なぜ相手の名前を聞かれるのか|利益相反チェックの仕組み
法律事務所での相談を予約したあと、当日の段取りが分からないまま日を迎える方は少なくありません。何時に着けばよいのか、受付で何を聞かれるのか、相談室では何が起きるのか、終わったあとに何をすればよいのか。初めての方ほど、話す内容より先に段取りのほうが気になるものです。
当日の流れを知っておく意味は、緊張をやわらげることだけではありません。相談の当日には、話をしている時間のほかに、書類に記入する時間や、支払いと今後の段取りを確認する時間があります。どの場面で何が決まるのかが分かっていれば、決まる場面に自分の力を残しておくことができます。
この記事では、法律事務所での相談を想定して、到着前から相談後までを場面ごとに整理します。運用は事務所や窓口によって異なりますので、予約先から案内があるときはそちらを優先してください。
当日は「相談室にいる時間」だけでできていない
相談の一日は五つの場面に分かれる
法律相談というと、弁護士と向かい合って話している時間だけを思い浮かべがちです。実際には、その前後にも決まることがあります。当日の流れを場面ごとに分けると、次のようになります。
| 場面 | そこで起きること | 自分がすること |
|---|---|---|
| 到着前 | 予約時刻の前に、受付と記入の時間が置かれている | 案内された時刻に着けるよう家を出る/遅れそうなら連絡する |
| 受付・待合 | 相談票の記入、相談分野と相手方の確認 | 書ける範囲で記入する/連絡方法の希望を伝える |
| 相談室 | 事情の聞き取り、法的な整理、見通しの説明 | 短く正確に答える/聞きたいことを出す |
| 終わり間際 | 次にすること、費用、依頼するかどうかの整理 | 決まったことと決まらなかったことを確認する |
| 相談後 | 支払い、書類の受け取り | 記憶が新しいうちに書き留める |
相談時間が始まるのは入室してから
多くの窓口では、相談時間の計算は相談室に入ってからです。受付や記入にかかった時間は含まれないのが一般的です。裏を返せば、記入に手間取れば開始が遅れ、その分だけ終了時刻が近づきます。案内された到着時刻には、それなりの理由があります。
到着前と到着時
予約時刻と到着時刻は別のもの
予約票やメールに「開始の十五分前までにお越しください」「二十分前にお越しください」と書かれていることがあります。これは早めに来てほしいという気配りではなく、相談票の記入と受付事務にかかる時間を見込んだ指定です。記入だけで十分から二十分ほどかかると案内している窓口もあります。
事前に相談票を送ってもらえる事務所もあります。予約の連絡をするときに「先に記入しておけますか」と尋ねておくと、当日の時間の使い方が変わります。
遅れそうなときは、着く前に一報を入れる
交通の乱れや道に迷うことは起こり得ます。遅れそうだと分かった時点で電話を入れておくと、対応が変わることがあります。
窓口によっては、連絡のない遅刻を一定時間で取消しとして扱う運用があります。また、遅れて始まった場合でも終了時刻は動かさないという運用も珍しくありません。次の予約が入っているためです。一報を入れておけば、少なくとも「来なかった人」として扱われることは避けられます。
持ち物は「出す順番」まで考えておく
届いた書面は封筒ごと、原本のまま持っていくのが基本です。相談室で鞄の中を探す時間は、そのまま相談時間から引かれます。届いた書面、日付の分かる記録、自分で作ったメモの三つに分けて重ねておくと、その場ですぐに出せます。
何を持っていくかについては、別の記事で扱っています。ここでは、当日に出しやすい形にしておくという点だけ押さえておきます。
受付で何が起きるか
受け付けるのは弁護士でないことが多い
事務所に着くと、まず事務職員が対応することが多く、弁護士が出てくるのは相談室に入ってからです。受付の段階で事情の詳細まで話す必要はありません。予約した氏名と時刻を伝えれば足ります。
なお、事務職員についても、業務のうえで知った内容を外に持ち出すことがないよう、弁護士が監督する仕組みになっています。
相談票に書くこと
名称は事務所によって相談票、相談カード、相談申込書などさまざまですが、記入する内容はおおむね共通しています。
- 氏名・住所・連絡先と、連絡してよい方法
- 相談したい分野(離婚、相続、金銭のトラブルなど)
- 相手方の氏名や会社名
- これまでの経緯の概略と、聞きたいこと
書けない欄があっても、空欄のまま受付に出して構いません。分からないことが分からないまま来ているのが、相談の出発点です。
相手方の名前を書く欄がある理由
相手方の氏名や会社名を記入する欄は、多くの窓口にあります。これは、同じ事務所が相手方の側についていないかを確かめるためのものです。すでに相手方から相談や依頼を受けている場合、その事務所はあなたの相談を受けることができません。
予約の電話で聞かれることもあれば、当日の相談票で確認されることもあります。分かる範囲で漢字まで書いておくと、確認が早く済みます。この仕組みそのものは、別の記事で詳しく扱っています。
待合室で予定より待つことがある
