弁護士に相談を断られることはあるか|利益相反という仕組み
法律事務所のサイトで問い合わせフォームまでたどり着いたものの、「相談内容」の入力欄の前で手が止まってしまう。何をどこまで書けばよいのか、詳しく書いたほうがよいのか、短いと相手にされないのではないか。そう迷って、そのままページを閉じてしまう方は少なくありません。
返信が早く返ってくるかどうかは、文章のうまさで決まるわけではありません。事務所側が返事を書くために必要な情報が、最初の一通に揃っているかどうかで、その多くが決まります。この記事では、フォームの入力欄ごとに何を書けばよいか、送信の前後で何を確認しておくとよいかを整理します。
「返信が早い」は何で決まるのか
事務所は返信を書く前に4つのことを確認している
問い合わせフォームへの返信は、多くの場合、法的な結論を伝えるものではありません。「その相談を受けられるか」「いつ、どの方法で相談できるか」という返事です。事務所側は、この返事を書く前におおむね次の4点を確認しています。
| 確認していること | なぜ必要か | 書かれていないと |
|---|---|---|
| どの分野の、どちらの立場の話か | 取り扱っている分野かどうかを判断するため | 「どのようなご相談でしょうか」と聞き返すことになる |
| 相手方が誰か | 同じ件で相手方の相談をすでに受けていないかを確かめるため | 日程の調整に進めない |
| 希望する日程と相談の方法 | 来所・オンライン・電話のどれを希望するか、空いている枠と合うか | 候補日を尋ねるやり取りが増える |
| 期限のある書面や連絡があるか | 急ぐ案件かどうかで扱う順番が変わるため | 通常の順番で処理される |
往復が1回増えると、数日ずれる
この4点のどれかが欠けていると、最初の返信は「確認のための質問」になります。その質問に答え、さらに返事を待つ。これで往復が2回です。お互いにメールを見る時間帯がずれれば、それだけで数日が過ぎていきます。
逆に、最初の一通にこの4点が入っていれば、返信はいきなり日程の提案から始まります。返信の速さは、文章の完成度ではなく、往復の回数を減らせるかどうかの問題だと考えると、書くべきことが見えやすくなります。
なお、相手方の氏名を尋ねられることがあるのは、相談内容を審査するためではありません。同じ件について相手方から先に相談を受けている事務所は、その件を受けられない決まりになっているためです。これは弁護士の側の制約であって、相談者に不利益を与えるための確認ではありません。
返信に結論が書かれていないのは、不親切だからではない
「払う義務があるかどうかだけ知りたいのに、日程の案内しか返ってこなかった」と感じることがあります。これは、書かれた内容だけでは判断が固まらないためです。
同じ「お金を請求されている」という状況でも、契約書に何と書いてあるか、いつ何を伝えたか、相手が何を根拠にしているかによって、結論は変わります。前提を確認しないまま断定的な見通しを伝えると、かえって誤った期待を持たせることになりかねません。フォームの返信で結論が示されないことは、対応の丁寧さとは別の問題だと考えておくと、待ち方が変わります。
入力欄ごとに何を書くか
お名前
本名で差し支えありません。匿名やイニシャルのままでも送信できるフォームはありますが、その場合、相手方との照合ができないため、日程の調整まで進みにくくなります。
家族に知られたくない、勤務先に知られたくないといった事情がある場合は、名前を伏せるよりも、その事情自体を本文に一行書いておくほうが話が早く進みます。連絡の方法や書面の送り先は、事情に応じて調整できる余地があるためです。
メールアドレス・電話番号
連絡がつくものを記入します。あわせて、次の点を確認しておくと行き違いが減ります。
- 事務所からの電話は、知らない番号や非通知として着信することがある
- 携帯電話会社や端末の設定で、着信拒否や迷惑メール振り分けが働くことがある
- 家族や同居人と共用している端末・アドレスを使うかどうかは、事情に応じて選ぶ
そのうえで、連絡してよい時間帯と、電話とメールのどちらを希望するかを本文に書き添えます。「平日の昼休みと18時以降なら電話に出られます」「日中は出られないのでメールでお願いします」といった一行で足ります。
