相手に弁護士がついた|自分も弁護士を立てるべきかの判断

若井亮

若井亮

テーマ:一般

これまで本人同士でやり取りしていた相手から、ある日を境に弁護士名義の書面が届く。差出人が代理人に変わったというだけで、急に立場が悪くなったように感じる方は少なくありません。

 インターネットで調べると「相手に弁護士がついたなら、こちらも弁護士を立てるべきだ」と書かれた記事が多く見つかります。ただ、その結論が自分の事案にも当てはまるかどうかは、別に検討する必要があります。

 この記事では、相手に代理人がついたことで実際に何が変わり、何は変わらないのかを整理したうえで、自分も弁護士を立てるかどうかをどう判断すればよいかを、分野を問わない形でご説明します。

「相手が弁護士を立てた」だけでは、結論は決まりません


代理人を立てるかどうかは、それぞれが自分で決めること


 弁護士に依頼するかどうかは各当事者が自由に決められることで、相手が立てたからこちらも立てなければならない、という決まりはありません。訴訟になった場合でも、当事者本人が自分で手続を進めること自体は制度上認められています。民事訴訟法54条1項は、代理人を立てる場合に誰を代理人にできるかを定めた規定であって、代理人を立てること自体を義務づけるものではありません。

 したがって、最初に考えるべきは「相手が弁護士を立てたから」ではなく、「自分の事案の性質からみて、代理人が必要か」という問いのほうです。

相手が弁護士を立てた理由は、攻撃のためとは限りません


 相手が代理人を立てる動機はさまざまです。実務上、次のような理由で依頼されることもあります。

  • 本人同士の直接のやり取りが続くこと自体を避けたい
  • 主張したい内容を法律の枠に整理してから進めたい
  • 期限や書式が決まっている手続を控えている
  • 自分でやり取りする時間が取れない


 「相手が本気で潰しにきた」と受け取る前に、届いた書面に何が書かれているかを落ち着いて読むことをおすすめします。書面の目的が請求なのか、事実確認なのか、手続の告知なのかによって、こちらに求められる対応は変わります。

「相談するか」と「依頼するか」は別の判断です


 弁護士に相談することと、代理人として依頼することは別の段階です。相談したからといって依頼しなければならないわけではありませんし、相談の結果として「この件は本人のまま進めて差し支えない」という助言になることもあります。この点は別の記事で詳しくご説明していますので、ここでは「立てる/立てない」の二択ではないという点だけ押さえておいてください。

相手に弁護士がついて、実際に変わること


 まず、相手に代理人がついたことで実際に変化する部分を整理します。

変わる点具体的にどうなるか
連絡の宛先以後のやり取りは代理人宛が基本になります。相手本人に連絡しても応答が代理人経由になることが一般的です
進み方口頭中心のやり取りから、書面と期限のあるやり取りに変わることが多くなります
使える調査手段弁護士会照会という制度が使えるようになります(弁護士法23条の2)
手続への移行交渉が行き詰まったときに、調停や訴訟へ移す判断が早くなることがあります
記録の扱われ方こちらの発言や返信が、後の主張の材料として整理・保管される前提になります


弁護士会照会でできること、できないこと


 弁護士法23条の2は、弁護士が受任している事件について、所属弁護士会を通じて公務所や公私の団体に必要な事項の報告を求める制度です。本人が直接使える制度ではなく、依頼を受けた弁護士でなければ利用できません。この点は、相手に弁護士がついたことで実際に増える数少ない手段のひとつです。

 もっとも、この制度で何でも調べられるわけではありません。最高裁判所は平成28年10月18日の判決で、照会を受けた側は正当な理由がない限り報告をすべきものと解されるとしつつ、報告を拒絶する行為が照会をした弁護士会に対する不法行為を構成することはないと判断しています。さらに平成30年12月21日の判決では、報告拒絶に制裁の定めがないことなどから、弁護士会は相手方の任意の履行を期待するほかない旨が述べられています。

