受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるか
弁護士への法律相談は、1回30分と決められている場面が少なくありません。法テラスの無料法律相談は1回30分とされていますし、弁護士会や自治体の相談窓口も30分を基本にしているところが多く、法律事務所の初回相談も30分から1時間程度で区切られているのが一般的です。
30分と聞くと短く感じるかもしれません。ただ、時間が足りなくなってしまう相談には、いくつか共通した理由があります。話す順番が決まっていないこと、そして、聞きたいことが多すぎることです。この記事では、30分がどのように使われていくのかを時間の流れに沿って分解したうえで、聞きたいことを3つに絞るための具体的な手順を整理します。
30分は「短い時間」ではなく「使い道が決まっている時間」
相談の場で弁護士がしている3つの作業
相談を受けている弁護士は、限られた時間の中で、おおむね次の3つの作業を並行して進めています。
- 何が、いつ、どの順番で起きたのかという事実を固める
- その事実が、どの法律のどの枠組みに当てはまるかを判断する
- 期限の有無と、取りうる手段を確認する
このうち1番目は、相談者の話と持参された資料からしか組み立てられません。裏を返せば、1番目に時間がかかるほど、2番目と3番目に回せる時間が減っていきます。「30分をどう使うか」という問いは、実質的には「1番目をどれだけ短く済ませられるか」という問いに近いといえます。
30分の使われ方の目安
相談の内容によって幅はありますが、おおまかな流れは次のようになることが多いです。
| 時間の目安 | 主に進むこと | 相談する側の役割 |
|---|---|---|
| 最初の5分ほど | 何が起きているかの概要と、望んでいる結果 | 自分から話す |
| 5分〜20分ごろ | 弁護士からの確認の質問と、それへの回答 | 聞かれたことに答える |
| 20分〜27分ごろ | 法的な見立てと、取りうる手段の説明 | 質問する |
| 終わりの3分ほど | 次にすること、期限、費用の確認 | 書き留める |
この表で目を引きやすいのは、真ん中の10分から15分ほどが「弁護士からの質問に答える時間」になっている点ではないかと思います。
前半の主導権は弁護士の側にあることが多い
相談の準備というと、「話したいことを漏らさず話し切るための準備」と受け取られがちです。しかし実際の30分では、前半のかなりの部分が、弁護士からの確認の質問で埋まります。日付、金額、誰との間の話か、書面は残っているか、といった事実の確認です。
そのため、準備としてより効果があるのは、話す内容を増やすことではなく、聞かれたことに短く正確に答えられる状態を作ることです。用意しておくとよいのは、長い説明の文章ではなく、日付と出来事が並んだ1枚のメモと、届いている書面そのものです。
時間が足りなくなるのは、多くの場合3つのパターンのどれか
1.出来事のいちばん最初から順番に話し始める
相手との出会いや取引の始まりから時間順に話し始めると、肝心の食い違いが生じた場面にたどり着く前に、時間が過ぎてしまうことがあります。
順番としては、先に「今いちばん困っていること」を話し、そこに至る経緯はあとから補うほうが噛み合いやすくなります。弁護士は必要だと判断した時点で「そこはいつの話ですか」と遡って聞きますので、背景を先に説明し尽くしておく必要はありません。
2.事実と、評価や気持ちが混ざる
「とてもひどい態度だった」という説明と、「4月10日の電話で、期限までに払わなければ勤務先に連絡すると言われた」という説明では、後者のほうが短く、かつ法的な判断につながります。
気持ちを話してはいけない、ということではありません。順番の問題です。まず起きたことを事実として置き、そのうえで「これがつらかった」と続けるほうが、限られた時間の中では伝わりやすくなります。
3.聞きたいことが多すぎて、全部が浅くなる
相談前に疑問を書き出しておくこと自体は有効です。ただ、書き出した10個も20個も全部を順に尋ねると、1問あたり1分程度しか使えず、どの答えも「場合によります」で終わってしまいがちです。
絞る作業を相談の場でやろうとすると、その場で迷って時間を使います。絞るのは相談の前です。
質問を3つに絞る技術
なぜ「3つ」なのか
3つという数に法的な根拠があるわけではありません。ただ、実際の相談では扱いやすい数です。理由は次の3点です。
