法律事務所への最初の問い合わせ|電話・メール・フォームの使い分け
弁護士に依頼したあとで、弁護士の側から「この事件は辞任させていただきます」と伝えられることがあります。数として多いものではありませんが、実務では起こり得ることで、その多くは何の前触れもなく突然に起きるというより、それまでのやり取りの積み重ねの先に出てきます。
辞任を告げられた側にとって困るのは、辞任そのものよりも、そのあとに生まれる代理人がいない期間です。裁判の期日や書面の提出期限、時効や申立ての期限は、弁護士がいなくなったからといって待ってはくれません。
この記事では、辞任がどのような場面で起きるのか、辞任と解任はどう違うのか、そして辞任を伝えられたあとに何をどの順番で確認すればよいのかを整理します。
「辞任」と「解任」は何が違うのか
弁護士との契約が途中で終わるとき、その呼び方は「どちらが終わらせたか」で変わります。弁護士の側から契約を終わらせるのが辞任、依頼者の側から終わらせるのが解任です。どちらも、委任契約が途中で終わるという点では同じ性質のものです。
| 終わり方 | 終わらせる側 | きっかけとして挙げられることが多いもの |
|---|---|---|
| 辞任 | 弁護士 | 連絡が取れない、費用や実費の未払い、信頼関係が保てない |
| 解任 | 依頼者 | 方針が合わない、対応や進み方に納得できない |
| 事件の終了 | 双方 | 判決・和解・示談などで、委任した事務が終わった |
辞任は懲戒処分ではない
辞任は、弁護士が委任契約を終わらせるという行為です。弁護士が何らかの処分を受けたことを意味するものではありませんし、依頼者の側に落ち度があったと公的に判断されたわけでもありません。裁判所に辞任届が出されたり、相手方に辞任通知が届いたりするのは、代理人ではなくなったことを手続の上ではっきりさせるための事務です。
弁護士の側から辞任できるのはなぜか
民法は、委任契約について、当事者のどちらからでもいつでも解除できるという考え方をとっています。依頼者がいつでも解任できるのと同じ理由で、弁護士の側からも辞任ができる仕組みになっています。
弁護士は、依頼者の代わりに判断し、依頼者の名前で書面を出し、相手方や裁判所に対して意思を示す立場にあります。その前提として、事実を正しく把握できていること、依頼者と連絡が取れること、方針について意思確認ができることが欠かせません。この前提が失われた状態のまま代理人であり続けることは、依頼者にとっても望ましい結果につながりにくいと考えられています。
辞任が求められる場面もある
弁護士の職務上のルールでは、受任した事件について依頼者との信頼関係が失われ、かつその回復が難しいときは、その旨を説明したうえで、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとることとされています。
つまり辞任は、途中で投げ出す行為とは限りません。その状態で代理人を続けることのほうが依頼者の不利益になり得るという判断から、ルール上求められる措置として出てくる場合もあります。
辞任の理由として挙げられることが多いもの
実際に説明される辞任の理由は、大きく三つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 区分 | 挙げられることが多い事情 |
|---|---|
| 依頼者側の事情 | 長期間連絡が取れない/費用や実費が支払われない/必要な資料が出てこない |
| 双方の関係から生じる事情 | 方針が折り合わない/説明と異なる事実があとから判明した/求められた対応を職務上引き受けられない |
| 弁護士側の事情 | 病気やけが/あとから利益相反が判明した/懲戒処分による業務停止 |
連絡が取れない状態が続いたとき
交渉でも裁判でも、相手方から提示があれば、受けるか受けないかを決めるのは依頼者です。連絡が取れない期間が長くなると、弁護士は返事のしようがなく、期限だけが過ぎていくことになります。引っ越しや携帯電話の変更、着信拒否の設定などが原因で、本人が気づかないまま連絡が途切れていることもあります。
費用や実費が支払われていないとき
弁護士は、印紙代や郵便料、記録の取り寄せ費用などを立て替えて手続を進めることがあります。取り決めた費用や立替金が支払われない状態が続くと、次の手続に進めない場面が出てきます。支払いが難しくなったこと自体よりも、連絡がないまま滞ることのほうが、辞任の話につながりやすいといえます。
方針が折り合わないとき
どこまで請求するか、和解に応じるか、判決まで進むか。こうした判断は依頼者が決めるものですが、弁護士は法律上の見通しを踏まえて助言をします。見通しと希望が離れたままで、どちらの立場でも進められない状態になったときには、方針の不一致を理由に辞任が検討されることがあります。
