法律相談で弁護士から聞かれること|答えにくい質問への向き合い方
弁護士に依頼したあと、担当の弁護士から「この点はいかがでしょうか」「当時のやり取りが残っていれば見せていただけますか」といった質問が届くことがあります。メールのこともあれば、電話や書面のこともあります。
このとき、すぐには返さずに置いてしまうことは珍しくありません。手元の資料を探さないと答えられない、思い出すのがつらい、どちらでもよい気がして決められない、専門的すぎて何を答えればよいのか分からない。理由の多くは、面倒だからではありません。むしろ「いい加減なことを言えない」という真面目さから来ていることのほうが多いように思います。
ただ、弁護士からの質問は、その多くが手続の側にある締切から逆算して届いています。この記事では、なぜ早めの返事が結果に関わるのか、そして完璧に答えられないときにどう返せばよいのかを整理します。なお、逆の立場である「弁護士から返事が来ない」という悩みについては、この記事では扱いません。
弁護士からの質問は、締切から逆算して届いている
「確認のお願い」に見えても、後ろに期限があることがある
依頼者の側から見ると、弁護士からの質問は「確認のお願い」に見えます。急ぎだと書かれていないこともあります。しかし弁護士の側では、その質問に対する答えを材料にして、決められた期限までに何かを出す作業が控えていることがあります。
どのような期限が控えているのかは、事件の段階によって異なります。代表的なものを整理すると次のようになります。
| 場面 | 弁護士の側にある期限 | 依頼者の返事が必要になる時点 |
|---|---|---|
| 裁判や調停が進行している | 次の期日に向けた書面の提出期限 | 書面を書き始める前 |
| 相手方から書面が届いた | その書面に書かれた回答期限 | 回答の方針を決める前 |
| 請求できる期間に区切りがある | その期間が満了する日 | 手続に入るかどうかを決める前 |
| 申立てや不服申立てに期間の定めがある | 申立ての期限 | 申立ての書面を作る前 |
| 刑事の手続が進んでいる | 処分の判断がされるまでの日数 | 判断がされる前 |
書面の提出期限は、期日の少し前に設定されるのが通例
民事の裁判では、主張を書いた書面は、その内容について相手方が準備をするのに必要な期間をおいて提出することとされています。実務上は、次の期日の一週間ほど前を提出の期限とする運用が広く行われています。裁判長が期限を定めることもでき、その期限を過ぎて提出する場合には、間に合わなかった理由を裁判所に説明することが求められる仕組みも設けられています。
つまり、依頼者への質問は、「期日の一週間前」からさらに逆算された時点で発せられていることになります。弁護士が書面を組み立て、事実関係を確認し、必要な資料を選ぶ時間を差し引けば、返事がほしい時期は期日よりかなり手前になります。
急いでいるように見えるのは、弁護士の都合ではないことが多い
「そんなに急がなくても」と感じる場面でも、その裏側に日付の決まった予定が入っていることがあります。逆に、期限が書かれていない質問であっても、いつまでに返せばよいのかを一言たずねておくと、優先順位をつけやすくなります。
返事が遅れると、何が変わるのか
選べる手段が少しずつ減っていく
紛争は、時間の経過とともに取り得る手段が入れ替わっていきます。早い段階であれば話し合いで収める余地があったものが、時間が経つと手続を使うほかなくなることがあります。返事が遅れること自体が結論を変えるわけではありませんが、選択肢が並んでいるうちに選ぶのと、残った選択肢から選ぶのとでは、進め方が変わります。
主張や証拠を出す時期そのものが問題にされることがある
民事の裁判では、主張や証拠は進行状況に応じて適切な時期に出すこととされています。遅れて出された主張について、裁判所が取り上げないという判断をする場合もあります。もっとも、そのような扱いがされるのは限られた場合であり、遅れたら直ちに主張できなくなるという話ではありません。ただ、出すのが遅くなるほど、内容そのものより「なぜ今になって出てきたのか」という点に説明が必要になるという傾向はあります。
一回分の遅れが、月単位の遅れになりやすい
