大手事務所と個人・小規模事務所|規模による違いと選び方
法律事務所のホームページを見ていると、「解決実績○○件」「相談実績○万件」「解決率○%」といった数字が目に入ります。数字は分かりやすく、並べれば比べられそうに見えます。弁護士を選ぶ手がかりが少ない中で、思わず頼りたくなる情報です。
ただ、この種の数字は、同じ言葉で表示されていても、事務所ごとに数え方が違います。何を「1件」と数えたのか、いつからいつまでの集計なのか、誰の数字なのか。そこがそろっていない数字どうしは、そもそも比べられません。
この記事は、実績の数字を疑うためのものではありません。数字を読むための手順を整理し、相談の場で何を確かめれば判断材料として使えるのかをまとめたものです。弁護士の広告には日本弁護士連合会(日弁連)の会規によるルールがあり、そのルールを知っていると、数字の見え方が変わります。
「○○件」という表示は、それだけでは意味が確定しない
同じ呼び名でも、数えているものが違う
「相談実績」と「解決実績」は違う数字です。当然のようですが、その先はもっと分かれます。相談実績には、電話での問い合わせを含める数え方も、面談した件数だけを数える方法もあります。解決実績も、受任した事件のうち終了したものをすべて数える場合と、依頼者の求めに沿う形で終わったものだけを数える場合とがあり得ます。
よく見かける数字を、確かめたいことと合わせて整理すると次のようになります。
| よく見る数字 | 数えている可能性があるもの | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 相談実績 | 問い合わせ・電話相談・面談相談のいずれか、またはその合計 | 弁護士が直接応じたものか。いつからの集計か |
| 取扱件数 | 受任した事件、関与しただけの事件、複数分野の合算 | 「1件」の単位は事件か、依頼者か、手続か |
| 解決件数 | 判決・和解・示談・取下げ・交渉終了などの合計 | どこまでを「解決」に含めたか |
| ○○分野の実績 | その分野の事件のみ、または近い分野を含めた数 | 分野の線引きをどこに置いたか |
| ○○円獲得 | 1件あたりの最高額、または合計額 | その事件の事情が自分の事件とどれだけ近いか |
| 満足度○% | アンケートに回答した人の割合 | 調査の対象・時期・方法の注記があるか |
会規は「数え方」までは決めていない
弁護士の広告は、日弁連の「弁護士の業務広告に関する規程」と、その解釈を示す「業務広告に関する指針」によって規律されています。事実に合致しない広告、誤導または誤認のおそれのある広告、誇大または過度な期待を抱かせる広告などは禁止されています。
もっとも、これらのルールは「1件をどう数えるか」という統一様式を定めているわけではありません。数え方が問題になるのは、それが受け手に誤った印象を与えるときです。指針は誤導の例として、交通事故の件数を損害賠償事件の取扱件数に含めて延べ件数を表示し、損害賠償事件全般に習熟しているかのような印象を与える表現を挙げています。
裏を返せば、数え方の基準は各事務所の説明に委ねられているということです。だからこそ、数字そのものより「その数字の定義」を確かめることが実用的になります。
数字を読むときの4つの問い
どの数字にも共通して使える問いは、次の4つです。
- その数字は、何を1件として数えたものか
- いつからいつまでの数字か
- 誰の数字か(事務所全体か、担当する弁護士個人か、関連する法人を含むか)
- 割合であれば、分母は何か
①何を1件と数えたか
1件の単位は、事件単位とは限りません。同じ依頼者から3つの手続を任された場合に3件と数えることもあれば、1件と数えることもあります。相手方が複数いる事件を人数分で数えることもあり得ます。単位が分かると、数字の桁の意味が変わります。
②いつからいつまでの数字か
「累計」は開業からの合計であることが多く、単年の数字とは意味が違います。事務所の設立年が分かれば、年あたりに直すことができます。また、数字の更新がいつなのかも重要です。数年前に掲載された数字は、そのままでは現在の体制を表しません。
③誰の数字か
事務所全体の累計は、これから自分を担当する弁護士個人の経験とは別のものです。所属弁護士が多い事務所ほど、全体の数字と担当者個人の数字は離れます。関連する法人や提携先を含めた数字が示されることもあります。
選ぶ場面で本当に知りたいのは、多くの場合、事務所全体の総数ではなく担当者の経験のほうです。
④分母は何か
割合で示された数字は、分母の作り方によっていくらでも印象が変わります。この点は重要なので、章を改めて説明します。
「解決」という言葉の幅
終わり方にはいくつもの種類がある
法律上の紛争の終わり方は一つではありません。
- 判決が出て確定した
- 裁判上の和解が成立した
- 調停が成立した、または審判が出た
- 訴訟の前の交渉段階で示談が成立した
- 相手が請求や申立てを取り下げた
- 交渉が続かず、事実上終了した