あとから利益相反が判明したとき
同じ弁護士が、対立し得る複数の人から依頼を受けている場合や、以前に相手方から相談を受けていたことがあとから分かる場合があります。こうした事情が判明したときは、依頼者に事情を告げて辞任その他の適切な措置をとることとされています。この場合の辞任は、依頼者の対応とは無関係に生じるものです。
「このままでは続けられない」と言われた段階でできること
辞任は、いきなり通知だけが届くとは限りません。多くの場面では、その前に理由の説明があります。この段階は、状況をやり直せる可能性が最も残っているところです。
- どの点が続けられない理由になっているのかを、具体的に確認する
- いつまでに何をすれば状況が変わるのかを聞く
- 入院や転居、収入の変化など一時的な事情があるなら、その事情を伝える
- 費用の支払いが難しいなら、時期や分け方を含めて相談する
- 話した内容は、メールなど後から見返せる形にしておく
ここで黙ってしまうと、弁護士の側からは「連絡が取れない」という状態にしか見えません。反論であっても、事情の説明であっても、返事があること自体が状況を動かす材料になります。
辞任はどのように伝えられるか
辞任は、依頼者への辞任通知や委任契約の終了の連絡という形で伝えられます。交渉中の事件では相手方に辞任の通知が送られ、裁判が進行している事件では裁判所に辞任届が提出されます。代理人ではなくなったことは、相手方に伝わって初めて手続の上での効力を持つとされているため、この事務が併せて行われます。
裁判が進行中でも手続は止まらない
裁判の途中で辞任があった場合に、手続がそこで自動的に止まるわけではありません。訴訟手続が中断する事由は法律で決まっており、代理人がいなくなったことはそこに挙げられていないためです。次の期日はそのまま開かれるのが原則で、答弁書や準備書面の提出期限も動きません。
実務上は、事情を伝えれば、新しい代理人を探すための時間を考えて期日が指定されることもあります。ただし、それは裁判所の判断によるもので、当然に止まるものではないという点は押さえておく必要があります。
交渉中や債務整理中は、連絡が本人に戻る
弁護士が窓口になっている間は、貸金業者などが本人に直接支払いを求めることが法律で制限されます。ただしこれは、弁護士が委任を受けていることを前提にした仕組みです。委任が終われば制限も外れ、連絡や請求は本人に戻ります。相手が個人や一般の会社である場合は、もともとこうした法律上の制限はなく、代理人がいなくなれば直接のやり取りが再開します。
辞任を告げられたあと、最初に確認する五つのこと
- 次の期日と、書面や資料の提出期限
- 預けた書類・データ・預り金の返還の段取り
- 相手方や裁判所にどのように伝わっているか(辞任通知や辞任届が出ているか)
- これまでの費用をどう精算するか
- 時効や申立ての期限が近づいていないか
このうち期限に関するものは、他の話がまとまっていなくても先に確認しておきたい部分です。費用の話し合いが続いている間にも、期日や期限は進みます。
費用はどうなるのか
途中で委任が終わった場合の費用は、「返るか返らないか」の二択ではなく、どこまで進んだ分の対価として精算するかという形で考えるのが一般的です。弁護士の側の事情による終了か、依頼者の側の事情による終了か、どの段階まで手続が進んでいたかによって、扱いが変わり得ます。
委任契約書には、契約が途中で終わった場合の清算方法を定めておくこととされています。まずは手元の契約書のその部分を確認し、精算の考え方について書面で説明を求めるとよいでしょう。預り金や使われなかった実費は報酬とは性質が違うものとして扱われ、委任の終了にあたって清算のうえ返還されることになっています。
説明を受けても折り合わないときは、所属する弁護士会が行っている紛議調停という手続を利用できます。費用の清算の詳しい考え方については、別の記事で扱っています。
代理人がいない期間をどう乗り切るか
新しい弁護士がすぐに見つかるとは限りません。裁判が進行している場合、その間も当事者は自分自身です。次の点は、代理人がいない状態でも本人が行えます。
- 裁判所の担当書記官に連絡し、代理人を探している状況であることを伝える
- 期日に都合がつかない場合は、期日変更の上申を行う
- 指定された期日には本人が出席する
- 答弁書や準備書面など、期限が来ている書面は、内容が十分でなくても提出しておく
- 相手方から届いた書面や連絡は、返事をする前に保管しておく
特に、訴えを起こされた側で答弁書を出さないまま期日にも出席しない状態が続くと、相手の主張がそのまま通る扱いになることがあります。書面が間に合わないときほど、裁判所への連絡が意味を持ちます。