相談したい分野の選択欄
プルダウンやチェックボックスで分野を選ぶ欄があるフォームでは、分類に迷うことがあります。「離婚」なのか「男女間のトラブル」なのか、「刑事事件」なのか「その他」なのか。
厳密に選ぶ必要はありません。近いものを選んだうえで、本文の冒頭に一行で補えば足ります。分類上の読み替えは事務所側で行います。該当するものがなければ「その他」で構いません。
添付ファイルの欄
届いた書面の写真などを添付できるフォームもありますが、容量の上限で送信できないことがあります。枚数が多い場合は、まず本文で「書面が届いている」ことだけを伝え、送り方は返信を受けてから決めるほうが、行き違いが少なくなります。
相談内容の欄に書く5つの要素
本文欄は、次の順番で書くと、読む側が確認したい事項と並びが一致します。
| 順番 | 書くこと | 記入の例 |
|---|---|---|
| 1 | 何について困っているかを一行で | 取引先から損害賠償を請求されており、対応を相談したいと考えています |
| 2 | いつ、だれとの間で、何があったか | 昨年12月に納品した商品について、今年6月から不具合を指摘されています |
| 3 | 相手方の氏名や会社名 | 相手方は株式会社○○(担当者は△△氏)です |
| 4 | 期限のある書面や連絡の有無 | 7月20日までに回答するよう記載された書面が届いています |
| 5 | どうしたいか、聞きたいこと | 支払う義務があるのかを知りたいです。分割での解決も検討しています |
書き上がりの例
取引先から損害賠償を請求されており、対応を相談したいと考えています。昨年12月に納品した商品について、今年6月から不具合を指摘され、修理費用と営業損失として請求を受けています。相手方は株式会社○○です。7月20日までに回答するよう記載された書面が、7月上旬に届いています。支払う義務があるのかを知りたいほか、分割での解決が可能かも伺いたいです。平日18時以降であれば電話に出られます。来所・オンラインのどちらでも構いません。
この例で約230字です。目安としては200字から400字程度、長くても800字程度あれば足ります。詳しい経緯は相談の場で順番に聞き取ることになるため、最初の一通で書き尽くす必要はありません。短いことが失礼にあたるわけでもありません。
事実と、自分の評価は分けて書く
「詐欺に遭いました」「パワハラを受けています」といった言葉は、出来事そのものではなく、出来事についての評価です。評価を書いてはいけないということではありませんが、評価だけが書かれていると、何が起きたのかが分からず、確認の質問が増えます。
「○月○日に○○と言われ、○円を支払った」という事実を先に書き、「詐欺ではないかと考えています」という評価をそのあとに置く。この順番にするだけで、伝わり方が変わります。
相談の種類ごとに、一行足しておくとよいこと
分野によって、初期の段階で分かっていると見通しが立てやすい事項があります。該当するものがあれば、本文に一行加えておきます。
| 相談の種類 | 一行足しておくとよいこと |
|---|---|
| お金の請求を受けている・している | おおよその金額と、書面が届いているかどうか |
| 男女間のトラブル | 相手方に配偶者や交際相手がいるか、相手からの連絡が続いているか |
| 警察や捜査機関から連絡がある | 呼び出しの日時が決まっているか、身柄を拘束されている人がいるか |
| 取引先や顧客からの要求 | 相手が個人か法人か、営業や業務に支障が出ているか |
書きすぎなくてよいこと・書かないほうがよいこと
- 経緯のすべて。日付や細部があいまいでも、「あいまいである」と書けば足ります
- 登場人物全員の経歴や人柄。事件の筋に関わる範囲で足ります
- 第三者の秘密や、健康・信条に関わる情報の詳細。必要があれば相談の場で確認されます
- 口座番号、カード番号、各種サービスのIDやパスワード。最初の問い合わせで必要になる場面はまずありません
- 相手方への感情を長く書くこと。書きたい気持ちは自然なものですが、要点が埋もれてしまいます
自分に不利に見えることは、書かなくてよいのか
自分の側にも落ち度がある、途中で相手に譲歩する内容の返事をしてしまった、一部を支払ってしまった。こうした事情は書きにくいものですが、見通しを左右する事情であることが多く、隠したままにしておくとあとで方針の立て直しが必要になります。
