懲戒請求の仕組みと限界|お金は戻るのか

若井亮

若井亮

テーマ:一般

弁護士の対応に納得できないとき、「懲戒請求」という言葉にたどり着く方は少なくありません。弁護士会に請求すれば処分が下り、支払った費用も戻ってくるのではないか、と考えるのは自然なことだと思います。
 ただ、懲戒請求は、弁護士に処分をするかどうかを弁護士会が判断するための手続です。日本弁護士連合会(日弁連)は、弁護士会が行う懲戒処分について、懲戒請求をした人の損害(被害)の回復や救済等を目的とするものではなく、個人的な利益や満足のために設けられたものではない、と説明しています。
 これは「何もできない」という意味ではありません。求めているものが処分なのか、お金なのか、説明なのかによって、進むべき手続が変わるというだけのことです。この記事では、懲戒請求の仕組みと、この手続で得られること・得られないことを整理します。

「処分を求めること」と「お金を取り戻すこと」は別の手続


 まず全体像です。弁護士との間で問題が生じたときに用意されている手続は一つではなく、何を求めるかによって窓口が分かれています。

求めているもの向かう先そこで得られるもの
弁護士に処分をしてほしい所属弁護士会への懲戒請求懲戒するかどうかについての弁護士会の判断
支払った費用を返してほしい・清算したい担当弁護士との協議、弁護士会の紛議調停、民事訴訟金銭についての合意や判決
対応について説明してほしい・苦情を伝えたい担当弁護士への説明の求め、弁護士会の市民窓口説明や、手続の案内
預かり金を横領された日弁連の依頼者見舞金制度など一定の要件のもとでの見舞金


 東京弁護士会の市民窓口も、非行を理由に処分を求める場合は懲戒手続、報酬や預り金のトラブルは紛議調停手続、というように案内先を分けています。以下では、このうち懲戒請求に絞って見ていきます。

懲戒とは何か|弁護士法が定める事由と4種類の処分


どのようなときに懲戒の対象になるのか


 弁護士法56条1項は、懲戒の事由を次のように定めています。

  • 弁護士法に違反したとき
  • 所属弁護士会または日弁連の会則に違反したとき
  • 所属弁護士会の秩序または信用を害したとき
  • その他、職務の内外を問わず、その品位を失うべき非行があったとき


 「品位を失うべき非行」という言い方は抽象的ですが、これは事案ごとに実質的に判断されるものとされています。方針が合わなかった、説明が物足りなかった、望んだ結果にならなかった、といった不満がそのまま懲戒の事由になるわけではない、という点は先に押さえておきたいところです。

処分は4種類


 弁護士に対する懲戒の種類は、弁護士法57条1項で4つに定められています。

  1. 戒告(反省を求め、戒める処分)
  2. 2年以内の業務停止(弁護士業務を行うことを禁止する処分)
  3. 退会命令(弁護士たる身分を失うが、弁護士となる資格までは失わない)
  4. 除名(弁護士たる身分を失い、3年間は弁護士となる資格も失う)


 いずれも、弁護士本人に向けられた処分です。請求した人に何かが支払われる仕組みは、この4種類のどこにも含まれていません。

判断するのは弁護士会


 懲戒は、基本的にその弁護士が所属する弁護士会が、懲戒委員会の議決に基づいて行います。行政庁や裁判所が直接処分をするのではなく、弁護士会が自ら調査し審査して判断する仕組みです。
 なお、弁護士法人に対する懲戒は法人自身に対する処分であり、その効力が法人を構成する弁護士や使用人である弁護士に直接及ぶものではないとされています。

誰が、どこに請求できるのか


請求できる人に限定はない


 弁護士法58条1項は「何人も」と定めており、依頼者に限らず、事件の相手方でも、直接の関係がない第三者でも請求できます。ただし同項は、その事由の説明を添えて請求することを求めています。処分を求める以上、どの行為がどの事由に当たるのかを具体的に示すことが前提になっている、という趣旨です。

請求先はその弁護士の所属弁護士会


 請求先は、対象となる弁護士が所属する弁護士会です。最初から日弁連に請求することはできません。所属弁護士会が分からないときは、日弁連の弁護士情報検索で調べられます。

書面で出す


 懲戒請求は書面で行います。提出部数や必要書類は弁護士会ごとに異なります。第一東京弁護士会の例では、懲戒請求書は正本1部と副本3部の計4部、添付資料は写し4部とされ、提出方法は持参または郵送に限られます。本人の意思が明確でないことや偽造のおそれから、電話・ファクシミリ・電子メールでの受付はしていません。本人確認書類の写しの提出を求める弁護士会もあります。
 書式や部数は会によって違うため、提出前に、対象となる弁護士の所属弁護士会に確認しておくと行き違いが起きにくくなります。