 つまり、照会先が正当な理由があると判断すれば回答されないこともあり、回答を強制する仕組みは用意されていません。「弁護士がついた以上、こちらの情報はすべて筒抜けになる」という前提で不安を膨らませる必要はありません。

相手に弁護士がついても、変わらないこと


代理人は、本人ができること以上のことはできません


 弁護士は依頼者の代理人という立場で行動します。弁護士会照会のような一部の制度を除けば、代理人がついたことによって相手の権利や請求できる範囲そのものが広がるわけではありません。もともと請求できない金銭が、代理人が立ったことで請求できるようになる、ということは起こりません。

事実関係と、法律上の結論そのものは動きません


 支払義務があるかどうか、あるとしていくらかは、法律の要件と証拠によって決まります。相手方に代理人がついたからといって、その要件や証拠の中身が変わるわけではありません。交渉の進め方や主張の組み立て方が変わることはありますが、それは結論そのものとは別の話です。

相手方弁護士の主張は、裁判所の判断ではありません


 書面には「法律上こうなっています」「実務ではこの主張は認められません」といった記載が入ることがあります。それらは相手方の立場からの主張であって、裁判所が示した判断ではありません。争いのある論点について、当然に確定した結論であるかのように書かれている場合もあるため、そのまま受け入れる前に確認する余地があります。

応じる義務や期限が新たに生じるわけではありません


 書面に記載された回答期限の多くは、相手方が自分の都合で設定したものです。その日を過ぎたことだけで直ちに不利益が確定するわけではありません。ただし、これは放置してよいという意味ではありません。期限を過ぎれば相手方が調停や訴訟を検討する材料にはなりますし、裁判所から送られてくる書面の期限は性質がまったく異なります。届いた書面の差出人が誰かは、必ず確認してください。

不利を生みやすいのは「弁護士がついたこと」ではなく、その後の一手


 実際にご相談を受けていると、状況を難しくしているのは代理人がついた事実そのものではなく、その直後の対応であることが多くあります。

  • 電話や面談でその場で回答してしまった
  • 感情的な返信を長文で送ってしまった
  • 内容を確認しないまま書面に署名・押印してしまった
  • とりあえず一部だけ支払ってしまった(債務を承認したと評価されることがあります)
  • 一切の連絡を絶ち、手続だけが先に進んでしまった


 いずれも、後から取り消すことが難しい行為です。届いた書面への具体的な対応方法や、回答書で書くと不利に働きやすい内容については、別の記事で扱っています。

自分も弁護士を立てたほうがよい場面


 次のような要素がある場合には、代理人を立てることを検討する実益が大きくなります。

  1. 提示された金額や条件が妥当かどうかを、自分では検証できない
  2. 署名・押印、支払い、取下げ、明渡しなど、後戻りしにくい行為を求められている
  3. すでに訴状や調停の呼出状など、裁判所からの書面が届いている
  4. 事実関係に争いがあり、どの証拠をどう集めるかが結論を左右する
  5. 相手と直接やり取りすること自体に、精神的な負担や身の危険を感じる
  6. 刑事の要素が混ざっている、あるいは今後混ざる可能性がある
  7. 相手が法人や複数人で、こちらだけが個人で対応している


 特に3番目は時間の制約が大きい類型です。裁判所からの書面には手続上の期限が設定されており、これは相手方が任意に定めた期限とは意味が異なります。

本人のまま進めることも選べる場面


 一方で、次の条件がそろっている場合には、本人のまま進めるという選択も現実的です。

  • 事実関係にほとんど争いがない
  • 請求されている内容が明確で、自分でも妥当性を検証できる
  • 期限が差し迫っておらず、考える時間がある
  • 相手方代理人とのやり取り自体に支障がない
  • 支払うにせよ断るにせよ、結論の見通しが自分の中でついている


「依頼はしないが、相談だけはする」という中間の選び方


 本人で進められそうな事案であっても、一度も専門家の目を通さないまま最後まで行くことはおすすめしません。自分では問題ないと考えていた点が法律上は別の評価になることや、本人が重要だと思っていなかった事実が結論を左右することがあるためです。

