見積書で確認すべき項目|追加費用が発生する典型場面

若井亮

若井亮

テーマ:一般

弁護士に依頼するかどうかを決める前に、「いくらかかるのか」を紙で受け取っておきたい。そう考えるのは自然なことです。ところが実際に見積書を手にしても、着手金・報酬金・実費といった費目が並んでいるだけで、どこを見れば安心してよいのか分かりにくい、という声は少なくありません。
 見積書を読むときにいちばん大切なのは、金額そのものよりも「その金額が何を前提にして計算されているか」です。前提が動けば金額も動きます。いわゆる追加費用の多くは、事務所側の後出しではなく、前提が変わったことによって生じています。
 この記事では、見積書で確認しておきたい項目を整理したうえで、途中で費用が増える典型的な場面を、弁護士報酬が増える場合と実費が増える場合に分けてご説明します。

見積書は「もらえるもの」ですが、黙っていると出てこないことがあります


会規は「申出があったとき」と定めている

 日本弁護士連合会の「弁護士の報酬に関する規程」(平成16年会規第68号)は、第4条で報酬見積書について定めています。内容は、弁護士は法律事務を依頼しようとする者から申出があったときは、その法律事務の内容に応じた報酬見積書の作成及び交付に努める、というものです。
 ここから読み取れることが2つあります。1つは、見積書は依頼者の側から申し出てよい書面であるということ。もう1つは、条文が「努める」という形になっており、必ず作成しなければならない義務とまではされていないことです。
 したがって、こちらから何も言わなければ、見積書という形の書面が出ないまま話が進むこともあり得ます。費用の見通しを書面で持っておきたいと考えるのであれば、相談の場で「見積書をいただけますか」と伝えるところから始まります。丁寧に対応してもらえないのではないかと気にされる方もいますが、費用の見通しを尋ねることは、依頼を検討している人として自然な行動です。

見積書と委任契約書は別の書面

 同じ会規の第5条は、受任に際して報酬とその他の費用について説明しなければならないこと、受任したときは報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならないことを定めています。そして第5条第4項は、委任契約書に記載しなければならない事項として、次のものを挙げています。

  • 受任する法律事務の表示及び範囲
  • 弁護士等の報酬の種類、金額、算定方法及び支払時期
  • 委任事務の終了に至るまで委任契約の解除ができる旨
  • 委任契約が中途で終了した場合の清算方法


 一方、見積書について記載事項を定めた規定はありません。書式も各事務所が独自に作っています。
 ここから導かれる結論は単純です。支払義務の根拠になるのは委任契約書であって、見積書ではありません。見積書は、契約の前段階で見通しを共有するための書面です。
 そう考えると、見積書の確認は「契約書に書かれることになる項目が、見積りの段階でどう想定されているか」を先取りして読む作業だ、と整理できます。見積書と契約書で金額や範囲の記載が食い違っていないかを、署名する前に照らし合わせておくことにも意味があります。

見積書は金額よりも「前提」を読む


見積書が置いている3つの前提

 弁護士の見積書は、商品の値札とは性質が異なります。相手のいる紛争を扱う以上、どこまで手続が進むか、相手がどう出るか、解決までにどれだけ時間がかかるかは、契約の時点では確定していないからです。
 そのため見積書は、必ず何らかの前提を置いたうえで作られています。代表的なものは次の3つです。

  • 範囲の前提=どの手続までを引き受けるものとして計算しているか(交渉まで/調停まで/第一審まで、など)
  • 結果の前提=報酬金をどのような結果を想定して計算しているか(請求額どおりに認められた場合、一部が認められた場合、など)
  • 分量の前提=期日や出張の回数、資料の量をどの程度と見込んでいるか


 追加費用は、この前提が動いたときに生じます。逆に言えば、前提が書かれていない見積書は、金額だけを見ても比べようがないということです。見積書を受け取ったら、まず前提が読み取れるかどうかを確認してみてください。

