相性が合わないと感じたとき|その場で断ってよいのか
弁護士に相談しようと思ったとき、多くの方が最初につまずくのは、事件の中身そのものよりも「これから何がどの順番で起きるのか」「聞こえてくる言葉の意味が分からない」という点です。着手金、受任通知、期日、清算条項。一つひとつはそれほど難しくないのに、まとめて押し寄せると全体像が見えなくなります。
この記事では、相談を思い立ってから事件が終わるまでを六つの段階に分け、その段階で必ず出てくる言葉を、出てくる場所に置いたまま整理しました。五十音順の辞書ではなく、「いつ、どの場面で使われる言葉か」が分かる地図として使っていただければと思います。
全体像は六つの段階に分けて考える
弁護士に相談してから解決までの道のりは、大まかに次の六つに分かれます。
| 段階 | 主に起きること | 決めるのは誰か |
|---|---|---|
| 1 相談するかを決める | 情報を集め、期限の有無を確かめる | 自分 |
| 2 探す・問い合わせる | 事務所を選び、予約を取る | 自分と事務所 |
| 3 相談する | 事実を整理し、見通しと費用の説明を受ける | 自分と弁護士 |
| 4 依頼する | 委任契約を結び、着手金を支払う | 自分(受けるかは弁護士も判断) |
| 5 進行する | 通知・交渉・調停・訴訟 | 相手方と裁判所も加わる |
| 6 終わる・その後 | 合意や判決、書類の受領と精算 | 弁護士と自分 |
この六つのうち、自分の意思だけで動かせるのは段階1から4までです。段階5に入ると相手方や裁判所が判断に加わり、こちらの希望だけで結論を動かせる場面は少なくなっていきます。急いだほうがよいかどうかを考えるときは、この「決定権が自分の手を離れる位置」を目安にすると分かりやすくなります。
段階1〜2|相談する前に出てくる言葉
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 法律相談 | 事実を聞き取ったうえで、法的な見通しや取り得る手段の説明を受けること。依頼とは別の行為です |
| 初回相談無料 | 事務所ごとの料金設定の一つ。無料となる時間・分野・回数の範囲は事務所によって異なります |
| 利益相反 | 相手方から先に相談を受けているなど、その事件を受けられない関係にあること。予約の際に相手方の氏名を尋ねられるのは、この確認のためです |
| 法テラス | 正式名称は日本司法支援センター。資力などの要件を満たす場合に、無料法律相談や弁護士費用の立替(民事法律扶助)を利用できます |
| 時効 | 一定の期間が過ぎることで権利の行使が難しくなる仕組み。相談すべきかどうかよりも、いつ相談するかに関わってきます |
この段階でよくある誤解は、「相談する前に自分で結論を出しておかなければならない」というものです。何を請求できるのか、そもそも請求できる事案なのかを判断するために相談するのですから、整理がついていない状態で相談しても差し支えありません。
段階3|相談の場で出てくる言葉
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 見通し | その時点の資料と説明を前提とした見込み。結果の保証ではありません |
| 守秘義務 | 相談内容を他に漏らさない義務。弁護士法23条と弁護士職務基本規程23条に定めがあり、相談だけで終わった場合にも及びます |
| 受任の諾否 | 依頼を受けるかどうかの判断。規程34条は、依頼があったときは速やかに諾否を通知することを求めています |
| セカンドオピニオン | 別の弁護士の見解を聞くこと。相談の段階で複数の事務所に相談することは、禁じられていません |
相談は依頼ではありません。相談した事務所にそのまま依頼しなければならないという決まりはなく、その場で結論を出さずに持ち帰る選択もできます。逆に、弁護士の側にも依頼を受ける義務があるわけではなく、利益相反や方針の不一致を理由に断られることもあります。
段階4|依頼とは「委任契約」を結ぶこと
相談と依頼を分けているのは、委任契約という一本の線です。ここを越えると、弁護士は代理人として対外的に動き始めます。全体像のなかで、最も性質が変わる場所だといえます。
契約まわりの言葉
