にいくら求められているか)は別の記事で扱っています。本記事は、その手前にある「店側の体制」に絞ります。
「顧問弁護士」は、事件ごとの代理人とは別の立場
顧問弁護士とは、企業や個人事業主と継続的な契約を結び、日常的な法律相談に応じる立場の弁護士をいいます。月々の顧問料を払い、必要なときにすぐ相談できる状態を確保しておく契約です。
ここで押さえておきたいのは、顧問契約と、個別の事件の代理は別のものだという点です。顧問契約の範囲は「相談」までとされていることが多く、相手方との交渉や訴訟の代理を頼む場合は、改めて委任契約を結び、別に費用が発生するのが一般的です。実際、ナイトワーク業界向けに顧問サービスを提供している事務所の公開案内でも、法律相談は顧問料の範囲内、示談交渉や刑事弁護は別料金として整理されている例があります。
この違いは、客側にとって実務的な意味を持ちます。「顧問弁護士に相談している」と告げられたことと、「その弁護士が代理人として出てくる」ことは同じではありません。店が費用をかけて代理人を立てる判断をしたかどうかは、弁護士名の書面が届いて初めて見えてくる、と考えておくとよいでしょう。
店の顧問弁護士が扱っている仕事の範囲
事業者向けに公開されている顧問サービスの案内を見ると、扱う業務の幅はかなり広く、客とのトラブル対応はそのうちの一部にすぎないことが分かります。
| 領域 | 店側の目的 | 客側から見た意味 |
|---|---|---|
| 許認可・風営法への対応 | 摘発を避けて営業を続ける | 店は監督官庁との関係を強く意識している |
| 契約書・規約・同意書の作成 | 後の紛争に備える | 示される書面は事前に用意された雛形であることが多い |
| キャストの労務・契約 | 人の確保と定着 | 店とキャストの利害が常に一致するとは限らない |
| ネット上の書き込みへの対応 | 評判の維持 | 口コミへの投稿が別の紛争を生むことがある |
| 警察への確認・事件対応 | 事件化したときの備え | 通報するかどうかは店の判断材料の一つ |
| 客とのトラブル対応 | 損害の回復 | 顧問料とは別枠の依頼になることが多い |
注目したいのは、契約書・規約・同意書の作成が業務に含まれている点です。トラブルの現場で示される料金表、注意書き、誓約書の類は、その場で急ごしらえされたものとは限りません。あらかじめ用意された書面である可能性を前提に読む必要があります。
もっとも、書面が用意されていることと、その内容がそのまま有効であることは別です。誓約書や示談書にどこまで効力があるかは、それ自体が個別の検討を要する論点で、別の記事で扱っています。
トラブルが起きたとき、店の中では何が起きているか
顧問弁護士がついている店では、トラブル発生時の動き方がある程度定型化していることがあります。事業者向けの解説で示されている流れを整理すると、おおむね次の順序になります。
- 現場のスタッフがキャストから報告を受ける
- 店として事実関係を確認し、客の連絡先などを控える
- その場では長引かせず、いったん帰す
- 顧問弁護士に相談し、対応の方針を決める
- 必要に応じて、弁護士名で連絡や請求を行う
その場で穏やかに帰されたことは、話が終わったことを意味しない
客側がもっとも読み違えやすいのが、三番目です。
店側向けの解説では、その場で客を長時間とどめ置いたり、強引に金銭を求めたりしないよう、繰り返し注意が促されています。理由は店を守るためです。密室での長時間の拘束は監禁と評価されるおそれがあり、執拗な金銭の要求は恐喝と評価されるおそれがある。実際に、店の側が客と直接示談交渉をしたことで弁護士法違反の疑いで逮捕された事例も報じられています。
つまり、その場で深追いしない対応は、店が譲歩したからではなく、後日あらためて正面から請求するために選ばれている可能性があるということです。連絡先や身分証を控えられたうえで穏やかに帰されたときは、話が流れたのではなく次の段階に移っただけかもしれない、という前提で考えたほうが安全でしょう。
その後に来る電話や連絡を放置し続けた場合に何が起きるかは、別の記事で時系列に沿って整理しています。
「店の顧問弁護士」と「あなたの相手方」は、同じとは限らない
① 顧問であることと、代理人として出てくることは別
前述のとおり、顧問契約の中心は相談です。交渉の代理には別の委任と費用が要るため、店が「顧問弁護士に相談した」段階と、「代理人として交渉に入った」段階の間には、店側の費用判断という一段階が挟まっています。
② 店の顧問弁護士は、当然にはキャスト個人の代理人ではない
慰謝料を請求する権利は、被害を受けた本人のものです。店が受けた損害(営業への影響、備品の弁償など)とは、法的には別の請求になります。店の顧問弁護士は店から依頼を受けた立場であり、それだけでキャスト個人の代理人になるわけではありません。事業者向けの顧問サービスでも、キャスト個人のトラブル対応は別のサービス・別料金として案内されている例があります。