「見立て」が透けて見える書面でもある

 どこまでの手続を想定して見積りを立てているかには、その弁護士が事件をどう見ているかが表れます。交渉での解決を見込んでいるのか、訴訟まで進む可能性を高く見ているのか。見積書の範囲について質問すると、金額の話にとどまらず、事件の見通しについての説明を聞くことができます。
 弁護士職務基本規程29条第1項も、事件を受任するにあたり、依頼者から得た情報に基づいて事件の見通し、処理の方法、弁護士報酬及び費用について適切な説明をしなければならないと定めています。費用の質問は、見通しの質問と地続きです。

見積書で確認すべき10項目

 確認しておきたい項目を表にまとめます。すべてが記載されている見積書ばかりではありませんので、書かれていない項目は口頭で尋ね、重要なものは契約書に反映してもらう、という進め方になります。

確認する項目見るポイント記載がないときの尋ね方
受任の範囲どの手続までが含まれているか「この金額はどこまでの手続の分ですか」
費目の内訳着手金・報酬金・手数料・日当・実費のどれが計上されているか「この費目以外に発生するものはありますか」
経済的利益の額何を基準に金額を算定しているか「この算定の基礎になっている金額はどれですか」
報酬金の計算方法認められた額を基準にするのか、実際に回収できた額を基準にするのか「回収できなかった場合はどうなりますか」
実費の扱い概算が入っているか、別途か、預り金として預けるのか「実費はいくら程度を見ておけばよいですか」
日当発生する条件と1回あたりの金額「日当が発生するのはどういう場合ですか」
消費税表示金額が税込みか税別か「この金額は税込みですか」
支払時期いつ、何回に分けて支払うのか「分割は可能ですか」
見積りの有効期間前提が変わったときにどう扱うか「金額が変わるのはどういう場合ですか」
中途終了の清算途中で終わったときの精算方法「途中でやめた場合の扱いはどうなりますか」


 なお、報酬金の基準を「判決や和解で認められた額」に置くか「現実に回収できた額」に置くかは、事務所によって考え方が分かれるところです。前者の場合、相手に支払能力がないなどの理由で回収できなくても報酬金が発生する設計になり得ます。相手の資力に不安がある事件では、特に確認しておきたい項目です。

「書かれていない=発生しない」ではありません


「実費は別途」の意味

 見積書に「実費は別途」と書かれている場合、それは実費がかからないという意味ではなく、見積りの対象から外してあるという意味です。金額が事前に確定しにくいためにこう書かれることが多いのですが、読む側からすると総額が見えなくなります。概算でよいので目安を尋ねておくと、後の見通しが立てやすくなります。

「別途協議」と書かれている項目

 「訴訟に移行した場合は別途協議」といった記載も同様です。これは、その場面になったら改めて金額を決めます、という意味であり、追加費用が生じ得ることを示しています。どの程度の金額を想定しているのかを、この段階で聞いておくことができます。

範囲外の作業は新たな依頼になる

 見積書に書かれていない手続は、見積りの範囲外です。範囲外の作業を進めることになった場合、それは値上げというより、新しい依頼を追加で引き受けてもらうという整理になります。この違いは、後ほど改めて触れます。

追加費用が発生する典型場面(1)弁護士報酬が増えるとき


交渉から調停・訴訟へ進んだとき

 弁護士報酬は、一般に事件1件ごとに定められます。そして裁判外の事件が裁判上の事件に移行したときは別の事件として扱う、という考え方が広く採られています。交渉で解決するつもりで依頼したものの相手が応じず、調停や訴訟に進む場合、その段階で改めて着手金が生じることがあるのはこのためです。
 多くの事務所では、引き続き同じ弁護士が担当する場合の着手金を減額する取扱いを設けています。減額の有無と割合は事務所ごとに異なりますので、見積りの段階で確認しておくとよい項目です。