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 委任契約 | 法律事務の処理を委託する契約(民法643条ほか)。弁護士職務基本規程30条は、原則として委任契約書を作成することを求めています |
| 委任状 | 代理権を持つことを対外的に示す書面。事務所と依頼者の間の取り決めを書いた委任契約書とは役割が違います |
| 受任の範囲 | どこまでを任せるか。交渉までなのか訴訟までなのか、控訴審は別契約なのかを、契約書で確認しておく部分です |
費用の言葉
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 相談料 | 相談そのものに対する費用 |
| 着手金 | 事件に着手するにあたって支払う費用。結果にかかわらず返還されないのが原則です |
| 報酬金(成功報酬) | 事件が終わったときに、得られた成果に応じて支払う費用 |
| 実費 | 印紙代、郵便料、交通費など、実際に外部へ出ていく費用 |
| 日当 | 弁護士が事務所を離れて活動する時間に対する費用 |
| 手数料 | 書面の作成など、一回で完了する事務に対する費用 |
| タイムチャージ | 要した時間に単価を掛けて算定する方式 |
| 経済的利益 | 報酬金を計算する基礎となる金額。何を基礎に置くかは事務所ごとの基準によります |
弁護士報酬は、かつて日本弁護士連合会が定めていた報酬基準が2004年に廃止され、現在は各事務所が自由に定める形になっています。そのため全国一律の相場というものは存在せず、同じような事案でも見積額に幅が出ます。金額そのものより、何が起きたら費用がいくら増えるのかを契約前に確かめておくと、後の食い違いが起きにくくなります。
段階5|動き出してから出てくる言葉
交渉の段階
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 受任通知 | 代理人に就いたことを相手方に知らせる書面。以後の連絡は弁護士宛てにするよう求めるのが通常です |
| 窓口一本化 | 本人が直接やり取りせず、弁護士を連絡の窓口にすること |
| 内容証明郵便 | いつ、どのような文面の手紙を、誰が誰に出したかを郵便局が証明する送り方。書かれた内容が正しいことまで証明するものではありません |
| 催告 | 支払などを求める意思表示。民法150条により、一定の期間、時効の完成が猶予されます |
ここで誤解が生じやすいのが、受任通知の効き方です。弁護士から通知が届いた後に本人への直接の取立てが法律上禁じられるのは、貸金業者や債権回収会社など、法律で名指しされた相手に限られます(貸金業法21条1項9号など)。相手が個人や一般の会社である場合、事実上は連絡が止まることが多いものの、法律上の禁止規定があるわけではありません。止まらなかったときにどうするかも、依頼の際に確認しておくとよいでしょう。
裁判所の手続の段階
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 調停 | 裁判所で行う話し合いの手続。調停委員が間に入ります |
| 訴訟 | 判決による判断を求める手続 |
| 期日 | 裁判所で手続が行われる日。代理人がついている場合、本人の出席が求められない回もあります |
| 訴状・答弁書・準備書面 | 主張を書面で提出するための書類 |
| 証拠説明書 | 提出する証拠について、作成者や立証したい事柄を一覧にした書面 |
| 尋問 | 当事者や証人が、法廷で質問に答える手続 |
| 和解 | 互いに譲り合って争いをやめる合意。訴訟の途中でも成立し得ます |
| 判決 | 裁判所が示す判断 |
| 仮処分・仮差押え | 結論が出るまでの間、現状を保全しておくための手続 |
段階6|終わるときに出てくる言葉
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 和解調書・判決書 | 手続の結果を記載した裁判所の書面 |
| 確定 | 不服申立ての期間が過ぎ、結果が動かなくなること |
| 清算条項 | この件については他に債権債務がないことを、当事者間で確認する条項 |
| 口外禁止条項 | 合意の内容を第三者に話さないことを約束する条項 |