手続の流れ|綱紀委員会と懲戒委員会の二段階


 懲戒請求が出されると、いきなり処分の当否が検討されるのではなく、二段階の手続に入ります。

  1. 懲戒請求書を、対象となる弁護士の所属弁護士会に提出する
  2. 弁護士会が懲戒の手続に付し、綱紀委員会が事案を調査する(法58条2項)
  3. 綱紀委員会が、懲戒委員会に事案の審査を求めることが相当かどうかを議決する
  4. 審査を求めない議決のときは、弁護士会が「懲戒しない」旨の決定をする(法58条4項)
  5. 審査相当の議決のときは、懲戒委員会が懲戒することが相当かどうかを審査する(法58条3項)
  6. 懲戒相当と議決されれば処分の内容が明示され、弁護士会がその弁護士を懲戒する


綱紀委員会が決めるのは「処分するかどうか」ではない


 綱紀委員会が出す結論は、懲戒委員会の審査に進めるかどうかです。ここで審査相当の議決が出ても、処分が決まったという意味ではありません。逆に、この段階で「懲戒しない」旨の決定になれば、弁護士会での手続はいったん終わります。
 法58条4項は、請求が不適法なとき、懲戒の手続を開始することができないとき、懲戒の事由がないとき、事案の軽重その他の情状を考慮して懲戒すべきでないことが明らかなときに、審査を求めない議決をすると定めています。

委員は弁護士だけではない


 弁護士会と日弁連の綱紀委員会・懲戒委員会は、弁護士、裁判官、検察官、学識経験者で構成されています。後に触れる綱紀審査会は、弁護士・裁判官・検察官(それぞれの経験者を含みます)を除く学識経験者のみで構成されます。

段階判断する機関判断すること出る結論
弁護士会の調査綱紀委員会懲戒委員会の審査を求めることが相当か審査を求める議決/懲戒しない旨の決定
弁護士会の審査懲戒委員会懲戒することが相当か懲戒処分/懲戒しない旨の決定
日弁連の審査(異議の申出)日弁連の綱紀委員会または懲戒委員会弁護士会の判断について申出に理由があるか棄却・却下/事案の送付など
日弁連の審査(綱紀審査)綱紀審査会同じく申出に理由があるか棄却・却下/事案の送付


請求したあとに起きること


請求書は対象の弁護士に開示される


 懲戒請求は、匿名で行う通報のような手続ではありません。提出した懲戒請求書は対象となる弁護士に開示され、弁護士側は答弁書などで反論します。誰が何を主張しているかは相手方に伝わる、という前提で書面を作ることになります。

弁護士側の答弁書は当然には開示されない


 第一東京弁護士会の説明によれば、弁護士側の答弁書は懲戒請求者に当然には開示されず、閲覧や謄写を申請して認められた場合に限られます。裁判のように、双方が同じ土俵で主張と反論を交わしていく手続とは進み方が異なります。

取り下げても手続が止まるとは限らない


 懲戒請求の取下げ自体はできますが、弁護士会は自らの判断でも綱紀委員会に事案を調査させることができます(法58条2項)。取り下げれば調査が当然に終わるという仕組みにはなっていない、と説明されています。

お金は戻るのか


弁護士会は金銭の支払を命じない


 この記事の中心にある問いです。答えは、懲戒請求は金銭の回復を目的とした手続ではない、ということになります。
 日弁連は、弁護士会が行う懲戒処分は広い意味での行政処分として扱われており、懲戒請求者の損害(被害)の回復や救済等を目的とするものではなく、個人的な利益や満足のために設けられたものではない、と明記しています。第一東京弁護士会の案内も、懲戒手続は裁判とは異なり、当事者間の争いを解決したり、金銭の支払や資料の返却を弁護士に命じたりするための手続ではなく、処分がなされても請求者の被害が回復されるわけではない、という趣旨を説明しています。

処分が出ても返金が決まるわけではない


 仮に懲戒処分がされたとしても、そこで決まるのは弁護士に対する処分の内容だけです。支払った着手金をいくら返すのか、預けたお金をいつ返すのか、といったことは別に決める必要があります。処分の事実が、後の話し合いや裁判で事情の一つとして意味を持つことはありますが、それ自体が返金の根拠になるわけではありません。

お金の解決を求めるとき


 費用の返還や清算そのものを求めるのであれば、担当弁護士との協議、弁護士会の紛議調停、民事訴訟といった、金銭について結論を出せる手続を選ぶことになります。預かり金を横領された場合には、日弁連の依頼者見舞金制度が用意されています。いずれも懲戒請求とは別の手続ですが、どちらか一方しか選べないという関係ではありません

どのくらい時間がかかるか


 弁護士白書2025年版によれば、2024年中に綱紀委員会の議決に至った事案のうち、懲戒請求から議決までが6か月以内だったものは53.2%、1年以内だったものを合わせるとおよそ8割弱でした。裏を返せば、2割前後は1年を超えています。
 さらに懲戒委員会の審査に進んだ場合、付議から議決までは1年以内が8割前後です。二段階を通ると、結論が出るまでに年単位の時間がかかることがあります。急いで金銭の折り合いをつけたい場面には向いていない、という事情がここにあります。

数字で見る懲戒請求


件数と処分の割合


 日弁連の「2025年懲戒請求事案集計報告」によると、2025年に全国の弁護士会が受け付けた懲戒請求事案は3,049件、同じ年の懲戒処分は115件、懲戒しない旨の決定は2,694件でした。弁護士白書2025年版では、2024年の懲戒処分率(懲戒請求件数に対する懲戒処分数の割合)は3.1%とされています。