審級が上がったとき

 裁判上の事件については、審級ごとに1件と数えるのが一般的な考え方です。第一審の判決に不服があって控訴する場合、控訴審は別の事件として扱われます。第一審までの見積りしか取っていなければ、控訴・上告の費用は見積りに含まれていません。
 判決に納得できるとは限らない以上、第一審までの金額だけで総額を考えると、見通しが甘くなることがあります

保全・執行などの別手続が必要になったとき

 相手が財産を処分してしまうおそれがあるときの仮差押えや仮処分、判決を得た後に相手が支払わない場合の強制執行、財産の所在を調べるための財産開示手続などは、本案の訴訟とは別の手続です。これらは本案と併せて依頼した場合でも、別に費用を定める扱いが一般的です。
 特に、判決を得ることと実際にお金を受け取ることは同じではありません。回収まで見据えるのであれば、執行段階の費用も含めて見積りを取っておく意味があります。

相手方や争点が増えたとき

 被告を追加する、相手から反訴を起こされる、当初は問題になっていなかった請求が持ち込まれる。こうした場合、作業量が増えるだけでなく、対象となる経済的利益の額そのものが動くことがあります。当事者が複数になれば、後述する実費も増えます。

期日や出張が増えたとき

 日当は、弁護士が事件処理のために事務所を離れ、移動によって時間的に拘束されることへの対価として定められているものです。1回あたりの金額はそれほど大きく見えなくても、審理が長引いて期日の回数が重なると、総額としては無視できない水準になることがあります。
 日当が発生する条件は事務所によって差があります。近隣の裁判所であれば発生しない設定にしている事務所もあれば、一定の距離や拘束時間を基準にしている事務所もあります。発生条件・金額・上限の有無を確認しておくと、長期化した場合の見通しが立てやすくなります。

追加費用が発生する典型場面(2)実費が増えるとき

 実費は弁護士の収入ではなく、裁判所や役所などに実際に支払われるお金です。受任時に概算で預かり、終了時に精算する取扱いが一般的ですが、手続が増えれば実費も増えます。

裁判所に納める手数料(印紙)

 訴えを起こすときに納める手数料の額は、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一で、請求する金額(訴額)に応じて定められています。この手数料は、手続の種類や段階によって次のように変わります。

手続の種類第一審の訴え提起の手数料との関係
調停・労働審判・支払督促おおむね半額
第一審の訴えの提起基準となる額
控訴の提起1.5倍
上告の提起・上告受理の申立て2倍


 審理の途中で請求金額を拡張した場合や、反訴を提起する場合にも、差額の追加納付が必要になります。第一審の印紙代だけを見て「裁判にかかる費用」を考えていると、控訴の段階で想定が崩れることがあります。

郵便のための予納金

 裁判所が書類を送るための費用は、あらかじめ予納します。金額は裁判所によって異なり、当事者が1名増えるごとに追加が必要になるのが通常です。相手の住所に書類が届かず、調査や再度の送達が必要になった場合にも費用が増えます。

資料の取り寄せ・記録の謄写

 戸籍や住民票、不動産の登記事項証明書、事故や事件の記録の取り寄せなど、証拠を集めるための費用です。1件あたりは数百円から数千円程度ですが、対象が広がると積み上がります。

鑑定の費用

 不動産の価格、筆跡、医学的な事項などについて裁判所が鑑定を行う場合、その費用は当事者が予納します。鑑定が実施されるケースは多くありませんが、実施された場合は数十万円単位、内容によってはそれ以上になることもあります。実費の中では最も金額が大きくなり得る項目です。

仮差押えなどの担保金

 仮差押えや仮処分の申立てが認められる場合、裁判所から担保を立てるよう命じられるのが通常です(民事保全法14条第1項)。金額は事案によりますが、対象となる財産の価額の1割から3割程度とされることが多いとされています。
 この担保金は、一定の要件を満たせば後から取り戻すことができる性質のものです。ただし、手続の間は現実にお金を用意して法務局に預ける必要があります。最終的に戻るお金であっても、その時点では手元から出ていくという点で、資金繰りの問題として見積りに入れておく必要があります。