裁判や調停の期日は、次回が一か月から二か月ほど先に指定されることが少なくありません。そのため、書面が一回間に合わなかった場合、遅れは数日では収まらず、次の期日までの間隔がそのまま上乗せされることがあります。日常の感覚では数日の遅れでも、手続の中では一回分の遅れになりやすい点は、知っておくと判断がしやすくなります。
相手方の状況が変わることがある
相手方が支払いに充てられる資産を持っているか、連絡が取れる場所にいるか、といった事情は固定されたものではありません。時間が経つ間に、相手方が転居したり、資産の状況が変わったりすることもあります。こちらが動ける時期に動けるかどうかは、返事のタイミングに左右される部分があります。
記憶と記録は、時間とともに薄くなる
やり取りの日付や言われた言葉は、思い出せるうちに書き留めておかないと、輪郭がぼやけていきます。通信サービスの記録にも保存の期間があり、機種の変更などをきっかけに手元から失われることもあります。「あとで探す」と思っているうちに、探せる状態でなくなることは起こり得ます。
返事が遅れる最大の原因は「完璧に答えようとすること」
弁護士が知りたいのは、正解ではなく現時点の情報
返事が止まる理由として実際に多いのは、全部そろってから返そうとして、そろわないまま日が過ぎることです。日付が思い出せない、資料が見つからない、どちらの方針がよいか決められない。そうした状態で「まだ返せない」と考えてしまうと、何日も何も届かないことになります。
しかし弁護士の側が必要としているのは、多くの場合、完成した答えではありません。分かっている部分と分かっていない部分の区別、いつごろまでに分かりそうかという見込み、そして「調べても出てこなかった」という事実そのものも、次の手を決める材料になります。
「分からない」「まだ調べていない」も、答えの一つ
分からないことを分からないと伝えるのは、悪い報告ではありません。むしろ、あいまいな記憶を確かなことのように伝えるほうが、後から食い違いが生じたときに扱いが難しくなります。記憶が定かでない部分は、その旨を添えて伝えれば足ります。
返しにくい質問と、その日のうちに返せる返し方
| 返しにくいと感じる質問 | 返せない理由 | その日のうちに返せる返し方 |
|---|---|---|
| 当時のやり取りは何月ごろでしたか | 履歴を見ないと分からない | 「たしか春ごろでしたが、履歴を確認します。今週中にお送りします」 |
| どちらの方針を希望されますか | 決めきれない | 「迷っています。それぞれを選んだ場合に何が変わるかを教えていただけますか」 |
| この点に心当たりはありますか | 不利になりそうで書きづらい | 「関係しそうな事情があります。文章にしにくいので、次の打合せで口頭でお伝えします」 |
| 該当の資料はお手元にありますか | 探さないと分からない | 「探してみます。見つからなかった場合、代わりになる資料はありますか」 |
| 相手方の言い分は事実ですか | 一部は事実で一部は違う | 「一部は事実です。違う部分を整理して、明後日までにお送りします」 |
いずれも、その場で送れる内容です。共通しているのは、答えを出すのではなく、いまの状態を伝えているという点です。
質問の種類によって、急ぎ方は変わる
届いた質問がどの種類のものかが分かると、優先順位をつけやすくなります。大きく分けると次の三つです。
- 事実の確認(何がいつ起きたか、資料は残っているか)
- 方針の選択(どうしたいか、どこまでなら受け入れられるか)
- 手続上の事務(日程の調整、書類への署名、原本の受け渡し)
事実の確認は、思い出せる範囲をその日のうちに
事実の確認は、正確さより速さが先に来る場面です。まず思い出せる範囲を返し、確認が必要な部分は「確認します」と添える。この形であれば、当日中に返すことができます。
方針の選択は、迷っていること自体を早く伝える
どうしたいかを問われる質問は、答えを出すまでに時間がかかって当然のものです。この場合に伝えるべきなのは結論ではなく、迷っている、という状態です。何が引っかかっているのかを伝えれば、判断に必要な情報を弁護士の側から示せることがあります。決めきれないまま黙っている時間が、いちばん動きを止めます。
日程・署名・原本の受け渡しは、いちばん急ぐ
三つのうち最も急ぐのは、実は事務的な連絡です。日程の調整は裁判所や相手方の予定が関わりますし、書類の署名や原本の受け渡しには郵送の日数がかかります。他人の都合が絡むものほど、こちらの返事が遅れた分がそのまま後ろにずれていきます。