件数の読み方


 この数字を、そのまま「請求してもほとんど通らない」と読むには注意が要ります。集計報告には、同一人から100件以上の懲戒請求が出された例や、特定の会員に対する同一内容の請求が大量に出された年があることが注記されています。新受件数がある年だけ大きく跳ね上がるのは、そうした事情によるものです。
 全体の比率と、個別の事案がどう調査されるかは別の話です。数字は目安として見たうえで、自分の事案でどの行為がどの事由に当たるのかを組み立てるほうが実質的だと思います。

結果に納得できないとき


異議の申出


 弁護士会が懲戒しない旨の決定をしたとき、相当の期間内に懲戒の手続を終えないとき、懲戒の処分が不当に軽いと考えるときは、日弁連に異議を申し出ることができます(法64条1項)。申し出られるのは懲戒請求をした人だけで、期間は通知を受けた日の翌日から起算して3か月以内です(同条2項)。書面はA4判横書で、正本1通と副本2通の計3通を、郵便・信書便・持参のいずれかで提出します。ファクシミリや電子メールでの申出は認められていません。

綱紀審査の申出


 異議の申出を日弁連が却下または棄却した場合には、さらに綱紀審査を申し出られることがあります(法64条の3第1項)。期間は通知を受けた日の翌日から起算して30日以内です。綱紀審査会が学識経験者のみで構成されているのは、懲戒の手続に国民の意見が反映されることで手続の適正さを一層確保する、という趣旨によるものです。

結論が変わる件数は多くない


 同じ集計報告によれば、2025年に日弁連の綱紀委員会が処理した異議申出事案1,116件のうち、審査相当とされたのは5件でした。綱紀審査会が処理した385件のうち、審査相当とされたものはありませんでした。制度としては用意されていますが、期待値は控えめに見ておくほうが現実的です。

3年という期間制限


 懲戒の事由があったときから3年を経過すると、懲戒の手続を開始することができません(法63条)。迷っているうちに、この期間が過ぎてしまうことがあります。
 注意したいのは、この3年と、費用の返還や損害賠償を請求できる期間は別物だという点です。懲戒請求ができなくなっても金銭の請求ができる場合がありますし、その逆もあります。どちらの期限が先に来るのかは、事案ごとの確認が必要です。

請求する側が負うことのある責任


根拠を欠く請求は不法行為になり得る


 最高裁判所平成19年4月24日判決は、弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が事実上または法律上の根拠を欠く場合において、請求者がそのことを知りながら、または通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのにあえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成する、としています。
 訴えの提起が違法とされるのが「著しく相当性を欠く」場合に限られるのと比べると、懲戒請求のほうが緩やかな基準が示されていると整理されています。実際に、懲戒請求を受けた弁護士の側から損害賠償を求める訴訟が提起された例もあります。

虚偽の申告


 人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的で虚偽の申告をした場合には、刑法172条の虚偽告訴等の罪が問題になります。ここでいう虚偽の申告とは、申告の内容をなす処分の原因となる事実が客観的真実に反することをいうとされています。

理由のある請求まで控える必要はない


 もっとも、合理的な理由がある懲戒請求を出すこと自体は、問題とされていません。上の判例が線を引いているのは、根拠がないことを知りながら、または容易に知り得たのに請求したような場合です。起きた出来事と手元の資料に基づいて、評価や感情ではなく事実を書く、という書き方を守るのであれば、過度に恐れる必要はありません。

請求する前に整理しておきたい5点


  1. 自分が求めているのは処分か、お金か、説明か。複数あるなら、どれが優先か
  2. どの行為が、いつ、どのように行われたのか。時系列で書き出せるか
  3. その行為が、弁護士法56条1項のどの事由に当たると考えるのか
  4. 手元にある資料(委任契約書、報酬の請求書や領収書、メールやメッセージの記録、受け取った書面の写し)
  5. その行為から3年が経っていないか。あわせて、金銭を請求できる期間はどうか


 この5点を紙一枚に整理すると、懲戒請求という手続が自分の目的に合っているかどうかが、かなり見えてきます。

おわりに


 懲戒請求は、弁護士の職務の適正を保つために置かれた制度で、誰でも利用できます。同時に、請求した人の損害を回復するための制度ではありません。ここを取り違えたまま進めると、時間をかけた末に、求めていたものが手に入らないという結果になりかねません。
 弁護士の対応に納得できないとき、最初にすべきなのは、自分が何を取り戻したいのかをはっきりさせることです。処分を求めるのであれば懲戒請求、お金の解決を求めるのであれば協議・紛議調停・訴訟、状況の説明がほしいのであれば担当弁護士への説明の求めや市民窓口、と進む先が分かれます。
 判断に迷うときは、別の弁護士に相談し、事案の見立てと選べる手続を整理してもらうという方法もあります。その際は、これまでの経緯を時系列にまとめた紙と、手元の資料を持参すると、話が早く進みます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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