弁護士に不利な事実を隠すとどうなるか|正直に話すことの実務的な意味

若井亮

若井亮

テーマ:一般

弁護士に相談したり依頼したりするとき、自分に不利な事実や、人に言いたくない事情を口に出すのは気が進まないものです。話せば責められるのではないか、印象が悪くなって扱いが変わるのではないか。そう思って言葉を選んでいるうちに、結局そのまま伝えずに手続が進んでしまうことがあります。

 ここで整理したいのは、「正直に話しましょう」という心構えの話ではありません。伝えないまま手続が進んだときに、実務上そこで何が起きるのかという話です。

 結論を先に書きます。伝えなかった事実は、なくなるわけではありません。多くの場合は後の時点で出てきます。そして、出てくる時点が遅いほど、それを収めるために必要な作業が増え、こちら側が負う不利益も大きくなります。正直さは気持ちの問題というより、情報をいつ出すかという段取りの問題です

 なお以下では、交渉と民事・家事の手続を中心に説明します。刑事事件では、捜査機関に対して何を話すかという別の判断が加わるため、組み立て方が変わります。

言いにくいと感じるのは自然なことです


弁護士は出来事の善し悪しを判定する立場ではありません


 法律相談で弁護士がしているのは、聞き取った事実を法的な枠組みに当てはめ、取りうる手段と見通しを組み立てる作業です。相談者の行いを道徳的に評価して点数をつける立場にはありません。

 もちろん、率直な見立てとして「この点は不利に働きます」と言われることはあります。ただしそれは、責めているのではなく、見通しの材料として伝えているものです。厳しい見通しを聞かされたことと、責められたこととは別のことです。

言えなくなる理由は、だいたい三つに分かれます


 一つ目は、話せば責められると思う場合です。二つ目は、自分では関係のない話だと思って省いてしまう場合です。弁護士が重要だと考える事実と、本人が重要だと感じる事実は、しばしばずれます。

 三つ目は、後で必要になったら言えばよいと考える場合です。実際にはこれが最も多く、そして最も影響が出やすい形です。「後で」と思った時点が、たいてい一番伝えやすい時点だからです

「隠す」には三つの形があります


 隠すというと、事実と違うことを言う場面が想像されがちですが、実務で問題になる形はもう少し幅があります。

一 言わないでおく


 聞かれなかったから言わなかった、という形です。悪意はなく、多くは「言わずに済むならその方がよい」という判断で起きます。ただし、弁護士の側は聞き取った事実を前提に方針を決めるため、抜けた一点が方針の土台を変えてしまうことがあります。

二 事実と違うことを伝える


 金額、回数、日付、やり取りの有無といった点が、記憶違いではなく意図的にずらされる形です。後で記録と突き合わせたときに、最も食い違いが表に出やすい部分でもあります。

三 有利な方向に強めて伝える


 見落とされやすいのがこの形です。「毎日のように言われた」「何度も断った」といった表現は、本人の実感としては正確でも、記録上の回数と合わないことがあります。

 誇張は、隠すことと同じ経路をたどります。相手方から記録を示されて回数が違うと指摘されると、そこだけでなく、こちらの説明全体の受け止められ方に影響します。実際にあったことをそのまま伝えるほうが、結果として強い材料になります。

同じ事実でも、いつ出てくるかで代償が変わります


 ここが本題です。不利な事実そのものよりも、それが手続のどの段階で表に出るかによって、必要になる作業と不利益の大きさが変わります。

事実が表に出る時点その時点で必要になること戻しにくさ
相談の段階方針を組み立てる前なので、材料が一つ増えるだけ小さい
依頼した直後、まだ何も外に出していない段階主張の立て方を決め直す小さい
通知書や請求書を相手方に出した後先に出した内容との整合を説明する中くらい
主張書面を出し、争点が固まった後主張を変える理由の説明を求められる大きい
尋問の準備に入った後それまでの説明との食い違いが法廷で表に出る大きい
和解や示談がまとまる直前・成立した後条件の組み替え、または合意そのものの見直しとても大きい


 表の右の列が示しているのは、手続には後戻りしにくい節目がいくつかあり、その節目を越えるたびに修正の費用が上がるということです。以下では、その節目を三つ取り上げます。

節目その一 書面で認めたことは戻しにくくなります


認めた事実は、争いのない事実として扱われます


 民事の手続では、相手方が主張する事実のうち、こちらが認めたものは「当事者間に争いのない事実」として扱われ、証拠で確かめる対象から外れます。裁判所は、その事実があったことを前提に判断を進めます。

 これは手続を早く進めるための仕組みで、それ自体は合理的なものです。ただし、認めるかどうかの判断は、弁護士が依頼者から聞いた事実をもとに行います。土台が違っていれば、認める必要のない事実を認めてしまうことも起こり得ます。