- 依頼者の意向で途中で終了した
このうちどこまでを「解決」と呼ぶかは、事務所ごとの整理によります。手続が終わったことをもって解決と数える整理も、あり得ない整理ではありません。
「解決」は「望んだ結果」と同じではない
件数からは、その終わり方が依頼者にとって受け入れられるものだったかどうかまでは分かりません。ですから、件数そのものより、掲載されている解決事例にどの手続で、どの段階で、何が決め手になって終わったのかが書かれているかを見るほうが、内容をつかみやすくなります。
件数は、割り算してみると輪郭が出る
法律事務所の9割以上は弁護士5人以下
日弁連の「弁護士白書2025年版」によると、2025年3月31日現在、全国の法律事務所は1万8591。内訳は、弁護士1人の事務所が1万1558(62.17%)、2人が3181(17.11%)、3〜5人が2654(14.28%)で、5人以下の事務所が全体の9割を超えます。弁護士の総数は4万6243人です。
この分布を知っておくと、「所属弁護士数」という情報が数字を読む手がかりになることが分かります。
累計を、人数と年数で割ってみる
たとえば「累計3000件」と書かれていて、所属弁護士が5人、開業から15年なら、弁護士1人あたり年40件という計算になります。これが相談の数なのか、受任の数なのか、終了の数なのかで、同じ事務所でも印象は大きく変わります。
この計算は、優劣をつけるためのものではありません。定型的な手続が中心の分野と、1件あたりの期間が長く個別性の高い分野とでは、同じ人数でも扱える件数が異なります。件数が多いから雑、少ないから経験不足、という読み替えは適切ではありません。
割り算の目的は、桁の感覚をつかみ、「この数字は何を数えたものですか」と尋ねるきっかけを持つことにあります。
「率」の数字は、分母を見ないと読めない
勝訴率は、そもそも表示できない
意外に知られていませんが、訴訟の勝訴率は、規程4条1号で「表示できない広告事項」とされています。したがって、勝訴率という数字は原則として広告には出てきません。
実際に目にするのは、解決率、不起訴率、増額率といった別の指標です。これらは表示自体が禁じられているわけではありませんが、分母の作り方が示されていなければ読めません。
公的な統計でも、母集団の注記が要る
分母の重要性は、公的な統計を見るとよく分かります。
弁護士白書2025年版に掲載されている「被疑事件の不起訴率」は、2024年で40.2%です。ただしこの数字には注記があります。出典は検察統計年報のうち、既済となった事件の被疑者の勾留後の措置に関する集計であり、自動車による過失致死傷等と道路交通法等違反の被疑事件は除かれています。不起訴率の計算も、不起訴人員を「起訴人員と不起訴人員の合計」で割ったものです。
つまりこの40.2%は、刑事事件全体の不起訴率ではありません。公的に整備された統計ですら、母集団と計算方法の注記があって初めて意味が定まります。個々の事務所が示す「率」に同じ水準の注記を求めるのは、過大な要求ではないはずです。
| よく見る「率」 | 分母になり得るもの | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 勝訴率 | ― | 規程4条1号により表示できない広告事項 |
| 解決率 | 受任件数、一定期間に終了した件数など | 終了したものをすべて解決に数えていないか |
| 不起訴率 | 受任した刑事事件全体、身柄事件のみ、特定の罪名のみなど | 公的統計とは母集団の取り方が異なり得る |
| 増額率 | 保険会社などの当初提示額、自分で交渉していた金額 | 起点となる金額が示されているか |
「No.1」「満足度○%」型の表示をどう見るか
指針が注意を促している用語がある
業務広告に関する指針は、文脈によっては問題となり得る用語として、「最も」「一番」などの最大級を表す用語、「完璧」などの完全を意味する用語、「信頼性抜群」「顧客満足度」など実証が不能な優位性を示す用語、「常勝」「不敗」など結果を保証しまたは確信させる用語を挙げています。
これらの言葉が使われていること自体が直ちに問題だ、という意味ではありません。ただ、検証のしようがない言葉は、判断材料としての価値が下がる、とは言えます。
注記があるか、注記と表示が対応しているか
「No.1」や「○%が満足」といった表示の読み方については、消費者庁が2024年9月26日に公表した「No.1表示に関する実態調査報告書」の考え方が参考になります。ここでは一般論として、No.1表示が合理的な根拠に基づくといえるためには、根拠となる調査が客観的であることと、表示内容が調査結果と適切に対応していることの2点が必要とされています。
さらに、主観的な評価によるNo.1表示や「○%が推奨」といった表示については、比較の対象が適切に選ばれているか、調査対象者が適切に選ばれているか、公平な方法で実施されているか、が問われるとされています。
業種を問わず使える読み方に直すと、確かめる点は次の3つです。