- メモを見なくても覚えていられる数である
- 3つに絞る過程で、自分がいちばん知りたいことがはっきりする
- 1問に数分ずつ使っても、説明を聞く時間と、次にすることを確認する時間が残る
手順1 まず、思いつくままに全部書き出す
いきなり3つに絞ろうとすると、かえって手が止まります。最初の段階では絞らず、頭に浮かんだ疑問をそのまま書き出してください。10個でも20個でも構いません。
この段階では、重複していても、法律の問題かどうか分からないものが混じっていても差し支えありません。「これは弁護士に聞くことではないかもしれない」という判断こそ、絞る作業の中で自然に片づいていきます。
手順2 書き出した質問を4つの型に仕分ける
書き出した質問は、おおむね次の4つの型に分かれます。
| 型 | 質問の言い方の例 | 30分で扱いやすいか |
|---|---|---|
| A 判定を求める質問 | これは法律上、問題のある行為に当たりますか | 扱いやすい |
| B 見通しを求める質問 | このまま進むと、どのような展開が考えられますか | 条件つきで扱える |
| C 手順を求める質問 | 次に何を、どの順番ですればよいですか | 扱いやすい |
| D 評価や同意を求める質問 | 相手のやり方は、おかしいと思いませんか | 答えが出にくい |
Dの型は、相談したくなる気持ちとしては自然なものです。ただ、弁護士が答えられるのは「法律上どのように評価されるか」までで、道義的な当否についての同意を求められても、答えにくいことが多くなります。Dに分類された質問は、AかCの言い方に置き換えられないかを考えてみてください。
手順3 A・B・Cから1つずつ選ぶ
基本の形は、A・B・Cから1つずつ選ぶことです。判定・見通し・手順が1つずつそろうと、相談が終わったときに「自分の立場」「この先の展開」「明日からすること」の3点が手元に残ります。
そのうえで、状況によっては配分を変えたほうがよい場合があります。
- 自分の立場が法律上どうなるのかを、まず知りたい場合は、Aを軸にする
- 裁判所からの書面や、回答期限の書かれた通知が届いている場合は、Cを軸にする
- 依頼するかどうかを決めたい場合は、BとCを厚くする
手順4 選ばなかった質問は、紙に書いて渡す
3つに絞るというのは、残りを捨てるということではありません。選ばなかった質問は一覧にして印刷し、相談の冒頭で「これは今日でなくても構いませんが、気になっている点です」と添えて渡しておく方法があります。
説明の流れの中でまとめて触れてもらえることもありますし、2回目の相談や、依頼したあとのやり取りでそのまま使えます。手元に残しておくと、聞き忘れたという後悔も残りにくくなります。
質問は「聞き方」を変えるだけで答えが受け取りやすくなる
同じことを知りたい場合でも、尋ね方によって、返ってくる答えの具体性が変わります。
| 絞る前の言い方 | 答えを受け取りやすい言い方 |
|---|---|
| どうすればいいですか | 今週中に私がしておくべきことは何ですか |
| 勝てますか | 争いになった場合、どこが争点になりそうですか |
| いくらもらえますか | 金額を左右する事情として、何が重視されますか |
| 相手は捕まりますか | 警察に相談する場合、何を持って行けばよいですか |
右側の言い方は、いずれも「弁護士が今持っている情報で答えられる形」に寄せてあります。範囲を狭めたぶん、返ってくる答えも具体的になりやすくなります。
30分では答えが出にくい質問もある
準備をしても、その場では答えが出にくい種類の質問があります。あらかじめ知っておくと、時間の使い方を組み立てやすくなります。
- 資料を精査しないと判断できないもの(契約書の全条項、長期間の取引履歴、大量のやり取りの記録など)
- 相手の出方や、今後集まる証拠によって変わるもの
- 結果の金額を一つの数字で断定するもの
- 他の弁護士や他の窓口の対応についての評価
- 「絶対にこうなる」という結果の保証
初回の相談で結論が出ないことが、そのまま不誠実さの表れとは限りません。むしろ、資料をほとんど見ないまま断定的な見通しが示された場合には、その根拠を確認しておいたほうがよいでしょう。
なお、弁護士職務基本規程29条1項は、弁護士が事件を受任するにあたり、依頼者から得た情報に基づいて、事件の見通し、処理の方法、弁護士報酬および費用について適切な説明をしなければならないと定めています。相談の段階で、依頼を検討するために見通しや費用の説明を求めることは、遠慮のいる行為ではありません。