「追加費用」と「見積りより高くなった」は別の話


範囲外の依頼か、同じ範囲内での見込み違いか

 ここまで見てきた場面の多くは、当初の受任範囲の外側にある手続を新たに依頼するケースです。この場合に生じるのは値上げではなく、新しい依頼についての新しい合意です。金額に納得できなければ、その手続を依頼しないという判断もあり得ますし、依頼するとしても金額を協議することになります。
 これに対し、同じ範囲の中で作業量が想定より増えたという理由だけで金額を引き上げるには、依頼者との合意が必要です。委任契約書に増額の条件が定められていない限り、事務所側の判断だけで金額が変わるわけではありません。
 見積書を受け取った段階では、増額があり得るのはどういう場合か、そのときはどのような手順で決めるのかを確認しておくと、この区別がはっきりします。

途中経過の報告は制度上も予定されている

 弁護士職務基本規程36条は、弁護士は必要に応じて依頼者に事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない、と定めています。手続が次の段階に進むかどうかは、費用にも結果にも影響する事項です。方針が変わる場面では、費用の見込みについても説明を求めてよい、ということになります。

見積書を受け取ったあとにすること

 金額を確認して終わりにせず、次のような手順を踏んでおくと、後から想定と食い違う場面を減らせます。

  1. その場で決めず、持ち帰って読む。契約は急がなくても成り立ちます
  2. 総額を複数のパターンで試算する。交渉で解決した場合、訴訟まで進んだ場合、控訴された場合の3通りが目安です
  3. 実費と日当を含めた「出ていくお金」で考える。報酬だけの合計は実態より小さく見えます
  4. 書かれていない前提を質問し、回答をメモに残す
  5. 委任契約書の案文と見積書を並べて、範囲と金額の記載が一致しているかを確認する
  6. 納得できない点があれば、署名の前に修正や追記を相談する


 複数の事務所から見積りを取る方もいます。その際、単純に総額の安さだけで比べると、範囲の切り方が違うものを比べてしまうことがあります。同じ範囲・同じ結果を前提にしたときにどうなるかで並べると、比較の意味が出てきます。

金額の折り合いがつかないとき


支払い方について相談する

 着手金の分割払いに応じている事務所は少なくありません。また、収入や資産が一定の基準以下の場合には、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助によって、弁護士費用等の立替えを受けられる可能性があります。加入している保険に弁護士費用特約が付いている場合、費用の全部または一部が保険から支払われることもあります。自動車保険だけでなく、火災保険や傷害保険に付帯していることもありますので、契約内容を確認してみる価値はあります。

費用について納得できないとき

 依頼した後に費用をめぐって折り合いがつかなくなった場合、まずは担当の弁護士に説明を求めることになります。それでも解決しないときは、所属弁護士会の紛議調停という手続があります(弁護士法41条)。申立費用は原則としてかからず、審理は非公開で行われます。

おわりに

 見積書は、金額を確定させる書面ではなく、どういう前提で、どこまでを、いくらで引き受けるのかを言葉にした書面です。前提が書かれていれば、途中で費用が増えたとしても、それが想定内の変化なのか想定外の事態なのかを自分で判断できます。
 弁護士費用の話は聞きにくいと感じられがちですが、費用の質問は事件の見通しの質問と表裏一体です。見積書の範囲について尋ねることは、その弁護士が事件をどう見ているかを知る機会でもあります。
 当事務所でも、ご依頼を検討されている方から費用の見通しについてご質問をいただくことがあります。金額だけでなく、どこまでの手続を想定しているのか、どういう場合に費用が増えるのかを含めてご説明していますので、気になる点があれば遠慮なくお尋ねください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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