- 誰が、いつ、何人に、どの範囲を対象に調べたのかという注記があるか
- 注記に書かれた調査内容と、大きく表示されている言葉が対応しているか
- 「対象範囲」が全国のすべての事務所なのか、特定のサイトに掲載された事務所の中なのか
数字を横並びで比べられない理由
業務広告に関する規程は、特定の弁護士や法律事務所と比較した広告を禁じています(3条5号)。指針は違反例として「○○事務所より豊富なスタッフ」といった表現を挙げ、事務所名が表示されていなくても、全体の表現から特定の事務所を指していると認められる場合は同じだとしています。
このため、「他の事務所より件数が多い」という形の表示は、そもそも出てきません。そして読者が自分で複数の事務所の数字を並べてみても、数え方も集計期間もそろっていないため、比較として成立しにくいのが実情です。
結論として、実績の数字は事務所を順位づけるための道具ではなく、その事務所の輪郭をつかむための材料と考えるのが実際的です。
数字が載っていない=経験がない、ではない
守秘義務が表示を制約している
規程4条は、顧問先または依頼者(2号)、受任中の事件(3号)、過去に取り扱いまたは関与した事件(4号)を、表示できない広告事項としています。依頼者の書面による同意がある場合など一定の例外はありますが、原則としては表示できません。
解決事例が抽象的に書かれていたり、そもそも数字を掲げていない事務所があるのは、依頼者の秘密を守るという要請が背景にあるためでもあります。数字がないことを、それだけで減点材料にする必要はありません。
作られた数字・作られた事例は禁じられている
逆の方向についても、ルールは置かれています。指針は、事実に合致しない広告の例として、次のようなものを挙げています。
- 架空の事例や、表示どおりの解決ができなかった事例を脚色して「解決事例」として記載すること
- 実在の依頼者が関与していない文章を「お客様の声」として記載すること
- 相談の申込みはあったが実際には回答していないものや、弁護士が直接回答していないものを含めて「法律相談実績」として記載すること
東京弁護士会も、シミュレーションや机上の事例を「解決事例」「成功事例」として表示することは違反広告に当たるとして、注意を促しています。
ルールがあるからすべての表示が適正だ、とまでは言えません。ただ、掲載されている情報がどのような枠組みの中で作られているのかを知っておくと、読み方の見当がつきます。
数字より、見通しの説明のほうが手がかりになる
結局のところ、依頼する側にとって知りたいのは「この事務所は多くの事件を扱ってきたか」ではなく、「自分の事件がどう進み、どこで結果が分かれるのか」です。この点は、数字ではなく説明の中身に表れます。
- 自分の事件と同じ「型」の経験があるか。分野の総数ではなく、立場・手続・段階がそろっているか
- 見通しを、手続の名前と時間の見当を含めて説明できるか
- 不利な事情や、思いどおりにならない可能性まで説明があるか
- 実際に担当するのが誰かがはっきりしているか
同じ「男女トラブル」でも、請求する側と請求される側では進め方が違います。同じ「刑事事件」でも、まだ捜査が始まっていない段階と、身体拘束を受けた後とでは、できることが変わります。総数よりも、この一致のほうが結果に近い情報です。
相談のときに聞いておきたい5つの質問
実績の数字について確かめるなら、次の5つで足ります。遠慮のいる質問ではありません。
- サイトの「○○件」は、何を1件として数えた数字ですか
- いつからいつまでの集計ですか。事務所全体の数字ですか、担当される先生の数字ですか
- 私と同じ立場・同じ手続の事件は、どのくらい扱っていますか
- 私の事件では、どのような終わり方があり得ますか。それぞれどのくらいの期間がかかりますか
- 思いどおりにならない場合、どのようなことが起こり得ますか
これらに具体的に答えられるかどうかは、数字そのものより多くのことを教えてくれます。答えが「ケースによります」に終始する場合は、事件の型がまだ共有できていないのかもしれません。事実関係をもう少し具体的に伝えたうえで、聞き直してみてください。
おわりに
実績の数字は、まったく意味のない情報ではありません。取り扱いの厚みや事務所の規模感を知る手がかりにはなります。ただ、それは定義とセットで示されて初めて読める情報であり、事務所どうしを並べて優劣をつけるための指標としては作られていません。
数字を見たら、何を1件と数えたのか、いつからいつまでか、誰の数字か、割合なら分母は何かを確かめる。そのうえで、自分の事件と同じ型の経験があるか、見通しをどこまで具体的に説明できるかを聞く。この順番で見ていけば、限られた情報の中でも判断の精度は上がります。
当事務所でも、相談の際には、想定される手続の流れ、期間の見当、思わしくない展開になった場合の対応まで含めてご説明するようにしています。ご自身の事件について「どのくらいの経験がありますか」と尋ねていただくことは、まったく差し支えありません。判断の材料として、遠慮なくお使いください。