 相談のタイミングは、やり取りが始まった段階でも、和解や合意が成立する直前に内容の当否を確認する段階でも構いません。相談を受けた弁護士は、その事案が依頼を要するものかどうかについても助言できることが通常です。

自分が弁護士を立てると、具体的に何が変わるか


相手方弁護士から直接連絡が来にくくなります


 弁護士職務基本規程52条は、相手方に法令上資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なくその代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならないと定めています。

 ここには非対称があります。こちらが本人のままである限り、相手方弁護士がこちらに直接連絡すること自体は、この規程の制限にかかりません。こちらが代理人を立てて初めて、直接のやり取りが制限される関係になります。直接連絡が来ること自体に負担を感じている場合、この点は実際的な意味を持ちます。

 なお、この規程は弁護士を拘束する規範であり、相手方本人を拘束するものではありません。相手本人が直接連絡してくる場面には、別の対応が必要になります。

手続の代理を任せられます


 民事訴訟では、法令により裁判上の行為をすることができる代理人を除き、弁護士でなければ訴訟代理人になれないのが原則です(民事訴訟法54条1項本文)。ただし簡易裁判所では、裁判所の許可を得て弁護士以外の者を訴訟代理人とすることができます(同項ただし書)。家事調停や家事審判についても、同様の構造が家事事件手続法22条1項に置かれています。

 このほか、認定を受けた司法書士は、訴訟の目的となる物の価額が140万円以下の簡易裁判所の民事事件などについて、簡裁訴訟代理等関係業務を扱うことができます。誰にどこまで任せられるかは、手続の種類と金額によって変わります。

立てても変わらないこと


  • 法律上の結論そのもの(弁護士がついても、要件を満たさない請求が通るわけではありません)
  • 相手が合意するかどうか(交渉である以上、相手の同意がなければ成立しません)
  • 解決までの期間(書面のやり取りが増え、かえって時間がかかることもあります)
  • 費用と回収額の関係(得られる見込額より費用が上回る事案もあります)


費用の見当をつける順序


  1. 加入している保険に弁護士費用特約が付いていないかを確認する(自動車保険のほか、火災保険や傷害保険に付帯していることがあります。対象となるトラブルの範囲や上限額は約款により異なります)
  2. 収入等が一定額以下の場合は、法テラスの民事法律扶助が使えるかを確認する
  3. 最初の相談の場で、想定される費用と、費用倒れになる可能性の有無を率直に聞く


 弁護士費用の名目や算定の考え方については、別の記事で整理しています。

連絡が来てから当面やっておきたいこと


  • 書面を受け取った日と、記載された期限を控える
  • 電話や面談でその場で回答せず、いったん持ち帰る
  • 届いた書面、封筒、メールやメッセージを削除せずに保存する
  • 相手本人への直接連絡は控える(相手方に代理人がいる状況で本人に連絡を重ねると、その経緯自体が後の主張の材料にされることがあります)


判断に迷ったときの3つの質問


  1. 手元の書面の差出人は、相手方の代理人ですか、それとも裁判所ですか
  2. 近いうちに、署名・押印・支払いなど後戻りしにくい行為を求められていますか
  3. 提示された条件が妥当かどうかを、自分の手元にある材料で説明できますか


 1番目が裁判所であれば、期限の意味が変わります。2番目か3番目に当てはまるものがあれば、少なくとも一度は相談したうえで判断されることをおすすめします。

まとめ


 相手に弁護士がついたという事実だけで、こちらの立場が法律上不利になるわけではありません。代理人は本人の権限を超えて行動できるものではなく、支払義務の有無や金額は、代理人の有無ではなく法律の要件と証拠によって決まります。

 他方で、やり取りが書面と期限で進むようになること、こちらの発言が記録として扱われる前提になることは、実際上の変化として無視できません。判断すべきは「相手が弁護士を立てたかどうか」ではなく、「自分の事案が、代理人を要する性質のものかどうか」です。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、相手方代理人からの連絡を受けた段階でのご相談もお受けしています。依頼を前提とせず、まずは届いた書面の意味と今後の見通しを整理するところからご相談いただけます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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