後から言い分を変えるときに求められること


 いったん認めた事実を後で否定する場合、原則としてその撤回は認められません。例外として扱われるためには、認めた内容が真実に反していること、そしてそれを事実と誤解して認めてしまったことを、こちら側で示す必要があるとされています。

 実務上、これは簡単な作業ではありません。争点が一つ増えるだけでなく、主張を変えたこと自体が、その後の説明の受け止められ方に影響します。

出す時期そのものが問題にされることがあります


 主張や証拠は、手続の進み具合に応じて適切な時期に出すこととされています。故意または重大な過失によって遅れて提出され、それを審理すると手続の終わりが遅れると判断された場合には、その主張や証拠を取り上げない扱いがされることがあります。

 この扱いが実際にされるための条件は厳しく、遅れたら直ちに切り捨てられるというものではありません。ただし、遅れて出したこと自体を相手方から指摘され、争点が一つ増えるという場面は、それほど珍しくありません。

節目その二 尋問では、それまでの説明との差が表に出ます


宣誓をしたうえで質問に答えます


 当事者本人の尋問では、多くの場合、うそを述べない旨の宣誓をしたうえで質問に答えます。宣誓をした当事者が虚偽の陳述をしたときは過料の制裁を受けるという定めがあり、実際に科された例も報告されています。適用される場面は限られますが、制度として置かれていることは知っておいてよい点です。

 また、正当な理由なく出頭しない場合や、宣誓・陳述を拒んだ場合には、その尋問事項について相手方の主張が真実と認められることがあります。「答えたくないので出ない」という選択が、そのまま相手方の言い分を通す方向に働く可能性があるということです。

答えを用意して臨む場面ではありません


 尋問の前に、弁護士が想定問答の回答文を作って渡すという進め方は、通常はとられません。用意した答えに引きずられると、かえって不自然な受け答えになりやすいためです。

 準備として行うのは、聞かれる範囲の見当をつけること、そして記憶を整理して、覚えていることと覚えていないことの境目をはっきりさせておくことです。この準備は、弁護士がこちらの事情を正確に把握していることが前提になります。

食い違いは、その一点だけの問題では終わりにくい


 尋問では、相手方の代理人が、それまでに提出された書面や陳述書と突き合わせて質問を組み立てます。説明が途中で変わっていれば、その変化そのものが質問の対象になります。

 問題は、食い違いが指摘された部分だけの信用性が下がるわけではない点です。一点の不正確さが、正しく話している部分の説得力まで一緒に引き下げてしまうことがあります

節目その三 和解や示談は、後から事実が出ても動かないのが原則です


 和解や示談は、互いに譲り合って争いをやめることを約束する合意です。そして、いったん合意した事項については、後になって違う事実の証拠が出てきても、合意した内容のとおりに確定するという扱いがされます。争いを終わらせるための制度なので、そう作られています。

 多くの合意書には、記載したもの以外に互いに債権債務がないことを確認する条項も入ります。つまり、伝えていない事実を抱えたまままとめた合意は、後から出てきた分を上乗せで請求し直すことも、いったん決めた条件を引き下げることも難しい状態で固まります。

 例外が認められる場合もありますが、それを主張する側の負担は軽くありません。合意の直前は、最後に確認しておく時点としては最も価値の高い場面です。

相手方が、すでにその事実を持っていることがあります


 伝えていない事実が表に出るきっかけは、こちらの言い間違いだけではありません。相手方の手元にある記録、双方でやり取りしたメッセージやメール、双方を知る第三者、手続の中で提出される資料など、経路はいくつもあります。

 こちらが「知られていない」と考えている事実を、相手方はすでに把握したうえで、こちらがどう説明するかを見ていることもあります。その場合、事実そのものよりも、説明との食い違いのほうが大きな材料として使われます

弁護士に話すことと、相手方や裁判所に出すことは同じではありません


聞いた事実をそのまま全部主張するわけではありません


 ここは誤解されやすいところです。弁護士は、依頼者から聞いた事実をすべて書面に書いて相手方に出すわけではありません。争点との関係で意味のある事実を選び、どう位置づけるかを考えて主張を組み立てます。

 弁護士に伝えることと、相手方や裁判所に出すことは、別の判断です。だからこそ、まず弁護士には全部を伝えたうえで、外に出す範囲は一緒に決める、という順番が現実的です。

位置づけを選べるのは、早く知っている場合だけです


 不利に見える事実も、前後の事情と合わせると意味が変わることがあります。打ち消す材料を先に探しておくこともできますし、相手方から出される前にこちらから触れておくという選び方もあります。