前の相談が延びる、直前に急ぎの連絡が入るといった事情で、開始が数分ずれることはあります。待つ時間ができたときは、聞きたいことの順番を決め直す、資料を並べ替えるといった使い方ができます。
相談室に入ってからの最初の数分
名刺を受け取る
多くの場合、最初に名刺を渡されます。名刺には氏名のほか、所属している弁護士会や登録番号が記載されていることがあります。その見方については、別の記事で扱っています。
相談室にいるのが弁護士だけとは限らない
事務所によっては、記録を取るために事務職員が同席することがあります。分野によっては、複数の弁護士が同席する運用をとる事務所もあります。
同席している人がいる理由は、尋ねれば説明してもらえます。人数が多いと話しにくいと感じるときは、その場で伝えて構いません。
最初に説明されること
弁護士の側から先に説明されるのは、おおむね次の三点です。相談時間の目安、相談料の扱いと支払いの方法、そして話した内容の取扱いです。
弁護士には、職務上知った秘密を守る義務があります。ただし、これは例外がまったくない義務として定められているわけではなく、その範囲については別の記事で扱っています。家族に知られたくない、この電話番号にはかけないでほしいといった希望があれば、この段階で伝えておくと行き違いが起きにくくなります。
録音したいときは先に断る
説明を後で聞き返したいときは、録音したい旨を先に伝えます。応じてもらえることも、断られることもあります。公的な相談窓口の中には、相談中の録音を認めていないところもあります。無断で録音するよりも、先に一言添えるほうが話は早く進みます。
相談の中では何が起きているのか
話す・聞かれる・整理される
相談は、こちらが話し続ける時間ではありません。概略を伝えたあとには、弁護士からの質問が続く時間帯があります。日付、言われた言葉、渡したもの、残っている記録といった点が、繰り返し確認されます。
これは相談者を試しているのではなく、答えの前提を固める作業です。前提が変われば結論も変わるためです。どのようなことを聞かれるのかは、別の記事で詳しく扱っています。
その場で調べる場面と、持ち帰る場面がある
相談の途中で、弁護士が条文や資料を確認する時間が入ることがあります。逆に「この点は調べたうえで回答します」と持ち帰りになることもあります。その日のうちに全部の答えが出ないこと自体は、珍しいことではありません。
持ち帰りになったときは、いつまでに回答をもらえるのかだけは当日中に確認しておきます。あわせて、こちらの側に動かせない期限があるなら、その日付を伝えておきます。
その場で結果を言い切らないことがある
「勝てますか」「いくら取れますか」という問いに、その日のうちにはっきりした答えが返ってこないことがあります。物足りなく感じるかもしれませんが、これは弁護士の職務上の取決めにも関わっています。
弁護士は、依頼者に有利な結果になると請け合うことを避けるべきものとされ、見込みがないのにあるように装って事件を受けることも禁じられています。言い切らないことは、不誠実さの表れとは限りません。むしろ「何が分かれば見通しが変わるのか」を聞き出せれば、当日の収穫は大きくなります。
「その分野は扱っていない」と言われることもある
話を聞いた結果、その事務所の取扱い分野から外れていることが分かる場合があります。このときは、別の窓口や専門の機関を案内されることがあります。弁護士会の相談センターのように、担当する弁護士の得意分野や取扱件数までは把握していないと、あらかじめ示している窓口もあります。
終わりが近づくと現れる三つの分岐
残り時間が少なくなると、話は自然と「これからどうするか」に移ります。行き先は、おおむね三つに分かれます。
| その日の結論 | 当日その場ですること | 帰ってからすること |
|---|---|---|
| 相談だけで終える | 次にすること・してはいけないこと・期限を確認する | 自分で動く手順を書き出す |
| 持ち帰って考える | 見積りの依頼、返事の期限、連絡方法を決める | 条件を比べ、決めた日に連絡する |
| その場で依頼する | 委任契約書と委任状の作成、費用と支払時期の確認 | 指示された資料を集めて送る |
どれを選んでも当日にできること
三つのどれであっても、当日のうちに確認しておきたい点は共通しています。次にすること、してはいけないこと、そして期限の三つです。とくに期限には、相手方から示された回答期限や、裁判所から届いた書面の日付など、こちらの都合では動かせないものがあります。
その場で依頼する場合、当日は何をするのか
書面を作る
依頼することを決めた場合、その日のうちに委任契約書と委任状を作ることがあります。押印を求められるため、印鑑を持ってきてほしいと案内されるのはこのためです。認印で足りることが多いものの、手続によっては実印と印鑑登録証明書が必要になる場合もあります。
相談と依頼がどう違うのか、その日に決めずに持ち帰るときの伝え方については、別の記事で扱っています。
身分証を求められるのは「依頼」の場面
写真付きの身分証を持参してほしいと案内されることがあります。これは相談のためというより、依頼を受ける段階の手続です。