もっとも、最初の一通で細かく説明する必要はありません。「支払いに応じてしまった経緯があります」「一度、書面で返事をしています」といった一行を入れておけば、相談の場で必要な範囲を確認してもらえます。
公開型のQ&Aサイトと、事務所のフォームは別のもの
誰でも閲覧できる掲示板型のQ&Aサイトに事情を書き込むと、内容によっては相手方が読める状態になります。事務所の問い合わせフォームは、その事務所に宛てて送られるものであり、性質が異なります。
同じ「書いて相談する」という形をしていても、誰が読める場所に書いているのかは確認しておくほうがよい点です。フォームの送信ページには、送信された情報の取扱いについての記載が置かれていることが多いので、送る前に目を通しておきます。
送信する前に確認する4点
- 本文をコピーして手元に残す。送信控えのメールが届かないフォームもあるため、何を書いたか分からなくなることを防げます
- 迷惑メールの振り分け設定と、着信拒否・非通知拒否の設定を確認する
- 添付ファイルを送る場合は、容量と形式の上限を確認する
- 送信された情報の取扱いについての記載に目を通す
送信した後に起きること
自動返信は「届いた」の合図
送信直後に届く自動返信は、送信が完了したことを知らせるものであって、内容への回答ではありません。逆に、自動返信が届かない場合は、アドレスの入力誤りや振り分け設定の可能性があるため、迷惑メールフォルダを確認しておきます。
最初の返信が質問から始まることもある
「相手方のお名前を教えてください」「ご希望の日程をいくつかお知らせください」という返信が来ることがあります。これは断られたわけではなく、日程を確定するために足りない情報を埋めている段階です。返信は早いほど、次の枠が押さえやすくなります。
返信の期限を定めた一般的な決まりはない
弁護士職務基本規程34条は、事件の依頼を受けたときに速やかに諾否を通知することを定めたものであり、問い合わせへの返信期限を定めた規定ではありません。返信までの時間は、事務所の規模や体制、時期によって幅があります。
何日待って返事がなければ見切ってよい、という一般的な目安があるわけではありません。数日たっても連絡がない場合は、送信履歴と迷惑メールフォルダを確認したうえで、電話をかけてみるか、別の事務所にも問い合わせるかを選ぶことになります。
急ぐときはフォームにこだわらない
期限が決まっている書面が届いている、呼び出しの日が迫っている、身柄を拘束されている人がいる。こうした場合は、フォームの返信を待つより、受付時間内に電話をかけるほうが早く進みます。フォームを送ったうえで電話をかけても差し支えありません。
複数の事務所に問い合わせても差し支えない
同時に複数の事務所へ問い合わせることに問題はありません。ただし、どの事務所にも同じ内容を送るようにします。事務所ごとに書く内容を変えると、返ってきた回答を比べたときに、違いが事務所の判断によるものなのか、書いた内容の差によるものなのかが分からなくなります。
一括で送れるフォームは、届き方が異なる
弁護士を探すためのポータルサイトには、条件に合う複数の事務所へまとめて送信できるフォームが用意されていることがあります。手間は省けますが、どの事務所に、どこまでの情報が届いたのかが手元で把握しにくくなるという面があります。
また、届いた側からは、こちらがどの事務所を候補と考えているのかが分かりません。すでに候補が絞れている場合は、事務所のサイトから個別に送るほうが、やり取りの見通しは立てやすくなります。
おわりに
問い合わせフォームは、やり直しがきくものです。書き足りなければ聞かれますし、書きすぎていても読み飛ばされるだけで、不利益になることはまずありません。
整えてから送ろうとして日が過ぎるより、分かっている範囲で送り、あいまいな部分は「あいまいである」と書いておく。返信が早く返ってくるかどうかを分けるのは、文章の完成度ではなく、相手が次の一手を決められるだけの材料が入っているかどうかです。困っていることを一行、いつ何があったかを数行、相手方が誰か、期限があるか、どうしたいか。この五つが並んでいれば、最初の一通としては十分です。