次の弁護士に依頼するときに伝えること
辞任された経緯は、隠さずに最初に伝えたほうが、受けるかどうかの判断も、そのあとの進め方も早くなります。
- 前の弁護士に辞任されたこと自体を、相談の冒頭で伝える
- 辞任の理由として説明された内容
- これまでに提出した書面と、受け取っている書類
- 次の期日や提出期限
- 費用の精算がどこまで済んでいるか
同じ事務所の別の弁護士に頼めるか
辞任は事務所として判断されていることが多く、同じ事務所の他の弁護士が引き継ぐ形にはならないのが通常です。ただし、担当していた弁護士の病気など個別の事情による場合には、同じ事務所の別の弁護士が引き継ぐ提案がされることもあります。
引き継ぎは自動では行われない
前の弁護士から次の弁護士へ、記録が自動的に渡る仕組みはありません。手元に返してもらった書類を、そのまま次の相談に持ち込む形になります。裁判が進行している事件では、裁判所に提出済みの書面を本人が閲覧や複写によって取得できる場合もあります。
刑事事件の場合
私選の弁護人については、民事の事件と同じように辞任が生じ得ます。一方、国選の弁護人は、弁護人の意思だけで辞めることができる仕組みにはなっておらず、裁判所や裁判官が解任するという手続がとられます。弁護士法にも、正当な理由がなければ官公署から委嘱された事項を辞することができないという定めがあります。
国選と私選の切り替えについては、別の記事で詳しく扱っています。
弁護士側の事情による辞任
依頼者の対応とは関係のないところで、辞任に至る場合もあります。
病気やけが、事務所の事情による場合
担当していた弁護士が長期の療養に入るような場合、事件を続けられなくなることがあります。この場合は、同じ事務所の別の弁護士が引き継げるか、別の事務所を紹介できるかを含めて説明を受けることになります。
懲戒処分による業務停止の場合
業務停止の処分を受けると、その期間中は弁護士としての職務を行えないため、受任している事件については、原則として委任契約を解除し、裁判所などに辞任の手続をとることとされています。
ただし、停止の期間が一か月以内で、依頼者が契約の継続を希望して所定の書面を出す場合には、契約を続けられる扱いがあります。これは依頼者の側から希望する場合の仕組みで、弁護士の側から継続を働きかけた場合は対象になりません。また、処分を受けたのが弁護士法人である場合には、所属していた弁護士が個人として事件を引き継ぐことが認められる場合もあります。
このため、まずは委任契約の相手が個人の弁護士なのか弁護士法人なのかを、契約書で確認しておくと話が進めやすくなります。
辞任に至りにくくするためにできること
辞任の理由の多くは、依頼中のやり取りの積み重ねから生じます。裏返すと、日常のやり取りで対応できる部分も少なくありません。
- 連絡先や住所が変わったら、早めに伝える
- 弁護士からの質問や資料の依頼には、分かる範囲でも早めに返す
- 費用の支払いが難しくなりそうなときは、滞る前に相談する
- 自分に不利に見える事実こそ、早い段階で伝える
- 方針に納得できないときは、黙って進めずにその場で質問する
よくある質問
辞任されたことは、次の依頼で不利に扱われますか
辞任された事実そのものが、次の弁護士に断られる理由になるとは限りません。二人目の弁護士が知りたいのは、辞任に至った経緯と、これから同じことが起きない見通しがあるかという点です。理由を整理して伝えることが、そのまま説明になります。
辞任の理由を教えてもらえないことはありますか
依頼者本人に対しては、理由の説明があるのが通常です。ただし、利益相反のように第三者との関係が絡む場合には、詳しい事情までは説明できないことがあります。この場合でも、辞任の時期と、預り品や費用の精算の段取りは確認できます。
辞任の内容や進め方に納得できないときは
まずは書面で説明を求めるのが出発点になります。それでも折り合わないときは、所属する弁護士会の紛議調停を利用する方法があります。懲戒の申立てとは目的が異なる手続で、費用や事件処理をめぐる話し合いの場として設けられているものです。
おわりに
辞任は、依頼した側から見れば予定していなかった出来事ですが、事件そのものが終わったわけではありません。動いているのは、期日や提出期限、時効といった手続の時計のほうです。
辞任を告げられたときは、理由に納得できるかどうかの判断と並行して、次の期限がいつなのかをまず確認しておくことをおすすめします。そのうえで、預けた書類を受け取り、費用の精算の考え方を書面で確認し、経緯を整理して次の相談に持ち込む。この順番で動けば、代理人がいない期間を短くしやすくなります。
当事務所では、他の事務所に依頼していた事件についてのご相談もお受けしています。期日が迫っている場合は、その日程を最初にお伝えください。