| 預り金 | 依頼者や相手方から一時的に預かった金銭。事件終了時に精算されます |
| 精算書 | 受け取った金額と差し引いた費用の内訳を示す書面 |
| 処理結果の説明 | 規程44条は委任終了時に結果を説明することを、45条は預り金等を返還することを、それぞれ弁護士に求めています |
意味がズレやすい四つの言葉
①「着手金」は総額の頭金ではない
着手金は、後で支払う報酬金の一部を先に入れておくお金ではなく、事件に着手すること自体への対価という性質のものです。望んだ結果にならなかった場合でも返還されないのが原則で、この点が「払ったのに戻らない」という受け止めにつながりやすいところです。途中で契約を終える場合の扱いは契約書の定めによりますので、締結の前に確認しておくのが確実です。
②「成功報酬」の成功は勝訴のことではない
報酬金は、裁判で勝ったかどうかではなく、契約で定めた成果が得られたかどうかで発生します。請求額を減らせた、請求そのものを止められた、といった形も成果に含まれることがあります。何をもって成果とするかは事務所ごとに異なるため、契約書の文言を読むことが最も確実な確認方法になります。
③「示談」「和解」「解決金」は名前より中身
いずれも、争いをやめることについての合意という点では共通しています。名目が解決金であっても、合意した以上は支払う義務が生じます。大切なのは呼び方ではなく、誰と誰の間で、何について、いくらを、いつまでに、という中身の部分です。
④「解決」と「委任の終了」は同じ時点とは限らない
弁護士の仕事が終わる時点と、問題そのものが片づく時点は、必ずしも一致しません。書面のうえでは解決していても入金がまだ済んでいない、あるいは生活の面が元どおりになっていない、ということは起こり得ます。終了のときには、何が終わり、何が残っているのかを確認しておくと、その後の見通しが立てやすくなります。
自分で決められること・決められないこと
| 場面 | 決めるのは誰か |
|---|---|
| 相談するかどうか | 自分 |
| どの事務所に依頼するか | 自分(受けるかどうかは弁護士も判断します) |
| どこまでを任せるか | 自分と弁護士(委任契約で定めます) |
| 和解に応じるかどうか | 自分。ただし相手が応じるかどうかは相手次第です |
| 相手が支払うかどうか | 相手方 |
| 判決の内容 | 裁判所 |
| 依頼を続けるかどうか | 自分(民法651条1項) |
この表の上のほう、つまり自分の意思だけで動かせる部分は、時間の経過とともに少しずつ減っていきます。早めの相談がすすめられるのは、早ければ結果がよくなるからというより、選べる状態のまま判断できる時間が長く残るからだと考えると分かりやすいと思います。
進め方に納得できないと感じたときは
| 状況 | とり得る選択肢 |
|---|---|
| 方針が合わないと感じる | まず担当弁護士に伝えて協議する(規程36条は事件処理の報告と協議を求めています) |
| 別の意見も聞いてみたい | 他の弁護士にセカンドオピニオンを求める |
| 依頼を続けられない | 委任契約の解除(民法651条1項)。中途で終わった場合の費用の清算は、契約書の定めと民法648条3項の考え方によります |
| 費用に納得できない | 所属弁護士会の紛議調停を申し立てる(弁護士法41条) |
| 職務上の非行があると考える | 所属弁護士会への懲戒請求(弁護士法58条1項) |
いずれも制度としては用意されていますが、実際には最初の一つ、つまり率直に伝えて話し合うことで解消する行き違いが少なくありません。連絡の頻度や報告の方法は、依頼の時点で決めておくこともできます。
まとめ
弁護士に相談してから解決までの流れは、①相談するかを決める②探す③相談する④依頼する⑤進行する⑥終わる、という六つの段階に分かれます。言葉が難しく感じられるのは、それぞれの段階に固有の用語が、準備のないまま一度に押し寄せてくるからです。
分からない言葉が出てきたときは、その場で聞き返して構いません。説明を求めることは遠慮すべきことではなく、依頼者として当然の確認です。全体の地図と、言葉がどの位置にあるのかが分かるだけでも、判断に迷う場面はかなり減っていきます。