日本弁護士連合会は、弁護士が一定の法律事務の依頼を受ける際に、依頼者の本人特定事項等を確認し、記録を残す取決めを設けています。個人の場合に確認されるのは、氏名・住居・生年月日に加えて、依頼の目的と職業です。犯罪による収益の移転を防ぐための国際的な取決めを踏まえたもので、その弁護士があなたを疑っているという意味ではありません。
本人に代わって家族などが手続をする場合には、委任状の確認など、代わりに行う権限があるかどうかを確かめる手順が加わることがあります。
費用は「金額」だけでなく「時期」を確認する
依頼の場面では、見通しや進め方とあわせて費用の説明を受けます。このとき、金額そのものだけでなく、どの時点で発生するのか、どのような場合に加算されるのかを確認しておくと、後の食い違いが減ります。着手金の支払方法や期限は、その場で決まることもあれば、後日の振込になることもあります。
会計と、受け取っておくもの
支払いのタイミングは窓口ごとに違う
相談料は、受付のときに先に支払う窓口もあれば、相談後に精算する事務所もあります。現金のみという場合もあるため、支払方法は予約のときに確認しておくと当日慌てません。
相談時間が延びたときの扱いも、事務所によって異なります。延長分を加算するところもあれば、多少の超過は加算しないところもあります。気になるときは、延長に入る前に確認しておくとよいでしょう。
帰る前に受け取っておくとよいもの
- 名刺(次に連絡するときの宛先になります)
- 領収書(弁護士費用の保険や経費で使う場合は宛名も確認します)
- 見積書、または費用の内訳を書いたメモ
- 次の連絡方法と、連絡してよい時間帯
なお、公的な相談窓口の中には、担当した弁護士の事務所名や連絡先をその場では伝えない運用のところもあります。続けて同じ弁護士に依頼したい場合の手順は、その窓口で確認してください。
終わった直後の十五分が効く
記憶が新しいうちに書き留める三つ
- 言われた見通しと、その理由
- 次にすること・してはいけないことと、その期限
- その日は決まらなかったこと
相談の内容は、当日の夜には輪郭がぼやけ、数日たつと「たしか大丈夫だと言われた」という程度の記憶に変わりがちです。事務所を出たあと、駅や近くの席で数分だけ使って書き留めておくと、後から効いてきます。
決まったことと決まらなかったことを分ける
相談後にいちばん扱いに困るのは、決まらなかったことのほうです。資料が届いてから判断する、相手の出方を見てから決める、といった点は、そのまま「保留」と書いておきます。
保留を書き残さずにおくと、次の相談で同じ説明を最初からやり直すことになります。二回目の相談の質は、一回目の直後にどれだけ書き留めたかで決まります。
聞き忘れに気づいたとき
帰ってから質問を思い出すのは、よくあることです。依頼していない段階でも、短い確認であればメールで受け付けている事務所もあります。一方で、内容として相談の続きにあたるものは、改めて相談の時間を取ることになるのが通常です。どちらに当たるか分からないときは、聞きたいことを書いて送り、扱いを尋ねれば済みます。
オンライン・電話で相談する場合
画面越しや電話でも、聞き取りと整理という中身は変わりません。違ってくるのは、その周辺の手順です。
- 開始の少し前に接続を確かめる(カメラ・マイク・通信環境)
- 資料は事前に送っておく(当日に画面へ映すより早く済みます)
- 相談票は事前に記入して返送する形になることが多い
- 途中で切れたときの連絡方法を、始まる前に決めておく
- 周囲に人がいない場所を選ぶ(家族に聞かれたくない内容ならなおさらです)
- 支払いは振込やカードなど、来所とは別の方法になることがある
画面越しでは、資料を指しながらの説明がしにくくなります。送る資料に通し番号を振っておくと、「三番の書面の二枚目」といった形で位置を共有でき、時間の節約になります。
うまくいかなかったと感じたとき
一般論しか聞けなかったと感じる理由
相談を終えて「当たり前のことしか言われなかった」という感想が残ることがあります。原因は、三つに分けて考えられます。事実がまだ固まっておらず一般的な説明にとどまった場合、聞きたいことが多すぎて一つずつが浅くなった場合、そして相談した分野がその弁護士の主な取扱いから外れていた場合です。
一つ目と二つ目であれば、経緯を時間順に整理して二回目の相談に臨むと、結果が変わることがあります。三つ目であれば、別の窓口を探すほうが早いこともあります。
別の弁護士に相談してもよい
相談した弁護士にそのまま依頼しなければならない、という決まりはありません。公的な無料相談でも、回数の範囲内で別の弁護士に相談することは想定されています。説明の分かりやすさや話しやすさは、依頼を続けるうえで軽い要素ではありません。
おわりに
当日の流れを知る目的は、段取りを完璧にこなすことではありません。受付と相談票に時間がかかること、話す時間の後半は質問に答える時間になること、終わり際に次の一手と期限が決まること。この三つを頭に入れておくだけで、当日の使い方は変わります。
そして、準備が整っていなくても、期限が迫っているときは相談を先に入れてください。書類が揃っていないことより、間に合わないことのほうが、後から取り返しにくいためです。