すぐに答えられないときの伝え方
その日のうちに答えを出せないとき、次の四つを一通の短い連絡にまとめると、やり取りが止まりません。
- 受け取ったこと
- いつごろまでに返せそうか
- 現時点で分かっている部分
- 返すのに障害になっていること
文章にすると、たとえば次のような形です。
「ご連絡ありがとうございます。ご質問の件、今週末までにまとめてお送りします。金額については契約書に記載のとおりで間違いありません。日付は、当時の手帳を実家に置いているため、確認までに数日いただきます」
一度に全部を返す必要はない
質問が複数ある場合、答えられるものから分けて返して構いません。全問そろえてから返そうとすると、一つの未確定事項のために全体が止まります。番号を振って返すと、どこが残っているかを双方が把握しやすくなります。
返しそびれて、気まずくなってしまったとき
遅れた理由の説明はいりますが、謝り続ける必要はありません
返事が遅れると、時間が経つほど連絡しづらくなります。「今さら連絡したら怒られるのではないか」という気持ちから、さらに間が空く。この流れは、実際によく起こります。
弁護士の側が知りたいのは、遅れた理由そのものよりも、いまどうなっているかです。体調を崩していた、仕事が立て込んでいた、考えがまとまらなかった。事情を一行添えて、答えられる部分から返せば足ります。長い謝罪よりも、現在の状況が伝わることのほうが役に立ちます。
連絡が取れない状態が続いた場合に起こり得ること
連絡が取れない期間が長く続くと、弁護士の側は方針を決めることも、書面を出すこともできなくなります。事件を進められない状態が続いた場合、弁護士が辞任を検討せざるを得なくなることもあります。これは責めるための仕組みではなく、依頼者の意向を確認できないまま手続を進めることができないという構造から来るものです。
しばらく連絡が途切れてしまった場合でも、あらためて連絡することはできます。事務所の側も、連絡が来ることを待っていることが多いはずです。
返しやすくするために、最初に決めておけること
依頼した段階で次のような点を決めておくと、いざ質問が来たときに返しやすくなります。
- どの手段で連絡を受けるか(電話・メール・郵便など)
- 連絡を受けられる時間帯と、避けたい時間帯
- 急ぎの場合にどう知らせてもらうか
- 資料をどの方法で渡すか
- 返事の期限を書き添えてもらえるか
連絡の手段や頻度をどう設計するかについては、別の記事で詳しく整理しています。ここでは、返事の期限を書き添えてもらうという点だけ補足します。「いつまでに」が分かれば、後回しにしてよいものと当日中に返すべきものを見分けられます。期限が書かれていない場合は、こちらからたずねて差し支えありません。
よくある質問
Q. とりあえず「確認します」とだけ返すのは失礼ではありませんか
失礼にはあたりません。むしろ、届いたことが分かるだけでも、弁護士の側は次の段取りを立てられます。いつごろ返せそうかを一言添えられれば、なお進めやすくなります。
Q. 質問の意味が分からないときは、そのまま聞き返してよいですか
差し支えありません。質問の意図が伝わっていないまま推測で答えると、かみ合わない情報が積み上がり、やり取りの回数が増えます。「何を確認したいのかが分からなかったので、もう少し具体的に教えてください」と返すほうが、結果的に早く済みます。
Q. 返事が遅れたせいで不利になったのではないかと不安です
遅れがどう影響したかは、事件の段階や内容によって異なります。気になる場合は、その不安を抱えたままにせず、担当の弁護士に率直に聞いてみてください。影響がある場合は、それを前提にした立て直しの方法を検討することになります。
おわりに
弁護士からの質問に早めに答えたほうがよいのは、礼儀の問題ではありません。質問の後ろに、日付の決まった手続が控えているからです。そして返事を止めている原因の多くは、怠慢ではなく「きちんと答えなければ」という気持ちにあります。
分かる範囲を返す。分からない部分は分からないと伝える。いつまでに返せそうかを添える。この三つだけで、やり取りは止まらなくなります。答えがそろっていないことは、返事をしない理由にはならないと考えていただければと思います。