冒頭の1分で伝える3つの文
30分の入り方は、最初の1分で決まります。次の3つを、あらかじめ言葉にしておいてください。
- 何が起きているかを一文で
- 今いちばん困っていること、または迫っている期限を一文で
- 今日聞きたいことは3つある、と先に伝える
たとえば、次のような言い方です。
「取引先から工事代金の追加請求を受けていて、来週金曜日が回答の期限です。まず支払う義務があるのかを知りたくて、今日は3つ伺いたいことがあります」
3つあると先に伝えておくと、弁護士の側も時間配分を組み立てやすくなります。残り時間が少なくなってきたときに、説明の粒度を調整することもできます。
なお、経緯を時間順に並べた1枚のメモを持参すると、前半の事実確認が短くなります。書き方は別の記事で扱っています。
30分で終わりそうにないと分かったとき
その場で延長できる窓口もある
相談時間を15分単位などで延長できる窓口があり、その場合は追加の相談料が発生することが一般的です。はじめから60分の枠を選べる窓口もあります。
当日に迷わないよう、予約の時点で「延長できるか」「延長した場合の料金はいくらか」を確認しておくとよいでしょう。
回数で分けるという考え方
法テラスの無料法律相談は1回30分で、同一の問題について3回まで利用できるとされています。ただし、3回分をまとめて90分にすることはできないとされています。収入と資産についての利用条件があるため、誰でも使えるわけではありません。
回数を使える場合は、1回で全部を終えようとせず、回ごとに目的を変える設計が考えられます。
- 1回目 自分の立場の判定と、期限の確認
- 2回目 資料を見てもらい、事実関係の詰め
- 3回目 取りうる手段の中から方針を決める
法テラスでは、回数の範囲内であれば2回目以降に別の弁護士に相談することもできるとされています。なお、刑事事件に関する相談は対象外とされていますので、この点は確認が必要です。
自治体の相談窓口を使う場合の注意
自治体が実施している法律相談は、1回30分以内、同一内容の相談は同一年度内に1回まで、といった条件が設けられている例があります。録音を禁じている窓口や、係争中の案件を受け付けていない窓口もあります。
条件は自治体ごとに異なりますので、予約の際に確認してください。回数が限られている窓口ほど、質問を絞っておく効果は大きくなります。
終わりの3分で確認したい3つ
時間が来る前に、次の3点は確認しておきたいところです。
- 次に自分がすること(誰が、いつまでに、何を)
- 当面してはいけないこと(署名、支払い、返信、記録の削除など)
- 期限(いつまでに何が起きるか、何をしないとどうなるか)
あわせて、「今日決まったこと」と「今日は決まらなかったこと」を口に出して確認しておくと、持ち帰ったあとに整理しやすくなります。相談の直後は分かったつもりでいても、数日経つと曖昧になりやすいためです。
メモは自分で取ることをおすすめします。録音したい場合は、事前に許可を求めてください。窓口によっては録音を認めていない場合があります。
電話・オンラインの相談では、少し勝手が変わる
対面と違い、資料をその場で広げて見せることができません。次の点を意識しておくと、時間のロスが減ります。
- 資料を事前に送れるかどうかを、予約の時点で確認する(送れる場合、前半が大きく短縮されます)
- 手元の資料には番号を振っておき、「資料3の2枚目です」と口頭で指せるようにする
- 通信が途切れた場合の連絡方法を、最初に決めておく
- 静かで、書き取れる環境を確保する
おわりに
30分は、起きたことをすべて話し尽くすには足りない時間です。ただ、その日に決めたいことを1つか2つに絞るのであれば、足りないとは限りません。
質問を3つに絞る作業は、相談の準備であると同時に、自分が何を望んでいるのかを整理する作業でもあります。書き出して、仕分けて、選ぶ。この過程で「自分はまず何を知りたかったのか」がはっきりすることは、少なくありません。
もっとも、絞りきれないまま相談に行っても差し支えありません。裁判所からの書類が届いている、回答の期限が迫っている、相手からの連絡が続いているといった場合は、準備よりも先に連絡してください。整えることより、間に合わせることが優先される場面もあります。