 こうした選択ができるのは、事実を早い段階で把握している場合に限られます。隠されていた事実は、たいてい最も不利な形と最も不利なタイミングで出てきます

事実に反すると分かっている主張はできません


 弁護士は、虚偽と知りながら証拠を提出したり、事実に反すると分かっている主張を組み立てたりすることはできません。「うまく言っておいてほしい」という頼み方には応じられない、ということです。

 できるのは、実際にあった事実の範囲内で、最も無理のない位置づけを探すことです。その作業のためには、材料が正確であることが前提になります。

 なお、相談や依頼の内容が外部に伝わらないよう扱われる仕組みについては、守秘義務の範囲を説明した別の記事で詳しく取り上げています。あわせてご覧ください。

伝わっていなかったと分かったとき、弁護士の側にも動きが出ます


 まず起きるのは、方針の立て直しです。すでに出した書面がある場合は、その整合をどう説明するかも含めて考え直すことになります。

 さらに、聞き取った事実と実際が繰り返し食い違い、信頼関係を保つことが難しいと判断された場合には、辞任が検討されることもあります。その場合の費用の清算は、締結した委任契約の定めによります。

 ただし、一つ伝えていないことがあった、というだけで直ちに辞任になるわけではありません。実務上は、方針を修正して進めることのほうが多いといえます。伝えるのが遅れたこと自体を理由に、話しづらくなってしまうほうが影響は大きくなります。

今から伝えるときの伝え方


 言いそびれた事実に気づいたときは、次の五点を意識すると伝えやすくなります。

  1. 「言いにくいことがあります」と前置きしてから話す。順序立てて説明しようとして先延ばしになるより、切り出すことを優先する
  2. 確かなこと、あいまいなこと、言いにくいことの三つに分けて伝える。分けてあれば、弁護士の側で扱いを変えられる
  3. 「していない」と「覚えていない」を分ける。この二つは手続上まったく違う意味を持つので、あいまいなものはあいまいなまま伝える
  4. 思い出した時点で伝える。書面の提出前や期日の前であれば、組み替えられる幅が残っている
  5. 自分に有利な話をするときも、裏づけとなる記録があるかどうかを添える


今さら言い出しにくいと感じたとき


 「前にお伝えしたことと違うのですが」と切り出せば足ります。理由の説明や謝罪から始める必要はありません。弁護士の側で知りたいのは、経緯よりも、現時点で何が事実かという一点です。

 時間が経っているほど気まずさは増しますが、手続はその間も進んでいます。伝える時点が一日早いだけで、選べる手段が残っていることがあります。

よくある質問


不利な事実を話したら、引き受けてもらえなくなりませんか


 不利な事情があること自体は、依頼を受けるかどうかの判断で中心になる要素ではありません。むしろ、事情が正確に分かっているほうが、見通しと費用の説明もはっきりします。

 なお、事案の内容や事務所の状況によって依頼を受けられない場合はありますが、その判断は不利な事実の有無だけで決まるものではありません。

記憶があいまいなことは、話さないほうがよいですか


 あいまいなまま伝えて差し支えありません。「たしか三月ごろ」「金額は覚えていないが十万円は超えていなかったと思う」という形で構いません。

 避けたいのは、はっきりしないことを断定して伝えることと、聞かれたときに相手の質問に合わせて答えを寄せてしまうことです。あいまいさは、あいまいだという情報として意味を持ちます。

すでに出した書面と違うことを思い出しました


 その時点で伝えてください。訂正の方法は、書面の内容と手続の段階によって変わります。次の期日や次の書面の前であれば、対応の幅は広く残っています。

 自己判断で相手方に直接説明したり、記録を作り直したりする前に、まず担当の弁護士に相談することをおすすめします。

正直に話しても、不利な事実が消えるわけではありません


 最後に、期待の大きさを調整しておきます。すべて話したからといって、不利な事実がなくなるわけではありません。支払わなければならないものは残りますし、見通しが厳しいことも変わりません。

 正直に話すことの実務的な意味は、結果がよくなることではなく、残っている選択肢の中から選べるようになることです。前提が正しければ、弁護士は打てる手を比較して示せます。前提が違っていれば、その比較そのものが成り立ちません。

おわりに


 自分に不利な事実を口にするのは、誰にとっても気の重いことです。ただ、手続の中でその事実が出てくる時点は、こちら側である程度選ぶことができます。早い時点で出せば材料の一つになり、遅い時点で出れば争点になります。

 言いそびれていることがある、あるいは伝え方に迷っているという段階でも、相談の場でそのまま話していただいて構いません。事実を整理したうえで、どこまでを外に出すかを一緒に決めていくことができます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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