この区別を落とすと、店に支払ったのに本人との関係では清算できていない、という事態が起こり得ます。誰の権利について、誰との間で清算しようとしているのか。示談書の当事者欄と清算条項が及ぶ範囲は、それを確かめる手がかりになります。
③ 「顧問弁護士が言っている」は、弁護士の判断そのものではない
口頭で伝えられる内容は、途中で要約され、店にとって都合よく整理されていることがあります。誰が、どういう立場で、何を述べたのか。書面が届いていない段階では、その区別がつきません。伝聞として受け止め、根拠と内訳は書面で示してもらう、というのが基本の対応になります。
なお、弁護士でない人が報酬を得る目的で示談交渉を代理することには弁護士法上の問題が生じ得ますが、その枠組みは別の記事で扱っています。
店側が「避けるよう助言されていること」を知っておく
弁護士監修の事業者向け法務メディアでは、風俗店が客と示談する際の注意点として、次のような点が挙げられています。店側に向けて書かれたものですが、客側から読むと別の意味を持ちます。
| 店側が避けるよう助言されている行為 | 理由として挙げられているもの | 客側から見た意味 |
|---|---|---|
| 高額すぎる違約金の設定 | 公序良俗に反して無効となる可能性 | 金額を示されても、支払義務の額が確定したわけではない |
| 掲示や張り紙だけで合意を前提にすること | 説明と合意がなければ効力が問題になる | 「書いてある」ことは合意の証明にはならない |
| 家族や勤務先への不必要な連絡 | 強迫や名誉毀損と評価される可能性 | 告げられた場合は、その事実そのものを記録する |
| 執拗な金銭の請求 | 恐喝と評価される可能性 | 回数・時間帯・文言を残しておく |
| 密室での長時間の拘束 | 監禁と評価される可能性 | 退去できたかどうかは重要な事実になる |
| その場での現金徴収と念書の作成 | 強迫を理由に取り消され得る | 署名や支払いを急がされた経緯自体が事情になる |
これは店側を非難するための一覧ではありません。むしろ、助言を受けている店ほど、これらを避けて動くということです。裏を返せば、こうした行為が現に行われた場合、それは店側の想定からも外れた動きであり、後の交渉や手続で意味を持つ事実になり得ます。だからこそ、そのときの記録が重要になります。
顧問弁護士がついていることは、客にとって不利なだけではない
相手に弁護士がつくと一方的に不利になる、と感じる方は少なくありません。ただ、実際には次のような面もあります。
- 請求の根拠と内訳が書面になり、口頭のやり取りより検討しやすくなる
- その場で決めさせる圧力がかかりにくくなる
- 度を越えた取立てに発展しにくくなる
- 窓口が定まり、深夜の連続した電話などが起きにくくなる
一方で忘れてはならないのは、相手方の代理人は中立の判定者ではないという点です。依頼者である店の利益のために、法律上できる範囲で動く立場にあります。物言いが丁寧であることと、請求の内容が妥当であることは、切り離して考える必要があります。
店側の動き方を踏まえて、客側がまずできること
- その場では結論を出さない。署名も支払いも保留し、いったん持ち帰る
- 誰の名前で、何について、いくらを、いつまでに求められているのかを書面で確認する
- やり取りの記録を消さない。日時・相手・内容を時系列で残す
- 自分ひとりで交渉を続けず、早い段階で窓口を弁護士に移すことを検討する
こちらが代理人を立てた場合、弁護士職務基本規程により、相手方の弁護士は原則として本人ではなくこちらの弁護士へ連絡することになります。これは弁護士を拘束する規範であって、本人の行動を縛るものではありませんが、結果として直接のやり取りが減り、冷静に検討する時間を確保しやすくなります。
なお、正当な請求であれば、正面から内容を確かめたうえで清算するのが結局は近道です。放置は解決にはならず、支払義務の有無や金額の当否は、事実と根拠に照らして検討するほかありません。
まとめ
- 顧問弁護士は店の日常的な相談相手であり、個別事件の代理は別の委任と費用を伴うことが多い
- 規約・誓約書・示談書の雛形は、あらかじめ用意されている可能性を前提に読む
- その場で穏やかに帰されたことは、話が終わったことを意味しない
- 店の顧問弁護士は、当然にはキャスト個人の代理人ではない。誰の権利をどこまで清算するのかを確かめる
- 店側が避けるよう助言されている行為が現に行われたときは、その事実を記録しておく
- 相手に弁護士がついたこと自体は不利一色ではないが、中立の判定者ではない
- その場で決めず、根拠と内訳を書面で求め、早めに窓口を移すことを検討する
店側の動き方が見えていると、届いた連絡の意味を落ち着いて読み取れるようになります。判断に迷う段階でも、事実関係の整理だけは早いほうが選択肢が残ります。


